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虚空へ飛ばす言葉は愛

作者: 一ノ関珠世

  世界に悪質で感染力の強い新型のウイルスが蔓延して久しい。ここ半年で生活様式も大きく変わった。息苦しいマスクだって慣れてきたし、鞄の中には携帯用のアルコール消毒液だって入っている。風邪が流行する時期以外の石鹸の使用を出来る限り回避する私が、今では家に帰ると、厚生労働省から推奨されるやり方で隅々まで洗い、うがいも欠かさずするようになった。実家にいる妹にも見せてあげたい。清らかなる水のみで手を洗った後、高速で振り自然乾燥に頼っていた姉はもういない。


 ウイルスを互いに感染させないようにする為、人と人は社会的距離をあけるようになった。社会的な距離を心掛けているとよりその距離のことを考えてしまう。そもそも今住んでいるこの土地ですら私との心理的距離は遥か遠い。ここに住んで数ヶ月経ち、顔見知り程度は出来たけれど、その適切であるとされている距離を埋めるような何かが誰とも無いことが余計に自分の中の寂しさを浮き彫りにするのだ。


 この春苦しい受験勉強の末大学に合格し、故郷から遠く離れた地に来た。けれどもその新型ウイルスのお陰で授業は全てオンライン。その為に同郷の友人も多くは実家に帰り、家で過ごしているようだ。私もそうすれば良かったのだろうけど、同居の祖父母が高齢でもし自分がそのウイルスを運んでしまえばと思うと恐怖を感じて動けなかった。そうこうしているうちに全国で第二波と呼ばれる流行が始まってしまい、年内の帰省は諦めたのだ。



 大学が開講していた期間は余りにも短か過ぎた。初めましてと連絡先の交換、手探りの交流だけで私の学生生活が切り取られてしまったので、社会的距離を埋めるほどの何かが芽生える程の時間を過ごすことができなかった。


 家族や故郷の友人と連絡もとるけど、やはり時間帯は気にしてしまう。孤独が暴れ始めるのは決まって皆が寝静まる夜遅くなのだ。


 この話はそんな孤独の輪郭が明らかになって誰かの温度が恋しい夜から始まった。

 

 誰かの温度が恋しいといっても、誰とも恋愛をしたことが無い大きなお子様である私は、寂しいからといって一夜の相手を探すなんてハードルが高すぎる。周囲の皆が使っていて安全性が高いと思われるアプリを誰かと出会う為に使うことも何だか構えてしまう程なのだ。そもそも恋愛という繋がりが欲しいのでは無い。私を息苦しくさせるほどの膨大な時間を潰していく為のレスポンスが欲しいのだ。



 この新しい生活様式の中で人々を繋ぐ役目が与えられたアイテムは何と言ってもパソコンとスマートフォンだ。とりあえず私はベッドにも持ち込めるスマートフォンを選び、お気に入りのタオルケットと敷布団の間に身を滑らせた。そして私はスマートフォン所持者のほとんどが利用しているであろうメッセージアプリを起動させる。


 このメッセージアプリにはユーザー検索というのがある。未成年を犯罪に巻き込まない為に18歳以上じゃないと使えない機能だ。



 私はそれに適当に文字と数字を打ち込み、検索をかけた。



 いくつか候補が並ぶ。私はそのうちの一つを選んでメッセージを送ることにした。その人はアイコンがすごく綺麗な砂浜の写真だった。どこの海かは分からないが、白い砂浜と海の青、空の青がとても美しく見えた。私の故郷も海に面した田舎町なので、郷愁を刺激されたということもある。名前はアルファベットでReiと書かれてある。性別不詳なところもまた謎めいていて良い。



 ちなみに私のアイコンは自粛期間中の春に見つけた道端の花だ。その頃は初めての土地への好奇心で探検家よろしくその辺を用もなくぶらぶら歩いていた。黄色いタンポポと薄紫のスミレの花が身を寄せ合うように咲いていたのが可愛くて思わずスマートフォンのカメラに収めたのだ。名前はシンプルに下の名前を漢字表記にしている。



