表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/149

40 悪役

「誰がこんなことを・・・」

「パーティーは中止だ。早く蘇生魔法できる者を連れてこい!」

 周囲には怒号が行き交っていた。



『ここは・・・どうして俺が・・・・』

 風帝が肉体を残して起き上がる。


「ティーダ、コリント地方小さな農村部で人間とエルフ族の間に生まれる、幼いころから魔力と体力に恵まれ、7歳の時、アネモイ帝国のギルドにスカウトされる・・・」

『え・・・・・』

「お前の生い立ちを見てたんだ」

 死の神の本を開いて読み上げていた。

『本当に・・・死の神なのか・・・?』

「そうだ。今は色々あって休業中だったんだけどね、風帝には死者の国に来てほしくないから、魂を狩ることにしたんだ」

『そうか・・・死んだのか、俺』

「あぁ」

『みんなは?』

「6人全員死んだ」

 風帝が信じられないといった様子で周囲を眺めていた。神官たちが何度も蘇生の魔法を唱えている。アリアも呼ばれていたが、風帝の鳥かごを持っていることを理由に断っていた。


 慕われてたんだな。こいつら・・・。


『・・・生き返らないのか?』

「俺が魂を狩れば、どこか遠くに行くことになってるらしい。俺も知らないけど」

『神なのに知らないのか?』

「まぁね」

 風帝が項垂れて笑っていた。


『本当に死の神が来るなんて思わなかったよ。清く生きてたつもりなんだけどね。死の神ってふらっと来るもんなんだね』

「まぁな。俺がここに来たのはエンペラーになる方法を聞きたかったからなんだ。風帝がどうやってエンペラーになったのか知りたくてさ」

 風帝がこちらをじっと見る。


『・・・エンペラーになるつもりなのか?』

「あぁ、俺は闇帝になって死者の国の王になるつもりだ」

『死者の国の王?』

「そうだ」

『ハハハハ、随分欲深いな。神だけじゃ飽き足らず、王にまでなりたいとは・・・』

「・・・そうでもないよ・・・・」

 俺の目的はたった一つだ。

 ただ、たった一つの目的を叶えるために、必要なことが大きすぎるだけだった。


 風帝がエンペラーになったいきさつは死の神の本に書かれていた。

 指を動かして、本を天秤に変える。

 魂の重さは清らかではないが、均衡を保っていた。


『・・・・もう少しで無敵軍隊の完成が見れたというのに。エンペラーとしてこれから何十年もこの国の平和を見たかったな』

「叶わない夢だな」

 風帝がアネモイ帝国の城下町のほうを見つめる。

 死の神の剣のテイワズのルーンが光っていた。


『一つ聞きたい。俺はプレイヤーである君の怒りに触れたから死ぬのか?』

「そうだよ」

 風帝の前に立つ。

「俺たちプレイヤーもさ、この世界に来た時から命を懸けてるんだ。ここで死んだら、向こうの世界でも死ぬ。お前が捕まえたプレイヤーの、どこにあんな仕打ちを受ける罪があるんだよ」

『・・・・・・・・』

「正直、お前の魂も俺が狩らずに一生彷徨っていればいいと思った。でも、エンペラーの情報を調べたかったからこうやって狩りに来たんだ」

 リネルのほうにちらっと視線を向ける。

 怒りの声は空を切るように、風になって消えていく。


「お前の経歴を見る限り、プレイヤーに何かされたなんてないだろ? 魔族に何かされたとも書かれていない。そりゃ、周りからは魔族に怒りを覚えるような何かを聞かされていたかもしれないが・・・」

