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15 炎の女神フィン

 セレナに会って確信した。

 俺はこのゲームの世界を体感するのは初めてではない。

 記憶は霞んでいるが、俺は魔族の使う闇魔法を覚えている。自分の中に本来ある力も・・・。


「ん・・・・」

「あぁ・・・目が覚めたか?」

 エリスが体を起こした。ずっと泣いていたからか、目が腫れている。


「はっ・・・ここは?」

 すぐに警戒心を強めて、周囲を見渡す。


「ただの牢屋だ。俺たちがここに連れてこられてから、特に何も起こってないよ。安心して」

「あ・・・」

「今、リネルにこの辺りを見回ってもらってる」

 ランプに火を灯して、牢屋の真ん中に置いた。


「・・・・私・・・・・」

「とりあえず、ハーブティー飲む? 喉乾いただろう?」

「・・・・うん、ありがとうございますわ」

 水筒を開けて、ハーブティーを注いでいく。

 ラベンダーの香りが周囲に広がった。エリスがゆっくりと口をつける。


「美味しいですわ」

「『アラヘルム』の周辺のハーブを調合したんだ。ちょっとした気晴らしの趣味でさ、ゲームに来たら大体こうゆうことするんだ。実は料理とかも得意なんだよね」

「そうなのですか」

 自分のカップに注いだハーブティーを飲む。


「ふぅ・・・なんだか懐かしい味ですわ。アポロン王国の庭にも、綺麗なお花がたくさん咲いてましたの。ラベンダーやカモミールもよくハーブティーにして飲んでましたわ」

「へぇ・・・・」

「・・・アポロン王国は炎帝が治める大きな国の一つなのです」

 エリスがランプの明かりを見つめながら話した。


「今までは平和だったのですが、先日、炎帝が老衰で亡くなりまして・・・。新しい炎帝の候補は何人かいたのですが・・・中々決まらず。手薄になっていたところを、魔族に狙われましたの」

「炎帝か・・・」

「幼少期から、アポロン王国は強いものだと教えられてましたので、まさかたった1日で攻め込まれると思いませんでしたわ。おそらく、市民も、誰も予想してなかった。兵士もギルドもアポロン王国を出ていたもので、突然の戦闘に対応することができたかったのです」

「・・・・・・・」

 ぼさぼさの髪を手櫛でとかしながら続けた。


「私は3人兄妹の長女。兄はゆくゆくは王になるため、勉強していますの。妹はまだ幼い4歳。おてんばで、いつも城の中を走り回るから大変でしたわ」

「へぇ、俺にも兄がいるよ。全然かかわりがないから、何してるかも知らんけどな」

 後ろに手をついて足を伸ばす。影が格子の外まで伸びていた。


「『マラコーダ』の魔族ってそんなに強いの?」

「一部の魔族が強いだけですわ。『毒薔薇の魔女』・・・とか」

 エリスの唇が微かに震えていた。

「・・・・・さっきの子か」

「そうですわ。『マラコーダ』から来た魔族が強かったのは『毒薔薇の魔女』によって、強化されたからじゃないかって言われてますの」

「・・・・・・・・」

 セレナ・・・彼女だけ周りの魔族とは明らかに違った。


 別格の力を持っている。

 ステータスを見たわけではないが、あんなに力を使っても、まだ10分の1ほどの力も使っていないのがわかった。


「でも、私もここでくすぶっているわけにはいかない。みんなにあんなことをされて黙ってるなんて、アポロン王国の王族の恥ですわ。何か戦火を残さないと」

「戦火って・・・」

 胸に手を当てていた。

「・・・ここで、あれを使わなきゃいつ使うって言うの? 私が、このまま負けたらアポロン王国の王族の名に傷つきますわ。本当はさっきこの力を使っていれば・・・私が躊躇してしまったせいで・・・・」

