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58 闇に染める13

『どうして入れた?』

「あの結界の解除コードを見つけたから」

『魔女が。ここから先は・・・』

 球体が深雪に近づいて、結界を張ろうとする。


 ガンッ ガガガガガガガ・・・


「!!」

 剣を回して、吹っ飛ばした。

 壁に当たって、じりじり音を立てながら転がっていく。


「蒼空はエンペラーにならなくていい。闇帝になる必要ないでしょ?」

「・・・・いや、俺は、エンペラーの力を手に入れる。死者の国のためにもな」

エンペラーが何かもわかっていないのに?」

「それは・・・・・」

「セーブポイントから、元の世界に戻って。ここは蒼空の来るような場所じゃない。『アラヘルム』は光帝になって私が復活させる、死者の国にも手を出さないから」

「助けてって言ったのはそっちだろ?」

『お帰りください』

 精霊ザエルが俺と深雪の間に入った。


『貴女は確かに貴重な人工知能。ですが、エンペラーになる予定はありません。光帝になるのは別の方と決まっています』

「・・・やっぱり最初から決まってたのね」

『この『イーグルブレスの指輪』はクリエイターによって計算された世界ですから』

「・・・・パパはそんなこと言わなかったわ」

『主要キャラは何も知らされずにプレイしたほうが人気が出ますから』

「!?」

 深雪が悔しそうな表情を浮かべる。


『彼はここを出た瞬間から闇帝となります。想定通りです』

「・・・・今、闇帝が現れるなら、光帝も存在しないと、この世界のパワーバランスが崩れるんじゃないの?」

『・・・・・・・・・』

「闇帝の存在は、他のエンペラーとは違う。貴女には、そのことがプログラムされていないの?」

 深雪が畳みかけるように言う。


『屁理屈ですが、確認しておきましょう』

 ザエルが手をかざすとモニターがぐるぐると色んな場所を映していた。


 一歩下がって、深淵の杖を握り直す。


『確認しました。今、闇帝が誕生しても、光帝が現れるのを待ってもいいとのコンピューターの判断です。それまでは、貴女をここに閉じ込めるようにと』

「っ・・・・・」

「なんでそうなるんだよ?」

『この神殿を出た者は、一段階上の力を与えられるようプログラムされていますので、彼女がその力を得るのは危険とされています』

 ザエルがモニターを操作して、3つの魔法陣を展開させた。


 ― ファイアーウォール ―


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 深雪の前に炎の壁が現れる。

「っ・・・・・」

『貴女をここで捕えます。本来の光帝が現れるまで』

 ザエルが水色の魔法陣から剣を引き抜いて深雪に向かっていった。


 カンッ


 ― 聖獣のダモス― 


 深雪が剣を強化する。銀色に輝いて、ザエルの剣を弾く。

「人を機械みたいに・・・・」

『実際私たちを生み出したのは、機械ですから』

「私は機械じゃない!!! 私を作ったのはパパだもの!!」


 ドンッ


「うわっ」

 二人の剣がぶつかった波動で、押されて足を付く。ザエルの座っていた椅子がガタガタ揺れていた。


「なんなんだ・・・この状況」

 ザエルと深雪の魔法が空中で火花を散らしている。次々と魔法陣を展開して、深雪を押していた。


『ふぅ、危ないところでした』

 球体が転がってくる。

「球体、壊れたんじゃなかったのか?」

『失礼ですね、あれくらいでは壊れません。それに私にはボールという名前があります』

 ボールが割れた部分を光で修復していた。

『魔女はこれだから嫌いなんですよね。ザエル様が戦闘モードになったので、いいんですけど』

「あれを止める方法ないのか?」

『ありませんね。99,9%の確率でザエル様が彼女を牢屋に閉じ込めます。あと、15分後というところでしょうか』

「じゃあ、俺が・・・・」

 深淵の杖を剣に変えて立ち上がる。


『今の貴方では巻き込まれて死ぬだけですよ。生き残る確率は0,001%です。貴方が死ぬのは、想定外となるので困りますね』

 ボールがごろごろ転がりながら言う。

「・・・・その0,001%で生き残ったら、彼女を助けられるのか?」

『可能性はゼロに近いですね。助けても、光帝にはなれませんよ』

「・・・・・・・」

『呪いを自ら解くなんて大したものですけどね』

 2人の戦闘を目で追っていた。

 他のエンペラーはなぜ『アラヘルム』を復活させなかったのだろう。

 自分たちが人工知能でできていると知ったからなのか? それとも、復活させられなかったのか?



