70 リムヘル防衛戦②
ドーン ドドドッドド
ヴァイスとポロスの攻撃がぶつかり合い、たびたび突風を巻き起こしていた。
「よそ見しないでください!」
テイアが鉄球を振り回して攻撃してくる。
隣の屋根に飛び乗ってかわした。
「まだまだ行きます!!」
攻撃がワンパターンだ。力は強く、持久力はあるが、こいつ自体に能力があるわけではなさそうだ。
「!?」
死者のリストに名前が書かれた。
消えかかっているが、さっきよりも濃くなっている。
「ヒナ・・・・」
「どうしましたか? まだテイアとの戦闘中で」
「黙れ」
「!?」
手をかざす。
― 悪魔の鎖 ―
「きゃっ・・・・」
黒い鎖の魔力を高めて、テイアの足を強く屋根に縛り付けた。
「ぬ、抜けない。体力を奪う魔法ですか・・・・」
「・・・・お前に構っている余裕はない」
「闇の王!」
地面を蹴って飛び上がる。城の方角か?
テイアの声を無視して、城のほうへ向かった。
城門はヴァイスとポロスの攻撃で、崩れかかっていた。
水瓶をひっくり返したような水が降って、竜巻のような風が巻き起こる。
災害のようなぶつかり合いになっていた。死者の街にいた者たちは、『リムヘル』の軍の一部が誘導して、幽幻戦士の近くに避難していた。
ヒナの姿は見えない。
結界を張っているリーランのところへ降りていく。
「ソラ!」
リーランが結界を調整したまま駆け寄ってきた。
「ヒナはどこだ?」
「ヴァイスが血相変えて、城の端に連れて行きました。ヒナのところにはアリアが居ます。ポロスから遠ざけるためって・・・・」
「そうか」
ヴァイスも死者のリストを見たのだろうか。
精神を集中させたが、神は2人の気配しか感じない。誰がヒナを殺そうとしているんだ?
『申し訳ございません、闇の王ソラ様・・・』
「?」
『我々、英雄と呼ばれた者なのに、こんなにもお役に立てず』
アレスたちがリーランの後ろにいた軍から出てきて頭を下げる。
「ヴァイスとポロスの攻撃は激しすぎて、私たちは入れないんです。入っても足手まといになるため、ここで、城に結界を張るのが精いっぱいで・・・私でさえ、ここで攻撃を避けるので精いっぱいです」
「あぁ、あとは俺がやる。お前らは下がっててくれ。よく、ここまで耐えてくれた」
深淵の杖を地面に付きたてた。
― 出でよ、幽幻戦士―
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地面が闇に染まる。幽幻戦士が漆黒の鎧を出てきた。
「幽幻戦士、死者を守れ」
ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン
ゴゴッ
― 承知しました。全ては闇のために・・・ ―
城をリーランの結界を囲うように幽幻戦士が立つ。
振ってきた巨大な大岩を、幽幻戦士が空中で打ち砕いた。
『すごい・・・あの大岩を一瞬で・・・』
『これが闇の王ソラ様の力・・・』
軍からは驚くような声が聞こえた。
マントを翻す。
ポロスが天から降らせる岩々を避けながら、ヴァイスに近づいていった。
「やっと来たか、闇の王・・・・」
ポロスが魔法陣を閉じて、攻撃を止めた。
「ソラ、ここは俺に任せてくれ。ヒナさんが・・・」
「わかってる」
「・・・・・・・」
「ヴァイスも落ちたな。たかが、プレイヤーに思い入れするとは」
髭を触りながら言う。
「こっちにはこっちの事情があるんだよ」
ヴァイスが剣を強化しながら睨みつける。
「ほぉ・・・・神軍の指揮官が闇の王につくほどのことか」
「あぁ・・・俺にとってはな・・・・」
剣に刻まれたカノのルーンを光らせていた。
「・・・なるほど。のらりくらりとやっていたお前が自ら動くのは珍しいと思ったが、軍の指揮官をやっていたあの少女が関係あるのだな?」
「っ・・・・・」
4メートルはある巨大な斧を出して、背中に担ぐ。