 ぎりっと奥歯を噛んで、ぶつぶつ話していた。


「しっ・・・魔族が来る」

「!!」


 カツン・・・カツン・・・カツン



 足音が近くなってきた。暗闇の中に、人影が浮かび上がる。

「ふふふ、もっと絶望してると思ったら・・・意外と元気そうではないか」

 雪のような肌に、銀色の髪。


「セレナ・・・」

 セレナが格子に手をあてて、すっとすり抜けて歩いてきた。


「この牢屋は私が特製で作ったものでな、無駄な抵抗をしなくてよかったな。人間が力づくで破ろうとすれば、即死していた」

「・・・どうして俺を生かした?」

「元々、アポロン王国の者しか殺すつもりなかったからな。お前は魔族の奴隷にでもなるのだろう? それはそれでみじめだけどな」

 ぐっと近づいてくる。


「ふふふ、私に怯えないのか? その、お前が持っている武器で私と勝負するか? 相手になるぞ」

「っ・・・・・・」

 柔らかくほほ笑む。闇から掴まれるような心地がした。


「『毒薔薇の魔女』・・・・」

「あぁ・・・貴女はね、一応生かしておくつもりだった。私は殺してもよかったのだけど、穏健派の爺どもがうるさくてね」

 エリスのほうに視線を向ける。

「穏健派の爺どもは、貴女がおとなしくしてるなら、魔族として迎えようと言っている。魔族として生きていくか、ここで人間として死ぬか・・・ふふ、魔族として生きるのも悪くはないぞ」


「ばっ馬鹿にしないでくださいます!? よくも、みんなを・・・私の目の前で殺してくれましたね」

 涙声で叫ぶ。

 服の中に手を突っ込んで、ペンダントを引きちぎった。


「ん? なんだ?」

「貴女を! 私もろとも道連れにしてやりますの!」

 赤い模様の刻まれた石にキスをする。


「っ・・・・これは・・・」

 瞬きする間もなく、セレナの頭上に魔法陣が展開された。

 光の輪が降りてきて、ぐっと体を縛る。

「!! 聖属性の魔法が混じっているのか? この強さ、人間のものではないな?」

「エリス?」

「・・・・・・・」

 エリスの瞳が炎のような色に変わっていた。


『わらわの名はエリスじゃない』

 急に声が変わった。


「誰だ?」

『炎の女神、フィンだ。わらわを呼んだのはこの姫らしいな』

 自分の手を見つめながら言う。髪がふわっと浮いて、毛先がオレンジになっていく。


『アポロン王国の王族か。自分の命と引き換えに、『毒薔薇の魔女』であるお前を殺すことを望んだようだ。大した姫ではないか』

「くっ・・・厄介な魔法を」

 セレナがフィンを睨みつけていた。

 一瞬で弓矢に変わり、矢の先から聖なる閃光を放っていた。


『もし、こやつがもう少し魔力を持っていれば、わらわも『毒薔薇の魔女』と魔族たちと遊べたものを』

「人間の肉体を借りなければ動けない、女神ごときがよくいう・・・」

『クククク、お前のそうゆう顔が見られただけで、ここに来た甲斐があったというもの。この娘には感謝しないとな』

 フィンがセレナをじっと見てほほ笑んだ。


「っ・・・・・・」

 弓を引く。矢の先がまっすぐにセレナのほうへ向けられる。


『ここで終わりだ。『毒薔薇の魔女』』


 ザッ


『!?』

 死の神の剣を出して、フィンの体に突き付けていた。

 ランプの明かりに照らされて、テイワズのルーンが赤く光っている。


「お、お前・・・・・・・」

『どうゆうことだ? それは・・・死の神の剣・・・・』

 フィンが弓矢を下ろして、少し距離を取る。


「そうだ。死の神が魂を抜くときに使う剣だ。本来であれば本に名前が書かれた者の魂を取るように言われているが、今はそんなこと知らん」

『どうしてお前がその剣・・・ただのプレイヤーじゃなのか?』

「あ・・・・・・・」

 セレナが何か言いかけて口を噤んでいた。


『なぜ、お前が『毒薔薇の魔女』をかばう!? そいつは、冷酷な魔女、多くの人間を簡単に殺してきた奴だぞ!?』

「・・・こいつに聞きたいことがある」

『お前には関係のないことを・・・・・・』

 フィンが目つきを鋭くして睨みつけてくる。


 セレナがどんな者であれ、殺されるのを黙って見ていられなかった。こいつがルーナと全くの別人であっても、な。


 俺は何か忘れてるような気がした。

 とても、重要で大切な何かを。


 『闇の王子、RAID学園って知ってる?』


「!?」

 セレナのほうを見る。今・・・。

「なんだ?」

「いや・・・・」

 フィンに近づいていく。


「セレナは殺させない。絶対にな。そのためには、どんな道具だって使ってやる」

 剣を構えて、深く息を吐いた。

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