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76 ユグドラシルの樹 ~転生者の過去④

 光のスモークが晴れると、闘技場の結界が解けていた。

 地上の者たちのどよめきが聞こえる。


「アイン=ダアト、貴様・・・・」

 リンベルがぎりっと奥歯を噛んでいた。

「ここが闘技場だから戦っていただけだ。ルーナが天界の指揮官というのも、今、初めて聞いたことだ」

「闘技場に呼び込んだのは貴様じゃないのか? ルーナ様との戦闘に持ち込むために・・・」

「頭の固い奴だな」

「リンベル、ちゃんと話を聞きなさい。私が誘ったって言ってるでしょ」

「ルーナ様は騙されています。闇は真実を隠すのが得意ですから」

「違う。どうして、そうなるの?」

 ルーナが必死になって言う。


 天界と魔界は表向きには友好な関係を築いていた。

 ただ、天界の中には魔界を面白く思っていない奴もいる。強大な力を持つ闇が、いつか光を覆いつくしてしまうのではないかと、弱い者が怯えているからだ。

 リンベルは装備品、魔力の質から想像するに、天界で何かの役職についているのだろう。

 闇の力の宿る目で見れば、相手が何に怯えているのか手に取るように分かった。


 リンベルが俺に怯えてることもな。


「あの・・・ルーナの光魔法は一体どこに行ったんだ?」

「さっき闇の・・・王子・・・って聞こえたよな?」

「アイン=ダアト? 本当なのか?」

「闘技場でこんなイベントがあるなんて、想定されていたのか?」

 観客の視線がこちらに向いていた。

 カメラは壊したが、音声を拾われたか・・・。

 アースの魔導士たちが、俺に見えないように杖を向けているのがわかった。


「リンベル、お前はここで、戦闘に持ち込むつもりか? 地上にはアースの住人もいるし、プレイヤーも多く来ている。こんなところで、力を使ってもいいのか?」

 剣を構える。

「闇の王子が天界に危害を加えるとなれば仕方がない。私はここで死んでも、同胞たちには魔界がいかに危険かということが伝わる」

「そうか」

 リンベルが左手で魔法陣を描こうとしていた。

 すっとルーナが剣を持って俺のほうに並ぶ。

「ルーナ様!!!」

「リンベル、もし、どうしても戦うというなら、私はアイン=ダアト、闇の王子のほうにつくから」

「え・・・・・?」

「ルーナ様・・・そんなこと、許されるわけ・・・」


 シャラン


 ルーナが掌を上に向けて、目の前に黄金に輝く天秤を出した。

 リンベルの表情が変わっていく。

「リンベル、確認する?」

「っ・・・・・・・・・」

 ゆっくりと剣を降ろして、下がっていった。


「・・・・わかりました。でも、ルーナ様、今の光景をプレイヤーも見ていることを忘れないように」

「・・・・先に戻ってて。私もすぐ行くわ」

 さらっとした口調で言う。

 リンベルが軽く頭を下げた。

 こちらをちらっと見てから翼を広げて、ユグドラシルの樹のほうへ飛んでいく。


「ごめんね、試合どころじゃなくなっちゃった」

「・・・・あぁ、互いに正体がバレたな。もう今後エントリーするのは難しいだろう」

「せっかく、お祭りだったのに・・・私のせいで・・・」

「お互い様だ。俺も、王子であることを隠して参加したんだから」

 マントを後ろにやって、地上を見つめる。


 魔導士が結界を張り直していた。審判の賢者が真ん中で俺たちを呼んでいる。

 正体がバレたからには、戦うことになるのか?