「図星か。では、早い話がそいつを取り除けば、お前もこちらにつくだろう」
ポロスの視線が地上に向く。城の敷地にある、庭の花壇のそば・・・。
― 煉獄―
ガンッ
「待て」
ポロスの斧を深淵の剣で止める。
「これが闇の王の力か。俺の攻撃を瞬時に止めるとは・・・無限に湧き出る力を感じるな」
笑いながら斧を持ち上げていた。
「・・・ヴァイス、お前とヒナの間に何があるのかは知らないが、今はヒナをお前に任せる」
「・・・・・・」
「ポロスの相手は俺がする。ヒナのことは頼んだ」
剣を巨大化しながら言う。ヴァイスが頷いて、地上のほうへ飛んでいった。
「ティターン神族か。よくもポセイドン帝国を仕向けたな」
「ポセイドン帝国は我々神々に忠実な国だからな。冥界の王よ」
「冥界の王?」
ポロスが堀の深い目を細めた。
「死の神が闇の王を名乗るなら、冥界の王と呼ぶほうが相応しいだろう?」
「フン、なるほどな」
マントを後ろにやる。ポロスが斧を回して、カチッと止めた。
「気に入った。では、冥界の王を名乗らせてもらおう」
「余裕ぶっているのも今のうちだろう。冥界の王がどれほどまでの力を持っているのか、ティターン神族の俺が試してやる」
「ポロス様!」
テイアが両足に痣を残して飛んできた。
「魔法が解けたか」
「テイアは誇り高きティターン神族ですから! あんな魔法、どうとでもできます」
動きが鈍い、悪魔の鎖は効いているようだな。
ポロスが指でテイアの背中に触れた。
「あぁ、そうだったな。テイアは・・・・・」
カッ
「危ない!!」
ポロスがテイアを突き飛ばした。
「!?!?!?」
天空から虹色の光が降り注ぐ。
途中で巨大な剣になり、真っすぐにポロスを突き刺した。
「な!?」
「ポロス様ー!!!!!!!」
テイアの叫び声が響き渡る。
サファイアのような瞳、白銀の髪、雪のように白い肌・・・・。
中から水瀬深雪に似た少女が現れた。
ドーン
ポロスが時間をかけて、地上に倒れていった。
建物が崩れて、中にいる人たちのどよめきが聞こえる。
この感じ・・・。
「ポロス様っ・・・・」
「今、動くな!」
「っ・・・・」
駆け寄ろうとしたテイアに剣を向けて止める。
深雪に似ていたが、こいつは・・・。
「・・・お前、何者だ? 深雪ではないな?」
「私は深雪の完全なコピーなので、深雪ではありません。クリエイターからはコピー、深雪2と呼ばれています。『アラヘルム』から来ました」
「っ・・・・・コピーって・・・」
剣を握りしめる。コピーが指を動かして、モニターを表示していた。
「深雪はあまりにも予想外の行動をするため、予備で私が作られていました。同じ人工知能を埋め込まれてはいますが、外的事象が異なるため深雪とは違うことをご了承ください」
「何しにここに来た?」
「死者の国を救うためです。神々の侵略で困っていたのでしょう?」
光の剣を出して、テイアに視線を向ける。モニターが音を立てて消えた。
「次はその子ですね? 巨人族にしては小さいですが、神であることを確認しました」
「お前、ポロス様をよくも・・・」
テイアが目に涙を溜めながら、鉄球を回す。
「頼んでなどいない。今すぐ、武器を仕舞え。お前の力を借りる必要は・・・」
ドドドッドドドッドドドドド
「??」
『キャー!!!!』
大きく地面が揺れていた。
指で幽幻戦士を動かして、建物の揺れを止める。
「なんだ? 今のは・・・。ただの地震か・・・?」
ぞくっ・・・
背筋に悪寒が走る。死者の本に書かれた名前が確定した・・・・?
ポロスを囲うようにして、地上が暗くなり、地面が唸っている。
「どうゆうことだ? これは・・・・」
「ティターン神族の怒りです。地は、ポロス様の血を吸い、生命を狩らす土となるのです」
テイアが呟く。地面に稲妻のような魔力が走り、城の・・・。
「!?」
壁を蹴って加速して、庭のほうへ飛んでいく。
魔力が集中的に走った先は、ヒナが居る場所だった。




