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52 闇に染める⑦

 窓の外ではぱらぱらと雨が降っていた。

 氷水でタオルを冷やして、アリアの首に当てる。

「ありがと。今朝からなんだか体がだるくて・・・」

「風邪でも引いたのか?」

「ただの風邪ならいいんだけど・・・・なんかおかしくて・・・・」

 朝起きると、アリアが具合悪そうにふらふらしていた。

 ミコがおでこに手をあてる。

『熱、ある。でも、私、回復、苦手』

「単純な回復薬だと効かないみたいだしな。ギムルに聞いてみるか」

「いい」

 浅い息を吐いて、アリアがソファーから体を起こした。

「リーランに聞いたほうが早いわ。私は呪いがかかってる魔族だから、普通の人と体が違う」

「そうか」

「なんだか胸騒ぎがするの。嫌な予感がする・・・」

 思いつめたような表情で、胸に手を当てる。

「・・・俺はもう少しこの国に居る。ディラン、ミコ、アリアを頼めるか?」

『もちろんです』

『大丈夫。でも、もっと幽幻戦士ゴーシェ、いる? 出す?』

「あの2体で契約は成立してる。ラタス王子も同意していたから問題ない。ありがとう」

 ミコの頭をぽんと撫でた。

「あんたは・・・?」

「俺はダフタ王国に用事がある。そっちを済ませたら戻るよ」

「そう・・・」

 空はどんよりとしていて、今にも大雨が降り出しそうだった。





 城の屋根に立って、グリフォンが3人を乗せて、飛び立っていくのを眺めていた。

 ミコが張った雨避けの結界が水を弾いている。

 アリアのことは心配だけど、『リムヘル』はここからそこまで遠くない。

 ディランとミコに任せておけば大丈夫だろう。


 モニターを出してステータスを確認する。

 魔力、体力、気力すべてが正常だ。武器はいらないけど、ここは軍事国家だから、少し道具屋は見ておくか。『リムヘル』の者に役立つ何かがあるかもしれないしな。


 ラタス王子が話していたのは水瀬深雪だろう。

 ゲームシナリオどおりのプレイをしているのだろうか。


 特に配信してる記録はなかった。モニターを消す。


 雨避けのコートのフードを、深く被り直した。

 まずは、ダフタ王国に行ってから・・・・。


「!?」

 殺気を感じた。


 シュッ 


「なっ・・・・・」

 屋根を蹴って飛び上がる。白いコートを着た何者かが、剣をこちらに向けていた。小柄だったが、フードで顔が良く見えなかった。


 キィンッ


 深淵の杖で弾く。

「なんだ? 急に、この国の者か?」

「・・・・・・・・」


 バシャッ バシャッ


 水たまりを蹴って深淵の杖を回す。動きに無駄がなかった。


 ― 煉獄プルガトリオ― 


「神ではないな・・・死者でもない・・・」

 深淵の杖を剣に変える。持ち直して、切りかかっていった。


 ガンッ


「!?」

「名前くらい名乗れ。この国の者であれば、契約に反する」

 力で押し切って、高台の壁まで追い詰めていく。

「!」

 飛び上がって、空中でモニターを出していた。素早く武器を大剣に持ち替えて、振り下ろしてくる。


 ガガガッ・・・


 深淵の剣で、剣の軌道を変える。屋根の一部がはがれて、雨に流れていった。

「お前、プレイヤーなのか?」

「・・・・・・・・」

「黙ってないで、早く正体を明かせよ!」

「っ・・・・」

 一気に攻め込んで、フードを切る。

 するするとコートが切れて、白銀の髪が見えた。


「嘘だろ?」

 後ろ姿で、すぐに誰なのか分かった。ゆっくりと振り返る。

「水瀬・・・深雪・・・?」

「蒼空・・・・・」

「は? どうして・・・・」

 混乱している中、淡々とモニターを出して武器を剣に変えていた。


「蒼空が死者の国の王になったの?」

「そうだけど・・・お前は・・・・」

「私は、ダフタ王国のクエストで死者の国の王を暗殺するように命じられた。神を冒涜する存在だからって」

 深雪が剣を構えて、魔力を調節していた。


「今は、ギルド『ノアの方舟』に所属している。情報収集のためにね」

「どうして、俺とお前が戦わなきゃいけないんだよ」

「死者の国の王を倒せば、光属性の力が高まるの。神の加護が高まるから」

「神って・・・何を・・・・」

「ダフタ王国のクエストっていうのもあるけど、ちょうどよかった。これが終わったら配信しないと。『パパ』が見てる」

「ちょっ・・・待っ・・・」


 キンッ


「意味が分からないんだが。説明しろよ」

 剣が交じり合う。一撃が重かった。


「蒼空の剣の軌道は全て記憶してる。私には勝てないよ」