『・・・・・』

「本心は敵を作りたかったからだろう? 巨大な国をまとめるために、皆が納得する共通の敵を」

『・・・・確かにそうだな』

 風帝がこちらを見上げた。


『俺が憎いか?』

「あぁ、憎いよ。魔族に対しても、プレイヤーに対してもこんな態度を取ってきたのかってな」

 アリアが民衆から見えない場所で、ぐっと手を握りしめていた。

 水瀬深雪もこんな思いをしていたんだろうか。


『でも綺麗ごとだけじゃ、国は守れないんだよ。この世界にはエンペラーになるとわかる情報もある。『アラヘルム』のこととかな』

「・・・」

『最期の抵抗だ。エンペラーになってわかる情報は話さない』

「・・・だろうな」

『君もエンペラーになれば、俺の言ってることもわかる。俺がプレイヤーのいる世界に向ける思いも』

「・・・少しはわかるよ」

『?』

「だから、ゲームクリエイターが敷いたレールには乗ってないんだ。自分の道は自分で切り開く」

 力なく笑う。肩の力が、少し抜けた。


「お前は良い行いもたくさんしてきたらしいな。天秤は正直だ。俺の感情なんて無視して、魂の重さをはかって記録する」

『・・・・そうか。もし、会った場所が違えば、友人になれたかもな』

 風帝が目を閉じる

「痛みはないから安心しろ」


 ザンッ


 風帝の体に剣を突き刺した。きらきらと光の粒になって消えていく。


 他5人の魂も、淡々と狩っていった。

 肉体と精神が切り離されていることがわかると、みんな抵抗せずに死を受け入れていった。


 風帝の戦士らしく、気高く死にたいと。

 彼の後を追った。


『最後は彼女ですか』

「そうだな。最年少か。12歳らしいな」

 ディランが最後の1人になった少女に近づいて行った。

 あまりしゃべらない巨大な斧を持った子だった。

 黒髪で黒曜石のような瞳を持ち、6人で歩くときは一番後ろを歩いていた。


「見た感じは普通の女の子だけど」

『この歳で風帝に仕えるとは。あまり認めたくありませんけど、相当優秀だったんでしょうね』

「まぁ、死んだら関係ない」

 剣に手をかざして、魔力を流す。

 蘇生魔法は無駄だと分かったのか、神官たちが遺体を運ぶように指示していた。


『私、聞いてた。死者の国の話。作るんでしょ? 死者の国』

「!!」

 彼女がいきなり起き上がって、こちらを見上げる。

『私も、連れて行って、死者の国』

「え・・・・」

 無表情のまま訴えてきた。


 本をめくる。

 彼女の名前はミコ。アネモイ帝国出身で、元々城のメイドをしていたらしい。

 特に目立った経歴はないな。

『行きたい。死者の国行きたい』

「行きたいと言われてもな・・・風帝の部下だ・・・」

 死の神の剣を持ち直して、彼女の前に立つ。


「ソラ、待って!」

 アリアが引き留める。

「彼女は連れて行ったほうがいいわ。『風留まる地』にあるカプセルの解除方法を知ってるの。アバターの仕組みについても詳しい。プレイヤーたちを無事に帰せる・・・とはいかないと思うけど・・・」

「そうなのか?」

『私、知ってる。死者の国、行きたい』

 ぱっつんの前髪を触りながら言っていた。

「まぁ・・・一人くらい、いいか」

 死の神の剣と天秤を消す。自分の体から、すっと何かが抜けていくのを感じた。



「お前! いつの間に・・・こんなところにいたら危険だぞ」

「っと・・・」

 突然、兵士に肩を叩かれた。

「どうしてこんなところにいるんだ?」

「あの、申し訳ありません。彼は私が案内するつもりだったんですが、この騒動ではぐれてしまって。記憶喪失で、まだいろんなことを思い出せていないんです」

 アリアが目を伏せがちに言う。

「アリア様。そうでしたか・・・では、お願いします。この辺には民を近づけないようにと、上から指示があったので」

「えぇ、わかりました」

 神官たちが風帝たちの亡骸を運んでいく。

 すすり泣くような声が、いろんなところから聞こえていた。

「ディラン、行くぞ」

『はい・・・・』

 ディランが静かに彼らを眺めていた。




『死者の国、どこ?』

『ソラ様が連れてくから、少し黙っててくれ』

『わかった。少し黙ってる。ディランよろしく。私、ミコ』

『全然、俺の話聞いてねーじゃん』

 ミコは死んだ途端に、無表情のままよく話すようになっていた。

 ディランの服を引っ張ってついて回っている。


 城の中にあるアリアの部屋はこじんまりしていて、棚には何冊もの魔導書があった。

 窓は小さく、光はあまり差し込まない場所だった。


「あんたが本当に死の神だったとは・・・」

「だから、言ってただろ?」

 柔らかいじゅうたんに座って、リネルの鳥かごを解除しようとしていた。

「鳥かごは開きそうか?」

「大丈夫よ。これは風帝がかなり厳重に鍵をかけてるから・・・」

 アリアが小さな杖で一つ一つ魔法陣をなぞっていく。


「やった。開いたわ」

 アリアがそっと掌に載せて、リネルを取り出す。リネルの体の下には魔法陣が展開されたままだ。

 鳥かごがしゅうっと音を立てて消えていく。


「リネルは・・・元に戻るのか?」

「籠から出たから目は覚ますと思うけど・・・・。この世界に縛り付ける魔法陣を解除する方法は作っていないの。悪いけど、状況は変わらないわね」

「そうか・・・・・」

 外に出るとリネルのモニターが表示されていた。


 思った通りだった。リネルは・・・。


「RAID学園、朝倉ヒナ・・・・」

「ん? どうしたの?」

「・・・・リネルの本名だよ。俺の幼馴染なんだ」 

 リネルがアリアの掌にうずくまって眠っていた。横になった羽根が七色に輝いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