9 初配信
「へぇ、西の方角に行くんだ」
『そうなの。モンスターは強いっていうけど、ソラなら大丈夫』
「・・・・・・・」
死の神ルーナとリネルが普通に話してる状況が怖い。ルーナは何考えてるんだ?
死の神の仕事の時だけ、一緒に行動するわけじゃないのか?
「ルーナ、『リーネスの馬車』ってギルド、どこにあるんだ?」
「もちろん『アラヘルム』よ。プレイヤーもいるよ」
『プレイヤーも?』
「そう。プレイヤーはギルドに名前を残したほうが、チームを組みやすいでしょ。あとは『リーネスの馬車』は種族関係なしに受け入れる『アラヘルム』最大のギルドだから集まりやすいの」
「どうしてルーナがプレイヤーの事情を知ってるんだよ」
「え・・・その、常識だからよ」
「・・・・・・・」
なんか、怪しい。
リネルがルーナの前に出る。
『ねぇ、妖精もいいのかな?』
「もちろん。リネルみたいな小さな妖精もギルドに所属してるよ」
『私も入ったほうがソラのために・・・うーん』
リネルが警戒しながら、ルーナににじり寄っていた。
リネルがいると、色々聞きにくいな。
余計な心配かけたくないし。
「あ・・・」
『どうしたの?』
「悪い、リネル。配信するときのパスワード忘れた」
『えーっ』
「悪いんだけど、再発行しにいってもらえるかな? 俺、ほら、セーブポイントじゃなきゃ戻れないから・・・・」
『もう、しょうがないな。パスワード再発行って、結構時間かかっちゃうんだけど、私ならすぐに対応できると思うよ。なるべく早く行ってくるから、ここで待ってて』
「ありがとう」
本当は覚えてるんだけどな。嘘ついて申し訳ない。
『じゃあ、いってきまーす』
ぽんっ
リネルがぱっと消えた。
ルーナが魔導士のローブをなびかせて近づいてくる。
「あの子には、蒼空が死の神だって伝えてないのね」
「言うわけないだろ。それより、ギルドの存在が初耳なんだけど。ルーナ、ギルドの魔導士なの? あれだけ、死の神とプレイヤーを両立させるの、反対してたのに」
「一応所属してるの。意外となんでもできるのよ」
両手を広げてみせる。
「『リーネスの馬車』に入る前は他のギルドにいたんだけどね・・・それはいいわ」
「・・・?」
「ま、死の神にもいろいろあるの。ねぇ、西の方角に行くって本当?」
「え・・・まぁ・・・」
ぐぐっと近づいてくる。
「私の説明全然聞いてないじゃない。西のほうが強くて、プレイヤーは最初、北か南のほうに行くって話したばかりなのに」
「わかってるって」
「どうして、西のほうに決めたの?」
「・・・・・・・」
真剣な表情で詰め寄ってきた。
ルーナには嘘をつけないな。
「魔族がいるからだよ。ルーナ、俺は闇属性を極めようと思ってる」
「え?」
「プレイヤーとしては、闇帝を目指すつもりだ」
「なっ・・・・!?」
雷に打たれたような表情をしていた。
「・・・どうして、闇帝を目指そうと思ったの?」
「ルーナ、『アラヘルム』について、俺に何か隠してるだろ? 俺がクゥザと会話している途中で、ルーナはクゥザの魂を狩った。クゥザが言おうとしたことは、ルーナにとって聞かれたくないことなのか?」
「・・・・・・・・・・」
一歩下がって視線を逸らしていた。
「・・・・まぁ、ルーナにはルーナの事情があるだろうし、別に責めないよ。無理に事情を話せ、とも言わない。でも、プレイヤーとしての俺の行動は自由だ」
「そうね・・・・」
風が草原を撫でて、草の匂いが香る。
「じゃあ、さっき言った通り、私も一緒に西に行くわ。もともと、一緒に行動するつもりだったしね」
「俺の監視役か?」
「ただの好奇心よ。そんなに警戒しないで。今は、『リーネスの馬車』の魔導士のルーナなんだから。魔法だって使えるよ。ほら・・・」
人差し指から光の球を出して、ふわふわ浮かせていた。
「これは聖属性の魔法。治癒魔法よ」
「・・・・・・・・・」
