10 初心な死の神
配信で説明しながら、鉄刀でモンスターの弱点を一突きする。
心臓部分にあった赤い点滅が消えて、泥人形の形が崩れていった。
経験値:55ルビー
獲得ゴールド:10G
獲得アイテム:なし
「今のは序盤に出てくるモンスターだ。最初のほうは弱点が赤く点滅して見えるようになっているから、そこを突けば倒せる。経験値は大体表示されてるくらいしか増えないから、地道に周辺モンスターを倒していくしかないみたいだ」
『うぅっ・・・泥臭い』
リネルが鼻をつまんで近づいてくる。
「わ・・・本当に強いね。一瞬だった・・・」
『そう。ソラは強いの』
「鉄刀でここまで早く動けるなんて・・・確かにドラゴン族よりも強いかもしれない」
ルーナがリネルと話している。
コメントを見ながら、マイクについた砂を払った。
「これくらいかな。今、話せるのは。もっと強い敵になったら、色々情報を伝えられると思うんだけど・・・え、ルーナ?」
「ん?」
コメント欄がルーナの話ばかりだった。
そりゃそうだよな。こんな弱小の敵倒したところで、リスナーは面白くもなんともないだろ。
「私が見えてるの? やっほールーナだよ」
ルーナがにこにこしながら、ゴーグルに向かって手を振っていた。
『もう、私がいるのに、ルーナのことばっかりなんだから』
「はぁ・・・・」
今日はここまでだな。
水瀬深雪の名前が上がってきている時点で大分まずい。
「短くてごめん。またゲームに進展があったら配信するから」
「・・・・あれ?」
電源を切って、画面を閉じる。シュッと音を立てて、ゴーグルが消えた。
「もう、配信終わっちゃったの?」
「まぁな。試しにやってみただけだし、環境は問題なく接続できるみたいだ」
モニターを表示して、獲得経験値を確認する。
まだ、500ルビーもいってないのか。いちいち見てたら気が遠くなるな。
もう、しばらく経験値に関しては放っておくか。レベル上がったら、表示されるし。
『ソラ』
リネルがふわっと飛んでモニターを映す。
『途中でごめん。RAID学園から呼び出しがあったみたいで・・・』
「あぁ、いいよ。しばらくセーブポイントもなさそうだし」
『なるべく早く戻ってくるね』
「気を付けて。いってらっしゃい」
『・・・・・・』
リネルがちょっとルーナのほうを見てから、羽根をパタパタさせて、光の中に入っていった。
「慌ただしいのね。RAID学園?」
「あぁ、リネルはたまにRAID学園から呼び出されるんだよ。何をやってるのかは知らないけど」
「そうなの?」
「まぁな。それよりも、『リーネスの馬車』に戻らなくていいのか? ギルドならクエストとかこなさなきゃいけないんだろ?」
「私のギルドはあまり縛りが無いから。他種族の交流って感じで・・・・」
ルーナがぴたっと動きを止めた。
「・・・・蒼空、仕事よ。蒼空の本にも、名前が書かれたでしょ?」
「え・・・・・・」
全然気づかなかった。手を動かして本を出す。
「ここから近い・・・西の方角ね」
「待っ・・・・」
ルーナが本と剣を出して、地面を蹴った。慌てて、ルーナの後をついていく。
「・・・・・・・・・」
アラヘルムの木よりも西のほうを飛んでいた。
草は無くなり、地面はごつごつした岩肌が目立っていった。
昼間で日差しは当たっているのに、どこか冷たいような気がする。
これが、闇の魔力なのか。
「ルーナ、どうしてさっきから急に無言なんだ?」
「亡くなる予定の人が多いから。面倒だなって思って」
「え?」
「リストをちゃんと確認してる?」
慌ててページを開く。1,2,3,4,5・・・・。
「8人!?」
「私は10人書かれてるの。合計18人の魂を狩らなきゃいけない」
「18人って・・・何があったんだ?」
「ここまで多くの魂を一気に狩るのは久しぶりね。たまにあることだから、あまり心配しなくていいよ」
ルーナの服装はいつの間にか黒いローブになっていた。
「でも、ちょうどよかった」
「な・・・・何が?」
