2 死神になる
「死神って、そんな・・・・」
初回プレイ時からそんな選択肢出てくるゲームなんてあるか?
俺がやってきたゲームのスコアまで、認識してるキャラがいるなんて・・・。
でも、近未来指定都市TOKYOにある最新のVRゲームならデータを引き継いでることくらいあり得るのか。俺もすべてのゲームを網羅しているわけじゃないからな。
「なんか疑ってる?」
「そりゃ・・・あ、いや、プレイヤーとしての条件なら、その職業選択するしかないけどさ・・・」
ルーナが瞼を重くしてこちらを見ていた。
「はぁ・・・プレイヤーに説明って難しいのね」
息を付いて、空中に浮かぶモニターを大きくした。
「じゃあ、まずこの『イーグルブレスの指輪』というゲームについて説明するわ」
モニターにはゲーム内のフィールドが表示されていた。
・通常プレイヤーは最初、地図から失われた都市『アラヘルム』から始まる。
・現在『アラヘルム』には多くの種族が共存している。
・キャラ、もしくはプレイヤーたちは各フィールドにある謎を解き明かし、
氷帝、炎帝、雷帝など自身の属性に見合った帝の称号を得ることを目指す。
・各フィールドの帝となり、
過去の過ちにより封印されている『アラヘルム』を復活させる。
「ざっくり言うとこんな感じのゲームよ」
「お・・・おう・・・」
ルーナがサクサクとモニターを切り替えて説明を受けていた。
世界観は作りこまれていてわかりやすかったが、特に他のゲームと比べておかしいことはない。
普通のゲームだと思った。
「ん? タイトルにある『イーグルブレスの指輪』って何のことなんだ?」
「そうゆうのはゲーム終盤でわかるものでしょ」
「そうだけど・・・」
この話し方、どこかで会ったことある気がする。
何かのゲームのキャラと被ってないか?
「君がどこまでプレイするかはわからないけど、この世界はもっと複雑なの」
「・・・・・・・」
「他のゲームとは全然違うから」
天秤の皿を動かしたりしながら頬杖をついていた。
「で・・・どうして、俺を死神に?」
「蒼空がプレイヤーとして参加したら、この世界の均衡が崩れてしまう。神としていれば問題ないわ」
天秤の皿を弾く。
「いや、んなこと・・・」
「いずれわかるときが来る。君はすごい力を持ってる」
真剣な表情で言う。
「?」
「この世界はとても脆いの。他のゲームはどうだったのかわからないけど、『イーグルブレス』の指輪の行方は、神でさえも予測できない。見て・・・」
「!?」
モニターを操作して、崩壊していく近未来指定都市TOKYOを映していた。
「何でこんな・・・・」
「ゲームの世界次第では、こうゆうことだって、可能性としてはゼロじゃない。ちゃんと、世界の均衡が保てなければね」
「だって、ゲームだろ? 現実世界に介入できるなんて不可能だ」
「近未来指定都市TOKYOは色んなVRゲームの幻獣を召喚してるんでしょ?」
「それは・・・・・」
「『イーグルブレスの指輪』の世界が現実世界に介入する可能性だってある。それくらい、このゲームの世界は未知のものなの。死の神をしている、私でさえわからないんだから・・・」
「・・・・・・・・」
唾を飲み込んだ。
崩れていくRAID学園や消えていくアバターが脳裏に焼き付いていた。
「・・・・・・・・・」
しばらく言葉出てこなかった。
「来て早々脅して悪いんだけどね」
ルーナがぱっとモニターを消した。
「神々の中でも、死を司る神は、一人いなくなっただけでも大変で」
「・・・・・・・・」
「蒼空は適性ありそうだし、こんな感じで天秤で魂の重さを量って、命を奪っていく簡単な仕事なの。あ、報酬は・・・美味しい物食べたりできるし、どこでもぱっと飛んでいけるから、海見たりしても楽しいよ。この世界は美しい場所がたくさんあるから・・・プレイヤーでいるよりやりがいはあると思う」
急に、身振り手振りで明るく話していた。
死神のやりがいって・・・。
「どうかな?」
