表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/149

99 人形の意思

 遠い昔のことを思い出していた。

 はるか遠く、俺がまだゲームの中の闇の王だったとき・・・。


 確か、ユグドラシルの樹のふもとにいたときのことだ。

 最初は戸惑っていた”ヒトガタ”にも、見慣れてきた頃だっただろうか。


『ねぇ、闇の王子、闇の王子は血の繋がった親がいる?』

 ルーナがクリエイターが作りかけて捨ててしまった、”ヒトガタ”を撫でながら聞いてきた。

 少女の手足の生えた岩が、地上を這うように蠢いていた。


『どうした? 急に』

『いるのかな? って、ちょっと疑問になっただけ。答えたくなかったらいいの』

『別にいいよ。父親は居る。母親が居るのだとしたら、混沌だ。俺は混沌から生まれたからな』

 あまり気にしたことは無かった。

 どうも、この世界の者は両親というものを気にするらしい。


『そっか』

『ルーナはどうなんだ?』

『私は誰も居ないんだ。肉の親が存在しないの』

 少年の岩が、ぎょろっとルーナを見る。


『この子たちもいないから、一緒だね』

『ん? お前は王族の血を継いでるんじゃないのか?』

『それはタニタが作った設定なんだって。本当は、タニタが別の世界から、この世界に私を置いたの』

『ふうん』

『・・・・・・・・』

 サファイヤのような瞳を、ゆっくりと瞬かせる。

 大したことではないように思えたが、ルーナにとっては大きなことだったらしい。


『クリエイターたちが居る世界ではね、肉の親が存在しないと、心がないって思われるんだって。私が持ってるのは人工知能だから・・・』

『タニタの話ばかり真に受けるなよ』

『わかってるけど・・・』

 マントを後ろにやって、ルーナの近くに座る。

『闇の王子・・・少しずつ欠けたこの子たちは、私によく似てると思うの』

『そうか? こいつらそれぞれ違うからよくわからんが』

 ”ヒトガタ”は知性は感じられなかったが、ルーナが話していると、反応を示していた。


『私ね、時々考えるの。もし、自分に肉の親が居たら、何か変わってたのかなって』

 陶器のように真っ白な腕を触りながら話していた。


 あのときのルーナの言葉を、あまり真剣に受け止めていなかった。

 水瀬深雪になった今でも、足りない何かを求めているのだろう。



 ガンッ


 闇と光がぶつかり、激しい火花が飛び散る。


 ぶわっ・・・・


 深雪の剣に触れると、反動で風が巻き起こっていた。

 ドローンが電子音を立てて、バタバタと落ちていく。


「さすが、闇の王・・・強いね」

 深雪がひらりと花びらのように、攻撃をかわしていた。

 傷つけないようにと思っていたが、深雪を相手にさすがに難しいか


「深雪、お前は俺のことを思い出せないかもしれない」

「?」

 深雪が白銀の髪をなびかせて、剣を切り返す。


「でも、俺は何度でもお前を救いに行く。俺が死んだ後に何があったのかはわからないが、先に死んで悪かった」

「・・・何を言ってるの?」

「・・・・・・・・・・・・・」

 自分が死ねば、深雪は何度死んでも生まれ変わるループから逃げ出せると思っていた。 

 でも、実際はこの世界に転移させられても、同じ扱いを受けていた。

 死んでも死んでも、メンテナンスが入り、記憶を消されて蘇る。

 『パパ』と呼ばれる存在が深雪に執着する限り、深雪が解放されることは無い。


「俺と来い。今度こそお前は・・・」

「か、勝手なこと言わないで! 私は・・・『パパ』のためにここにいなきゃいけないから」

 深雪が展開した魔法陣を、瞬時に封鎖する。


「な!?」

「水瀬深雪、自分だけの意思で生きろ! お前はどうしたい? 何かのためじゃない、お前のことだ」


 キンッ


「え・・・・」

 深雪が攻撃の手を緩めた。透明な剣がしゅんっと煙のように消えていく。

「お前が俺を守ろうとしたように、今度は俺がお前を守る!」

 

