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36 風帝の庭

 『リベラの風車』ギルドは木造でできた建物にあった。

 入口に多くのクエスト依頼の紙が貼られていて、飼い猫の捜索からモンスターの討伐まで幅広かった。

「神官ラマ様、アリア様を連れてまいりました」

「うん、ありがとう」

 ラマは20代くらいで身長の高い男性で、胸には紋章の入ったブローチを付けていた。


「ラマ様、どうされましたか?」

 俺のほうを見る。

「ん? その者は初めて見る顔だね?」

「アネモイ帝国の外で弱っていたところを保護しました。記憶喪失でどこにいたのかもわからないとのこと。治療中なので、連れて行ってもよろしいでしょうか?」

 アリアがでっち上げた嘘に頷くと、にこやかな表情を浮かべた。

「もちろん、問題ないよ。記憶をなくすのはつらいことだ。早く元に戻るといいね」

「・・・・・・」

 軽く頭を下げた。




「すまない。魔族の祠の調査に行ってきた魔導士の一人が呪いを受けてしまってね。僕も帰って来たばかりで魔力足りなくて」

「はい、そうゆうことでしたら。今回のクエストは大変だったのですか?」

「あぁ、魔族もなかなか力をつけてきてね。今回は失敗だった。もう少しで宝玉を奪えそうだったんだが・・・」

 ラマとアリアがクエストの話をしながら前を歩いていた。

 建物の中には酒場があり、いろんな種族の者たちがクエストの紙を見ながら話していた。

 焼きたてのパイの匂いや、煮込んだスープの匂いがしてくる。

 酒を飲んで、上機嫌に歌っている者もいた。


『美味しそうですね』

「死者も食べれるのか?」

『俺の場合は食べられるみたいですね。死んでもここに留まってるから例外なのでしょうか?』

 ディランと会話をしていると、アリアが睨んできた。

 表の顔と裏の顔が全然違うな。


「あれは・・・・・」

 人間たちの中にプレイヤーが混ざっていた。

 2組か。モニターを出して、装備品を見せながら会話していた。

『プレイヤーですね・・・』

「・・・いるのか。さっきのアリアの様子だと、プレイヤーもいないかと思ったんだけどな。別に変わったところもないようだな」

『様子見てきますか?』

「いや・・・今はアリアについていこう」

 どこから来たプレイヤーなのだろう。

 話したかったけど、アリアに止められているからな。


 医務室では10代前半くらいの少女が治療を受けていた。

 呪いは体力を奪うものだったらしい。呼吸器のようなものをつけて、苦しそうにしていた。

「ふぅ・・・これで大丈夫ですね。しばらく安静にしていれば、呼吸器はいらなくなります」

「ありがとうございます。アリア様」

「すべては神のお導きですから」

 アリアが魔法を唱えると、すぐに体から呪いが消えていった。

 ベッドで眠っている少女の周りに、同じパーティーらしき人が集まってくる。


「さすがだね、僕もアリアには負けるよ」

「そんなことありません。私はクエストに行くわけじゃありませんから」

「いやいや。僕も精進しないと」

 ラマが軽く手を叩いていた。

 確かにすごいな。闇属性の魔力を一切感じなく、少女の呪いを浄化していた。


「ところで、先ほどギルドの酒場で見かけたプレイヤーはいつ連れて行くのでしょうか?」

「マスターは明日引き渡すと言っていたよ」

「では、私は先に『風留まる地』に行っていますね」

「あぁ、後から行くよ」

「あ、すみません。彼の状態をみてから行きますから、少し遅れてしまうかもしれません」

「ハハハハ、急がなくていいよ。相変わらず優しいね。その思いが君の魔力になっているんだろうけどね」

 アリアがちらっと俺のほうを見ながら話していた。

「・・・・・・・」

 嫌な予感がした。

 アリアが俺を連れて、ギルドの外に出る。





 ― 異世界から来るプレイヤーの研究所『風留まる地』― 


「プレイヤーはエンペラーを目指して『アラヘルム』を復活させるという目的でプレイしているんでしょ? だから、今のエンペラーである風帝に会おうとするプレイヤーたちがここに来るの」