「まだ、回復魔法は覚えてないでしょう? 一緒に行動して蒼空にデメリットはないと思うわ」
ルーナが敵なのか味方なのかわからないけど・・・。
「あぁ・・・そうだな・・・」
個人的にはあまり、疑いたくないな。
華奢な手でつかんで、ぱちんと割った。七色の光が弾ける。
「何度も言ってるけど、西のモンスターは強いから気を抜かないようにね。通常プレイヤーには絶対おすすめできないルートなんだから。蒼空がどんなに強くても、この世界は他のゲームとは違うからね」
「あぁ・・・そういや、俺が死んだらどうなるんだ? 死の神でもあるのに・・・」
「私が魂を狩る。いつもそうだったから」
「いつも?」
「・・・・・・」
ルーナが顔を背ける。
「死の時期はほとんどの魂が決めてきていることなの。蒼空の名前がリストに載ることになったら、ただ時期が来た・・・ってだけ。情はないから」
「・・・わかってるよ」
急にひんやりとした口調になる。ごくんと唾を飲んだ。
「ルーナ・・・どうして俺が・・・・・」
「そろそろ戻ってくるんじゃない?」
「あ・・・」
ドンッ
「!!」
『きゃっ! ごめん! ソラ!!』
「い・・・いいよ」
突然現れたリネルが勢いあまって、おでこにぶち当たってきた。
よろけた体勢を戻して、おでこをさする。ちょっとズキズキした。
『パスワード再発行してきたよー。私の名前でログインしてみて。再設定画面に移るから』
「あぁ・・・」
耳を触ってゴーグルを出す。モニターの画面をキーボードに変えた。
「ん? 何してるの?」
『配信のログイン確認よ』
「配信?」
ルーナが物珍しそうに覗き込んでくる。
「あぁ、入れたよ。リネル、ありがとう」
『どういたしまして』
リネルが嬉しそうに手を口に当てた。羽根がきらっと輝く。
「配信できそうだな。試しにやってみるか」
キーボードを操作して、配信用画面に切り替えた。SNSで配信を告知して・・・・。
「どうなってるの?」
「このゴーグルにカメラがついていて、こっちでも出来事をリアルタイムに発信できるんだよ。こうすると・・・ほら、コメント欄も見えるだろ?」
キーボードの横にコメント欄を表示する。
徐々に同時接続数が増えていった。
「へぇ・・・・・」
『ソラはゲームのプレイスキルがすごいから、注目されている配信者でもあるの。この同時接続数っていうのが、今見ている人で・・・』
リネルが小さな手を画面に置いて、ルーナに説明していた。
「配信見てくれてありがとう。ここが、VRゲーム『イーグルブレスの指輪』の世界だ。まだ、敵はあんまり倒してなくてレベル低いんだけど、とりあえず世界だけ伝えようと思って・・・」
リスナーに向けて話をしながら、ゆっくりと回る。
コメント欄は徐々に盛り上がっていた。リネルが画面に張り付いてるから、あとで確認しておくか。
「どうして配信しなきゃいけないの?」
『ソラのいる近未来指定都市TOKYOはVRゲームの世界を実現させようとしてるの。そのデータ収集で、みんながRAID学園の配信者に注目してる。もちろん、ゲームの世界が好きなのもあるけどね』
「そうなの・・・。近未来指定都市TOKYOかぁ・・・」
『ルーナは他のプレイヤーと会ったりした?』
「ギルドにいるからね」
リネルの警戒心が少しずつ解けているみたいだな。
腕がピンとなってるから、まだ完全に心許してるわけじゃなさそうだけど・・・。
コメントではやっぱりルーナのことに触れている人がいた。水瀬深雪に似てるしな。
あまり映さないほうがいいか。水瀬深雪の配信を荒らしたくないし。
「ん?」
「あ、いや・・・・」
ルーナが首を傾げた。
「初回は『アラヘルム』から始まる。そうそう、あの綺麗な市。全体的にプレイヤーに対して友好的だから、プレイヤーは色々質問してみるといいよ。そうそう・・・『ユグドラシルの扉』の世界観に似てるんだ。あの木とか、見えてるかな?」
リスナーと会話しながら、周囲を映して説明していた。
 




