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132 新ルール

「あ、ハンス様」

「ん? 結花は?」

「さっき、回復の水を取りに行ったばかりです。すぐに戻ってくると思いますよ」

 観客席に戻ると、ヒナが真っ先に俺を見つけた。

 グレンが足を伸ばして、息をつく。

「みんなしてひどいよな。目覚めたら誰もいないんだもん」

「お前が勝手に寝てただけだろうが」

「休息地、お勧めでしたよ。七色のお風呂とか、好きなアロマを選べたり、AIロボットによるマッサージもあったり、もう、本当に楽しかった。グレンもどうですか?」

 ヒナが頬をほくほくさせながら言う。


「いいんだよ。僕はここでBグループの様子を見るんだ。せっかく予選通過してここにいるのに、くつろいでたらもったいないじゃないか」

 グレンがバトルフィールドの様子を見ていた。


「ちょうど、グループ決めですね」

「その場で、決めた4人組なんて、厳しいよな。しかも、AIによるランダム数値で決められるんだろ?」

「ゲームでは運も実力だからな」

 Bグループの予選通過者は多い。

  くじ引きで決められた4人で64組作り、上位2組だけが通過するという、新しいルールが追加されていた。

 予選通過者の中には苦々しい表情を浮かべている者もいたが、直接文句を言いに行く者はいなかった。


 Aグループのほうが早く予選通過した者たちだ。

 運営側に優劣つけられるのは当然だというのが、バトラーの暗黙の了解だった。


『では、公平性を保つために、このボールの中からグループを決めていきます』

 ここりるが巨大なボールの中に、予選通過者の名前の書いた紙を入れていた。

 中には一体のロボットがいて、名前を見ずに引いていく仕組みらしい。


「面倒なことするね。ちゃちゃっと決めちゃえばいいのに」

「決まるのは一瞬だと思いますよ。ほら、時間も表示されましたし」 

 ボールの前にはモニターが表示されて、『10分前』の文字が表示されていた。


「グループとトーナメントは一気に決まりそうですね。意外と早いかもしれません」

「さすがに、休憩が長すぎたし、そろそろ呼び出されるかもな」

「そうですね。あ、私たち、RAID学園の生徒の配信も見てたんです」

 ヒナが指を動かして、2画面開いて、片側に深雪の配信を映した。


「さっき、水瀬深雪が配信を始めたのですが、一気にRAID学園の配信ランキング一位になったんです。一瞬、他の画面表示が重くなってしまったのでびっくりしました」

「水瀬深雪って有名だよね? 華奢な美少女って感じに見えるけど、この子めちゃくちゃ強いんでしょ? やっぱり、RAID学園って粒ぞろいだよな」

 グレンが深雪を見ながら言う。


「結花だって僕から見れば、相当強いのに。スコアは下のほうって言ってたし」

「私たち、ゲームはたくさんこなしていますから。通常プレイヤーより優秀なのは、当然ですよ」

「グレンが転生する前にいた学校はどんなことするんだ?」

「どんなことって・・・あぁ、転生前か・・・」

 どんどん顔色が悪くなっていった。 

「勉強勉強勉強の勉強漬けだよ。国語、外国語、数学、化学、物理、日本史、世界史・・・んで、偏差値とか出て、下のほうだともう人生終わりって感じで・・・試験前とか・・・わー思い出すだけで吐きそう」

