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57 闇に染める12

 レッドドラゴンが雲を抜ける。

 世界のへそと呼ばれる場所・・・。

『アラヘルム』と『リムヘル』の真ん中に位置する場所に、精霊のいる大きな神殿が見えてきた。

 目立つ場所にあったが、誰もが入れるわけではない。

 結界が人を選ぶのだという。


「あれが・・・」

「結構わかりやすい場所にあるのね。どうして誰もいないのかしら」

「風帝の情報だと、ある程度属性値が上がらないとと見えないようになってるらしいな」

「ふうん」

 周辺は砂地になっていて、遠くのほうに緑が見えた。

「ヒナは結局置いてきてよかったの?」

「ディランとミコに引き渡してきたから大丈夫だろ」

「そうね。なんだかんだ張り切ってたし、最強の軍ができるかもね」

 死者の国の軍の統率を強引に頼んで、何とかヒナを『リムヘル』に留めていた。

 ヒナは頭もいいし、情報収集能力もある。

 軍を任せるには適任だと思った。


「アリアはここを通ったことないのか?」

「あまり国を移動したりしなかったから。そもそも、『アラヘルム』の人間はエンペラーにはなれないから、精霊なんか探すこともないしね」

 レッドドラゴンが徐々に降下していき、砂浜の影を大きくしていく。


 ザザーッ


 砂埃を上げて、地面に着地する。

 結界は透明なドーム型に神殿を覆っていて、キンとした魔力を放っていた。

「周りに危険もない。モンスターくらいはいてもおかしくないのに」

 アリアがレッドドラゴンの頭を撫でながら言う。


「どうやって入るの?」

「入口とかは・・・無いのか。このまま突っ込むものなんだろうか?」

 どこまで見ても、入口が見当たらなかった。

「破壊の魔法でもやってみる?」



 ぽうっ


「!」

 結界から丸い球体のようなものが出てくる。


『貴方が、エンペラーを目指してここへ来た方ですか?』

 球体に目と鼻と口が浮かんで、しゃべりだした。

 RAID学園にいたときに見た、アンドロイドみたいだ。

「そうだ」

『そっちの方は、入れません。『アラヘルム』の魔女でしょう?』

「私はただの付き添いよ。レッドドラゴンとここで待ってるわ」

『聞くだけ無駄でしたね。ここから先は神聖な場所です。魔女は近づかないようお願いします』

「・・・・・」

 レッドドラゴンが低いうなり声をあげていた。


『ソラ様、どうぞお入りください』

「どうして俺の名前を?」

『来ることは聞いておりました。中で、精霊ザエル様がお待ちです』

「・・・・・」

 掌くらいの球体がふわふわ浮きながら結界内に入る。

『ここから先は、『緋色の魔女』は入れません』

「わかってるわよ」

 膜が丸いドアのように広がって、入口になった。


「じゃあ、行ってくる」

「ソラ・・・・・」

「ん?」

 振り返ると、アリアが杖を握りしめていた。

「気を付けて」

「あぁ、ちゃんと闇帝になって帰ってくるよ」


 しゅぽっ


 結界が閉じて、透明な膜に戻っていた。結界越しに、不安そうに待つアリアが見える。


『足元にお気を付けください』

「あぁ」

 球体がふよふよしながら前を進んでいった。

 結界の中は古い本のような匂いがして、どこからともなく水の流れる音が聞こえてくる。


 ここがエンペラーになるための神殿・・・。


「プレイヤーがここに来たことはあるのか?」

『ありませんね。来たとしても入れません。エンペラーになる者は、決まっていますから』

「決まっている?」

『そうです。決まっています。シナリオがありますから』

 短く言って、神殿の中に入っていく。


「・・・・・・・・」

 神殿は『リムヘル』のような、強い魔力を感じた。

 大きな窓から光が差し込んでいて、真っ白な大理石がガラスのように輝いている。天井には鷲の絵が描かれていた。


 球体が向かう先に、すらっとした女性が座っている。

 腰までの長い髪を揺らして、ゆっくりと立ち上がった。

『ザエル様、連れてまいりました』

 球体を撫でながらこちらを見る。


『貴方がソラ、ですね?』

 眠くなるような、不思議な声だった。

「・・・そうだ」

『私はエンペラーの称号を与えるよう存在している精霊ザエルです』

 長い杖を出して、埋め込まれた7つの魔法石を撫でる。

『炎帝、氷帝、風帝、地帝、雷帝、闇帝、光帝、この世界には7つのエンペラーの称号があります。その内、闇帝は貴方のもの』

 黒い魔法石が光っていた。


『今まで闇帝は存在していませんでしたが、やっと貴方が来ました』

