表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/149

65 邂逅

 ― 我が命令に従え、出でよ、グリフォン ―


 ペンダントから魔法陣が広がり、中からグリフォンが出てきた。

『お久しぶりです。ソラ様』

「あぁ」

 グリフォンが翼を畳んで、頭を下げる。

『我が・・・いえ、『毒薔薇の魔女』セレナ様のことは・・・・』

「悪い。グリフォンのことは覚えてるんだが、セレナのことをはっきり思い出せないんだ。どんな子だったんだ?」

『・・・そうですね。おそらくそれは、私が語るよりもソラ様ご自身が見つけるほうが、セレナ様が喜ぶと思うのです』

「・・・そうか」

 砂埃が舞う。ペンダントをポケットに入れた。


「へぇ、グリフォンが闇の王の召喚獣か」

『死の神ですね。ソラ様のご友人か何かですか?』

「ま、そんなとこだよ。これからよろしくね」

 ヴァイスが軽い感じで言う。

『そもそも、神というものが好かないのですが、ソラ様のご要望であれば仕方ありません』

「相変わらず固いなー」

「久しぶりー、グリフォン」

『運命の女神モイラ・・・』

 モイラが近づくと、グリフォンが爪を立てた。


『ソラ様、随分、変わった仲間ができましたね。運命の女神がここにいるなんて』

「よく覚えてたね。『アラヘルム』の罪を担当して以来なのに」

『忘れるわけないでしょう。『アラヘルム』にあんな・・・』

「グリフォン」

 声をかけると、はっとして目を細めた。

『失礼しました』

「こいつらと近未来指定都市TOKYOにある神殿に向かうつもりだ。乗せてもらえるか?」

『承知しました。我が主』

 グリフォンが体勢を低くする。

 軽く飛んで背中に乗ると、モイラが弾むようにして後ろに続いた。


 ― 闇夜のベール ― 


 モイラが指でくるっと輪っかを作って、全体を包んだ。

「ステルスの魔法をかけたの。外からは絶対に見えないわ。これで、存分にソラ様と・・・なんちゃって」

「あの、俺いるんだけど」

『私もいますね』

「もう、邪魔ばっか。2人きりだったら新婚旅行だったのに」

「そもそも結婚していないじゃん」

 ヴァイスが言うと、モイラがぷりぷりしながら、足を伸ばしていた。


「行くぞ。グリフォン、北東の方角だ」

『かしこまりました』

 グリフォンが地面を蹴って、飛び立つ。ぐんぐん上昇していき、あっという間に城が小さくなっていった。 




 近未来指定都市TOKYOは予備電源で動いているのか、電気は通っているようだ。

 アバターが居ないところを見ると、完全復旧ではないのだろう。研究者のような作業着を着た人たちが、TOKYOの端のほうで何かを計測しているのが見えた。

 グリフォンが上空を通過しても、特に攻撃的な何かは無かった。

 モイラのステルス魔法が効いているようだな。


「わー、綺麗な都市」

『モイラ様、何度も言ってますけど、そんなに身を乗り出したら落ちてしまいますよ』

「落ちたって飛べるもん」

『あ、そうですか』

 グリフォンとモイラはなんとなく仲が悪かった。

 まぁ、グリフォンが一方的に嫌っているだけだけどな。


「ソラ様、ソラ様はいつもどこにいたの?」

「RAID学園っていう、あの少し浮いているところにある学園だ」

「へぇ・・・魔法じゃないのに浮かせることなんてできるのね」

「正確には魔法と科学の融合だ。あの庭園はゲームの世界の魔法と、TOKYOの科学を掛け合わせて作ったものなんだよ」

「そうなのね」

 RAID学園は立ち入り禁止のバリアが張られていた。

「ヒナさんもあそこにいたんだよね。ヒナさんがいたっていうだけで美しく見えるな」

「そういや、ヒナはなんでお前の姿が見えるんだ? 何度、死の神の本を見ても、ヒナの名前なんかなかっただろ」

「・・・・・」

 ヴァイスが一呼吸、沈黙する。


「ヒナさんは一度死んでるんだよ」

「お前にしては、笑えない冗談だな」

「やっぱり、知らなかったのか・・・・」

「え・・・・?」

 振り返ると、ヴァイスが真剣な表情でこちらを見ていた。

「・・・ソラには知られたくないことなのかもしれないから、詳しくは言わない。気になるなら、自分で聞いてみたら?」

 突き放すように言う。

「・・・ヒナが・・・・」

 背筋が冷たくなった。嘘だろ・・・。


 俺はヒナについて知らないことが多い。

 RAID学園に入ったころからずっと一緒にいたし、死んでるなんて・・・じゃあ、今のヒナはなんなんだ?