 ジジ・・・・ジジジジ・・・・



「!?」

『深雪』

「パパ・・・?」

 パパと呼ばれていた男が、深雪の隣に並んだ。


『君はパパの愛で生きてるんだ。さぁ、闇の王と戦おう。ここにいる、みんなのために・・・』

「あ・・・私は・・・・」

『愛されなくなったら、君は消えてしまう。君に与えられた強さも、全て失ってしまうよ。エラーを起こす人工知能は危険とみなされてしまうんだ』

「・・・・・・・」

『君を育むものは愛なんだよ。深い深い愛から生まれた雪のような子』

「黙れ。この世界に体を持たない奴が・・・・」

 深淵の剣を握りしめる。男がこちらを見て、笑みを浮かべていた。


「闇の王、私・・・・パパを裏切ることはできない」

 空に手をかざして、巨大な魔法陣を展開する。


『それでいい』

「でも・・・」

『?』

「なぜかわからないけど、彼の闇がとても懐かしい。心地よくて温かいの」

  

 ― 天界の雷 ― 


「!?!?」


 バチンッ


 地上の電源が切れて、りまとえまが消えかかっていた。

 プレイヤーたちが慌てて、予備電源に切り替えているのが見える。

『どうした?』

「蒼空、私を連れて行って」

「あぁ・・・・・」

 伸ばしてきた深雪の手を取る。


『深雪!』

「ごめんなさい、パパ」

「ソラ様、早く行かなければ、面倒なことになります」

 深優がふわっと飛んで、横に並んだ。


『遅いね。この闘技場は、元々、キャラのメンテナンスの場として作られたものだ。強く作られた者など、いくらでもいる』

 男がモニターを出して、手を動かすと、地上にバトルに出るはずだった者たちが集っていた。

 中には神々らしき者もいる。

「っ・・・・・」

『僕が合図を出せば彼らは一斉に君たちに襲い掛かるだろう。闇の王は、光のヒロインである深雪に倒してほしかったんだけどね』

 男がメガネをくいっと持ち上げた。


『深雪、君は大切な大切な仲間だ。闇になんか染まっちゃいけない。君を愛するリスナーはたくさんいる』

「私は・・・・・」

「水瀬深雪、さっきのが貴女の判断です」

 深優が深雪と男の間に入る。


『深雪のコピーが・・・深雪に何か吹き込んでいたのかい?』

「違うわ。深雪が自分で決めたこと、あと、私、名前をもらったの。深優っていうの」

 3Dホログラムの男の手に触れようとする。


「私が一緒にいる。私はパパと一緒にいます」

『・・・そうか、では、深雪のメンテナンス期間の配信を任せるよ』

「はい。お任せください」

 深優がこちらを見て、一瞬だけほほ笑んだ。


 シュンッ


「あれ?」

 深雪の光の翼が消えていくと同時に、天界の角笛フューガの魔力も消えていった。

「魔力が消えた? あ・・・・」

 急に落ちそうになった深雪を抱える。

「急に魔力を切ったな」

『闘技場は、深雪のメンテナンスの場だ。まだ、暴走することを考えて、魔力制御はまだこちらにあるんだよ。こちらは1001、闇の王を阻止せよ』

 男がエンターキーのようなものを押下する。


 パーンッ


 光の矢のようなものが放たれた。地上にいた者たちが、一斉にこちらに攻撃を仕掛けてくる。


 ドドドドドドドドドドドッドドドドド


 切り裂くような竜巻が巻き起こった。

 巨人の男が、大きな斧を振り回して風を起こし、隣にいる魔導士が、体の一部をドラゴン化させて、火を噴いていた。


 ― 凍てつく刃 ― 


 キキとペペが竜巻に突っ込んでいき、氷魔法をぶつけて無効化する。

「やっと、出番でしね」

「長くて暇だったでし」

「キキ、ペペ? 会ったことあるような、ないような・・・」

 深雪が不思議そうに、2人を見つめていた。


「セレナ様が2人いて動揺していましが・・・」

「自己紹介はあとでし」


 ザザザザザザザザザザッ


 体の3倍はある双剣を振り回して、アーチャーの打った矢を裂いていった。

「あいつら相手には魔力が必要でしね」

「そうでし」

 剣を掲げたペペの近くに寄る。


「深雪が魔力を切られた。俺は思うように動けないから、援護を頼む」

「了解でし」

 キキとペペが互いの掌を合わせて、一人になっていた。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