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47 闇に染める②

「な・・・何をする気だ?」

「交渉に来たんだよ。俺たちの実力はわかっただろう? レイドから聞いてもなお、こんなに来るとはな。あいつは相当信頼されてないのか」

「・・・・・・・・」

「お前らは動くなよ!」

 アルゴラスが生き残った軍の人間に向かって言う。恐怖で固まっているのがわかった。


「ここは僕が・・・」

「アルゴラス」

 神官のダンがアルゴラスの前に立つ。


「・・・そこにいるのは死者ですね?」

 ディランとミコを指した。


『見えるのか、俺たち・・・』

「そうだ。俺は死者の国の王だからな。死者を連れてるのは当然だ」

「・・・死者が見えるようになったというのは本当だったのだな」

 アルゴラスの額に汗が滲んでいた。


「死者の国なんて神への冒涜だ・・・神がお怒りになるのも無理はない・・・・」

 真っ白な杖を出して両手で握りしめる。帽子をくっと上げると、赤ら顔が見えた。

「お前、神に会ったことあるのか?」

「神の・・・声を聴くのが我が国の神官の務めですから」

「ダン、止めておけ!」

 アルゴラスが引き止めていたが、断固として動かなかった。


「僕は、悪には屈しません。ここで死んでも、神は天国へ連れて行ってくれるでしょう。神の声を聴く身として・・・・」

「悪いが俺も神だ」

 深淵の杖を地面に付ける。


「え?」


 ― 浄化の業火ファイガ


 ボウッ


 うあぁぁ


「ダン!!!!!!!」

 一瞬にして、白い炎で燃やした。

 アルゴラスが叫びながら、弱くなっていく炎に突っ込んでいく。ダンは炎とともに消えていた。

「熱く・・ないだと?」

「無駄だよ。その炎は、対象物しか燃やさない。骨も残さないよ」

「っ!?!?」

 この魔法は、死の神の剣と同じ痛みがないらしい。 

 ただ、こいつは人に恨まれることも多く、魂も汚かったから、天国があったとしても行けないだろうけどな。神を妄信する奴は、ろくな奴がいない。


「こ・・・・・ここにいる全員を拷問にかける気か・・・? 後ろの奴らはまだ若いんだ。見逃してやってくれ」

 アルゴラスが脂汗を掻きながら声を絞り出す。


「別に拷問する気なんてない。俺はお前の国と交渉したい」

「え・・・・・・交渉?」

「死者の国はまだ建国したばかりだ。ある条件の死者のみが入れる国で、まだ周辺に同盟国がない」

「ど・・・・どうゆう意味だ?」

「この国の同盟国になってくれないか?」

「同盟国・・・だと?」

 アルゴラスが拍子抜けしたような表情を浮かべていた。


「もし、同盟国になることを考えるというなら、あっちの軍も見逃してやろう」

「っ・・・・・」

 もう一つの軍はこちらの惨劇を見て、『リムヘル』に向かうか、引き返すかを決めかねているようだった。

 アリアが遠くの軍に杖を向ける。

 膨張していく魔力で、先が真っ赤になっていた。


「もたもたしてると、あっち全部吹っ飛ばすけど?」

『私、手伝う』

 ミコがアリアの横に並んで、手をかざす。


「あれは・・・風帝直属の・・・・?」

「間違いない。ミコ、最年少で実力を風帝に認められたという魔導士だ・・・」

「そんな・・・」

 ミコを見つけた剣士たちが剣を下げていた。


「あれは、アネモイ帝国のミコ・・・なのか・・・?」

「そうだ。風帝とその部下たちは死んだからな」

「!?」

『そう、ソラ、私、殺した』

『正確にはお前を殺したのは俺だ』

 ディランがつっこみを入れていた。ミコが無表情のまま不満そうにしている。


「なんだと!?」

「風帝が・・・・死んだ?」

 生き残っていた者たちの戦意が、どんどん失われていくのを感じた。

 ミコが指を動かして魔法陣を展開している。


「嘘だ、信じられない。エンペラーがやられるなんて」

「じゃあ、アネモイ帝国は今、どうなってるんだ・・・」

「信じられないが・・・アルゴラス様・・・・」

 戦士の1人が地割れを見て、アルゴラスの肩を叩く。


「早急な、ご判断を・・・」

「あぁ・・・か・・・考えさせてくれ。俺では決められない」

「では、明後日の昼にお前の国へ行く。それまでに判断をもらっておけ」

「明後日!?」

「何か不都合でもあるのか?」