「悪い、責めるつもりはなかったんだ」

「いいよ。僕ができなかったから、暗い人生だっただけだからさ」

「・・・・・・・・・・・」

 そんなにひどいものなのか。

 深雪には濁して伝えておくしかないな。


「偏差値とは、スコアみたいなものでしょうか?」

「そうそう。でも、RAID学園の生徒だったら、外の世界に行ったって優秀なんだろうな」

「さぁな。俺たちはゲームの中でスコアが決まるから、勝ち抜く知識を持たなきゃいけなかっただけだ。何度もゲームオーバーになるわけにはいかないからな」

 消された者は、どうなっているんだろうな。


 配信では深雪がテキパキと今回の装備品について説明していた。

 軽く魔法を見せて、コメント欄を沸かせている。


「外の世界の学校は面白くないのですか?」

「僕はほぼイベント無しで生きてきたから・・・・あ、でも、文化祭っていうのがあったんだよ」

「文化祭?」

「あぁ、クラスで出し物をするんだ。歌ったり踊ったり、店を出したりしてさ、普段厳しい先生たちもはっちゃけてるから、めちゃくちゃ面白いよ」

 グレンがぱっと表情を明るくした。


「そうそう。文化祭だよ。そうゆうイベント、RAID学園には無いの?」

「んー・・・そうですね。ぴったりあてはまるのが無いような。私たち、基本はどこかのゲームに入っているので・・・ハンス様、どうでしょうか?」

「文化祭か・・・」


 ボウッ


『すみません。バグじゃな・・ごほっ』

「?」

 いきなり、深雪の配信画面が煙まみれになった。

 すぐに払いのけて、せき込みながら謝っている。


「あれ? なんか、今日の水瀬深雪の配信はぎこちないですね。予選は余裕で通過したはずなのに、緊張してるのでしょうか」

「本当だ。ちょっとローブの裾焦げてるのに、気づいていないで配信続けてるみたいだし。やっぱり、どんな完璧な子でも弱い部分はあるよね」

「彼女の場合は周囲のプレッシャーもありますからね」

「・・・・・・・」

 深雪が魔法を失敗したのは初めて見たかもしれない。

 今は、ムーンストーンの皿を渡しに行くのは止めたほうがよさそうだな。



「結花、遅くないか?」

「言われてみれば・・・ちょっと見てきます」

 立ち上がろうとしたヒナを止める。

「いや、俺が行く。確か北側だろ?」

「はい」

「・・・・・・・」

 何か嫌な予感がした。

 回復の水は深雪から聞いていた2か所からは離れているからまさかとは思ったが・・・。




 フードを深く被り直して、回復の水の場所へ向かった。

「俺らのギルドからはBグループ通過者3人だ」

「プレイヤー2人と、魔導士1人。全員、攻撃タイプなんだよな」

「もう、ここまで来たら運にかけるしかない」

「そうよ。小さなギルドから3人も出たんだもの・・・・」

 どこのギルドも自分たちのギルドから新帝エンペラーを出したいらしく、祈るようにグループ発表のモニターを見上げていた。

 知名度が上がれば、依頼されるクエストも違うからな。

 俺も別のゲームに入っていた時は、ギルドクエストの全体ランクが上がるよう意識していた。



 回復の水は女神像の持つ桶から湧き出る水だった。

 バトル時に一度だけ使用していいことになっている水だ。

 人だかりの中に、結花の姿を見つける。

「結花」

「蒼・・・ハンス、どうしてここに?」

 結花が水筒の蓋を閉めて、首をかしげる。

 特に変わったところはないみたいだな。

「戻ってくるのが遅かったから迎えに来たんだ。RAID学園の生徒の単独行動は危険だ。戻るぞ」

「あの・・・」

「!?」

 結花の手首を引っ張ろうとしたとき、すっと視線を感じた。

 死の神の持つ本の匂いが・・・・。


「ヴァイス・・・どうしてここに・・・」

「やぁ」

 壁際に、ギルドの戦士のような格好をしたヴァイスが立っていた。

 目が合うと、にやりと笑う。


「マジで闇の王ソラがここにいるとは思わなかったよ。だって闇の王討伐メンバーを決めるイベントだろ?」

「お前・・・・」

「安心して。今は死の神ヴァイスだ。ほら、本を持ってるだろ? 周りの人には、俺の姿が見えない」

 死の神の本を片手に載せながら言う。


「その子を除いてね」

「?」

「あの、私、ハンスの知り合いだって聞いて、少し話し込んでたんです。死者の国『リムヘル』について、ハンスに聞いたことなかったので」

 結花が明るい口調でほほ笑んだ。


「結花、今、こいつが見えるのか?」

「はい。なんでなのかは、自分でもわからないのですが・・・ヒナさんも見えるようですし、RAID学園の生徒の特権みたいなものでしょうか」

「・・・・・・・・・」

 ヴァイスが腕を組んで、バトルフィールドのほうを眺めていた。

「・・・・ヴァイス、聞きたいことがある。結花をヒナたちのところに連れて行ってくるからここで待っててくれ」

「りょーかい。俺も聞きたいことがあってここに来たからさ」

「では、失礼します」

「ヒナさんによろしく」

 死の神の本を持ったまま、軽く手を振っていた。

 結花が死の神ヴァイスを見えるのは、ヒナとは違う気がした。あの、得体のしれない魔法と関係があるのだろうか。


「・・・・・・」

「ハンス? どうしたのですか? あまり休めませんでした?」

「いや、ゆっくりできたよ。よく眠れたしな。結花は?」

「はい。私たちも休息地を満喫しまして・・・こう、ハンモックのようなところでぐっすり寝たんです。鳥の声が聞こえて気持ち良かったです」

 ふと、結花からバラのような香りがした。

 満面の笑みで話しながら、元来た道を歩いていった。

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