表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/149

67 闇を穿つ光

 深雪を抱えて、段差を降りる。

 ずっしりとした重みが、なぜか懐かしく感じられた。

「ソラ、彼女は?」

「気を失ってるみたいだ。起きたら色々聞くことがある」

『みんな、ミユキを連れ戻して!!』

 ザエルが叫ぶように命令する。


 ガタガタッ・・・ ガタッ ガタッ


『な!?』

 ロボットたちが動こうとして、崩れるように倒れていた。

『どうして? 命令コードは正確なはずなのに・・・もう一度再起動して・・・』

「無駄だよ。お前が出したロボットは、俺が停止させた。得体のしれない力がかかってるから少し手こずったけどね」

 ヴァイスが散らばった破片を蹴って言う。


「早く行こう。ここにいても退屈なだけだからさ」

「あぁ、グリフォンを召喚する。待っててくれ」

『ダメ! 彼女を連れていかないで・・・・・』

 ザエルが構えようとした剣を、モイラが杖で抑える。


「どうする? 貴女も一緒に行く?」

『・・・・・・・?』

 驚いたような表情をしていた。

「貴女もいつまでも誰かに従っていないで、自分から動いたら。私は運命の女神だけど、自分の運命は自分で切り開いたほうがいいと思うの」

 少し黙ってから、剣を消して背を向けた。


『・・・・コンピューターは私がここにいるようにと指示しています。私は完ぺき主義な精霊ですから、ここで次の指示を待ちます』

「ふうん。じゃあ、無理強いはしない」

『さすがに、3人の神々を相手にするのは不可能でした。クリエイターも今回のことは軽微なエラーとして捉えてもらえるでしょう。データは記録しましたので、クリエイターに転送しておきます』

 モニターを表示しながら言っていた。


「ソラ様!」

 モイラが小走りで駆け寄ってくる。

「モイラ、ありがとう。助かったよ」

「へへへ、闇の王ソラ様のためだもん。これからも頼ってね」

「ねぇ、あいつにとどめ刺さなくていいの? ソラが殺したら、俺が魂狩ってくるけど」

「今はいい。放っておいても何もできないだろうからな」

 振り返ると、ザエルが指を動かして、ロボットを動かそうとしているのが見えた。

 ヴァイスの魔法がロボットの電子回路を狂わせたようだ。

 3体とも額の明かりを点滅させて、鈍い電子音を鳴らしていた。


「せっかく来たんだし、少し観光して帰ろうよ。ヒナさんが通っていた場所とか、お気に入りの店とか見ておきたいんだ」

「お前な・・・」

「そうしましょ。私も見て回りたいな。ソラ様、この子はグリフォンに任せて、寄り道していきましょ」

 モイラが手を合わせて、楽しそうに言う。

「はぁ・・・じゃあ、まずは、深雪を『リムヘル』に置いてから・・・・」

 神殿から一歩出たときだった。


 カッ


 深雪の体が白い光に包まれて浮き上がった。

「!!」

「ソラ様、離れて!」

 モイラが俺と深雪の間に入る。咄嗟に杖を出して、闇の魔力と光の魔力を中和していた。

 掌が焼け付くように痛かった。これが、深雪の魔力・・・。

「この子は光属性の力が強すぎる・・・どうして急にこんなに高まったの? さっきまでと、全然違う」

「・・・・・・・」

 深雪がふわっと地面に足をつけた。ゆっくりと目を開く。


「深雪?」

「蒼空・・・・?」

 羽根が舞い降りてきたようだった。

 ぼやけていた輪郭が鮮明になっていく。はっきりと思い出していた。


 もし、闇を穿つ光が存在するなら、彼女のような・・・。


「私はここで・・・ザエルと戦っていて、どうして・・・・」

「・・・・・・」

 深雪が自分の手を眺めて、周囲を見渡していた。

 ザエルの言葉通りなら、神殿を出たときに光帝の称号が与えられる。

 神殿の魔力は消えていたが、制約はまだ残っていたのか。

「魔力が変わった・・・力がみなぎってくる」

「お前は、光帝・・・になったのか?」

「そ・・・そうみたいね。私、光帝なのね。よかった」

 深雪が、自分の前にモニターを出す。素早く、何かを確認していた。

 エンペラーの制度はまだ、継続しているのか?


