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75 ユグドラシルの樹 ~転生者の過去③

 闇属性を除くと、得意な魔法は炎と水だ。トーナメント4回戦目まで、何とか力を押さえてごまかしながら勝利していた。

「こ、降参だ・・・もう魔力もゼロ、体力もないに等しい」

「わかった」

 対戦相手のプレイヤーの男が両手を上げて審判を呼んでいた。

 剣の魔力を巻き取ってから仕舞う。

「勝者はハンス!」


 おおおおおおおおおおお


 割れんばかりの拍手が起こっていた。

「お前、どこから来たんだ? 俺は今回の、ケテル戦トーナメントの優勝候補だったのに・・・」

「通りすがりの戦士だよ」

「どのギルドにいるか教えてもらえるか? 俺もそこに入りたいんだが」

 プレイヤーが食い気味についてきた。

「あー、じゃあ、ダガーの酒場に来てよ。俺、そこにいつもいるから」

「わかった。ありがとう!」

「もちたろうさん、良い戦いでしたね。回復しながら、今回のバトルについて聞いてもいいですか」

「おう、キシさん、久しぶりだね。もちろんだよ、とことん話そう」

 結界から出ると、すぐに他のプレイヤーたちに囲まれていた。


 フードをつまみながら、待機場所に戻っていく。

 観客も俺のことを疑わず、どこかのギルドの者だと信じ込んでいるようだった。

「すごく強いね、全部圧勝だ」

 ルーナが目をキラキラさせながら言う。

「まぁね。でも、あまり勝ち上がるのも微妙だからそろそろ負けてくるよ」

「えー、もう終わりにするの?」

「バレたら色々と面倒なんだよ」

「ハンスって名前出してる時点で、バレてるんじゃない?」

「ハンスは偽名だ」

「え!?」

 咄嗟にハンスの名前を名乗ったことがバレたら、ハンスが怒りそうだけどな。

「そもそも、お前は堂々と名乗りすぎだろ。天界の奴らは、こうゆう場ではあまり目立たないほうがいいって教わらなかったのか?」

「それは・・・・」

 ルーナが口をもごもごさせながら、トーナメント表に視線を向ける。

「・・・どうしよう、次は棄権しようかな。なんだかもったいないけど」

「ま、この闘技場は今回のケテル戦以外にもたくさんトーナメントがあるんだ。また暇なときに来ればいいよ」

「うん」


 バババババババババン


 ボードが更新される。

「次の対戦は本日闘技場に流星のごとく参戦した少年少女、ハンス VS ルーナ!!!!」

「!?」

 上空のボードが俺とルーナの姿を表示していた。


 おおおおおおお


 観客が立ち上がって騒いでいた。

 今日酒場に行けば、間違いなく俺とルーナの話で盛り上がっているんだろうな。


「ここで当たっちゃったか・・・・」

「・・・・・・・・」

「あー、待ってよ」

 フードを押さえながら、闘技場の真ん中に行く。

 ルーナがすっと飛んで、正面に降りた。長い白銀の髪を、一つに結ぶ。

「棄権しないのか?」

「やっぱり、もう一戦やってから棄権することにした」

「ふうん」

 ルーナが細い剣を出してふふっと笑う。


 審判の賢者が杖を天にかざした。


 パーン


 戦いの合図が鳴り響く。

 一瞬でルーナが目の前まで来た。


 キィンッ


 剣を受け止めて、左手で魔法陣を描く。


 ― 豪炎のリーフ― 


 ボンッ ボボボボボボボボボボ


 魔法陣から飛び出す炎が、火の玉になってルーナを追いかけた。

 ルーナが天使の羽根のようにひらりとかわして、空に飛び上がる。

 地面を蹴って、剣を振り下ろした。


 カンッ


 剣を強化して、攻撃を止める。ルーナは華奢な体で戦っているとは思えないほど、一撃一撃が重かった。

 魔界の軍でも、ここまで強い奴はいないかもしれない。

「闇の力、使わなくていいの?」

「・・・・お前、何者だ?」

「私はルーナだよ」

 楽しそうに笑いながら、指で魔法陣を描く。


 ― 天使の角笛フューガ


「!?」

 闘技場の地面が輝いて、中央から天に向かって光が伸びる。

 飛びながら地面から離れた。

 全てを光変える力・・・こんな魔法をルーナが・・・・?

