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77 ユグドラシルの樹 ~転生者の過去⑤

 闇の王の間から出てくると、大臣のガダリが待っていた。

 太い眉をしかめてこちらを見下ろす。


「闇の王子、またアースに行っていたのですね。プレイヤーが参加する闘技場に行ったとか・・」

「偵察に行って来ただけだ」

「闇の王子もエントリーしたと聞きましたが、本当ですか? しかも、天界の者まで参加していたとか・・・」

「・・・・まぁな」

 ガタリは情報が早い。

 はりつくような髪をかき上げながら、ため息をついていた。

「まったく、目立つ行動は慎むようにと何度も・・・王子は将来魔界を統べる方になるのですからしっかりと自覚を持って」

「魔界の力を誇示するために参加したんだよ。アースのプレイヤーの数は多くなってきた。魔界が舐められては、今後の交渉にも支障が出るだろう?」

「さ、さようでございますね。大変失礼しました」

 はっとして咳払いをしていた。

 本当はルーナに強引に参加させられたようなものだけどな。


「俺は城下町に出る。城のことは任せた」

「かしこまりました。あの、闇の王子・・・・」

「?」

「闇の王は何と申しておりましたか?」

「・・・・・・・・」

 手袋をはめながらガタリの目を見る。


「月が2回満ちた後、俺に王の座を渡すとのことだ」

「さようでございますか! 闇の王子!」

 興奮気味に言う。

「なんとめでたいことでしょう。王子ほど王に相応しい者はございません。城の者・・・いや、魔界の民も喜ぶことでしょう」

「あぁ、皆に伝えろ」

「かしこまりました!」

 マントを羽織り直す。廊下に出ると、兵士が深々と頭を下げていた。

 



 城の見晴らしの塔の石垣に腰を下ろす。

 魔界にはアースに比べて、教育施設が多かった。魔王城に仕える戦士の養成所、知性を磨く賢者の養成所、この世の物質に価値を見出す創造の養成所・・・。 

 魔族はアースや天界の者たちに比べて、能力が低いと言われているためだ。

 

