38 囚われのリネル
「ん? どうしたのかな?」
風帝が俺の顔を覗き込んできた。
「っと・・・・俺はこうゆうプレイヤーを見たことが無かったから、本当にプレイヤーなのか疑問で・・・・」
こいつらの興味を削がなければ、リネルに何をするかわからない。
そもそも、リネルはプレイヤーではなくRAID学園から派遣された案内役なはずだ。
「ほぉ・・・・」
「プレイヤーと会話したこともあるけど、妖精族は聞いたことが無い。みんな、帝を目指すように言われた人間だった。初期配布武器も同じだし、プレイする中で属性は変わるとは聞いているけど、彼女のようなタイプは・・・」
「初期配布武器?」
風帝の横にいた剣士が聞き返してきた。
「あぁ、プレイヤーは最初同じ武器を配布されてプレイするんだ。鉄刀、鉄弓、グライダースーツと呼ばれるものだ」
「へぇ、よく知ってるな」
「このゲームの配信はよく見てたから」
風帝がにやりと笑う。
「君はどこかのギルドに所属しているのか?」
「してない。まだ入ったばかりなんだ」
「そうか、良いギルドを紹介してやろうか。君は近未来指定都市TOKYOのプレイヤーだな?」
「あぁ」
「どうしてわかったんですか?」
「近未来指定都市TOKYOのプレイヤーはアバターが違うんだよ」
「・・・・・・・」
風帝が剣士と話していた。
あまり長く会話するとボロが出そうだな。
「それより、その妖精は・・・」
「なるほどなるほど。そんな君でも知らないってことは、かなり珍しいプレイヤーなのか」
風帝が大きくうなずく。
「そうなんですね」
リサが鳥かごに頬ずりする。
「私も初めて見ましたから。改めて可愛いですねーちゅーしたくなります」
「リサ、止めておけ」
「わかってるわよ。見てるだけで楽しめますから」
リサがじっとリネルを見つめていた。
「・・・・風帝、彼女はただの妖精族ではないですか? プレイヤーの気配は感じませんが」
アリアが言うと、風帝がにやりと笑った。
「彼女がプレイヤーであることはわかってるんだよ」
「え?」
「ほら、ちゃんとプレイヤーと同じモニターが表示されてますので、姿は違っても彼らと変わりませんね」
リサが鳥かごを指で突くと、前にモニターが表示された。
「!!」
「本人がプレイヤーだということを、何重にもロックをかけて隠していたみたいですね。なかなか表示されないので苦労しましたよ」
「っ・・・・・・」
リネルの前に表示されたモニターを眺める。
いつも俺が見ていたものと違った。
リネル自身のステータスが表示されていて、武器や防具の設定欄もある。
俺たちのモニターと何も変わらなかった。
なぜだ?
リネルからは、RAID学園が派遣したAIロボットだって聞いていたけど・・・。
違うのか?
「ますます興味が湧いてきたよ。彼女は『風留まる地』に置くのは惜しいな。俺の部屋に連れて行こうか」
「えっ・・・・」
「お世話するのは我々になるのですよね?」
「ハハハハ、神官たちには『風留まる地』だけ頼んでるからね。よろしく頼むよ」
「では、魔力の調整は私がやりましょう。アリア、魔法陣の展開だけお願い」
「・・・・・・・・」
アリアが少し躊躇して、後ろに下がった。
「ん?」
「・・・・承知しました。準備が整いましたらお呼びください」
「よろしくね。あ、君も、もし彼女について何か知ってること思い出したら、俺のところに来てくれ」
「あぁ・・・わかったよ」
風帝が鳥かごの明かりを消して、カバーを掛けた。
剣士たちと会話しながら、城のほうへ向かっていく。
「あの6人は帝国軍の中でも最強と呼ばれる風帝直属の戦士。ま、私よりは弱いけど、あんたより強いから迂闊に手を出さないことね」
「・・・・・・・」
「・・・・あの妖精族の子は、知り合い?」
アリアが完全に誰もいなくなったのを確認してから聞いてきた。
「あぁ、かなり長い付き合いだよ。このゲーム以外でも、俺のサポート役として付いてきていた子だ」
「ふうん。残念ね。でも、どうしようもないわ」
あっさりと言う。
「助ける方法はないのか?」
「無理よ。私は風帝の命令には逆らえない。あと少ししたら、あの魔法陣を展開しに行ってくるわ」
