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33 深淵の杖

「ん? あれはなんだ?」

 『リムヘル』から少し離れたところで人間とドラゴン族が集まっているのが見えた。

 50人ほどだろうか? 装備品を見る限り、どこかの国の戦士たちのようだ。


『あれは、この付近のラーミレス王国の戦士ですね』

「ラーミレス王国?」

 グリフォンが目つきを鋭くさせた。ディランが後ろから顔を出す。

『最近領土を広げている国ですよ。エンペラーが居ないにもかかわらず、大国にも匹敵するような兵力を持っているとか・・・』

「よく知ってるな」

『まぁ、俺は魔族の流れ者なので・・・』

『ソラ様、あれは、『リムヘル』に向かっていますね』

「・・・言われてみればそうだな」

 確かに、先頭の人間は『リムヘル』の方角へ馬を走らせていた。


「でも、『リムヘル』は見えないんだろ? どうして・・・」

『・・・いったん、降りてみましょうか?』

「そうだな」

 グリフォンが翼を大きく動かして、降下していった。




「見ろ! あの幻獣・・・・」

「『毒薔薇の魔女』の幻獣じゃないのか!?」

「でも、『毒薔薇の魔女』はいないみたいだな。乗ってるのは・・・」

「落ち着け。体勢を崩すな」

 グリフォンを見た者たちが騒いでいた。


「有名だな、グリフォンは」

『もちろんです。ご主人様は誰もが知る『毒薔薇の魔女』ですから』

 誇らしげに言って、翼をたたむ。



 ザザーッ


 草原が波打った。グリフォンが足で草を鷲掴んで、俺とディランを降ろした。

「ん? プレイヤーか? 皆の者、足を止めろ」

 先頭にいるのは30代くらいの男性だった。

 甲冑には翼のような紋章が刻まれている。軍の団長はこいつか?


「二人ともここで待ってろ」

『かしこまりました』

 リムヘルの木の杖を出して、軍のほうへ歩いていった。


「確かにグリフォンだな。乗っているのはお前一人か? 『毒薔薇の魔女』の手先か?」

「この方角に何しに行くつもりだ?」


 キィン


 声をかけてきた奴らを無視して歩いていくと、両脇のドラゴン族の兵士に剣を突き付けられた。

「レイド様はラーミレス王国の王・・・いや、騎士団長だ! 軽々しく近づくな!」

「いいさ。この者が何者か知りたい」

 レイドが手を挙げて二人を止める。


「お前は我々が向かおうとしている方角から来たな?」

「・・・そっちがどこへ行こうとしているのか知らない」

「ハハ、そうだね。君が来た方角は、もともと膨大な資源があるといわれていた地。ただ、魔族がそれを隠していると聞いている。ほかの種族と対抗する兵器を用意しているのかもしれないね」

「・・・・・・・・」

 グリフォンのほうに視線を向ける。


「『毒薔薇の魔女』の幻獣グリフォンといるということは、君は『毒薔薇の魔女』の手先なのかい?」

 風が重そうなマントを揺らしていた。

 周囲の目と警戒心、こいつらの装備品から、なかなか位の高い奴なのかもな。


「手先ではないな・・・」

「嘘をつけ! そこにいるのはグリフォンだ。『毒薔薇の魔女』が無関係の者をグリフォンに乗せるはずがない」

「プレイヤーが魔族に寝返ったのか? いや、操られているのか?」

「まぁまぁ・・・あまり騒ぐな」

 ざわめきが大きくなってくると、レイドが悠然とした表情で注意していた。


「まぁ、俺は穏便に事を済ませたいと思っている」

「!」

 レイドが目配せをすると、魔導士数名が俺たちを取り囲んだ。

 ディランが剣を持って、前に出た。

『ソラ様、俺には死の神からもらった剣があります。こいつらを殺しましょうか?』

「いや、いい」

 ディランに小声で話す。


 『リムヘル』の木で作った杖をリーランは深淵の杖と呼んでいた。

 精神の果てにある魔力を最大限引き出す杖。レベルや覚えてる魔法の数は関係なく、使いこなせる者は最強の武器になり、使いこなせない者にはただの木の枝になる・・・最悪、持ち主を滅ぼすと話していた。


