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4 戦闘慣れした都市

「俺はただのプレイヤーだよ。そんな、死に近い神だなんて・・・」

「そうか?」

『そうだよー。ソラはRAID学園から来た優秀なゲームプレイヤーなの。会ったばかりで、死なんて怖いこと言わないで!』

 リネルがピンと足を伸ばして怒っていた。


「え、いや、でも確かに・・・」

『どう見てもさっき来たばかりのプレイヤーでしょ? そうゆう怖いこと、ソラに言うのは禁止! 絶対ダメだからね!』

「う・・・うん・・・」

 勢いに圧倒されていた。

 リネルはこうゆうとき強引だ。


「・・・というか、君、誰? プレイヤー?」

「あぁ、俺たちがいるRAID学園から依頼されてる妖精族のリネルだよ。セーブとか、SNS接続とか、プレイする上で、事務的に必要なことを、色々フォローしてくれるんだ」

『申し遅れました。私、ソラのフォロー役の妖精リネルっていうの。よろしくね』

 小さなスカートをつまんでお辞儀していた。

 急に緊張しているのか、ちょっとぎこちない。


「へぇ、妖精か。この前来たプレイヤーにはいなかったな」

「そうなの? まぁ、リネルはRAID学園から依頼されてるらしいからな」

『・・・えっと・・・』

 リネルが軽く咳払いをする。

『そ・・・ソラは期待されてるから、私にも声がかかるの。RAID学園では優秀なプレイヤーに優秀な妖精がつくものなんだから』

「ふうん、ま、RAID学園が有名なのは聞いてるよ。そうだ、他のプレイヤーのところに案内する?」

「いや、いいよ。俺、単独でプレイしたほうが楽なんだ」

『そうそう、ソラは強いから、誰かいると足手まといになっちゃうの』

「リネル・・・・・」

『だって、他のプレイヤー嘘ついたりするんだもん。私も一人がいいと思う』

「・・・・・・・」

 チームプレイのほうが効率がいいんだろうけど、今まで裏切られたりすることもあったから、1人でいたほうがよかった。

 特に、SNSを使うようになってからは、他のプレイヤーがあまり信頼できない。


「プレイヤー同士って仲良さそうに見えて、いろいろあるんだな」

「オンラインだし、相手の素性は全然わからないでプレイしてるからさ。それより、都市『アラヘルム』について案内してもらえると助かるんだけど・・・」

「もちろん。ちょうど今日の仕事も終わったことだし・・・そうだな。じゃあ、図書館に連れていくよ。情報収集に役立つと思うから」

「ありがとう」

 ラグーがついてきてと言って歩き出した。



 都市『アラヘルム』の中央にある図書館へ歩きながら、ラグーがこの都市での暮らしを話していた。

「貿易がないなら、ここで全ての産業を担ってるってこと?」

「うん。でも、幸い、いろんな種族の末裔がここに集まってるから、苦労したことはないかな。ドラゴン族は、力があるからこの都市の警備を任されてるんだ」

「へぇ」

『初対面なのに、随分親切ね。大抵、プレイヤーにはそっけないのに』

 リネルがじとーっとラグーを見つめる。


『罠にはめようとしてる?』

「違うよ。この都市では、プレイヤーに会ったら、情報を提供するって決まりがあるんだよ。僕たちも『アラヘルム』の復活を望んでるからね」

 街には武器屋が多い気がした。魔道具も一通り揃っているようだ。


「この都市にいる種族は強そうだけど、何かあるのか?」

「・・・よくわかったね。復活するまでは自分たちで身を守らないといけないから」

 ラグーのステータスは見れなかったが、それなりに力があるのは感じ取れた。

 すれ違う人間もエルフ族も、弱いわけではない。

 戦闘慣れしているのを感じた。


『復活って言われても、別に封印されてるようには見えないなー。みんな自由にしてる気がするし』

 リネルが少し高く飛びながら言う。

『どうしてプレイヤーを集めてるの?』

「・・・この都市を復活させるにはエンペラーの称号が必要なのは知ってるよね?」

「あぁ、聞いてるよ」

 ラグーが周囲を見渡す。


「この都市は過去の過ちで呪われてるんだ」

 図書館の門を抜けながら、低い声で言う。


「どんなに能力を持っていたって、エンペラーになることはできない。炎属性に特化しているドラゴン族も、風属性に特化しているエルフ族もね」

「・・・・・」

「いずれ神々がこの都市を闇に葬ると言われている。穢れてるからだ。エンペラーが起こす奇跡は、神々の許し・・・」

 リネルと顔を見合わせる。


「長くなるから、詳しくは・・・」

「ラグー、ここにいたのか。探したぞ」

「また警備さぼって・・・何してるんだ?」

 ドラゴン族の青年が2人、ラグーに話しかけてきた。


「さぼってないって。プレイヤーを図書館に案内しに来てたんだよ」

「プレイヤー?」

「どうも、さっき『アラヘルム』に来たばかりのソラです」

 軽く頭を下げる。片方の青年の首にはドラゴンの鱗のようなものが見えた。


「なるほど、プレイヤーか。確かに見慣れない顔だな」