 まずはイタズラでも、詐欺メッセージでも無いと判断してもらえるようなことを書かなければならない。私は無い頭でうんうん唸りながらこんなメッセージを送ることにした。


――こんばんは。今回の新型ウイルスの蔓延は本当に厳しいですね。時間を持て余していて、少し知らない誰かと話してみたいと思ってメッセージを送りました。綺麗な海の写真ですね。 注)詐欺でもイタズラでもありません。

 


 文面を考えている間はちょっとしたイタズラを仕掛けているようなうきうきとした気分になった。


 そして私は小学生の頃、風船に手紙を付けて飛ばしたことを思い出した。虚空に向けて飛ばした手紙は同じ市内の散歩中のおじさんの手に渡った。そう、思ったより遠くには飛ばなかったのだ。その後数年に渡り手紙のやり取りはしたが、あれは田舎だからこそ出来たことだろう。こんな都会では出来るような事ではない。



 実はその後性懲りもなく瓶の中に手紙を入れて川に流したが、そちらは返って来なかった。環境破壊も甚だしい。若気の至りだ。



 さーて、これでよしとメッセージを送った後で思ったが、やっぱり全体的に胡散臭さが漂っているように思う。こんなメッセージを知らない人に送ってしまったことにつと羞恥心が湧き上がってきて身を焦がす程に悶えた。しかし深夜のテンションでやってしまったことだ。きっと全ての若者には一つや二つこんなやらかしがあるはず。あれこれ私何回目のやらかしだ?私のお母さんやお父さんだって、お爺ちゃんお婆ちゃんだって……と知っている人全てのやらかしを想像したところで眠くなったので寝ることにした。



 寝る前にもう一度メッセージを送った画面を確認するが、既読はついていない。やってしまった感しか無いが、いい暇つぶしになったのでよかったよかったで締めることにする。




 次の日起きると既に太陽は高くまで上がっているようだった。さぁ、まずは朝ごはんだ。


 コーヒーメーカーをささっとセットして、冷蔵庫から卵と冷凍の枝豆とチーズとベーコンを引っ張り出す。ちょっと大きめのタッパーに卵と枝豆とキッチン鋏でちょん切ったベーコンにチーズを入れてかき混ぜる。ボウルを出すほどでも無い時に大きめのタッパーは本当によく活躍してくれる。その後平たい皿にラップをぴっちり敷いてかき混ぜた卵液を流し入れてレンジでチン。コーヒーのいい香りを胸いっぱい吸ってる間にオムレツの出来上がり。包丁もまな板もフライパンも綺麗なままでこちらを見ているので、私も嬉しい。


 トースターでこんがり焼いたパンにオムレツを乗せて、コーヒーに牛乳を入れたら、ほら朝ごはんの出来上がり。


 塩っけはベーコンとチーズ頼みだけど、お好みでマヨネーズやケチャップを付けてもうまい。粗挽き胡椒とか入れてもいいと思う。買ったこと無いけど。



 もきゅもきゅ食べながら朝の感染者数確認タイムだ。当初は100人を超えるだけで、知事の会見となり震え上がっていたが、今では数百人になってもふんふんと流せる程慣れてきた。所詮何の技能も金も持たないしがない大学生の自分は、マスクして手を洗って消毒して三密を避けることしか出来ないのだ。



 そう自分の為すべき事をも確認した後に、恐々昨日送ったメッセージの画面を開くと、隣に小さく既読は付いていた。知らない誰かごめんなさい。悪気は無かった。そこに君がいたからやっちゃっただけだ。と言い訳を心の中で唱えてうっちゃることにした。


 

 そして私はオンライン授業やそれに伴う課題をしながら日中は過ごす。疲れたら休憩がてら散歩に行く。そうやって時間を潰していく。


 大学生になったからアルバイトもやってみたいと思ったが、飲食関係は軒並み消費が冷え込んでおり、雇い控えの嵐だ。清貧な大学生達の収入を得る手段まで奪っていく新型ウイルス憎しである。


