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18 焚火

 『マラコーダ』で数日前起こった黒い太陽のような紋章が浮かび上がる疫病について、セレナに聞いてもわからないと言う。

 焚火の火を見つめながら話していた。

「『マラコーダ』は広いからな。私も別にすべてを把握しているわけではない。まぁ、30人程度死ねば耳に入ってくるのだろうがな」

「そうか・・・」

「疫病はよくあることだ。魔族は戦闘には強いが、エルフ族がかける呪いには弱い。戦闘中に仕掛けられたトラップをうまくかわせなくて、かかってしまう者も多い」

「エルフ族・・・」

 あいつは、エルフ族ではない。

 だが、神喰らいというのは、エルフ族と何か関係があるのだろうか。


「何かあったのか?」

「俺がここに来たとき、そうゆう疫病にかかっている魔族を見かけたんだよ。今、生きてるのか、死んだのかは知らないけどな」

 あいつらの名前は、死の神の本に載っていたが、ルーナは魂を刈り取る前に死んだ。紋章が消えても、名前が残っていたことはわかっていたが、俺も役割を放棄した。


 死の神ラダムが代わりにやったのだろうか。

 もし、俺がこのまま名前が書かれた者を無視していけば、死者はどうなっていくのだろう。


 知ったことではないけどな。



 パキッ・・・


 焚火に薪を足す。少しの風に、周辺の木々がなびいていた。

 エリスが膝を抱えて座ったまま、ぼうっと火を見つめている。

「くしゅんっ」

『エリス、大丈夫? 少し熱っぽいけど』

 リネルが小さな手をエリスの額にぴたっとくっつける。

「少し体がだるいだけですわ。これくらいすぐ治りますわ」

「ポーション持ってるよ。って、風邪なら状態異常の薬草とかのほうがいいか・・・薬草は、あったかな? 道具屋で色々準備しないでここまで来たから・・・」

 モニターを表示して、所持品を確認する。


「お気になさらず。元々、こうゆうことはよくありましたから」

「仕方ない」

 セレナが立ち上がった。


「状態異常を治す魔法など簡単だ」

「えっ、あっ・・・・・」

「セレナ」

「じっとしていろ」

 戸惑っているうちに、セレナが人差し指をエリスの額に置いた。

 小声で何かを言うと、指先がぱっと黄金に輝く。


「っ・・・・・」

「エリス!」

 ふわっと力が抜けて、地面の上に寝転がってしまった。

 慌てて駆け寄る。


『え、え、え? 大丈夫?』

「大げさだな。状態異常を治したら、体の力が抜けて眠ってしまっただけだ。こいつは弱いからな。すぐに目を覚ますだろう」

「すぅ・・・すぅ・・・」

 エリスが安らかな寝息を立てていた。

 皮の毛布を上からかけてやる。城の中で育ってきたんだから、魔族の都市なんて適応できなくて当然だ。相当な疲労もあったんだろうな。


「全く・・・こんな奴にやられそうになるとはな」

「エリスが召喚した、あの、フィンとかいう女神は強いのか?」

「女神は昔から魔族とは仲が悪くてな。こちらの弱点を多く知っているだけだ。別に特別強いというわけじゃない。私だって油断していなければ、あんな奴自分で消せたわ」

 言葉とは裏腹に、表情からは悔しそうな感情が読み取れた。

 セレナって意外と顔に出やすいみたいだな。


「セレナはどうして人間が憎いのか?」

「人間というか魔族以外だな。昔色々あったのだ。私は憎しみで生きているようなものだ」

 サファイアのような瞳はどこから見ても美しかった。どんなに残酷なことを話していても。


『ソラー』

 リネルが少し高いところから降りてくる。

『ねぇねぇ、ソラ。あの崖の上のほうから水の音が聞こえるの。ちょっと行って水を汲んでくるね。エリスに冷たい水を飲ませたほうがいいと思うから』

 小ぶりなカップを出していた。

「俺も行こうか?」

『大丈夫。ソラはここにいて。エリスもいるし・・・えっと・・・本当にすぐ戻ってくるから!!』

「?」

 ちらちらセレナのほうを警戒しながら言っていた。 

 まだ、セレナのことを信用していないのか。

「あぁ、ありがとう。気を付けて行って来いよ」

「うん。いってきます」

 羽根を広げて、風に乗るようにして飛んでいった。



「半径60メートル以内は私の結界の中だ。モンスターどころかカラスでさえ近づけない。私よりも弱い者ばかりだからな、必要以上に心配することないぞ」

「わかってるよ」

 セレナの結界の威力はすごかった。

 『マラコーダ』から、日が暮れるまで歩いていたが、一度もモンスターと遭遇していない。少しくらい遭遇して、経験値を上げたかったけど、エリスの体力を消耗してしまうからな。


