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第34話 ─ ちょっと捻くれてみただけの異邦人 ─ …ある男の独白

 俺は思い出す。子供の時の思い出を。

 楽しい思い出が出てくれば良いのに、いつも嫌な思い出ばかりだ。



「母さま。今日は僕、狩の師範にウサギの物真似が上手いなって言われたんだ」


「…………」


「母さま……? それでね、『狩りが上手くなってきたのはウサギの気持ちがわかるからかな』って、師範が」


「…………」


「母さま……? あ、あのね僕、今日は狩の師範に……」


「……うるさい」


「母さま……?」


「ウサギの気持ちが分かるのが何なの!? だったら森でウサギと一緒に暮らしなさい!! 何でもかんでもお母さんに言ってどうするの!?」


「え……だって、この前は何て言われたか全部話しなさいって……」


「お母さん今しんどいの! それぐらいもう分かりなさい!! お母さんがいちいち全部言わなきゃ、まだお手伝いできないの!?」


「…………」



──フェットと出会ってから、長いこと思い出さなかったのに。

 嫌な記憶のフラッシュバックが、最近また起こるようになってきた。



*****



 この世界に転移したと分かった、あのあとの俺は、呆然としたままフェンス沿いをフラフラと彷徨って、空港の敷地内に入り込んでしまっていた。


 格好の時点でこの世界での不審者全開だった俺は、空港の職員に取り囲まれ、その後に警察に拘束されて牢にぶち込まれた。


 エストックと弓矢を持っていたのが一番の理由だったのだろう。当時は捕まった相手が警察だなんて毛ほども分かってなかったが。



 牢屋に入って状況に困惑しながら大人しく過ごしていると、何日かしてから黒い僧服を着た男が三人やって来た。

 その中の態度のデカい奴が警察の責任者っぽい奴に横柄な態度で何か指示していた。


 横柄野郎は残りの二人に顎をしゃくると、二人は俺を何かで後ろ手に拘束し、両脇から抱えて牢から連れ出した。

 建物の外には黒塗りの自動車──あの時は金属の棺桶と勘違いして暴れたっけ──に乗せられると、目隠しをされて何処かへ運ばれた。


 降ろされた先が“騎士団”本部。


 どこか王都の教会を思わせる建築群が立ち並ぶ街だった。ここも黒い石畳に全面地面が覆われている。

 俺はその中の、ひときわ大きな建物の中に連れていかれた。


 何もない殺風景な所に、飾り気の一切無い机と椅子があるだけの部屋に押し込まれる。


 椅子に無理矢理に座らされると、背中の方でガチャンガチャンと金属音。振り返ると、俺の背中の何処かと──十中八九、拘束された手からだろう──繋がった鎖が床の留め金に固定されていた。


 手をガチャガチャやってると、別の男が二人組で入ってきた。強面こわおもて優男やさおとこの組み合わせ。


「◯£◯△*⬛️✖️?」


 強面が俺の正面に座ると、威圧的に何かを話す。当然、俺は反応しない。出来ない。


「001000110!?」


 俺はどういう態度を取るのが正解なのだろうか。向こうの二人は、言葉が理解出来てるかどうかよりも、俺の態度を観察しているのを感じる。

 とりあえず姿勢を正し、顔は表情を出さずに正面を向く。


「この言語なら理解できるか?」


 少し驚いた。まさか元の世界の言語が飛び出てくるとは。


「ここは、俺が居た世界とは違う世界だと思っていたが、元の世界と何か繋がりがあるのか?」


「ほう、ここが自分の世界と違う世界なのを、既に理解しているのか。まぁ多くはないが、珍しい事でもないがな」


 強面は軽く片眉をあげると、そう俺に返答した。

 そうか、この世界に流れ着いたのは俺が始めてでは無いのか。ならば言語が通じるヒトが居てもおかしくはない。


「君はいわゆる『エルフ』だな? 残念ながら、ここは君の世界とは繋がりはない。魔法は使えなかっただろう?」


 うるせぇ、俺は魔法が使えねェんだよ。

 内心そう毒突くが、表情には出さない。

 平静を保ちながら、強面に向かって話す。


「まわりくどいな。何を知りたい。何を聞きたい。何を確かめたい」


 強面は、俺のその質問には答えず、優男を見た。


「今のところ、彼が『ダークエルフ』と規定される反応は出ていません」


「ダークエルフ?」


 優男の言葉に思わず食いつく。


「そうか、君の世界にはダークエルフの概念が殆ど無かったのだったな」


 と、優男。続けて強面が話す。


「貴様がこの世界の住民に敵対的な存在かどうかを、確認させて貰っていた」


 要するに、自分達に敵対的なエルフをダークエルフと分類しているということか。


「異世界からの来訪者は、その過程で超常的な能力を得る場合があるが、もしそういったモノがあるなら、教えて貰えると助かる」


「もしそういったモノがあるなら、素直に話すヤツはただの愚か者だ。こちらはお前達を信頼出来る材料を、何一つ見せて貰っていない」


 俺は警戒心あらわに答える。


「結構。こちらに敵対する意思は見られないが、それなりの警戒心も持ち合わせている。我々のメンバーとしてやっていけそうだな」


「まずは君に信頼して貰える材料の一つとして、その手の拘束を解いてあげよう」


「良いのか? 自由になった途端に、あんた達二人を殺しにかかるかもしれないぞ?」


 二人はお互い顔を見合わせて苦笑い。


「そんなに簡単に殺される人間を、こんな役目に立たせたりはしないさ」


「ぐうの音も出ないな。降参だ。手を自由にしてくれ」


 俺は天井を見上げてそう宣言した。

 優男が俺の後ろに回り、手の拘束を解きながら、俺に言った。


「ようこそ異邦人。この国(ステイツ)へ来た事を歓迎するよ」

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