60 味方
「蒼空様・・・?」
死者の国『リムヘル』の城に帰ってくると、真っ先にヒナとディランが駆け寄ってきた。
『おかえりなさいませ』
ディランとヒナは軍の服を着ていた。ディランが深々と頭を下げる。
「その姿は・・・闇帝になられたのですか?」
「いや、闇帝ではないな。帝になる神殿は消えた」
「消えた?」
「帝という仕組みも無くなっただろうな」
「ソラは闇の王になったのよ。闇を統べる者」
アリアが隣で補足する。
「ど、どうゆうことなのですか? あの闇の柱は?」
「話すと長くなる。アリア、お前から説明してくれ。俺は先にリーランに会ってくる」
「・・・・わかったわ」
「あ、蒼空様・・・・」
ヒナが不安そうにしていた。
俺の後をついてこようとしていたが、アリアが引き留めている声が聞こえた。
城には執事やメイドがいて、城の中は隅から隅まで磨かれていた。
リーランの指示らしい。天井には明かりが灯り、床の大理石が艶めいている。
「帰ってきたのですね。波動でわかりました」
リーランが本を閉じてこちらを見上げた。白いレースの付いたローブにルビーのペンダントが光っている。
「俺の居ないときに色々整えてくれたみたいだな。ありがとう」
「はい、セレナに言われましたから・・・」
「セレナ?」
「・・え・・・・・?」
名前を聞き返すと、リーランが怪訝そうな顔をした。どこかで聞いたような名前だった。
「・・・・どうしたのですか? セレナを知らないとは・・・貴方は何者なのですか?」
「闇の力を解放したからな。悪いが、いきなり力を解放したから、記憶に抜けがあるんだ。じきに全て思い出す」
「・・・・・・」
深淵の杖を出した。
「深淵の杖の精霊が、俺の封印を解いた。転生前にかけられていた封印をな。帝などという力を得なくても、無限の闇の力を持っている」
「・・・そうでしたか。なるほど、セレナの言ってた意味がわかりました」
「何を言ってたんだ?」
「こっちの話です」
泣きはらしたような目を伏せていた。
「それで? これからどうするんです?」
「今は死者の国の体制を整えるとしよう。戦闘に参加できそうなやつらは多いのか?」
腕を組んで壁に寄りかかる。
「はい。住人の6割は何らかの戦闘スキルを持っています。ソラが魂を狩らなかったため来た者もいますが・・・死後、力を手放せずに彷徨っていた者も多いみたいですね」
「そうか」
窓から『リムヘル』を眺める。
生者と変わらない生活風景が見えた。
違うのは、それぞれに血のつながりが無いということだろうか。
ついこの前まで更地だったのにな。
「ソラ、セレナがありがとうって」
「ん?」
「一応伝えましたから。では、セレナの指示なのでちゃんとソラの指示に従います」
スカートを広げて近づいてくる。
「だから、そのセレナって・・・・」
「私、信じてますから!」
リーランが言葉を遮るように言った。
「ソラがまた、セレナに会わせてくれるって」
「!!」
サーッ
突風が吹いて、隣の窓が開いた。
「やぁ、なんか大変なことをしたみたいだね」
「ヴァイス・・・・」
カーテンが落ち着くと、ヴァイスがリンゴをかじりながら、棚に座っていた。
「子供!?」
「死の神だ・・・」
「え・・・死の・・・?」
「初めまして。『深淵の魔女』」
リーランが杖を構える。
「今日は残念だけど戦闘に来たわけじゃないよ。神々がパニックになってるからさ、面倒だから逃げてきたんだ。こうしてる間にも、死者のリストは更新されてるし、仕事は溜まっていく一方だ」
不満そうに言う。
「そんな中、神軍の指揮官がここにいていいのか?」
「まぁね。こんな状況じゃ統制も取れないし、神々は想定外のことを連携取るのが苦手なんだよ。ぐだぐだ会議ばっかやるから飽きちゃってさ、呼び出し無視して淡々と魂狩ってるんだ」
リンゴの芯を投げて消した。
「それに、今の君と戦っても勝てないことくらいわかってる」
「そうか。なかなか賢いんだな」
「はは、だから指揮官を任されるんだよ」
自慢げに言う。
「ねぇ、何なの? あの都市は・・・」