「俺は、深雪を探してたんだ。覚えてないのか? セレナやアルテミスのこと・・・話しただろ?」

「・・・・私は今、エンペラーにならなきゃいけないの」

 左手で魔法陣を描こうとしていたのを、剣の柄で止めた。

「!?」

「どうしたんだよ、急に。何かに操られてるのか?」

 深雪が小さな水しぶきを飛ばして、後ろに下がっていった。


「ごめんね、蒼空。振り回しちゃって」

「は?」

「でも、もう蒼空はこのゲームを辞めて、近未来指定都市TOKYOに戻ったほうがいい。今戻るなら、死者の国の王は倒したことになるわ」

「・・・・・・・」

「蒼空が望むなら、セーブポイントまで案内するけど?」

「んなわけないだろ」

 深雪の意図がわからなかった。


「待て、『アラヘルム』の者はエンペラーにはなれないはずだ。深雪は『アラヘルム』の人間なんだろ?」

「そう。でも、呪いで魂の核が分散されたことで、やっとこの体から呪いが。エンペラーになる準備が整ったの。私以外の私は、すべて停止状態にしたけどね」

 剣の刃先から水がこぼれる。


「・・・・?」

「すぐには呑み込めなくて当然だよね。魂が分かれるなんて、経験したことないんだから」

「・・・・・・・」

 音を立てて、屋根を歩いている。


「簡単に言えば、今は『アラヘルム』の私じゃない。みんなと同じ、近未来指定都市TOKYOのプレイヤーとしての私になれたってこと」

「な・・・・」

「『パパ』が試練を与えたの。私のキャラに残酷性を持ち合わせるための。そうゆうほうがうけるからって」

「・・・会話が噛み合わないな。さっきから出てくる『パパ』ってなんだ? お前の父親は・・・・」


 シャッ


 深雪の剣が空を切る。

「蒼空、戦うならこのまま続けるわ」

「・・・本気で殺り合うつもりか?」

 何かに操られているのか?

 配信で見ていた水瀬深雪とどこか違う。


「そう・・・でも、『イーグルブレスの指輪』を出ていくって言うなら助けるわ。蒼空はもう、この世界に関わらないほうがいい。ゲームはほかにもあるでしょ?」

 柔らかい声で、冷たく言い放つ。


「もう私に関わらなくていいから」


 剣を握りしめる。雨で滑って、手に力が入らなかった。

「・・・そうゆうわけにいかないだろうが・・・お前は俺に助けを求めただろ」

「もういいの!」

 叫ぶように言う。


「この世界の神に喧嘩売っちゃったから・・・。だから、こんな依頼が来るの。王の暗殺依頼だなんて、きっとこれからもこうやって命を狙われるようになってしまう」

「だって・・・・・」

「そこから動かないなら、これで、終わらせる」

 深雪が天に向かって、しなやかに手をかざした。



 ― 天使の角笛フューガ― 


 雨雲が一気に晴れ渡っていく。

 光が降り注ぎ、深雪の力が増していくのがわかった。


「お前の考えの後ろにいるのはなんだ?」

「私は、自分の力で自分を助けるから」

「・・・・・・・・」

 どうやっても言わないつもりか。本当に記憶をなくしているのか?

 俺がそうだったように。


「っ・・・・」

「力比べでは私のほうが上みたい」

 力が抜けていく。

 周囲の光属性の魔力が高まっているからだけじゃない。



 深雪の指が静かに動いた。雲を切り裂くようにして光が落ちてくる。

 剣を降ろしていた。ここでゲームオーバーになるわけにはいかないのに、深雪は俺より強いな。


 心のどこかに記憶があった。

 水瀬深雪とは画面越しじゃなくて、もっと長い時間、一緒にいたことがある気がした。

 でも、もう・・・・。




「蒼空様!!!!!」


 ― 人魚のシールド― 


 ザッ


 バババババババッ


 天界の一撃ザスの一撃が逸れていった。国から遠く離れた木々がなぎ倒されていた。

 座り込む俺の前に、大剣を持った少女が立っていた。


 よく見覚えのある・・・。


「ヒナ!?」

「はい。蒼空様の幼馴染の、朝倉ヒナです。蒼空様を助けに来ました」

 リネルじゃない、RAID学園にいたときの姿をしていた。

 こちらを見て、にこっと笑ってから、大剣を持ち直す。


「ヒナ、どうして・・・その姿は?」

「細かい話は後です。蒼空様は少し休んでいてください。ずっと気を張っていたので、疲れが出ているんです」

「・・・・・・・」

「水瀬深雪さんですね? 蒼空様は自分の意志で進むんです。貴女に決められる筋合いはありません」

「・・・・・・・・」

 俺の前に立って、深雪に向き合っていた。  

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