「それを『風留まる地』に集めてるのか?」

 アリアが杖を磨きながら頷いた。


「最近になって始めたことよ。あんたもプレイヤーだってわかった瞬間、捕まえられるからね」

「・・・でも、研究所って何するんだよ」

「生かさず殺さずってとこかしら」

 市街地から遠くない場所にある神殿の地下階段を降りていた。

『・・・・・・・』

 ディランが何かを見て、足を止めた。

 アリアが顔を上げて、何かを唱える。


 ぶわっ


 風が巻き起こり、室内の明かりが灯った。

「っ・・・・」

「ここが『風留まる地』。風帝の庭ともいわれている場所よ」

 男女10人くらいのプレイヤーが一つ一つカプセルに入っていた。近未来指定都市TOKYOの者ではない、外の世界の者が使うアバターか。

 下には魔法陣があり、胸の前にはそれぞれのモニターが表示されていた。


「な・・・・・・・」

「下の魔法陣は、プレイヤーが異世界との接触をしないようにするために張ったもの。毎日2回、魔力を流して、肉体の反応を見るの。といっても、このカプセルに入った時点で気を失っているから、下のモニターの数値を見て判断してるんだけど・・・」

 アリアがカプセルを見つめて淡々と話した。


「彼はレベルを上げた状態でここに来たから、数値が見やすい。こっちの彼は、レベルが低いから数値も変わらない」

「・・・・・・」

 唖然としていた。

 ゲーム内でこんな風に足止めされたら、プレイヤーは帰ることもできない。


「誰が・・・こんな魔法を作ったんだ?」

「私よ」

「え?」

「風帝に頼まれてね。彼らが戻れないよう縛りの魔法陣を開発した。異世界に関わる魔法なんて、自分でも成功すると思わなかったけど」

 ひんやりとした視線をこちらに向ける。


「どう?」

『アリア様。彼らは、もちろん騙されてここにいるんですよね?』

 ディランが声を出した。

「そうよ」

「そんな・・・・・」

「人間はそうゆうものよ。この美しい街や豊富な資源も、何かの犠牲の上に成り立っているの」

 カプセルに入っているプレイヤーに、モニター以外の反応はない。

 目を閉じたまま起きなかった。


「・・・・・・・・」

 ゲームの中にいると、人としてどうすればいいかとか、忘れてしまう。

 普通のゲームだったら、死んだらゲームオーバーで元の世界に強制的に戻るからだ。

 こんな風に足止めされたって、他のゲームなら逃げ道は用意されているはずだ。


 でも、この『イーグルブレス』の世界は・・・。


「・・・どうして風帝はプレイヤーをこんな風に集めてるんだ?」

「表向きはプレイヤーを脅威として、自国を守るためって言ってる」

「は・・・・?」

「この国の人たちは平和ボケしてるからそんなんでも信じるの。私は2つの目的があると思ってるわ。1つはプレイヤーのような仮の体を作って、軍隊を作るため。風帝は何度でも蘇る不死の軍隊って呼んでる。もう1つはわからない」



 カツンカツンカツン・・・・


「!?」

「・・・私に話を合わせて」

 小声で言うと、すっとプレイヤーの下の魔法陣に杖を置いた。


 ラマと2人の神官が入ってくる。

「アリア・・・その者は」

「失った記憶が戻ってきて、プレイヤーと共に行動をしたことがあると話していたので。何か風帝のお役に立てるようなことを思い出せないかとここに連れてきました」

「ほぉ・・・・で、何か思い出してきたかな?」

 神官の1人が俺を嘗め回すように見ていた。

「はい」

「どんな・・・・」

「ガタリ様、まずは風帝にお話ししなくてはいけないので」

「おぉ、そうだな。悪い悪い」

 ぱっと離れて、プレイヤーのほうに歩いてった。


「彼らの状態はどうだい?」

「肉体と精神状態は昨日と変わらないようです。魔法陣が弱っていましたので、かけ直しておきました。あとはお願いできますか?」

「あぁ、いいよ。アリアも疲れただろう。少し休むといい」

「ありがとうございます。失礼します」

 アリアと部屋を出ていく。

 背中から神官たちが魔法を唱えながら、何かを記録するような声が聞こえていた。

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