「・・・・なんで俺が闇帝になることが決まってるんだ? いつ決まったんだよ」

『この『イーグルブレスの指輪』の世界に入ったときから、です。貴方はこの神殿を出た瞬間から闇帝の力を授かることになります』

「・・・・どうゆうことだ?」

 納得がいかなかった。

 じゃあ、最初からこのゲームは俺にしかクリアできなかったことになる。

 なんのために、プレイヤーは危険な目にあってまで、この世界に・・・。


『知らないことが多いから戸惑うのは当然です。エンペラーには全て知っていただく必要がありますので・・・』

 女性が杖をぐるっと回した。


 ジジジジジジジジ・・・・


 椅子の周りを囲むようにしてモニターが現れる。

「っ・・・・!?」

『この世界の様子です。このように何が起こっているのか確認ができます』

「なんでプレイヤーじゃないのにモニターを持ってる・・・?」

 ぞくっとした。

 『アラヘルム』、マラコーダ、アネモイ帝国、ラーミレス王国・・・行ったことのない国もある。

 切り替えることで、地図上のあらゆる都市を表示していた。


「・・・どうゆうことだ?」

『この世界は、ゲームクリエイターによって作られた世界になります。私は元々、モニターを付与されています。野蛮な方法で奪ったりなんてしませんよ』

 瞼を重くする。

『精霊はこの世界の均衡を保つためにいます。人工知能が暴走しないように見守る意味もありますね』

「人工知能?」

『『イーグルブレスの指輪』・・・いえ、このようなゲームの作り方を知っていますか?』

「・・・・・大地や太陽、海や水、穀物を作り、ゲームの中の世界が成り立っていったんだろ?」

 RAID学園で教わったことだった。


『そうです。この世界の者は、自分たちの人工知能に、そのようにプログラミングされています。人間的な知的振る舞いはソフトウェアによって人工的に再現されているのです』

「は・・・?」

『『イーグルブレスの指輪』、『ユグドラシルの扉』・・・様々なゲームは株式会社・・・』

「待ってくれ、意味がわからないんだが・・・この世界の者が人工知能? プログラミング?」

 女性が切れ長の目でこちらを見下ろす。


『戸惑うのは当然です。ですが、ゲーム内の世界の者の心は無いとも言えます。外部クリエイターによって作られているのです。他の者と触れ合うことで、学習し、より高度な人工知能の世界を実現しています』

「心・・・・・・」

 モニターに『アラヘルム』を映しながら、淡々と言う。


『『アラヘルム』は人工知能で作られた者たちが、この事実を自ら知ろうとした。完全な設計ミスです』

「・・・だから、失われた都市にしたのか?」

『他の者たちには決して触れてはいけない世界の秘密に触れようとした、としています。混乱を与えては、今までの積み重ねてきたものが無駄となってしまいますから』

 『アラヘルム』の都市が洪水で流される様子が映っていた。

 リーランは、『アラヘルム』の学者数名が、アラヘルムの木に電子的な部分を発見したのだと話していた。どこか他の世界と繋ぐ、コードのようなものがある、と。


『この世界には、このような想定外の事象が発生したときのために、神を置いています。神に天罰を与えてもらうことで、『アラヘルム』は罪深い都市となり力を失った』

「知ろうとした者はどうしたんだよ」

『この『イーグルブレスの指輪』の外に出しました。近未来指定都市TOKYOですね』

「・・・・・・・」

『彼らのことは私の管理外です。お答えできませんのでご了承ください』

 この世界の者が計算機で動いてるなんて、あり得ないだろ。 

 人工知能で動いていたら、心が無いって言ってるのか?

 ヒナも、アリアも、リーランも、ディランも、ミコもみんな・・・・。


 水瀬深雪も心が作られていると・・・。


『水瀬深雪は特に苦労しました。貴方とも接触があったかもしれませんが・・・』

 モニターにセレナ、ルーナ、アルテミスを映す。

『貴方を死の神にしたのは想定外でした。でも、彼女は元々学習能力が高い。クリエイターたちにとっても彼女の行動は非常に興味深いので、そのままにしています』



 ドーン


 雷のような音が鳴り響いた。

 球体がふわっと精霊ザエルから離れる。

『侵入者ですね』


 カツン カツン カツン・・・・


 足音が鳴り響く。

 剣を持った深雪が、こちらに向かって歩いていた。

エンペラーの称号をもらいに来たわ」

「深雪・・・・・」

「・・・・・・・」

 俺のほうをちらっと見てから、精霊ザエルに視線を向けていた。

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