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第23話 ─ 胸に残り離れない、苦い彼女への想い ─ その1…ある男の独白

この話からまた本編に戻ります

 俺たちは二手に分かれて森を進んでいる。こちらのパーティーの案内役は、向こうから預けられた魔法師の少女だ。


「挟み撃ちだ。おめーらは正面から。俺達は後ろから。そいつは案内役だ」


 と、一方的に言い放つと、弟はさっさと森のどこかへ消えていった。あまりに突然かつ勝手な行動に、引き返そうという意見もこちらのパーティー内からいくつか出た。


 多分……いや、絶対に引き返していたな、王の勅命でなかったら。


 弟は他人のそういう弱い所を見透かすのは上手かった。昔からそれで煮え湯を飲まされた事は数知れない。


「……なるほど……。これは……頭にくる、な……」


 ジビエさんが皆の気持ちを代弁してくれた。

 まあ愚痴を言っても始まらないので、気持ちを切り替えて森を進むことにした。


 こういう切り替えの早さも、彼等ベテランの凄いところだ。


 しかし、この時まだ俺達は、この先の道のりの困難さが分かっていなかった……。



*****



「きゃー! いやー! 蛇ー!!」


 そう叫んで、とんでもない大きさの大蛇の尻尾を踏んでしまった魔法師の少女が大蛇を連れて逃げてくる。森の中なので身動きに苦労しながら大蛇を退治する。


「いやあああ! ゴブリンの群れがーー!!」


 そう叫んで、ゴブリンの巣の呼子の罠に引っかかった魔法師のクソ少女がゴブリンの群れを連れて逃げてくる。数の多さに苦労しながら退治する。ある程度ビビらせたらゴブリン共は退却した。


「ああああああ! 熊が!大きな熊が!!」


 そう叫んで、飢えた熊をどこかから引っ張ってきた魔法師のクソガキ女が逃げてくる。

 こいつ今までよくこれで生き残ってこれたな!!

 熊は無傷で倒せたのが奇跡だと思えたが、何とか退治出来たぞクソったれ!


 ミトラがこのクソガキ女をいきなり押し付けた理由が分かった気がする!



 森が少し切れた岩場の広場が見つかったので、そこで俺達は気持ちを落ち着かせる為にも、一旦休憩を取る事になった。こんな不必要にトラブルが続けば、休憩しないとやってられんわ!


「ごめんなさい。私、いっつもこんな風にみんなの足を引っ張ってばかりで……。一生懸命にやってるのに……何でなんだろう……グスっ」


 半泣きになったトラブルメーカーが、涙声で言い訳する。リッシュさん達が若干憐憫の目で彼女を見ている。


「嬢ちゃんよお。今回はここまできた以上は仕方ねえけど、冒険者やめるか、もうちっと下位のパーティーに移って鍛え直した方がいいぜえ」


 ベッコフさんが気を使いながら、遠慮がちに言った。気を使っているのは態度で分かるけど、内容は結構身も蓋も無いけどね。


「私、冒険者以外に生き方を知らない……。他のパーティーに行くあても無い……。

最近は私に迷惑かけられるからって、ずっとみんなに虐められる……。

私……どうしたら良いの……」


 今にも号泣しそうな雰囲気を出しながら、口をへの字に曲げて、涙がこぼれそうなのを懸命に魔法師の少女は堪えている。座った足の上に置いた手が微かに震えている。

 俺達の同情心を得ようと必死だ。


 彼女の態度が演技か本気か分からないが、残念ながら俺には何も響かなかった。

 何故ならこれは、俺の母がよくやっていた手法だからだ。今まで何度も見過ぎて胸焼けしそうだ。


……それに。


 俺は、フェットの顔に自分の顔を寄せて、彼女の耳元で「悪い、ちょっと我慢しててくれな」と囁くと、トラブルメーカー魔法師のクソガキ少女に向かって言った。


「パンチェッタも今のお前さんと同じ気持ちだっただろうな。彼女が毒飲んで死ぬまで、キミは何をしていた?」


 同情とは真逆の冷たい俺の物言いに、クソガキは肩をビクリと震わせると、俺の態度が信じられないと言った表情で顔をあげる。


 きっと今まで困った事があると、この泣き落としで乗り切ってきたのだろう。

 見た目は美少女だ。有効な方法ではあったのだろうな。

 何の根本的解決にもなってないが。そしてそのツケが溜まったのが今だが。


「パンチェッタの性格を考えたら、彼女もどうしたら良いか分からない、袋小路の状況だっただろう。

 俺を見限った以上は俺の元には戻れない。別のパーティーに移ろうにも、二度も簡単に男を捨てた女となると、他のパーティーに拾ってもらえるアテが無い。

 そんな彼女の状況が分かってるから、皆で安心して虐めることが出来た。……違うか?」


 憐憫の情を抱きかけていたリッシュさん達の表情も変わっていた。黙って俺の言葉を聞いている。


 フェットは……俯いて口を固く閉じ、手をぎゅっと握り締めている。俺の言葉を断罪の言葉として己に刻み付けているのが分かる。


 そんな彼女の姿を見るのは、正直俺も辛かった。


 だがクソガキが目の前にいる以上、言わない訳にはいかない。一つのケジメだ。クソガキ相手にだけでもケリをつけよう。


「彼女を虐めて喜んでいたオマエが、いざ同じ立場になったら助けて下さいってのは。……しかも、自分から助けを求めるんじゃなくて、こちら側から助け船を出すよう誘導するってのは。

 随分と都合が良すぎる話じゃないのか?」

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