 俺は死の神だからおそらく使いこなせるだろうと。


「君が『深淵の魔女』の隠している地が何なのか教えてくれれば、何もせずに見逃してやろう。いや、ラーミレス王国に呼んで、地位を与えるよう頼んでみるよ。君はエンペラーを目指すプレイヤーなんだろう?」

「レイド様!」

「この先の地にはそれほどの価値がある。お父様も認めてくれるだろう。ここで手柄を立てれば、お前らも良い待遇が期待できるぞ」

「・・・・・・・・・」

 隣にいた者が渋々下がっていった。


「君にとっても、悪い話ではないと思うが? どうだ?」

 王家の者だったのか。

 どおりでこいつの周りの戦士のほうが、レベルが高いはずだ。


「見たところによると、君はかなりレベルが低いようだ。まだ、こちらに来て日が浅いプレイヤーだな。『毒薔薇の魔女』にどんなふうに利用されてるのかはわからないが、魔族についたら君の目標は達成できないよ」

「・・・・・もしこの先に、『毒薔薇の魔女』が隠している地があるとして、どうするつもりだ?」

「ん?」

 レイドがにやりと笑う。


「ラーミレス王国の領土として・・・そうだなぁ。もし、本当にすごい地だったら、僕が治めるのもいい。人間や他の種族を招き入れ、豊かな国にしよう」

 声高らかに言う。後ろの人間たちが称賛するような表情をしていた。


「魔族は、いれるの?」

「魔族? どうしてそんなことを聞く?」

「『毒薔薇の魔女』は魔族だろ? じゃあ、魔族がいないと辻褄が合わないだろう」

 周りからくすくすと笑う声が聞こえた。


「君はプレイヤーだから仕方ないね。魔族はこの世界では絶対的悪なんだ。神に裁かれた種族は魔族なのだから」

「・・・・・・・・」

「我々は魔族を徹底的に排除するため、領土を伸ばし、軍事技術を高めている。そりゃ、国同士が戦うこともあるけど、皆、魔族から身を守るという目的は変わりないのだよ」

 グリフォンが殺気立っているのがじりじりと伝わってきた。


 人間はつくづく愚かだな。

 どのゲームでも似たようなことが起こる。


「グリフォンが戦おうと、君が勝つことはない。こっちの軍にも召喚士は複数いてね、いくら『毒薔薇の魔女』の幻獣とはいえ、彼女のいない状態では敵わないだろう」

「レイド様のおっしゃる通りだ」

「早く決断しろ」

「・・・・・・・・」

 深淵の杖を握りしめる。

 こんな奴らの呪いを、セレナは受けたのか?


『っ・・・ソラ様?』

 グリフォンが飛び出そうとしたとき、杖をおろして止めた。

「この先にあるのは死者の国だ」

「は・・・・・?」


「俺は死者の国の王だ」


 ― 生命を枯らす牢獄プリズン― 


「!?」

「なっ!!」

 杖先から漆黒の魔力があふれ出し、一瞬で半径50メートルを呑み込んだ。

 足元の草花が枯れていく。

「ま、魔力が吸い取られていきます・・・・」

「こ・・・こんな・・・私が身動き取れないなんて・・・」


 バタバタ・・バタッ・・


 数名がその場に倒れていた。


「なにをやっている! 早くここからの逃げ道を!」

「団長、こ、こんなの無理です。もう死ぬしか・・・・」

 女魔導士が震えながらその場に座り込んでいた。

 ドラゴン族はがたがた震えながらかろうじて武器を握りしめている状態だった。


 ゆっくりとレイドに近づいていく。

「な・・・どうゆうことだ・・・誰かここから出れないのか?」

「無理だよ」

「!?」

 レイドが暗闇の中から、俺を見つめた。


「お、お前は・・・・何者なんだ・・・」

「死の神だ」

 深淵の杖が、これでもかと思うほど自分の魔力をこそぎ取っていた。

 血管が浮き出て、目が血走っていた。息を深く吐く。


「わかるか? お前らの種族が呪いを擦り付けて追いやった少女が、俺を死の神にした。おそらく、こうするためにな」

「っ・・・・・」


 杖を天にかざす。周囲が漆黒に染まっていった。

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