「闇属性を究めたいなら魔族のこと、ちゃんと見たほうがいいでしょう?」
「魔族のこと・・・」
「そう。ここから見える、あの岩のほうあるでしょ?」
尖った岩を指した。
「あの裏側に、魔族がいるわ。ちょうどいいから、ついてきて」
「・・・・・・・」
ルーナの表情から、背筋が凍るような緊張感が漂った。
「きゃああああああああああああ」
「!?」
岩陰に入ると、すぐに女の子の甲高い悲鳴が聞こえた。
魔導士の格好をした者が3人、2人の女の子を囲んでいた。
彼女は座り込み、服は脱がされて、一枚の布をかけられているだけだった。
「なっ・・・・・・・」
「簡単に、魔族というものを、教えてあげる」
ルーナが、すっと地上に降り立った。近づこうとすると手を上げて止められる。
「危険よ」
「危険って・・・・」
じゅううううぅぅ
背中に何らかの模様の刻印が浮かび上がっている。
魔族・・・なのか? 人間のような顔をした者が2人と、耳の尖った者が1人、何かを唱えるたびに、少女たちの刻印が紫色に光っていた。
「ジャダン様・・・も、もっとしてください。痛いのと気持ちいいの、どっちの好きです。ジャダン様・・・」
「もう十分やっただろう?」
「まだ・・・もう少し・・・」
少女の一人が恍惚の表情を浮かべて、男に近づいていく。
豊満な胸を寄せて、足に抱きついていた。
「あっ・・・・」
甘えた声を出している。
ルーナのほうを向く。
なんか想像してたのと違うような・・・。
「・・・何してるんだ? あいつら・・・」
「『アラヘルム』から連れてきた、奴隷の少女よ。たぶん、途中で死にそうになったから、力を与えてるところね」
「力って・・・」
少し離れたところから説明していた。
「ジャダン様・・・私も、お願いです。ナタド様っ」
「待て、ラミア、もう少し力を与えないと、お前の体が・・・」
「我慢できません。ナタド様が優しくしてくださるので、どうか」
もう一人の少女がじたばたしながら、男の首に手を回していた。ナタドが少女の背中に手を回している。
「・・・・・・・」
「魔族はこうやって欲望を支配する力を持ってる。奴隷になったとはいえ、こ、こんな姿にさせるなんて・・・・」
「力って・・・あの刻印で服従させてるのか?」
「いえ、あの刻印は奴隷の刻印で魔力を封じ込めるだけ。でも、魔族が体に触れると、あの少女みたいになっちゃうの」
ルーナがピンクになった頬を覆っていた。
拍子抜けしていた。ルーナの正体がますますわからないな。
クゥザの反応から、ルーナが魔族である可能性も考えていたんだが・・・。違うのか?
「魔族の特性なのかも。あ、あんな・・・」
別に、魔族に限らないような・・・。
「なんか・・・エロゲみたいなシチュだな・・・」
「え? エロゲ?」
「この手の行為に特化したゲームがあるんだよ」
正直、この手のイベントは数ヵ月前にやった『ガタリ』というゲームのサブイベントでもこなしたことがある。
もっと嫌々やらされてる少女を救出するクエストだった。彼女たちの場合、喜んでるみたいだし。
クリエイターの性癖が出てるんだろうな。
「で、俺の本にはここにいる者の名前が書いてないみたいだけど・・・」
「そ、そうゆう意味じゃなくて。だって、平気なの? こんな・・・」
「まぁ、こうゆうイベントって結構どこのゲームでも見るというか・・・魔族に限らないよ。人間だって」
「え・・・」
「っ・・・・」
もっとえぐいのたくさんあったし。
ルーナとここにいる状況が一番気まずいんだが。
「ルーナって姿見えないからって、こうゆうの、のぞき見してるのか?」
「し、しし、してるわけないでしょ! もう、早く仕事に行くから」
沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にさせて、そっぽ向いた。
「ルーナ・・・?」
「・・・・・・・」
俺の言い方も悪かったな。
飛んでる間もしばらく、話しかけてもそっけない言葉しか返ってこなかった。




