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72 リムヘル防衛戦④

 城の庭に出る。リーランが植えた植物で、青々としていた。

 木々の隙間から、幽幻戦士ゴーシェの鎧が見える。

幽幻戦士ゴーシェ、よくやった」


 ゴウン


 鎧が鈍い音を立てた。

 幽幻戦士ゴーシェは魔法で鳥かごのようなものを作り、深雪のコピーとテイアを閉じ込めていた。柵は黒く、うっすらと透明で、電流のような魔力が流れている。

 幽幻戦士ゴーシェが俺の声を聞いて、一歩下がる。

 テイアがはっとして、柵に近づいてきた。

「テイアをどうする気ですか? 人質にされて利用されるくらいなら、テイアは最期まで戦います!」

「どうもしない。帰れ。お前ひとりじゃ何もできないことくらいわかっているだろう?」

「っ・・・・・」

「ポロスの魂は狩った。俺は死の神だからな。本当はヴァイスが狩る予定だったんだろうが、あんな風になったんだから仕方ない」

 テイアが奥歯をぎりっと噛んでいる。アメジストのような瞳を潤ませていた。


「そ・・・その子をどうするつもりですか!?」

 深雪のコピーが視線を逸らしながら言う。

「その子は、ポロス様を・・・絶対に許せません。テイアは、最後まで巨人族として戦います!」 

「ここで、闇の王ソラが私を殺すというなら、仕方ありません」

 テイアが深雪のコピーを柵越しに睨んでいた。

 頭を掻く。

「・・・2人とも落ち着けって。幽幻戦士ゴーシェ、ポロスとテイアの檻を解いてくれ」

 幽幻戦士ゴーシェがゆっくりと手をかざす。


 シュッ


「あ・・・・・・」

 テイアが転びそうになりながら出てきた。すぐに鉄球を出す。

「闇の王!」

「冥界の王と呼べ。ポロスがそう、名付けた」

「・・・え・・・・ポロス様が・・・・・」

 テイアの表情が変わる。

「お前の名前は死者のリストには書かれていない。もう一度、こいつと戦えば、死ぬことくらいわかってるだろ?」

「・・・・・・・」

 深雪のコピーがちらっとこちらを見て、逸らした。

 テイアが鉄球に魔力を込める。

「そ、そんなの関係ありません。テイアは誇り高きティターン神族、このまま撤退したらポロス様は悲しみます! テイアは最期まで・・・・」

「ポロスは魂が狩られる直前までお前のことを気にしていた。俺にお前のことを頼んできた。ま、そんなの果たす義理はないし、もし死にたいのなら相手をするが、ポロスは望まないだろう」

「っ・・・・・ポロス様・・・・」

 鉄球をがたんと落とす。

 目に浮かべた涙を拭って、深呼吸をしていた。


「お・・・・お別れさせてください、ポロス様に。ティターン神族の、末の妹として・・・・」

「好きにしろ」

「失礼します」

 テイアが深々と頭を下げる。

 武器を消して、ポロスの倒れている場所まで走っていった。



 腕を組んで、近くの岩に腰を下ろした。深雪のコピーを見つめる。

「お前、居場所が無くてここに来たんだろ?」

「・・・・・・・・」

「深雪が『アラヘルム』に行ったからな。お前はお役御免といったところか」

 こくんと頷く。

「『アラヘルム』では何してたんだ?」

「私は表には出ません。アラヘルムの木の地下に設置された部屋で、パパの指令通りにロボットを操っていました。具体的には『イーグルブレス』に入るゲームプレイヤーへの説明を・・・」

「じゃあ、俺に説明したあのロボットも・・・」

「私が動かしました」

 淡々と言う。

 顔、体は全然違ったが、話し方が似ている気がした。


「あとは、配信などのチェックですね。害となる情報を流していないかなど」

「・・・・・・・」

 深雪のコピーが俯く。

「・・・私のほうがクリエイターの想定通りに動くのに、クリエイターはなぜあんなに深雪にこだわるのでしょう。予備として、私なんかまで、作って・・・」

「さぁな」

「向こうでの私の存在意義が失くなってしまったのでここに来ました。ここでも使えないなら、私は消滅するしかありません。魂までも写し取ったとはいえ、所詮、コピーですから」