 とりあえず何をするにもこの流行病が収まるまでは動けないと諦めて、勉学の他は趣味に勤しむしか無いと悟った。なので空いているコマは本ばかり読んでいた。ちょっと心が寂しくなっていたので、今日は私のバイブル『クレヨン王国』シリーズを読むことにした。人生で大切な事は全てクレヨン王国が教えてくれた。辛い時こそ童心に返り、心を柔らかくするのだ。




 そんなこんなでうだうだ過ごしていると、再び夜が来る。




 大好きなバスボムを使ってゆっくりと湯に浸かりながら、スマホを見ていると、ピロンと間抜けな音が響きメッセージが入った。まさかの昨日送ったメッセージの人からだ。



――つまり暇なんですか


 おおう、鋭いっ!


――イエス、ザッツライト( ^ω^ )

 

 オマケに最近の推しスタンプのキュートなカブトムシも押しておいた。


 直ぐに既読が付き、返信が返ってくる。暇つぶしに付き合ってくれるらしい。ありがたいことだ。


――では最近見たり食べたり読んだりして心に響いたものを教えて下さい。


 早速嗜好チェックが入るのだなとどきどきしながら書いていく。こういう時に下手に見栄をはるのは良くない。心のままに自分を相手に開示してゆくことが大事なのだ。それが相手に自分を知ってもらうということだ。


――チョコミント味のアイスクリームにはまっています。あのミントとチョコの香りが鼻に抜けつつ爽やかな甘みが舌に溶けていくのがたまらないんですよ。


――食レポか。チョコミントは歯磨き粉の味としか思えない。


――大人になれば分かる味です。お子様ですか?


――年齢ではもう成人だ。


――心に響く本はクレヨン王国の新12カ月の旅ですね。


――ちょっと待った君こそお子様か?


――投票には行ける年齢です。さては児童書を馬鹿にしてますね。婆さんになっても覚えているのは女学生時代に読んだ本だってうちの祖母が言ってましたよ。


 何とも言えない顔をしたサンショウウオのスタンプが返される。可愛い。R e iさんのスタンプのセンスは私と似たものを感じる。


――映画ならこの前借りた時計仕掛けのオレンジがすごかったです。クラシックの音楽にこんなシーンをくっつけるのかと思って。映像も過激だし、仲間内で使うスラングも独特だし、目がシパシパしました。


――一気に対象年齢が上がったなwwwウケるwwwwでもキューブリック面白いよなっw


――他の作品も見てみたいです。何かオススメありますか?


――王道で博士の異常な愛情も面白かった。是非見てほしい。


――今度見てみます!Reiさんも教えて下さいよ。心に響いたもの。


――もう遅いからまた明日


 そう返ってきたのでお互いにおやすみのスタンプを押して今日のところはお終いにした。明日の約束が出来たことが嬉しい。私はちょっぴしうきうきしながら眠りにつくことができた。




 次の日はまた同じ位の時間にまたReiさんから連絡があった。


――イクラ丼、オアシス(監督イ・チャンドン、小説も)


――簡潔っっっwwwwwww


――魚卵の中でもイクラは素晴らしい。赤い宝石だ。


――詩人www私もイクラ好きです。プチっと口に広がる海の滋味……至福の時間が過ごせますよね。


――食レポやべぇwwオアシスは泣けた。見た方がいい。映画を見た後小説を読むとヒロインのコンジュがどんなことを考えながら生活しているのかが丁寧に描かれている。脳性麻痺の女の子と刑務所から出所したばかりの男との純愛だ。社会から見た二人と本人達とのズレが切ない。あ、感動ポルノものとは違うからな!


――さてはReiさんは映画好きの読書好きですね


――大抵の暇な大学生は映画好きの読書好きになるようになっている。


――私も大学生なんですよ!