 何度もアースに行っている俺としては、そうは思わないけどな。


 街では酒場から出てきた者たちが、騒いでいるのが見えた。

 踊り子が妖艶な踊りで客を魅了している。

「闇の王子」

「ヒスイか。どうした?」

 ヒスイがメイド服のスカートを押さえて、ほほ笑んだ。


「おめでとうございます。王になるとのお話、お聞きしました」

「さすが、ガタリは情報伝達が早いな」

「ふふ、喜ばしいことですから当然です。ついに、王子の時代が来るんですね」

「・・・俺が王になったからといって、何かを変えるつもりはない。魔界は十分、平和だからな」

 小石を浮かせて遠くへ飛ばす。


「天界やプレイヤーに何らかの動きがあったか?」

「いえ? 特に聞いておりませんけど」

「そうか」

 ヒスイが首を傾げていた。

 アースの者たちは基本的に魔界には来ることは無い。

 だが、俺の姿がプレイヤーに見られた以上、今後どう出てくるかはわからないと思っていた。

 プレイヤーは刺激を好むからな。


「プレイヤーが魔界に入ったらすぐに伝えてくれ」

「そんなことあるんですか?」

「一応な・・・・」

「・・・アースで何かあったのですか? お帰りになられてから、王子は何か違うような・・・・」


 タタタタタタッタタタタタ


「アイン=ダアト様!」

「・・・・っと」

 チチコがいきなり抱きついてきた。

 勢いに押されて少しよろけながら、地面に足をつける。


「チチコ、離れてってば。王子が迷惑してるでしょう?」

「迷惑かどうかは、アイン=ダアト様が決めるのでしよ」

 チチコがしっぽをゆらゆら揺らす。ヒスイが小さな体のチチコを後ろから抱いて、引きはがした。


「あっ・・・せっかくの甘えモードができたのに・・・」

「城の見張りの途中で来たんでしょ? 何か用事があったんじゃないの?」

「そうでし、そうでし」

「ん?」

 チチコが思い出したように、ヒスイからするりと抜けた。


「アイン=ダアト様、天界から・・・・」

 階段から砂の落ちる音が聞こえた。視線を向けると・・・。


「ルーナ!?」

「はーい」

 ルーナが両手を振って笑いかけてきた。透明な羽根を消す。

「約束通り来たよ。この前はありがとう」

「は・・・どうして・・・・」

 他に城の者が見ていないか、周りを見渡した。

 天界の者が見晴らしの塔に来るなんて、前代未聞の珍事だ。


「どこから見ても可愛いでしね、ルーナ様は。美しすぎて、食べたくなってしまいまし・・・・」

「わわ・・・っと・・・」

 チチコがルーナの近くをうろうろしていた。チチコのしっぽを引っ張る。

「あぁっ、ルーナ様」 

「止めておけ。こいつはこう見えて強いからな」

「闇の王子、この方は・・・・」

 ヒスイがルーナに視線を向ける。


「この前、アースで会った天界の者だ」

「天界の・・・・」

 小さく呟いて、怪訝そうな表情をする。


「どうしていきなり入ってこれたんだよ。ここは、闇の王の城だぞ」

「それは・・・チチコが私を見るなり話しかけてきて、案内してくれて」

「チチコ・・・・」

「だって可愛いでし。一目ぼれでしよ。私、ルーナ様のいうこことなら何でも聞いてしまいたいでし」

「お前な・・・一応、見張り役だろうが」

「可愛いでし、可愛いでし・・・可愛いは正義でし」

 チチコが牙を見せながらうっとりしていた。


 チチコは戦士の養成所を首席で卒業したエリートだ。

 潜在能力は城で働く者の中でもトップクラスで、アースのギルドごと殲滅させるほどの力を持っていた。

 ただ、欲望に忠実過ぎて、任務を忘れることが多々あった。


「もう、チチコってば」

 ヒスイが呆れながらチチコを持ち上げていた。チチコがしっぽを下げてぷらぷらしている。


「で、何しに来た? 魔王城にでも攻め込むつもりか?」

「そんなことしないよ。会いに来たの」

「貴女、その紋章・・・天界のヴァナヘイム王国の者ですね?」

 ヒスイがルーナを睨みつける。


「しかも、かなりの力をお持ちのようですが・・・?」

「王国騎士団長だからね」

「王国騎士団長?」

「はあん、ますます好きでし」

チチコが頬を押さえながら悶えていた。


「チチコは黙ってて」

「だって・・・好きなんでし、話に混ざりたいでし。アイン=ダアト様と同じくらい好きでしから、できれば2人が一緒にいてくれたら」

「そんなわけないでしょ! もうっ・・・・」

 ヒスイが頬を膨らませながら言った。


「ルーナ」


 キィン・・・・


「!」

 剣を出して、ルーナのほうに向ける。


「ここはお前の来るようなところじゃない。天界で何か吹き込まれたのか? もし、何かをするつもりなら、容赦なくお前を・・・・」

「違う。私、闇の王子に会いたくて」

「本当にそれだけか? やはり、お前のやることは理解不能だ」

「信じて・・・」

『はははは、そんなに疑うことないじゃないか』

「!?」

 3Dホログラムで背の高い眼鏡をかけた男が映し出される。

 ルーナの隣に並んでいた。


 プレイヤーとは違う・・・なんだ? こいつは・・・。


『ルーナは素直な子だよ。裏表がないから、この子の言うことは信じてもいいからね』

「誰だ? お前は・・・・」

「この世界を作ったクリエイターの一人なんだって」

 ルーナがリラックスした表情で口をはさんだ。


「クリエイター・・・・・・」

 男が自分の前にモニターを出す。

 ユグドラシルの樹の立体構造を表示していた。


『ほら、僕は深夜メンテナンスに呼ばれたゲームクリエイターの一人、タニタというものだ』

 男の顔は覚えにくかった。記憶しようとしても、ぼやけていくような感覚だ。

『君が闘技場の配信を中断させたから、エラー対応で呼ばれたんだ。でも、あの闘技場での一件で、『ケテル戦トーナメント』はトレンド入りしたよ』

「だからなんだ?」

『はははは、君は冷たいね。闇の王なんだから当然か・・・』

 鼻につくような言い方だった。


「闇の王子、私がタニタに天界と魔界を結ぶ橋がほしいってお願いして、ここに来たの」

「・・・・・・・・」

「急に驚かせてごめんね。でも、私、天界と魔界とアース、みんなが行き来できるような世界になってほしくて・・・だって、アイン=ダアトともっと仲良くしたかったから・・・」

 剣を持ち直す。

 ルーナの言葉が上手く呑み込めないのは、俺が魔界の者で、ルーナが天界の者だからだろうか。


 ルーナが必死に、魔界に来た経緯について説明し始めた。

 魔界では決して聞くことのない本に描かれるような、理想論を、な。

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