68 エラー
リーランから聞いた『アラヘルム』が滅びた理由について思い出していた。
『アラヘルム』の住人は、自分たちを作った者たち、ゲームクリエイターの存在に気づき、同じ能力を持とうとしたため、神の逆鱗に触れたのだという。
一部の者たちは、神によって裁かれ、プレイヤーと同じ世界に追放された。
近未来指定都市TOKYOの人間の一部は、『アラヘルム』から来た者たちだ。
エルフ族やドラゴン族もみな人間の姿になり、俺たちの世界にいたようだ。
残った者たちは『アラヘルム』を起点に世界を掌握しようとしたのだという。
背負いきれなくなった罪の重さに、運命の女神は羅針盤を回した。神は呪いを受ける少女を差し出すように命じた。
呪いを受けたのが、3人の魔女だ。
『今、『アラヘルム』はゲームクリエイターと主要キャラが一緒にいるようですね。こちらとしても想定外らしく、情報が遅延しています』
ザエルが複数のモニターを出して作業しながら、話していた。
『処理速度がなかなか上がりません。コンピューターの指示を待ちます』
「お前に指示出している奴らと、『アラヘルム』にいるクリエイター、2つのグループがあるってことか?」
『2つだけとは限りませんけど、少なくとも、『アラヘルム』の状況はこちらのチームもキャッチできていなかったようです』
「ややこしいな」
ヴァイスが腕を組んだ。
ザエルが崩れた柱に座って、モニターをスクロールする。
「さっき、深雪がパパって呼んでたのは何かわかるか?」
『パパというのは、おそらく自分を作ったクリエイターのことです。彼らは、未知の世界を体感するために、この世界に多くのキャラクターを置いています』
「どうしてパパなんて呼び方させてるんだよ」
「どうやったって、肉の親にはなれないからじゃない?」
ヴァイスが冷たく言う。
「人間ってそうゆうの気にするじゃん。死は等しく一人なのにね」
『理由は私にはわかりません。情報が入っていませんので』
ザエルがモニターに3Dでゲーム内の人間の女の子を映していた。
『これは、クリエイターの試作品。私がロボットとして召喚することもあります』
指を動かすと、笑う、手を振る、欠伸をするなど、様々なモーションをしていた。
「へぇ・・・・・」
「人形みたいだな。プレイヤーのアバターにそっくりだ」
『こちらは、まだ人工知能が機能していませんので、初期のモーションのパターンでしか動きませんけど』
ヴァイスとモイラが物珍しそうに見ていた。
俺がRAID学園で見ていたアバターと変わりないな。
「・・・・・・・・」
『水瀬深雪は、こうゆうものを作り出す者たちのところに行きました。『アラヘルム』には多くの者が集められている、と予測できます。彼女は確かに、とあるクリエイターの傑作だそうですが、他にいないとは言い切れません』
「・・・深雪はどうなるんだ?」
『悪いようにはなりませんよ。ミユキはクリエイターたちにとって、大切な存在だそうですから』
「そうか・・・」
深雪の光魔法を受けた手が、少しヒリヒリしていた。
あんな力を持っているとはな・・・。
「ソラ、どうする? このまま『アラヘルム』に行く?」
「いや、いったん『リムヘル』に戻ろう。『アラヘルム』に行くなら、アリアがいたほうがいい」
マントを羽織り直す。
「ソラ様、アリアは『アラヘルム』には入れないの」
モイラが口をはさんだ。
「アリアとリーランはまだ、呪いが継続しているし、セレナみたいに解除することなんてできない。行くなら私が案内する」
「わかった、頼むよ」
「うん」
モイラが大きく頷いて、駆け寄ってくる。
『運命の女神モイラ・・・・』
「ん?」
ザエルがモニターを消して、モイラのほうへ近づいていく。
『貴女にはクリエイターの指示が聞こえるはず。そのように、コンピューターは伝えています。『イーグルブレスの指輪』の世界を忠実に守るために、運命を回してきた、と・・・・』