「俺たちもさっき、酒場にいたプレイヤーたちと話してきたよ。彼らのところに連れて行かなくていいの?」

「いや。俺、単独でプレイしたいから・・・ありがとう」

 リネルがささっと後ろに隠れていた。



「それより何? 用事があったんじゃないの?」

 ラグーが聞くと、2人が顔を見合わせた。

「・・・あぁ、今日の夜、魔族の襲撃があるらしい」

「・・・・・・」

「ミリヤの占いだから確かだ。ドラゴン族とエルフ族に招集がかかった。日が暮れたら、アラヘルムの木に集まってくれ」

「わかった・・・またかよ」

 ラグー小さく頷いた。

 襲撃か・・・表面上は平和な都市なのに、な。


「じゃあ、プレイヤーさんは来て早々、夜が騒がしいかもしれないけど、この都市にとっては日常だから」

「そうそう、しっかり寝ておくといいよ」

「・・・うん」

 ラグーの肩をぽんとたたいて、図書館の門のほうへ戻っていった。


『ねぇねぇ、どうして、魔族が襲撃に来るの?』

 リネルがひょこっと肩から顔を出して、ラグーに話しかけていた。

「魔族はこの土地が欲しいんだよ。アラヘルムの木の下には、世界をねじ伏せるほどの力が封じ込められてると言われているから」

「あの木か・・・・」

 遠くの木に目を向ける。天を貫くほど堂々とした木だ。


「あくまで噂だ。そんなものあったら、この都市は怯えなくていいし、現実的な話じゃないと思ってるけどね。魔族はなぜか信じていて、夜になるとモンスターを連れてここを襲撃するんだ」

「ふうん」

「今から行く図書館には、魔導書以外にもこの都市の成り立ちとか書いてあるから、目を通しておくと今後役に立つかもしれない。たぶん、『アラヘルム』についても、もう少し詳しく載ってるよ」

「あぁ、ありがとう。まだわからないことが多いし、すごく助かるよ」

「なんかあったら、遠慮せず言って。僕たちも、プレイヤーには期待してるからさ」

 牙を見せて笑っていた。





『ソラ、もう休んだらいいのに』

「情報はまとめておきたいからな。ほかのフィールドにいるときに、役に立つと思うし」

 ドラゴン族の宿に戻ってから、図書館の本に載っていた情報をモニター上でまとめていた。


 エンペラーの称号は、既に持っている人はいるらしい。

 ここから一番近いのは、『アラヘルム』から北に行ったところにある、スカジ帝国にいる氷帝だ。

 本には100年前から変わっていないと書いてあった。

 エンペラーを目指すのに、まず氷帝に会うのは必然だな。

 でも、既にエンペラーがいるなら、なぜ『アラヘルム』を復活させないのだろう。


『んーなんか暇ー』

「リネルは先に寝てていいよ。疲れただろう? 今日は別に配信することないし」

『そうだけど・・・ソラが頑張ってるのに寝れないよ。私も何か頑張る』

「何かって・・・・・・・」

 テーブルに置いたカップにもたれかかって、うつらうつらしている。


「明日は早いから、もう寝てろ。明日は周辺のモンスターに遭遇すると思うし、リネルの力も借りなきゃいけないから、休んでてくれたほうがありがたいんだけど」

『そう・・・?』

 リネルがくらくらしながら、体を起こす。

『・・・じゃあ、お言葉に甘えて。ふわぁ・・・』

 あくびをして、壁につるされたハンモックによじ登っていた。

 よほど疲れていたのか、数秒後に寝息が聞こえた。



 カーテンを開けて、窓の外を眺める。

 ラグーを含めたドラゴン族は、日が暮れると同時にアラヘルムの木に向かっていったようだ。


 昼間明るかった都市には誰もいなくなり、ところどころ人間が結界を張っているのが見えた。

 種族によって役割が固まっているようだし、連携も取れている。

 かなり、戦闘慣れしている都市だと思った。


 他のプレイヤーの動向も気になるけど、まずは俺がこのゲームに馴染まないとな。

 あと少し、この都市について記録したら・・・。



「やっほー」

「うわっ!」

 びくっとする。

 振り返ると、ルーナがテーブルに座って本を眺めていた。


「い、いきなり出てくるなよ。心臓止まるかと思った」

「早く来たかったけど、妖精族のこの子が寝るの待ってたの。蒼空は、死の神だって知られたくないんでしょう?」

 ルーナがハンモックを覗き込みながら言う。

 やっぱり、水瀬深雪とそっくりなんだが。


「ん?」

「・・・・あ、いや。別に」

「あまり心配しなくても大丈夫だよ。仕事をするときは、時間を止めるし、死の神の姿は誰からも見えなくなるから」

「その、死の神っていまいちピンとこないんだけど」

「今から覚えればいいから」

「え? 今から?」

「そう」

 ルーナが立ち上がって、空中をなぞって剣を出した。

 パースのルーン文字が刻まれていて、銀色の刃がほのかに青くなっている。


「本を確認して。名前が書かれてるから」

「え?」

「仕事よ。今から、死者リストに載った者の魂を狩りに行くの」

「!?」

「早く剣を出して・・・・説明するから」

 ルーナの瞳がすぅっと冷たくなっていった。

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