「わかったよ・・・・」
「本当? じゃあ、死神になってくれるの?」
「ただし、条件がある」
腕を組んだ。
「まず、俺はRAID学園の生徒としてこのゲームをプレイしなきゃいけない。プレイヤーとしても参加させてもらう」
「えっ・・・」
「だから、5:5でプレイヤーと死神を両立するのが条件だ」
「ご、ご、5:5!?」
ルーナが天秤を落としそうになっていた。
「無理無理、だって、死神って神よ。プレイヤーとは全然違うの!」
「でも、プレイヤーとしていなきゃ、RAID学園に目を付けられるんだよ。俺はそこそこ名の知れてる配信者だから、『イーグルブレスの指輪』だって配信しなきゃいけない」
「うっ・・・・」
眉間にしわを寄せて、口をもごもごさせている。
「じゃ、じゃあ、7:3で死神とプレイヤーで手を打つ」
「え・・・・・・・・」
「それ以上は、妥協できないから!」
少しムキになりながら言っていた。
そもそも、死神の仕事がどんなものなのか知らないから、ルーナが出してきた数値が妥当なのかもわからないんだけど。
「いい?」
「・・・あぁ、わかったよ」
「よかった」
ルーナがほっとしたように、少し離れていく。
両手を広げると、床にあった魔法陣が七色の光を帯びていった。
「そこにいてね」
「ん?」
ルーナがしゃがんで床に手をあてる。
― 私、死の神ルーナは、今より天路蒼空を死の神として任命する。
死の神としてふさわしい道具を、与えよ ―
カッ
「これは・・・・」
目の前に分厚い本と、銀色の剣が現れた。
どちらも同じ、戦士のルーン文字が刻まれている。
「やっぱり、テイワズのルーン文字が刻まれるのね。私はパース、秘密のルーンが刻まれてるの。神によって違うのよ」
「へぇ・・・戦士か」
「使い方は、フィールドに入ってから説明するね。普段は仕舞っておいて」
「うん」
ルーナと同じように、指を動かすと本と剣が消えた。
「じゃあ、またあとで」
「えっ・・・ここから、どうすれ・・」
会話の途中で、ルーナが飛び上がって見えなくなっていた。
ここはゲームの前の部屋って言ってたけど、どうやったら設定画面に移るんだろう。
もう1回、入り直したほうがいいのか・・・。
「!!!」
耳に触れようとすると、いきなり目の前の景色が変わっていった。
体がぐらついて、バランスを取る。
ザザッ・・・
『ゲームをロードしています。少々お待ちください』
機械のような声が聞こえた。
視界が開けると、荒廃した神殿の柱の前に立っていた。
男性アンドロイドが初期設定画面を空中に映している。
『はじめまして。『イーグルブレスの指輪』の世界へようこそ』
「あ、あぁ・・・・」
『まずは、本人確認させていただきます。天路蒼空でよろしいですね?』
「はい」
『顔を認証しました。住所、電話番号、メールアドレスは・・・』
淡々と話しながらアンドロイドが情報を入力していく。
個人情報の取り扱い、SNS連携についても説明があった。
自分の手を見つめる。
ここが初期画面ということは、やっぱり、ルーナがいたのは・・・。
『プレイヤーとして参加していただく前に、モニター画面の説明をさせていただきます。不明点がありましたら、説明を止めてください。1ページ目に表示されているのが・・・』
アンドロイドの説明を聞きながら、ルーナとの会話を思い出していた。
話していることは、全て一致している。
『心拍数が上がっています。何か不明点がございましたか?』
「いや、少し緊張しているだけだよ」
『そうでしたか。私は、この世界と現実世界を結ぶアンドロイドです。体調不良など、心配事がありましたら何なりとお申し付けください。プレイヤー専用の回復ルームにご案内することも可能です』
「あぁ、わかった・・・」
アンドロイドが俺の表情を確認してから、説明を続けていた。
・・・ルーナの言っていることが間違っていないということは・・・。
俺は本当に、この世界の死神になったのか。




