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142 グレン

「あれ・・・私・・・」

 深雪が目を覚ました。ゆっくりと体を起こす。

「途中で気を失って、ヴァイスが治癒魔法をかけてたんだ。地獄に触れた感覚は死の神だろうと簡単に抜けるものではないらしい。大丈夫か?」

「うん・・・さっきまで、ヒナ? の声が聞こえたような気がしたんだけど」

 きょろきょろと周囲を見渡していた。


「ヒナなら、ついさっき『アラヘルム』のギルドの建物に行ったよ。地獄から生還したRAID学園の生徒たちがそこにいるから見てくるって」

「ヒナを一人にしていいの? だって、まだRAID学園の生徒が消えちゃう可能性もゼロじゃないから・・・」

「ヒナは大丈夫なんだよ」

「?」

「・・・・・・・・・・」

 ヒナは、ヒナの父親が主要キャラとして合格と言っていたからな。

 モノみたいに言われるのは腹立たしいが、ヒナを消す気は絶対にないだろう。


「へぇ、水瀬深雪か。見てたよ、すごかったね」

 グレンが近づいてきた。

「あ・・・貴方は?」

「そうか、紹介がまだだったな」

「僕はグレン、あまり目立った戦歴はないんだけど、闘技場に来る前までは靴磨きをしてたんだ。水のフィールドでソラたちと出会ってからは、一緒に行動してたんだよね。よろしく」