「おっと、これは・・・・初めて見る光魔法です」

 司会者の声が遠くに聞こえる。

 審判が咄嗟に観客席に結界を張っていた。


 ルーナが光の柱に剣を入れると、剣が伸びていく。

「闇の力を使わなきゃ、次の一撃は止められないかもよ?」

「どうして、そんなに俺に力を使わせたがるんだよ。まさか、お前・・・天界からのスパイか何かなのか?」

「そうじゃないってば」

 ビリビリと感じたことのないくらいの光の魔力を感じた。

 肉体が浄化されていくような、皮膚が焼け付くような・・・・。


「じゃあ、何なんだよ。闘技場なんて目立つ場所で、それほどの光魔法を使うなんて・・・」

 こいつは殺すべきなのか? 

 何も知らないふりをして、俺は誘導されていたのかもしれない。

「これくらい私にとっては普通だよ」

「フン、天界の者はやっぱり信用できないな」

 左手で、死の魔法陣を描こうとしたとき、ルーナの髪を結んでいたリボンがほどけた。

 ふと、月の光が遮られる。


「友達なんだから、名前くらい教えてくれてもいいじゃん」

「友達・・・て・・」

 何言ってるんだ? 天界の者が魔界の者と親しくするなんて・・・・。


 ― ホーリーソード ― 


 ぶわっ


「!?」

「本当の名前を教えてくれたら、この魔法、解いてもいいよ」

「・・・・その必要はないな」

「じゃあ、降参って言うまで・・・・」

 ルーナが巨大な剣を握り直す。地上に風が巻き起こって、下にいた魔導士たちが観客を守っていた。

 仕方ない。できるだけ、力を押さえて・・・。

 ボードの真下に入り、剣に電流を走らせて、近くのカメラを壊していく。


 ジジジジッ・・ ジジジジ・・・・


「あぁ! カメラが壊れて、2人の様子が・・・・・」

 司会者の声が響き渡る。

「見えないぞ」

「早く予備のカメラを用意しろ」

 地上がどよめいていた。

 一瞬で終わらせるしかない。

 ボードに自分が映っていないことを確認してから、両手を広げた。


 ― 暗黒壁守ダークウォール― 


 ドドドドドドッドドドドドド

 シュウゥウウウウウウ


「!!!!」

 目の前に漆黒の壁を出して、ルーナの攻撃を吸収していく。指を動かして、地面に広がった光の魔力をすくい上げて、暗黒壁守ダークウォールに吸い込ませた。

「・・・・・・・・・・」

 観客が静まり返っていた。


「すごい・・・こんな一瞬で・・・」

 ルーナが驚きながら、ホーリーソードを暗黒壁守ダークウォールから離す。

「ルーナ、お前が何者なのかは知らないけど、俺には敵わない」

「あ・・・・君は・・・・・」


 カッ


 突然、光のスモークで地上と空中の視界が遮られる。

 空からゆっくりと、ガラスの玉のようなものに包まれた人影が降りてくるのが見えた。

「誰だ?」

「リンベル・・・・・」

 ルーナが呟くと同時に、ガラス玉が弾けて中から翼の生えた中性的な人間が現れた。

 手には光輝く槍を持っている。


「ルーナ様、お怪我は?」

 ルーナの横に並んだ。白いローブには、天界の模様が入っていた。

「ど、どうしてここに? 天界に何かあったの?」

「いいえ、ルーナ様が闇の勢力と戦っているのを感じたので、駆け付けたのです」

「私は指揮官よ! リンベルの助けはいらないわ」

 むきになりながら両手を握りしめていた。


「もちろん、ルーナ様が強いことはわかっています。ただ、今回は強大な敵と感じられたので・・・・」

「強大って・・・・・?」

 リンベルが凛とした声で言いながら、俺を睨みつける。


「ち、違うの、私、今、闘技場で対戦していて・・・」

「貴様がなぜここにいる? ルーナ様と戦うのは理由があってのことだろう?」

「・・・・・・・・」

 短い息をついて、後ろに下がる。


「どうゆうこと・・・?」

 風がふわっとフードを取って、マントをなびかせた。

 ルーナが剣を降ろして、こちらを見た。


「闇の王子、アイン=ダアト、闇の王の後継者・・・」

「・・・闇の王の後継者?」

「・・・・・・・・・・」

 剣を回して、暗黒壁守ダークウォールを消す。

 リンベルが俺のほうへ槍を向けていた。

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