「早まるなって。お前の名前は死の神のリストに載っていない」

「・・・・・残念です」

 細い声で呟く。


 深雪が話していたパパとやらが、深雪をコピーして彼女を作ったなら、異常だ。常軌を逸している。

 あいつらにとって、ゲームの中は人でさえ人形みたいなものなんだろう。


 だが、俺が関わるべきなのだろうか。

 俺の目的はクリエイターに復讐することだ。

 深雪のことは何考えてるのかわからないし、第一に自らクリエイターのところへ行ったんだ。

 もう、忘れたほうがいいんじゃないかと思っていた。


「そういや、深雪2とか深雪のコピーだとか言われてるって話してたな」

「あ、はい。どちらでもいいですよ」

「いや、深雪とお前は違うんだから、別の名前になるべきだろう。こっちとしても、呼びにくいからな」

「え・・・? 名前、ですか・・・」

 目を丸くして首を傾げていた。


 顎に手を当てる。

「そうだな。じゃあ、深く優しいと書いて深優だ。名前の由来は特にないけど、好きに呼んでいいなら、深優でもいいだろ?」

「みゆ・・・深優・・・私の名前・・・・・」

 驚きながらモニターを出していた。

 スクロールしながら何かを打ち込んでいる。


「ん? なにしてるんだ?」

「わ、忘れてしまうといけないので、メモしておくんです。私の名前は、深優・・・と」

「気に入ったか?」

「はい。とても素敵な名前です」

 髪を耳にかけて、指を動かしていた。

 時折、にやけて口角が上がっているのがわかった。


「あの・・・・私はどうすればいいのでしょう。これから・・・もう、クリエイターからの指示は無いのです」

「自分のことは自分で決めろ」

「自分で・・・・」

「ここに来たのは自分の意志だろ? 深優は自分が思っている以上に意思があるってことだ。確かに深雪にそっくりだけど、別人だからな」

「・・・・・・・・・」

「好きに生きろ。俺も昔は作られた人間だったから、お前の気持ちが全く理解できないわけじゃない」

 手を後ろについて、空を見上げる。途切れた雲が風に流されて、日差しがポロスの遺体を照らしていた。風が砂をさらうと、テイアが大きな手のそばで泣いている声が聞こえてきた。


「ふふ・・・・」

 深優が急にほほ笑んだ。

「ん? どうした?」

「貴方が思った通りの方で、ほっとしたんです。私の記憶ではありませんが、優しい闇の王の・・・やっぱり、貴方は深雪の記憶の中にある闇の王のままです」

「記憶の中にって・・・どうゆうことだ・・・?」

 白銀の髪をさらっとなびかせる。


「私は深雪のコピーとして作られた人間なので、深雪の過去の記憶は脳に全て蓄積されています。ですから、ソラのことはよく知っています」

「俺の・・・・・?」

「はい」

 じっと目を見つめてくる。

「もちろん、ソラが画面の向こうの世界に転生する前・・・闇の王だったときのことも・・・です」

「!?」

「聞きたいですか? あまり、良い話ではないかもしれませんが。水瀬深雪にとっては大切な記憶だったようで、一度も消えたことはありません」

「・・・深雪が・・・・?」

 深優がすっと自分の前のモニターを消す。


「・・・・聞かせてくれ。俺は闇の力は得たが、記憶は断片的なんだ」

「わかりました。私に名前をくださったお礼です」

 深優ゆっくりと瞬きして、幽幻戦士ゴーシェを見上げた。

幽幻戦士ゴーシェ、貴方も覚えているのでしょう?」


 ― ・・・・・・・・・・ ― 


 幽幻戦士ゴーシェが深優の声に少し反応してから、正面を向いた。

幽幻戦士ゴーシェ、間違っていたら、殺しても構いませんよ。水瀬深雪の記憶の中で、この記憶だけは鮮明なものなので、決して間違えることはないでしょうけど」

「・・・・・・」

 風に乗って、どこからともなくハーブの香りが漂ってきた。

 深優が隣の岩に座って、話し始める。


 俺が、ゲームの中の主要人物だったときのことを・・・・。

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