 その気になれば、この闘技場ごと吹き飛ばすことも可能だが・・・。

「私・・・審判に棄権するって言ってくる」

「あ・・・・・」

 ルーナが真っすぐに審判のところへ降りていった。

 剣を解いて、後に続く。


「ごめんなさい。私、今回は棄権します。闘技場荒らしちゃって、本当にごめんなさい!」

 ルーナが深々と頭を下げていた。

「貴女は・・・天界の戦士・・・なのですか?」

「はい・・・私は天界のヴァナヘイム王国騎士団、団長、ルーナです」

「ヴァナヘイム・・・・」

 賢者が目を丸くして呟いていた。

 闘技場がざわついている。


「そ、そちらの者は・・・・?」

「・・・・聞いていただろう? 聞いていないふりをする気か?」

「じゃ、じゃあ・・・・・」

 アースに魔界の者が来てはいけないという決まりはない。

 ただ、アースのクエストにはダンジョンを攻略するというものがある。ダンジョンは魔界の者が唯一アース内で住める場所のため、アースの者とは戦闘になることが多かった。

 この場は、どうするべきか。相手の出方次第だ。

 巨人族の2人がこちらに歩いてこようとしたとき、何かを見て止まっていた。


 パチパチパチパチ・・・


「素晴らしいですわ」

「ありさ様・・・・」

 プレイヤーでルーナと同い年くらいの少女が、拍手をしながら近づいてきた。露出の高い魔導士の格好をしていて、頭には大きな赤いリボンがついている。


 ありさが視線を向けると、賢者の審判がたじろいでいた。

「あら、フリート。久しぶりね」

「はい・・・・」

「天界の少女と、魔界の王子が出てくるなんて、想像もしなかったわ。ここは闘技場でただ戦うだけだと思ってたのに、こうゆうこともあるのね」

 嬉しそうにしながらモニターを表示する。

「この様子を一部の人しか見れなかったのが残念。本当に素晴らしかったですわ」

「あの・・・・」

「あぁ、私はですね・・・ロトのギルドに所属するプレイヤーで、リアルではこのゲームを作ったクリエイターの娘なのです」

「クリエイター・・・」

「そうですわ。私は闘技場の管理者でもあるので、いつも特等席で鑑賞してますの」

 自慢げに言う。

「あ、モニターも復旧したわね。配信もオンラインになってるかしら?」

「・・・・・・・」

 ありさの前に出たモニターが流れる文字を映していた。


「皆さま、聞こえますか? 私は今、ケテル戦トーナメントが行われている闘技場にいるんんですけど、激しい戦いで通信が切れてしまったのです。なんと、天界の者と闇の王の後継者が・・・あ・・・」

 無視して背を向ける。

「お待ちください、闇の王子、貴方様のファンの方が・・・・」

「興味ない。殺すぞ」

「い、今の聞きましたか? 闇の王子が・・・・」

 ありさが頬を赤らめながら、モニターに向かって話していた。

 プレイヤーにとって、この世界はただの娯楽だ。

 命を懸けた戦いさえも、遊びだという。突然の闇の王の後継者の登場さえ、彼らを楽しませるイベントなのだ。


 怒りが込み上げるわけではなかったが、あまりいい気持ちはしなかった。

 配信の向こうにいる奴は特に、俺たちのことは見世物としか思っていないのだろう。


「ごめん、闇の王子・・・私、行くから、また君に会いに・・・」

 ルーナがマントを引っ張ってきた。

「お前もここのことは忘れろ」

「え・・・・・」

 足を鳴らして、地面に転移魔法陣を展開した。 

「闇の王子!」


 シュッ




 目を開けると、闇の王の城の屋上にいた。

 ユグドラシルの樹が遠くに見える。


「王子、おかえりなさいませ」

 メイドのヒスイが駆け寄ってきた。くりっとした目をぱちぱちさせた。

「あぁ、何か変わったことはあったか?」

「いえ、特にございません。また、アースに行っていたのですか? アースの土の匂いがします」

「まぁな、他の者には言うなよ」

「言わないですけど・・・そんなに何度も行って危険ではないのですか? そうです! 今度は私も行きたいです!」

「ヒスイは弱いだろうが。もう少し魔法を覚えたらな」

「・・・はい」

 城の中に入ると、闇の魔力に自分の体に馴染んでいった。

 掌がまだヒリヒリしている。こんな風になったのは初めてだな。

 ルーナの光属性の魔力か・・・。


「どうしたのですか? 手が真っ赤です」

「何でもない。今日はもう部屋に行く。何かあったら呼んでくれ」

「かしこまりました」

 手袋をはめて、城の階段を降りて行った。

 ヒスイがぺたぺた歩いて、後を付いてくる。廊下のランプの灯が煌々としていた。 


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