表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/149

21 外の世界のこと

「『イーグルブレスの指輪』のプレイヤーの中に原因不明の死者が出たという噂を聞いている」

「・・・・・」

「何か聞いているかな?」

 学長が真っすぐに俺の目を見てきた。


「・・・・すみません」

 ぐっと飲みこむ。心臓がバクバク鳴っていた。

 ここで何かを言えば、俺が死ぬ。


「そうか。なんとなくわかったよ。私も元々ゲームの中に身を置いていたからね。プレイヤーにのみ知らされる何かがあるってことか」

「・・・・・・・・」

「『イーグルブレスの指輪』の世界は・・・この話は、もう止めよう。おそらく君にとっても危険なことみたいだから」

 学長がカップを持ち上げて、ソファーの背もたれに寄りかかった。

 まだ、冷や汗が落ち着かなかった。


「『イーグルブレスの指輪』の他のプレイヤーは、どこから来た人たちなんですか? 他の近未来指定都市から来たにしては、人数が多い気がするのですが・・・」

「いや・・・」

 一呼吸おいて、こちらを見る。


「君が見たのは地上の人たちで間違いないだろう」

「えっ」

「外の世界と言ったほうがわかりやすいか」

 ハーブティーをこぼしそうになる。


「近未来指定都市の中でも、こそこそプレイしている人はいるみたいだけどね。政府は放っておいてるし、あまり人数はいないはずだ」

「待ってください。外の世界の人・・・が、どうして?」

「君らも知っている通り、VRの世界は近未来指定都市TOKYOに凝縮されている。ただ、最近では、彼らも私たちと同じVRゲームを体感するようになってきたんだ」

「俺たちと同じ・・・」

 唾を飲みこむ。

 RAID学園の生徒は、近未来指定都市TOKYO以外の世界についてあまりよく知らない。

 話題に上がったことがないから興味も持たなかった。


 近未来指定都市TOKYOは優秀とされる人たちが集まり、地上から離れたところに形成された浮遊都市だ。本来、俺たちみたいにゲームの中に入り込んでプレイできるのは、近未来指定都市TOKYOに住む人たちに限られていた。

 外の世界の人たちは、中に入り込むのではなく、五感には触れない方法でアバターをコントロールしていると聞いていた。


 RAID学園入学当初に基礎知識として教科書に載っていたことだけど、俺も外の世界について詳しいわけではない。配信をする中で、地上のリスナーと交流することもあったが、近未来指定都市TOKYOから出たことはなかった。


 物心ついた時には、近未来指定都市TOKYOにいたから。


「どこから漏れたのかはわからない。でも、地上の一部の人たちは私たちのように、中に入ってプレイする方法を見つけたらしい」

「・・・・・・・」

「まぁ、慣れないからミスも多いんだろうがな」

 学長が窓の外を眺めながら言う。ドラゴンが横切っていくのが見えた。 


「君たちはそんなこと気にする必要はないよ」

「どうして、『イーグルブレスの指輪』の中に?」

 前のめりになった。

 彼らも命をかけているのか?


「さぁ、これ以上のことは私にもわからない。とにかく、『イーグルブレスの指輪』のプレイには気を付けるように」

「・・・はい・・・」

 大人は近未来指定都市TOKYO以外のことをあまり話さない。


 幼少期からそうゆうものだと思っていたから、気にすることはなかったけどな。

 RAID学園は一体なんなんだろう。近未来指定都市TOKYOは外の世界と何が違う?


「学長は地上の人たちに会ったことがあるんですか?」

「ここ数十年は会ってないかな。プレイヤーが次々死んでいくと聞いたのも、たまたま聞こえてきた話だ。他の先生たちには言ってないよ」

「そうですか・・・・・」

 学長は何を考えているかわからない。

 『イーグルブレスの指輪』の何をどこまで知っているのか探りたかったが、隙がなかった。


「『イーグルブレスの指輪』の中にはいつ戻るんだい?」

「明日の朝には戻るつもりです。御坂先生に、今日一日はVRの機械メンテがあると言われているので」

「そうか」

「RAID学園の生徒たちは、本当に『イーグルブレスの指輪』に行かせていいんですか?」

「ん?」

「危険だってこと、ご存じなのでしょう?」

 声が大きくなる。


「悪いけど、こればかりは仕方ない。VRゲームで一番安全性を保ってプレイできるのは、RAID学園の生徒たちだ。君が必死になる様子を見ると、中に入ってからわかることもあるようだが・・・」