「・・・・・・わ、わかった。明後日の昼だな・・・」

 深淵の杖を仕舞って、アリアとミコのほうを向く。


「『リムヘル』に帰るぞ」

「待って。早くあっちの軍を撤退させなさい!」

 アリアがアルゴラスを睨みつける。


「わわ、わかった。ギータ・・・」

 アルゴラスが軍の後方に声をかける。

 ドラゴン族の男が翼を畳んで、頭を下げた。

「はい、アルゴラス様」

「ダフタ王国騎士団長、ヴィータに今すぐ撤退するように伝えてくれ」

「かしこまりました」

 ギータが翼を広げて、もう一つの軍のほうへ飛んでいった。

 アルゴラスがこちらをうかがいながら、生き残った軍の者たちに撤退の指示を出していた。





『意外とあっさりと撤退していきましたね』

 ディランがグリフォンの鬣を掴みながら、地上を覗き込む。

 軍の統制は取れているらしく、皆、アルゴラスの指示に従っていた。

『ハハハ、あの地割れはソラ様がやったそうで。さすがですね』

 グリフォンが嬉しそうに言う。

「そりゃどうも」

「本当に居なくなったようね。ステルス系の魔法をかけて留まるようだったら燃やしてやろうと思ったんだけど、残念」

 軍が撤退していくのを確認して、『リムヘル』へ向かっていた。


 アリアが髪を横に流しながらこちらを振り返る。

「ソラ、どうして、同盟なんて提案したの? あんな奴らと手を組みたくないし、別に私たちだけでいいのに」

「俺はプレイヤーだ。向こうの世界に戻って調べなきゃいけないこともあるからな。その間に味方がいたほうがいいだろう?」

「・・・なるほどね。これだからプレイヤーは面倒くさいのよ」

 頬に手を当ててため息をつく。


『蒼空様、この辺りはセーブポイントが2か所もあるんですよ』

 リネルがポケットから顔を出した。

『落ち着いたら、一度、戻りませんか? 他のプレイヤーのことも気になります』

「まぁ、すぐにでも戻りたいんだけど・・・先に闇帝になってからだな。アリアのこともあるから」

『あ、そうでした。昨日の夜話してましたね。大丈夫です、きっと蒼空様ならすぐにエンペラーの称号をもらえますよ』

「・・身内に言われてもね・・・・」

 リネルが自信満々に言うと、アリアが怪訝そうにした。

「ソラ・・・ちゃんと、闇帝になる方法はわかってるの?」

「安心しろ。エンペラーの称号をもらう方法もわかってる」


 問題は、精霊がすんなりと闇帝の称号を渡すかだけどな。

 神側の奴らだったら、絶対もらえないだろう。

 とりあえず、行ってみるしかない。


『すごい、あれが、死者の国』

 ミコが表情を変えずに、興奮しながら言う。

『落ちるぞ』

『私、飛べる、問題ない』

 ディランが面倒くさそうにミコの服を掴んでいた。

「さすがセレナだな、ここまでやるとは・・・死者も集まって来てるって言ってたな?」

『はい。ソラ様の策略通りですよ。近隣の国の死者に、この国の存在が広まっていってるみたいですね』

 死者の国は『アラヘルム』のような街並みになっていた。

 リムヘルの木からは滾々と魔力が溢れ出ているのを感じる。


「・・・・・・」

 アリアが目を見開いたまま固まっていた。

「ん? アリア、どうした?」

『昔の・・・・『リムヘル』みたい・・・・』

 風に消えるような声で、呟いていた。




 国の中央には、遺跡を利用した城が立てられていた。周辺には草花が植えられていて、さらさらと水が流れている。

 城門に骸骨とかあることを覚悟してきたんだけど、意外と普通だな。

 グリフォンから降りる。城の周りにいた死者数人が、俺たちの様子を見ているのがわかった。


 バタンッ


 突然、扉が開いてリーランが出てくる。

「ソラ様!」

 転びそうになりながら駆け寄ってきた。

「どうした?」

「グリフォンは無事なんですか?」

『はい。特になんとも無いのですが・・・どうかしましたか?』

 グリフォンが首を傾げた。

「『深淵の魔女』、久しぶり」

「アリア、ねぇ、大変なの・・・・」

「?」

 アリアの腕を掴んで、泣きそうになりながら言う。

「セレナが目を覚まさないの」

「えっ」

 リーランからはハーブを掛け合わせたような薬品の匂いがした。

 石段を上がって、城の中に入っていく。  

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