「っ!!!」

 深雪がいきなり立ち上がる。


「どうした・・・?」

「グレン・・・貴方は・・・・」

 何かを言いかけて、はっとして正面を見る。



「深雪」


 背中から、低い声が聞こえた。どこか聞き覚えのあるような、微かな雑音交じりの声。

 さぁーっと葉が揺れる。


「パパ!!」

「!?」

「来てくれてたのね」

 深雪が表情を明るくして、パパと言われた男のほうへ走っていく。

 毛皮のマントを羽織った、背の高い40代くらいの男だ。

 肌の色は浅黒く、背中に大剣を背負っている。胸元には、ギルドの紋章が描かれていた。


 ”タニタ”とは違う。違う時間軸のバトルフィールドで会った奴とも・・・。


「深雪も地獄に行ったと聞いて心配してたんだ。でも、RAID学園の生徒は戻すって契約をしたのか。結花の行動は興味深いね」

「パパ、しばらくはそのアバター使うの?」

「ははは、そうだね。いろいろあったし、しばらくは『リーネスの馬車』のギルドマスター用アバターで、この世界にいるつもりだよ」

 笑いながら、マントを後ろにやった。


「それから、今はパパじゃなくてジルと呼ぶように。気にする者も多いからね」

「もちろん、わかってるけど。ボロが出ちゃったらごめんね」

 深雪が嬉しそうに話していた。

「・・・・・・・・・・」

 奥歯を噛む。

 こいつが深雪を、籠の中に入れているのにな。


「ねぇ、パパは地獄に行かなかったの?」

「私はこのゲームに魂を入れてないからね」

「・・・・どうゆう意味だ?」

 深雪の横に並ぶ。足元に落ちていた枝がぱきんと割れた。


「蒼空」

「『イーグルブレスの指輪』の世界で死んでも、お前らクリエイターは死なないってことか?」 

「君はRAID学園の天路蒼空君・・・いや、今は闇の王に戻ったのか?」

「んなことはどうでもいい。一部の奴らは、魂を『イーグルブレスの指輪』に入れずに入ってるのか?」

「当然だろう。私たちクリエイターが魂を入れてたら、世界が成り立たないじゃないか」

「っ・・・」

 プレイヤーは入ったときに知らされるのに、こいつらは・・・。


「なぁ、グレン」

「・・・・・・・・・・・」

 ジルがグレンのほうを見た。

「グレン・・・?」

「・・・・・・」

 グレンが黙ったままジルのほうを睨んでいた。


「なるほど。自分のことを言わずに、闇の王と行動していたのか。さすがだね」

「・・・僕はお前らとは違う。一緒にしないでくれ」

 鋭い口調で言う。

「そうかそうか。まぁいい。今回のことはお互い予想外だ。『アラヘルム』で争うつもりはない。いいね?」

「わかってるよ」

「じゃあいい。話が分かるクリエイターでよかったよ」

 ジルが深雪のほうに目を向ける。 


「深雪」

「ん?」

「ついておいで。『リーネスの馬車』のギルドメンバーも生き残りは少ない。一度君の顔を見せておいたほうが安心するだろう。君はこのゲームのヒロインだからね」

「でも・・・・」

 深雪がちらちらこちらを気にしていた。

「いい。深雪に何かするつもりはないだろう?」

「もちろんだ。ほんの数分だけギルドに顔を出したら、すぐにここに戻そう」

 『アラヘルム』の樹を見つめる。


「それにしても、ここは良い場所だね。深雪も地獄に触れている。ここにいたほうが、ある程度体力の回復も早いだろう」

「うん。じゃあ、蒼空、すぐ戻ってくるね」

「あぁ」

 深雪がジルと一緒に、丘を下りて行った。

 モニターを出して、服装をRAID学園の制服に戻しているのが見える。

 ジルに向かって、楽しそうに何かを話していた。



「ソラ・・・」

「ん?」

「ごめん。騙すつもりはなかったんだ・・・って言っても無理があるかもしれないけどさ・・・」

 グレンが耳に手を当てると、モニターが現れた。

 プレイヤーが出すのとも違う、見たこともないものだった。


「僕、異世界からモブに転生したって嘘なんだ。本当は『イーグルブレスの指輪』を作ったクリエイターの一人なんだ」

「・・・じゃあ、お前もジルみたいなアバターなのか?」

「うん。あ、でも、ずっと靴磨きやってたってのは本当だよ。この世界に馴染みたくてさ」

 ため息交じりに言った。


「『アラヘルム』が、大体のメンテナンス拠点になってるんだ。闇の王が近未来指定都市TOKYOを転移させたから、呼び出されたんだよ。僕がすることは、特になかったんだけど」

 指を動かして、画面を流す。

「ソラのことも、ごめん・・・最初から気づいてた。一部の人間だけがログインできる管理画面で見ると、明らかに闇の数値が高いのがわかってたから。ほら・・・ここに書いてあるのが裏コード。僕たちしか読めないけど、ソラの属性値が書いてある。死者の国の王であることも」

「・・・・・・」

 コードのようなものが書かれている。


「演技が上手すぎるだろ」

「まぁ・・・なりきっていたからね」

 疑ったことも無かった。

 どの発言を思い返しても、引っかかるところなんてない。


「この世界で、僕はモブなんだよ。ろくな青春時代を送らなかったって言うのも本当で、ただ、死にたくても死ねなかったんだ。だから株式会社エクリプスに就職して、このゲームの作成に関わって、自分がモブキャラになって作った世界の中で楽しみたかった」

「俺たちに近づいたのは、クリエイターとしてか?」

「・・・違うよ。僕から見ると、闇の王ソラも、結花も、魅力的なキャラだ。何を考えているのか、どんな行動を起こすのか、近くで見てみたくなったんだ。欲が出たんだよね」

 グレンがモニターを消す。


「ただの好奇心だよ。友達になりたかった。闇の王がクリエイターを嫌っているのは知っているし、もう、無理かもしれないけどさ」

「・・・まぁ、今更、お前を責める気ないよ。何者だろうが、良い奴だってわかってるしな」

「ソラ!」

「抱きつくなって」

「おわっ」

 グレンをするりとかわした。

 少しバランスを崩して、こけそうになっていた。


「いいじゃないか。友達なんだから」

「いきなり気持ち悪いことするなよ」

 肩に落ちた葉を払う。


「結花のことも、何か予想してたのか?」

「・・・いや、クリエイターの誰もが予想していなかったと思うよ。あの、RAID学園の生徒を消していった連中ですら、何も気づいていないはずだ。みんなパニック状態だろうね」

 グレンが『アラヘルム』の樹を見上げる。


「近未来指定都市TOKYOも、『アラヘルム』もこの世界のキャラもすべて、僕たちクリエイターたちがいろんな技術を持ち寄って作った。確かにベースは作ったんだけどさ・・・」

 目を細める。

「後は、明らかにキャラが世界を動かしてるんだ。さっきの『リーネスの馬車』のギルドマスターやっているジルも、気づいたんじゃないのかな」

「・・・・・・」

「あいつらがどう考えてるのかは知らないけどさ、僕はそれがたまらなく嬉しいんだ。なんのシナリオも無く、自由に動き出したこの世界が・・・ね」

 『アラヘルム』の樹に手を当てて噛みしめるように話していた。

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