 ― 煉獄プルガトリオ― 


 剣に黒い炎をまとわせたときだった。


『わしを呼んだのか?』

 ローブを羽織った爺さんが、横に現れる。


「・・・あぁ。あの争いを止めるにはどうしたらいい?」

『なるほどのぉ。セレナと精霊ザエルが戦ってるのか』

「あれは水瀬深雪だけどな」

 深雪がふわっと飛んで、すれすれのところでザエルの攻撃を避けている。

 ボールが転がって、爺さんのほうを見上げていた。


『そうか。また、派手にやってるな。ザエルは久しいのに、わしの存在にも気づかないか。寂しいの』

「知り合いか?」

『まぁ、古くからの腐れ縁だ』

 ため息混じりに言う。


『それよりも、あれを止めたいという話だったな?』

「あぁ、そこのボールは99,9%の確率で、深雪が捕まると予測している」

『そうだろう。この神殿は、ザエルの力で満ちているからな。そいつなら、お前が入っても意味がないと予測するだろう』

 爺さんがちらっとボールのほうを見た。

 ボールがおでこの光を赤と青に点滅させている。


『所詮、お前はただの犬だからな』

『間違いのない、完全を追求した機械ですから』


 パーン

 シュウウウウウ


 2人の魔法が弾けて、花火のようになっていた。


『だが、お前が本当に助けたいのなら、助けられるだろう』

「どうすれば・・・・」

 爺さんが俺の体に手をかざして、2つの光を取り出した。


「!?」

『これは、お前の力を封じる光魔法だ。力を中和するものと、飽和させるもの、この2つの封印によって、お前は力を抑え込まれている』

「え・・・・」

『力を解放すれば、勝てるだろう。なぜ、お前にこのような魔法が刻まれているのかはわからない。おそらく抑え込まなければならないほどの、強大な力を持つのだろう』

「・・・封印・・・・・」

『お前はわしの主だ。必要であれば、封印を解く』

 両手の光を浮かせながら言う。


「封印を解けばどうなるんだ?」

『知らぬ。自分のことだ。自身で確かめよ』

「・・・・・・」

『わしは深淵の杖の精霊だ。お前が自ら深淵に触れることを望めば、止めたりはしない。固い封印であってもな』

「・・・・力を解放しなければ、深雪は捕まるんだろ?」

『そうだ。何もしなければ彼女はここで捕らえられる運命』

 爺さんが鋭い目つきで俺を見る。


『我が主よ、選択を・・・』

「・・・・・」

 皺の多い手に浮かぶ2つの光を見ていると、体が闇の力で満ちていくのがわかった。

 俺はどうして忘れていたんだ?


 ふと、深雪と目が合う。


「力を解放する。封印を解いてくれ」

『わかった』

 爺さんが2つの光を前に、何かを唱え始めた。


「・・・・蒼空、駄目!」

 深雪がこちらに気づいて、駆け寄ってこようとする。ザエルが後ろから弓を引いているのが見えた。


「止めろ!!!!!!!」


 パリンッ


 自分の中で何かが弾ける。


「蒼空ー!!!!」

 深雪が手を伸ばしてきた。

 周囲が闇に包まれていく瞬間、天使のような翼が見えた気がした。あの夢で見た、天界からの使者ルーナのような・・・。

 爺さんが見えなくなり、神殿が闇に覆われていく。

『これは・・・・・!?』

『わわわわわわ・・・・』

 暗がりの中で精霊ザエルとボールの声が聞こえた。



 ドーン



 地面を揺らすほどの音が鳴り響く。

 神殿の屋根を突き破って、闇の柱が立った。

 周辺の国々の者、神々の、戸惑う声が聞こえてくる。体の中に入ってくると言ったほうが近いだろうか。


 闇帝になんか、なる必要はない。



 俺は転生したんだ。

 RAID学園にある機械に繋がれた肉体で、復讐するつもりだった。

 自分たちを作った奴らに・・・。


 どこまでも続く深い闇の中で思い出していた。

 自分が元々、混沌から生まれた闇の王であったことを・・・。

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