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第19話 ─ 貴方が思うほど貴方は悪くない ─…ある男の独白

「王からの勅命(ちょくめい)だ。例の牛頭の魔物が見つかったらしい。“ドラゴンスレイヤー”達と協力してこれを討伐せよ、という事だ。

 半月前に討伐に向かった軍の十人隊は、全滅したと国は見ている。何一つ連絡が無いらしい」


 リッシュさんが渋い顔で言ってきた。他の上位パーティーは出払っているらしい。

 知恵袋のラディッシュさんがリーダーであるリッシュさんに尋ねた。


「念の為、確認のために質問だ。派遣する軍の人数を増やして討伐する訳にはいかないのか?」


「ドラゴンスレイヤーの話では、マトモな道のない、あっても獣道(けものみち)程度しかないぐらいの奥地だそうだ。

 むしろ五〜六人から十人前後ぐらいが一番効率的に動けるようだな。整備された道の有る、森の浅層ならともかくとして」


「……ならば、軍よりも柔軟に対応出来る冒険者……という事か。……討伐というが、その実、威力偵察……という事は?」


「無い。ドラゴンスレイヤーが、魔物のそういった情報を把握しているらしい」


 俺はその言葉に不安になって、リッシュさんに尋ねた。


「ミトラが本当に敵の魔物の事を知っていると思ってる?」


()()そう判断された。“邪竜退治の英雄”の言葉だからな」


 つまりリッシュさんは、そうは思っていないという事だ。

 俺は、ほんの少しだけ安堵する。


「向こうの情報を共有する機会は。

 あの“英雄”の性格を考慮するならば、そういう場が無いと、情報の出し渋りがかなりの確率で行われると思われます。

 おそらく我々を何らかの踏み台にする事を考えてくるかと」


 俺以外に弟の人となりを知るフェットも、忠告が混じった意見をリッシュさんに述べる。


「情報共有の場は、無い。すぐに準備を整えて、明日出立(しゅったつ)してもらいたい、とも(たまわ)っている。道中で何とか情報を引き出すしかないな」


「もし情報の対価に嫁を要求されたら?」


 とベッコフさん。

 それだ、俺の懸念の一つは。フェットもそれは同じなのか、表情が固い。

 だがリッシュさんはきっぱりと言い切った。


「嫁を……仲間を売って得られる情報なんぞに価値はあるか?」


 俺とフェットは思わずお互いに抱きしめあった。


「まあこれはドラゴンスレイヤー相手に限った話じゃない。

 仲間を売るような連中は、どんな冒険者にだって見下されて、マトモな扱いをされなくなるだけさ。それこそ情報だってまともに貰えなくなる。

 そもそも、普通はそんな要求をする時点でおかしいんだから」


「でも、“英雄”が来てから、こんなにも色々とすぐ……話が彼等にとってうますぎるわね」


「ああ。お前たち二人が、何故あんなにも警戒しているのかが、ようやく実感として分かってきたよ」


 弟が王都に来てから、まだ三ヶ月も経っていないはず。なのに全ての状況が、アイツの名声を高めるような段取りにあっという間に組み上がっていく。

 何故か下がっているウチのパーティーの評判の件も、内心みんな少々(こた)えているようだ。

 この前の武闘会の件が響いているのだろうが、相変わらず理不尽な展開だ。




 一ヶ月程前に国の武闘会があったのだが、リッシュさん達を含めた上位の冒険者達が不参加だった事もあって、俺が優勝できたのだ。

 隠れた新人発掘の意味合いが強い大会だから、別にそれは良かった。

 魔法は一切使用禁止なのも、俺には有り難い条件だったしな。


 だが、優勝が決まったその場にミトラが不意打ちで乱入してきたのだ。

『戦場では魔法も飛び交うのに、こんな大会(ぬる)過ぎる』って、火球を会場に撃って滅茶苦茶にしやがった後で、そう言って。

 で、リッシュさん達が俺を守りに飛び出して来てくれたのだが……。


『こちらは一人なのに多数で取り囲むのがリッシュ・クライヌ(ひき)いる一党のやり方か!』と弟が叫ぶと、王や主催の偉いさん果ては観客まで『その通りだ、褒められた事ではない』と言い始めた。

 こちらが、『不意打ちで魔法攻撃をして大会を無茶苦茶にした方が悪いだろう』と言ったのは、完全に聞く耳を持たれなかった。


 ミトラは、さすがは“竜殺し”だともてはやされ、こちらは一対一の大会の主旨を破ったとされて、罰金を払う事になった。

 俺の優勝など、有耶無耶(うやむや)になって当然のように何処(どこ)かへ消えた。

 俺自身の剣の実力が判ったから、俺は優勝など、もうどうでも良かったけどな。


 俺が今まで何度も味わった理不尽だが、これほど(おおやけ)の場では初めてだった。

 それに加えてリッシュさん達はこの理不尽展開が生まれて初めてだったろうからな。


 俺は、フェットを含め、あれほど不機嫌な表情の彼等を初めて見た。




「まあとりあえず嫁は、その煽情(せんじょう)的な服の上からマントをしっかり羽織ること。向こうに余計な劣情は与えないのが、転ばぬ先の何とやらよ。だいたい、劣情与える相手は隣に居る旦那でしょ?」


「了解です、キャンティの姉御」


 おっと、君たちいつからそんな間柄(あいだがら)になったの!?

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