「っ・・・・」

「そうゆうゲームだと思うしかない。私も元々いろんなVRゲームをこなしてきたら、危険や痛みもわかる。でも、誰かはやらなきゃいけないんだ」

 メガネのレンズの奥の小さな目を、ゆっくりと閉じる。


 納得したわけではない。

 でも、学長には小柄な体型からは想像できないくらいの、威圧感があった。


 何かを言い返したくても言葉が出てこなくて、しばらく拳を握りしめていた。





「蒼空様ー」

 学長室を出ると、ヒナがぱたぱた走ってきた。

「ヒナ、戻ってきてたのか」

「はい。先生に蒼空様が学長室に呼ばれたと聞いて、飛んできました」

 満面の笑みで言う。歩き出すと、嬉しそうについてきた。


「配信も見ました。『イーグルブレスの指輪』の世界、素敵ですね」

「まぁな。それにしても、ヒナはいつもタイミングよく来るよな。同じ教室の生徒でさえ、ほとんど会わないことが多いのに」

「蒼空様が戻ってきたってわかるのです。運命みたいなものです」

 自信満々に言う。


「そんな非科学的なことを・・・」

「男性は女性よりもそうゆう感が働かないそうです」

 ヒナがちょっと鼻を高くしながら言った。

 RAID学園から5人のプレイヤーを挙げるとしたら、絶対にヒナは選ばれると思ったんだけどな。


「『イーグルブレスの指輪』はどうですか?」

「まぁ、プレイしたばかりだからな。特に心配かけるようなことはないよ」

 ヒナに『イーグルブレスの指輪』に興味を持たせたくなかった。


「そうですか、よかったです。本当だったら、私もプレイしたかったのですが・・・」

「そうだ。今、やってるゲームあるの?」

「えっと・・・父の手伝いで別のゲームの調査に入ってて、RAID学園依頼のゲームは手を付けてないんです。あ、RAID学園には許可をもらってますよ」

「わかってるって」

 ヒナの父親は政府機関て働いてるから、外の世界の人たちについて知っていることも多いのだろうか。


「ヒナ、地上の人たちのことって何か知ってるか?」

「肉体のみで生活している人たちのことですよね。何かありましたか?」

「・・・なんでもない。ちょっと、教科書を読み返して気になっただけだよ」

「なるほど。私もちゃんと、教科書を読み返すようにします」

 知るわけないよな。もし、ヒナが何か知っていれば、どこかで口を滑らせそうだし。


「なんか、リネルってヒナに似てるかもな」

「えっ、り、リネルって?」

「俺の配信見てるならわかるだろ? いつも映ってる妖精だよ」

「あ・・・あぁ・・・そうでしたね」

 目を泳がせながら、咳ばらいをしていた。


 そういや、ルーナは配信のときに映っていたな。

「俺の配信のとき、ルーナって少女が映っていたの、見てたか?」

「ルーナ?」

 ヒナが首を傾げる。


「あぁ、そうだ。アーカイブに映ってる子だよ。白銀の髪と青い瞳を持つ・・・水瀬深雪に似た子だ」

「女の子・・・ですか?」

「そうだよ。映ってただろ」

 スマホを出して、自分のチャンネルを開く。

 『イーグルブレスの指輪』の初回配信は既に10回万再生になっていた。新しいゲームだから、注目するリスナーも多いな。


「ほら・・・・」

 画面の中でリネルが解説の途中で映り込んで、手を振っていた。2倍速にする。

「この子がリネルですね? 妖精の・・・」

「・・・・・・・・・」

 画面を見て硬直した。


「蒼空様、どうしましたか? 何かありましたか?」

「いや・・・・・・」

「?」

 ルーナの姿は映っていなくて、俺とリネルしか画面に映っていなかった。

 コメントもルーナのことに関するものだけは抜けている。

 確かに、ルーナに対してのコメントを見かけたし、リネルとルーナが話している部分もあったのに・・・・すべて消えていた。


 ルーナは確かに存在していたのに・・・こっちの世界のリスナーの記憶からも消されたってことなのか?

 単なるバグには思えなかった。


「蒼空様?」

「・・・なんでもない。少し疲れただけだ」

 RAID学園の校庭を見つめる。他ゲームから入ってきた幻獣が、水を飲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