――だと思った。俺も今オンライン授業ばっかで暇だからな


――男の子でしたか


――なんだと思っていたんだ


――れいかちゃんか、れい子ちゃんだとばかり……


――嶺二だ。ちなみに、優の読み方はマサルやスグルじゃないだろうな…


――ゆうです!生物学的に見ればメスです\(^o^)/





 そうして暇な私達はお互いにオススメしたものを試したり試さなかったり、趣味が合うものもあれば合わないものもあったりとそういったことを報告する為毎日メッセージを送り合うようになった。もう完全にマブダチだ。ここまで毎日メッセージを送っていると、会ったことも無いのにやたら親しい気分になってくる。


 

 2週間程経ったある日私はどうしてもReiがどんな顔をしているのか気になった。さすがにお洒落イケメンはこんな私とメッセージを送り合ってもらえないと思う。何故なら彼らは女に不自由しない人種だから。でもこんなに仲良く毎日メッセージしてるんだから顔ぐらいは知りたい。なので思い立ったが吉日、写メを送ってくれないかなー?と頼んでみた。


すると


――やだ。


の一言だけが返ってきた。うわーお、即断じゃん。しかし私はとてもしつこい女なので、



――でもでもこんなに毎日メッセージを送り合ってるのに!いつかReiたんに会いたいよう´;ω;`)ウッウッ


と送ると、ちょっと罪悪感を覚えさせることが出来たのか、



――テレビ電話なら可。


と来たのでガッツポーズをしてしまった。


 よしよしと内心ほくほくとしていると、Reiさんは早速そのメッセージアプリ内の通話を使って来た。が、すかさず私は通話を切るボタンを押す。


――今は無理だ_(:3 」∠)_


――なんで?外出てる?


――初対面の印象がスッピンヘロヘロパジャマでは浮かばれない。


――お前、意外に女だったんだな。


 失礼な!私のなけなしの乙女心が今の格好はダメだと言っているのだ。とりあえず電話は明日の昼にしてもらうことにした。





 次の日私は朝から程々に可愛いゆったりとしたワンピースに気合いが入り過ぎない程度に化粧を施した。

 


 時間ぴったりに私から電話をかける。とりあえず挨拶をしたが、初っ端から画面越しに爆笑された。


「めっちゃ喋り方なまってるやん。どこのド田舎出身やねん」

  

 画面をどこかに固定しているのか、彼は身をよじりながら笑い転げている。失礼な奴め!笑いの沸点低すぎか!


 こっちに出てきてから、出来る限り標準語っぽく喋ろうとしてるけど、アクセントだけはどうしようもない。


 明らかにブスくれているのが伝わるように返答する。


「四国の蜜柑が美味しいとこですよー!もう!笑いすぎでしょ!」


「ごめんごめん!メッセージからはアクセントなんて分からへんやん?優ファーストインパクト強すぎやから!あんなメッセージ送るとかどないな子か思たら案外普通やし」


「嶺二さんは関西の人なんですか?」


「そやで。さすがに知らん人間相手に自分が住んでるとこ筒抜けになるんは嫌やから標準語っぽくメッセージは返しててん」


 なるほど。話言葉にはどうしても地域性がでてきてしまうけど、標準語はつるりとした仮面みたいな匿名性があるもんな。


 初めて見た嶺二さんは爽やかなブルーの半袖のシャツを着ていて、それがよく似合っていた。顔がくしゃっとしながら笑う顔が少し幼く見えて可愛い。


「優は今はどこに住んでんの?大学で故郷からは出てきてんのやろ?」


「ええ、わたくし四国から味噌カツの美味しいとこまで来てしまいましたよ」


「ほんま食べもん好きやなあ」


「人を食いしん坊みたいに言うのやめて下さいよ!」


 

 嶺二さんとは初めて話したが、会話はテンポ良く続くし、面白いしで、すぐに緊張は霧散した。





「もうすぐ誕生日やろ?予定あんの?」


「あると思いますか?」


 憮然とした顔で返すと、ないんやなと言って嶺二さんは楽しそうにケタケタ笑っている。


「じゃあ、ちょうど土曜やし車で行ってもいい?」


 散々笑った後にそう言ってくれた嶺二さんの眼差しがやけに優しくてドキッとした。


 とんとん拍子で私のバースデーパーティーin我が家の予定は決まっていった。


「こっちで美味しいケーキ買ってくな〜」

「やったー!生クリームがたっぷりなやつお願いします!」

「3時のおやつに間に合うように行くから、ちゃんと掃除しとくんやで。パンツ出しっぱなしはあかんで」

「分かってますーーー!!!」


 うぉう、古傷をえぐってくれる!以前カメラ通話している時、洗濯物を取り込んだ山を放置していたところが背景に写ってしまったのだ。更に残念なことに、私のヘロヘロの下着を山のてっぺんに置いていたのがばっちし見えていた。本・気・で、記憶を消せる消しゴムが心底欲しくなった。


 カメラは出来るだけ固定で!なんなら背景はぼやかす!これ、カメラ通話のお約束だよ!