「リネルはすぐ道に迷うんだよ。人見知りだしな」

「あの子には、お前が死の神だって言っていないのか?」

「あぁ、心配かけたくないからな。それに、プレイヤーが死神の職種を与えられたって、あまり知られたくないんだ」

「そうゆうものなのか」

「そうゆうもんだよ」

 プレイヤーの命も、俺が奪うことができるってことだからな。

 エリスの様子を見ながら、木の枝で薪をずらした。


「・・・・死の神の道具を持てば、俺は神になるから、本当はこれから死ぬ奴以外は姿が見えなくなるんだ」

「ん? そうなのか・・・・じゃあ、私は・・・」

「あのとき、どうしてセレナには俺の姿が見えたんだろうな」

 顔を上げて、まっすぐセレナのほうを見る。


「私は死ぬのか?」

「・・・違うと思うよ」

 白い肌を焚火の明かりがオレンジに照らしていた。

 ずっと気になっていたことだった。もし、セレナが死ぬ予定のないただの魔族なら、俺の姿は見えなくなるはず。

 でも、セレナはあの時、俺が剣を出してフィンを追い詰める瞬間をしっかりと見ていた。 

 こんな例外あるのか?

 やっぱり、セレナはルーナなのではないだろうか。


「フン、私は死ぬつもりなどない。お前の本に名前が書かれた時点で破り捨ててやる」

「ま、そうだよな」

 セレナが指を回して、結界を少し強化した。


「そんなことより、お前のステータスだ」

「ん?」

「あまりいろいろなことを一気に考えるな。お前の瞬発力や身体能力、戦闘のセンスの良さは認めるが、まだ回復魔法も覚えていないようじゃ、すぐ死ぬぞ。そっちのほうが重要だ」

「わかってるよ、経験値上げてかなきゃな。面倒くさいけどさ」

 後ろに手をついてため息をつく。


「ん・・・・私・・・・」

 エリスがゆっくりと体を起こした。

「体の調子はどうだ?」

「あ、楽になりましたわ。少し軽くなったような・・・」

「私の状態異常を治す魔法は体力の回復もするからな」

「・・・・・・」

 セレナがエリスのほうを見て、口角を上げた。

「あ・・・ありがとう・・・ございます」

 ぎこちなく呟く。顔色もよく、腕にあった擦り傷も消えていた。


 ばさっ


 リネルがカップを持って、木々から抜けてきた。

『はい、エリス。お水持ってきたよー。よいしょっと』

「ありがとうございます」

 カップを受け取って、ごくごくと飲んでいた。

「美味しい・・・・」

『でしょ? 私、こうゆうところ見つけるの得意なの』

「いつもありがとな」

『えへへ。どういたしまして』

 リネルが嬉しそうに笑って、くるっと回った。


「リネルとソラはどれくらい一緒にいるんだ?」

「初めて一緒に入ったゲームは、1年前の『ダリア神殿』だよな?」

『そうそう、アクションRPGで謎解きメインのやつ』

「1年前か。なんかもっと一緒にいたような空気だな」

「言われてみりゃ・・・」

 セレナがふっと笑う。

 突然、リネルが両手をぶんぶん振って飛び上がった。

『そ、そそそそんなことないよ。ソラとは1年前に初めて会ったし。うん、1年前に会ったばかりなの』

「何焦ってるんだ?」

『焦ってないもん。それより! さっき見たら、ここから先は山や谷が多かったみたいだけど、どうやって行くの? 徒歩だとかなり厳しいと思うけど』

 リネルが木々の向こう側を指さして言う。


「そうか。お前ら召喚獣も持っていないのだな」

 セレナが杖を出して、杖先を眺めていた。

「それでよくここで来れたな」

『あれ? そういえば、ソラはどうやって『マラコーダ』まで来たの?』

「え? ま、まぁ、色々と偶然が重なって上手くいったんだよ」

『偶然? んー、そうなの?』

 本当は道具を出して、死の神の状態になれば飛べるんだけどな。

 セレナが何か勘づいたのかくすくす笑っている。


「私の召喚獣で行こう。ちょっと荒々しいし、人間を乗せるとなると暴れると思うけどな。気にするな」

「えっ」

「暴れるってどの程度?」

「ははは、ほんのちょっとだ」

「・・・・・・・・」

 エリスと顔を見合わせる。セレナのほんのちょっとはあまり信用できない気がする。

 こっちの動揺を無視して、毛布にくるまって背を向けていた。

「今日はもう寝よう。明日は日が昇ったら行動するぞ」

「あ、あぁ・・・」

 深く息を吐いて、天を仰ぐ。


 『イーグルブレスの指輪』の世界は、謎に満ちていたけど、どこを切り取っても美しいことだけは変わりなかった。

 懐かしい星空だ。誰かに語った星座の物語にでてくるような・・・。

 星々の川から、さーっと光が流れてきそうなほど、澄み切った夜空だった。

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