「近未来指定都市TOKYOのことか?」
「そうだ。そこは、帝を選ぶ精霊の居る神殿があっただろ? 何をしたんだ?」
鋭い視線でこちらを見る。
「転移したんだよ。俺の肉体をこの世界に持ってくるためにな」
「・・・・さすが、闇の王だな。そこまでの力を持つか・・・」
「お前が想像している以上の力は持っている」
「へぇ・・・・そういわれると、試したくなってくるな」
ヴァイスが剣を出していた。
「やってみるか?」
手に魔力を溜めていく。いくらでも、闇の力を放出することができた。
バタン
「蒼空様ー!!!!」
「あ、ヒナ、待ちなさい」
ヒナがいきなり部屋に入ってきた。
「ヒナ、今取り込み中だ」
「あの・・・闇の王になられた蒼空様も素敵ですが・・・いえ、そうじゃなくて、TOKYOごと転移したってどうゆうことですか? 蒼空様は大丈夫なのですか?」
「俺は問題ないって、それより危ないからあっちに行ってろ」
「でも・・・でも・・・蒼空様が大丈夫ならいいのですけど・・・」
「アリア」
「私のせいじゃないわ。ヒナが話半分でここに飛び込んできたのよ」
「・・・・・・・」
頭を掻く。ヴァイスがぽかんとしていた。
「君は・・あのときの?」
「ん? この男の子は?」
「開始のルーンを持つ死の神だ」
「えっ、死の神!? えっと、蒼空様の友達・・・ってことなのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ヒナが俺とヴァイスを交互に見て、目を丸くする。
「んなわけないだろ。こいつは神軍の指揮官で、今から俺と戦闘を・・・」
「友達です!」
「は?」
ヴァイスが剣を仕舞って俺の横に立った。
「ソラとは死の神の友達で、これから協力していこうって話してたんですよ」
「何言ってるんだよ・・・お前」
「ヒナさんっていうんですか?」
「え、うん・・・」
にこにこしながらヒナのほうを見ていた。耳が少し赤くなっている。
「女神よりも美しいヒナさん、俺はヴァイスといいます。カノのルーンを持つ死の神です。貴女のように美しい人を今まで見たことありません。お会いできて光栄です」
「はぁ・・・・・」
「貴女は必ず俺がお守りしましょう」
「ヴァイス・・なんの話してるんだ?」
「単純なやつですね」
リーランがため息をついて、ぼそっと言う。杖を仕舞っていた。
「その服もよくお似合いです。もちろんRAID学園の制服も」
「あ・・・ありがとう・・・ございます」
ヴァイスがヒナの前で胸に手を当てて、頭を下げた。
「じゃあ、そうゆうことだから。闇の王、これからよろしくね」
「神軍の役目とやらはどうしたんだよ」
「・・・・神よりも厄介な敵がいるんだろ? 神はバラバラになっている。俺は闇の王に協力するよ」
すれ違いざまに小声で話してきた。
「・・・あ、そ。好きにしろ」
「そうさせてもらうよ。ヒナさんが美しいしね。じゃあ」
「あ・・・・・」
シュッ
風が吹いてヴァイスが消えていった。窓がカタカタ揺れている。
「ったく、何考えてんのかわからないな」
深淵の杖を仕舞った。
「いいんじゃない? 敵ではなくなったみたいだし」
「あっ、蒼空様、近未来指定都市TOKYOを転移させたって本当ですか? 確かに、私もリネルのほうのアバターに切り替わらなくて、不思議に思ってたんです」
「ヒナの体は何か変なところは無いか?」
「私は元々この体はアバターじゃないので、特に変化はありません。モニターは出せますが・・・ちょっと通信が遅い感じがしますね」
「そうか・・・転移したときに電源は切れたはずだ。予備電源が動いているのか」
「その可能性が高いかと。今のうちにデータを引き継いでおきます」
ヒナがモニターを出して、指で画面をスクロールしていた。
アリアが窓を閉めて、カーテンを直す。
ヴァイスは頭が切れる。神軍の指揮官に選ばれたというのも納得だ。
神々はどちらにつくのだろう。
まぁ、近未来指定都市TOKYOにいるゲームクリエイターにつこうが構わないが・・・な。