『アリア様が風帝から逃げる方法はっ・・・?』
ディランが声を大きくした。
「そんなのあったらやってるって言ってるでしょ?」
「・・・・・・・」
「あんたたちをギルドに置いてもらえるように話したわ。風帝には会わせたし、私ができるのはここまで」
緋色の髪をさらっと後ろに流した。
「じゃあ、私は仕事をしてくるから。帰るときになったら声をかけて。グリフォンを呼ぶわ」
「あ・・・・・」
こちらに背を向けて、夜の街に消えていった。
リネルは俺が配信を始めたころ、RAID学園からサポートするように言われたと、一緒にゲームに入ってくるようになった。
敵を倒したりといった、プレイヤーとしての参加は一度もない。配信を手伝ってくれたり、セーブポイントを探してくれたり、記録してくれたり・・・徹底的にサポートに回ってくれた。
でも、リネルは何者なんだろう。
心当たりが全くないわけではないけどな・・・。
『ソラ様、どうしますか?』
「そうだな・・・リネルが捕まった以上、乗り込まなきゃいけないな」
アリアの言った通り、ギルドに行くと俺の部屋が用意されていた。
客室として使われる部屋らしい。壁にはアネモイ帝国周辺の地図が書かれていた。
『ディランには色々頼むかもしれないな』
「はい! さっそく城に行ってきましょうか?」
『いや・・・・』
トントン
「今、よろしいでしょうか?」
「うん」
「失礼します」
猫耳のメイド服の少女が入ってきた。
「ギルドの酒場で作った料理が余ってしまって・・・よかったら食べませんか?」
ミートパイと何種類かケーキを皿に載せていた。
『お、俺の分が無い・・・』
ディランがぼそっと言って落ち込んでいた。
「ありがとう。ちょうど腹が減ってたんだ」
「よかったです」
机に皿を置く。
「私たちのギルドに入ったらどうですか? アリア様が貴方のことを神様がここに導いてくれた方だと言っていました。危険なクエストもありますが、私みたいな弱弱な魔導士でも、連れて行ってもらえるクエストはあるんですよ」
「魔導士なのか」
「へへへ、見習いなのでいつもはウエイトレスしてるんですけどね」
にこっとほほ笑んだ。
「君、名前はなんていうの?」
「私ですか? ミケです。獣族のネコ科です」
「そうか。俺はソラだ」
ハーブティーを一口飲んで、カップを置いた。
「風帝・・・っていい奴なのか?」
「え?」
「・・・・ほら、こんな広大な土地を治めるのはすごいことだから、どんな者なのか気になったんだ。俺、記憶失くしてるからさ」
「そうですか。そうゆうことでしたら」
ミケが時計の前の丸椅子にちょこんと腰を下ろした。尻尾をくるんと巻く。
「風帝は良い方ですよ。私はこうやって獣族なので魔族に分類されてしまうことが多いのですが、風帝は獣族をアネモイ帝国の者として受け入れてくださいました」
「魔族は嫌なのか?」
「魔族は野蛮で恐ろしい存在です。風帝は何度も遠征に行き、魔族の拠点を潰してきているため、この地に魔族が攻めてくることはないんです。魔族どころか、他の国も、この地を恐れて近づかないんですよ」
得意げに話していた。
背後にいるディランに落ち着くように目をやる。
「そうだ。明日は風帝の即位5周年記念のお祭りをやるんです」
ミケが耳をぴんと伸ばす。
「無事遠征から帰ってきたようなので実施するはずです。ソラも来てみたらいいですよ。この国がすごいってこと、わかりますから」
「ありがとう。俺も行ってみたいな」
「はい、是非是非。じゃあ、迷ってしまうと思いますので、私が案内しますね」
満面の笑みを浮かべていた。完全に風帝を信頼している顔だ。
国が潤っているから、風帝に対しての不満も無い・・・か。アリアが平和ボケしていると言っていたのも納得だな。
この国の者からすれば、風帝や周りの戦士も価値のある者なんだろう。
でも、悪いがリネルやほかのプレイヤーがあんな風にされた状態で、情報だけ聞き出して帰ることはできない。『緋色の魔女』アリアも・・・な。
ディランがミケを睨みつけて、窓からふわっと出て行った。