「ね、ねぇねぇ、ソラ様。あれは何?」

 モイラがマントを引っ張った。

 ヒナのことは、後で考えよう。今は目の前のことに集中しないと。

「・・・ビルだよ。人間たちの働く場所だ」

 TOKYOはどの企業が、どの場所にあるのか明確になっていない。アバターがオフィスに行くことが多いからだ。

 でも、今はあそこにゲームクリエイターがいる可能性もあるけどな。


「あんな高いところで仕事をするの? 地震を起こしたら倒れるかしら」

「遊びで変なことやるなよ」

「私はヴァイスと違うもん。ちゃんと、星に従うの」

 ヴァイスが疑いの目で見ていた。

「そこが目的地の公園だ。グリフォン、地図に会った通り、公園の中央で降りられるか?」

『はい。特に変な魔力も感じないので、問題ありませんよ。では、そこの木の裏のほうに降りますね』

 グリフォンが翼を斜めにして降下していく。


 TOKYOで一番高い、第一TOKYOビル・・・。

 その下に広がっているのが、桜宮公園だ。中央には噴水があり、周辺はあらゆるゲームの幻獣やアバターが集まる場所があった。


 さすがに今は、更地だけどな。





「元々神殿のあった場所は、この辺だったね」

 ヴァイスが軽く手をかざす。

「電磁波のようなものは感じるけど、攻撃性はないみたいだ」

「まだ、警備体制ができていないんだろう。転移して日が浅いからな」

 グリフォンの頭を撫でる。


「神殿なんて見当たらないけど?」

「なんか、この都市はやりにくいな。魔法というか科学というか、感じにくいんだよ」

 ヴァイスが周囲を見ながら言う。

「グリフォン、ありがとう。また、あとでな」

『かしこまりました』

 すっと光の中に消えていった。

「確かに、ホロスコープはこっちに導いてる」


 ブオン


 モイラが歩き出すと、3Dホログラムのロボットが現れた。

 指を立てて、電気を走らせる。

「わっ・・・」

「見つかったのか!?」

 モイラとヴァイスが剣を構えた。


「こいつは3Dホログラムといって、実体がここにあるわけじゃないんだ」

 ステルスの結界から抜けて、ロボットと向き合う。

「おい、ソラ!」

「こいつの通信経路は遮断した。すぐに、見つかることは無いだろう」

「いつの間に・・・・」

「さすが、闇の王ソラ様」

「ここに神殿があったはずだ。エンペラーを決める神殿はどこにある?」

 ロボットがぎこちない動きでこちらを見た。


『シンデン、神殿、『イーグルブレスの指輪』の、神殿・・・』

「・・・・・・・・」

『この、上空です』

 上空を指す。


「!?」

 空を見上げると、神殿が浮いているのが見えた。

 さっき、ここへ来たときは見えなかった。この角度からしか見えないということか。


「ヴァイス、モイラ、この上に行くぞ」

「うん。結界はもういいかな? ちょっと状況を感知しにくいから」

 モイラが結界を解く。


『『イーグルブレスの指輪』の神々・・・・』

「えっ・・・・」

 ロボットがぐるっと、モイラとヴァイスのほうを見た。

『『イーグルブレスの指輪』は我々の最高傑作のゲームです。このように、ゲームの中のキャラクターとお会いできて光栄です』

「!?!?!?」

「っ・・・確かに切断したはずなのに・・・まだ、何か隠しコードが・・・・」

『夢のようで、チーム一同喜んでいます。次はぜひ、直にお会いできるように』

「お前・・・・」

『失礼します』


 シュンッ


 ロボットが消えていった。 

 ゲームクリエイターはやっぱり、モイラやヴァイスのことも把握しているのか。

「キャラクターって・・・」

「なんか嫌な気分だね。全部知られてるみたいで」

 ヴァイスが剣を握りしめながら言う。


「今は神殿に向かう。あいつらを追いかけるのは、それからだ」

 深淵の杖を出して、地面を蹴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