「それが何?」
『その・・・どうして、無視できるのですか? 彼らの言葉を・・・』
モイラが青い髪をなびかせて、ザエルの目を見る。
「私は闇の王ソラ様に出会って変わったの。今の私は、ソラ様と結婚するのが夢。貴女もそうゆう人に出会えるといいね」
『・・・・・・』
にこっとして、ザエルに背を向けた。
「ねぇ、ソラ様。RAID学園のほうを通って帰りましょ。私、ソラ様の育ったところを見てみたいな」
「まぁ、帰り道か。少し、遠回りにはなるけどな」
『待ってください! 死者の国に帰ったほうがいい・・・・です』
急にザエルが引き留めて、少しずつ声を落とした。
『たった今、『アラヘルム』から1人、クリエイターが作ったキャラクターが向かっていると連絡がありました』
「何するつもりだ?」
『それはわかりません。私は引き続きここで、待機するようにとのことです。私はこうゆうとき何かを起こすタイプの精霊ではないのですが・・・・』
自分の言葉に、混乱しながら話しているようだった。
『キャラクターを守らなきゃいけませんので。おかしいですね』
「・・・・その、キャラクターって言葉何とかならないの?」
『え・・・・クリエイターがそう言うので・・・信じられないなら、私のことは無視してください』
「・・・・・・・・」
ヴァイスと顔を見合わせる。
モイラが咳払いをした。
「そんなこと、私たちに言ってもいいの?」
『・・・・私の独断です。先ほどから少し、エラーが起こっているのかもしれません。後で修正が入るでしょう』
ロボットから落ちた破片を触りながら話す。
「ありがとう、ザエル」
『は・・・はい・・・・』
「その魔法、解いておいてやるよ」
ヴァイスが指をくるっと回した。
電子回路を狂わせていた魔力が抜けて、ロボットが少し動き出す。
『あ・・・・』
ポケットからペンダントを取り出して、グリフォンを召喚する。
ザエルがロボットに話しかける声が、後ろから聞こえていた。
「ヴァイスにしては優しいことをしたのね。あのまま、精霊が混乱する様子を楽しむと思ってたのに」
「俺はいつでも優しいって。退屈なときに、ちょっと遊ぶだけだ」
軽い口調で言う。
グリフォンがどんどん上昇していき、雲の間を通っていく。
『ソラ様、このまま真っすぐ戻ってよろしいのでしょうか?』
「あぁ、最短距離で頼む」
『かしこまりました』
顎に手を当てて、ザエルの言っていたことを思い返していた。
「神喰らい・・・」
「ん?」
「あいつらも、パパって言ってたんだ。もしかしたら、『アラヘルム』の奴らと関係あるんじゃないかって思ってさ」
「確かに俺もあいつらのような気がしたよ」
ヴァイスが目を細めた。
「ヴァイスも会ったことあるのか?」
「まぁね。これでも、神軍の指揮官だったからさ。何の目的かわからないけど、数人の神々が殺されている。しっぽは掴めないでいたんだ」
「彼らの動きは私でも追えない。ホロスコープにも現れていないの」
モイラが結界を確認しながら言う。
「グリフォン、スピードを上げてくれ・・・」
『はい。お急ぎということですね』
翼を平らにして、加速していく。
「本当は寄り道したかったけど、ヒナさんが心配だよ」
名残惜しそうに、地上を見つめる。
「神喰らいは神しか殺さないでしょ?」
「ヒナさんは美しいから、美の女神と間違えるんじゃないかと思ってね」
「あ、そ。ねぇねぇ、ソラ様、神喰らいが片付いたら、また二人でここに来ようね」
「ん・・・・・・」
雲の隙間から、人通りのない近未来指定都市TOKYOが見えた。
『アラヘルム』に水瀬深雪を作ったクリエイターが・・・。
RAID学園のアバターが視界に入った気がしたが、気のせいだろう。
モイラが服を引っ張ってきて、楽しそうに他愛もない話をしていた。