 そんなこんなで私の誕生日当日です。


 ハッピーバースデー トゥ ミィ!


 異性と過ごす誕生日は生まれて初めてよ!


――着いた


 家の近くのコインパーキングまで迎えに行く。手を振る若いにーさんに笑顔で手を振り返した。マスクをしているといっても目の表情って大事だ。


「優?思ったよりちっこいな〜。誕生日おめでとッ!はいケーキ」


 ケーキの箱を受け取って嶺二さんを見上げる。ぴったりと顔の下半分を覆うグレーのマスクが似合ってる。


「嶺二さんはデカいですね、180近くありませんか?」

「ギリギリないねんな〜。178㎝やねん」


 嶺二さんはすらりと背が高く、その身長差が新鮮で落ち着かない。画面越しで話すよりもずっと私は緊張していた。



 部屋に着いたら早速手洗いうがいをする。換気も良し。


 誕生日ケーキは私の希望通り、生クリームがたっぷりのフルーツケーキだった。美味しい。コーヒーを入れて二人で食べながら話していると当初の緊張も緩み、あっという間にいつもの空気感になった。


 そうなってしまえばもう堰が切れたように二人でふざけたり、笑い転げたりして瞬く間に時間が過ぎて行く。


 こんなに楽しい時間を異性と二人で過ごしたことは初めてだった。


 窓から差し込む光はぐんぐんと赤みを帯びて行く。別れる時間が迫っていることに私は気付いていながら、少しでも時間が伸びるようにポンポンと話を飛ばしていく。嶺二さんはそんな私を知ってか知らずかその話に乗ってくれる。


「ゆーう。そろそろ日も暮れて来たな」


 ああ、もうお終いか…。残念ながら楽しい時間は直ぐに過ぎてしまうものなのだ。


「そんな顔して…」


 時の早さに対する不満はしっかり私の表情に出ていたらしい。


 嶺二さんは少し苦笑すると、立ち上がって私の横に腰を下ろす。近い。その上ちょっとずつにじり寄って、私の側面と触れる距離までやってきた。


 社会的距離がぐっと縮まる。


 私はこの状況に頭が混乱していた。嶺二さんはそんな私を見て、少し笑って私の耳元に顔を寄せた。

 

「優、付き合お。俺な、優のこと好きやねん。こんな毎日話しても飽きひん人初めてやで。どうせ言うなら会うた時に言いたかってん」


 耳元で囁かれた言葉に顔が熱くなる。

 嶺二さんは今どんな顔をしているかは恥ずかしくて振り向けない。私は身体をぎゅっと縮こませながら頷いた。


 嶺二さんが、ふはっと笑うのが聞こえる。


「きんちょーしてる?」


 私はその問いにもヘドバンよろしく頭を上下に振って頷いた。


「俺も」


 肩をぐっと引き寄せられて抱きこまれた。ふわりと香る嶺二さんの匂いに、回された腕に、心臓が破れそうだ。


 その日嶺二さんはとっていたホテルはキャンセルし、私の家に一泊していくこととなった。




 新型ウイルスはなかなかしぶといようで収まる気配は微塵も無い。新しい生活様式とともに私達はウイルスと共生していかねばならないようだ。


 社会的距離という概念は他人との物理的距離を広げさせたが、それでも人々の心理的距離は離れないで欲しいと私は思う。


 まぁ、結局何が言いたいかというと、こんな時だからこそ人との関わりを怖がらず、愛を伝えて行こうぜと言うことだ。


 


おしまい。

これ、フィクションです。私の知る限りでこんなメッセージアプリは無いと思います。

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