「『アラヘルム』が復活している・・・ソラが復活させたの?」

「復活してない。ソラ様が近未来指定都市TOKYOを転移させただけよ」

 モイラが深雪を睨みつける。

「モイラ・・・・・」

「『毒薔薇の魔女』、また会うとは思わなかったわ」

「ザエルの力は闇では解けない。運命の女神が私を助けたの?」

「闇の王ソラ様が望んだからね」

 一歩前に出る。

「深雪、どうして俺が闇の王になることを止めようとしたんだ?」

「あ・・・・・・」

 深雪がはっとしたような表情をして、空を見上げた。


「パパが呼んでる・・・」

「え・・・パパ?」

「行かなきゃ」

「待ちなよ」

 ヴァイスが深雪に剣を向けた。

「君はルーナなんだろう? なぜ、あの時、神喰らいの攻撃を避けなかった?」

「・・・・・・・」

「ヴァイス、どうゆうことだ?」

「ラダムの爺に聞いたんだ。ルーナは確実に避けられる状況だったのに避けなかった。ソラの前で死ぬことを望むように」

「!?」

 真っすぐに深雪のほうを見つめる。


「爺の見当違いってこともあるけどね。君は、あの瞬間、自分で意図して殺されたんじゃないのか?」

「ヴァイス、私はもう死の神じゃない。プレイヤーの水瀬深雪、光帝になったの」

 モニターを消して、両手を広げる。背中に透き通る翼が現れた。


「ごめんね、ソラ。私、パパのところに行かなきゃいけない」

「パパってなんだよ。まだ話が・・・・」


 ― 子羊を守るリリス ―


 キィーン


「・・・・・!」

 深雪が自分の前に光の柵を出した。


 カッ


「待てって、逃げる気か?」

「ごめん、ソラ。私のことはもう大丈夫だから」

「深雪!」

 光の柱が立つ。一瞬で深雪が居なくなっていた。


「っ・・・・・・・」

「あーあ、ソラなら無理やり捕まえられたのにさ」

 ヴァイスが剣を消して横に並んだ。


「ソラって、意外とあの子には弱かったりするの?」

「・・・・ヴァイス、さっきの話は本当なのか? ルーナは、意図的に俺の目の前で死んだって」

「まぁ、ラダムの爺がボケてなければ確かだね。あの爺さん、痕跡をたどるのが得意なんだ。間違えることは、ほぼ無い」

「そうか・・・・」

 ルーナ、セレナ、アルテミス、深雪の記憶が鮮明になるほど混乱した。

 『アラヘルム』の呪いを、自分で解除するためだけなら、神喰らいに殺される必要はなかったはずだ。

 ヴァイスの言うように、あえて俺の前で殺されたのか。

 でも、何のために・・・。


「モイラ、深雪は・・・・」

「私に聞くよりも、後ろの精霊に聞いたほうがいいと思うの」

 振り返ると、ザエルが濡れた服を乾かしながら歩いてきた。


「さっきから慌ただしく動かしてたから、なんか知ってるんでしょ?」

『・・・・はい。水瀬深雪は、クリエイターの指示のより、『アラヘルム』に行ったようです。水瀬深雪を作ったチーム、らしいですね』

「え・・・・・・」

『私に指示を出しているのと別チームになります。コンピューターからの、次の指示を待ちます』

 淡々とした口調で言う。


「『アラヘルム』?」

「え、ちょっと待って。『アラヘルム』に行くって・・・・復活したってこと?」

 モイラが杖を落としそうになりながら、聞き返す。


『はい。『アラヘルム』は先ほど、ゲームクリエイターたちの拠点ができたという連絡がありました』

「嘘・・・・」

「じゃあ・・・・・」

「・・・こんな早く立て直してきたのか」

 ザエルが静かに頷く。

『水瀬深雪の言っていた通りですね。運命の女神モイラがかけた転移魔法は解けています』

「そんな・・・・信じられない」

 モイラが目を大きく見開く。


『確かな情報です。『アラヘルム』が復活したそうです』

 ザエルが濡れた髪を後ろにやった。

 水しぶきが光に当たって、キラキラしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