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第13話 “肉迫” …偽りのダークヒーロー編

この話は第4話 “更なる力”の続きになります。

 兄は、街中の自動車やバイクを(あら)かた破壊していた。内外の情報遮断が目的だろう。この街の異常を外部に漏らさないように──。


 だが、偶然にもこの街を訪れていた直後のバイク旅行者が居たようだ。


 フルカウルの付いたレースタイプのバイクの(そば)で、持ち主が撲殺されていた。

 あの案山子(かかし)の悪魔に襲われたのだろう。

 幸い、燃料はたっぷり入っているようだ。


 ミトラはバイクを拝借する事にした。冷たくなった、物言わぬ(むくろ)の持ち主に目だけ向けると、バイクに(またが)り街を出る。


 とりあえず西へ──。別に大した理由は無い。“ニホントウ”からとりあえずミトラは、目的地を日本に設定した。

 が、ミトラには日本への行き方が、この大陸の西の端へ行って海をひとつ渡る必要がある、程度の知識しか無い。

 しかしこの街から西へ抜ける道は一つしか無い。兄に追いつける可能性も少なくない。


 途中の街や都市でヤツの目撃情報を探してもいいか、とも思いながら、ミトラは西へ向かうハイウェイに沿ってバイクをフルスロットルで走らせた。



*****



 三日ほど強行軍でバイクを走らせたミトラは、前方に同じくバイクを走らせる人間を見かけた。

 向こうはオフロードタイプだ。


 果てしなく広がる荒野に、地平線の向こうまで伸びる一直線のハイウェイ、ギラつく太陽。その彼方に見えた、小さな点。

 見晴らしの良すぎる風景というのは、容易にヒトの距離感を狂わせる。

 点が見えてから、相手の様子が遠目に確認出来る距離まで近づくのに、思ったよりも時間がかかった。

 その為だろうか、それとも闇の力で復活して肉体の強度が上がった事による(おご)りがもう出たのか。


 前方の大型のオフロードバイクを運転するライダーは、この炎天下の中、フルフェイスのヘルメットに全身を隙なく覆ったライダースーツを着込んでいる。

 ミトラはその不自然さにも気付かず、自分が通常の人間の姿に戻っている事もすっかり失念していた。


 やがてミトラのバイクはゆっくりとオフロードバイクに追いつき、並走する。

 単調な風景を長く(なが)め過ぎた為だろう。ミトラは隣のバイクには注意を払わず前方を見つめていた。そう、全く気にもしなかった。

 相手が片手で運転している事にも、空いたもう片手で、銃身を切り詰めたショットガンを握っている事にも。


 ミトラがオフロードバイクを右側から追い抜かすと、オフロードはさり気なく彼の後ろにバイクをつける。

 そしてゆっくりとミトラの頭に狙いをつけた。


 オフロードのショットガンが火を噴く直前に、ミトラが何気なくサイドミラーで後ろを見たのは幸運でしかなかった。


 ミトラがバイクの進路を大きく横にずらすのと、ショットガンから轟音が鳴り響くのとが同時だった。

 ミトラはバイクに急ブレーキをかけた。

 何故そうしたかは自分でも分からない。気がつくとバイクは大きく減速していたのだ。

 だがそれは結果として正解だった。横に回り込んでいたオフロードが、横撃ちの二射目をぶっ放したからだ。


──危なかった。


 ミトラは思わず内心で胸を()で下ろした。

 自分の無意識下での咄嗟(とっさ)の反応に救われたのは、もうこれで何度目かわからない。


 オフロードのライダーはショットガンを投げ捨てると、ヘルメットのバイザーを上げてミトラをチラリと一瞥(いちべつ)した。

 そしてそのままオフロードバイクをフルスロットルに回して全力で逃走を図る。見る間に距離が広がって行く両者。


 バイザー越しに覗いた眼には覚えがあった。

 まさか追いつけるとは。


 ミトラは魔剣を抜き放ち、自分もバイクのスロットルを全開にして、彼の兄を、憎むべき仇を追い掛け始めた。


──まだそこまで距離は離れてはいない。



 ミトラは魔剣を左手に構えてオフロードバイクを追いかける。

 おそらくトルクも馬力もこちらが上だろうし、カウルもこちらには付いている。

 思った通り、ミトラのバイクはみるみるうちに前方のオフロードに追い付いていった。


 魔人化して攻撃出来ないのがもどかしい。

 ミトラはこの三日、飲まず食わずで来た為に、魔剣が溜め込んだ魂のエネルギーが、かなり減っていた。


 ミトラが追いつきそうになった時、オフロードはすいっと右にバイクを寄せると(わず)かに減速。一気に彼に並走すると同時に、不意に肩口からの激しい体当たりを仕掛けてきた。


 ミトラが流石に一瞬よろけた所へ、すかさずオフロードが後輪を浮かせて──ウイリーの逆のジャックナイフというヤツだ──その後輪を彼に続けてぶつけてきた。


 ミトラもまた僅かに減速してジャックナイフ攻撃を(かわ)す。

 そしてお返しとばかりに、左は魔剣を握ったままウイリーしてスピードを上げ、前輪をオフロードに叩きつけようとした。


 向こうも後輪着地と同時に直ぐに前輪を上げ、振り返ってミトラのウイリーを確認すると、その前輪で彼のバイクの鼻面を強く叩いて攻撃を逸らせる。


 ミトラのバイクはアスファルトの道路からこぼれ落ちそうになった。

 それをなんとか左足を地面に突くことで、強引に防いで方向転換。

 流石にこのバイクで未舗装の地面を走るのは、車体に深刻なダメージを与えそうだ。


 兄の駆るオフロードバイクは、この隙に再び逃走開始。

 ミトラもまた慌てて後を追いかける。


 彼等が暴れている間に、遠く彼方から対向車線に、一台のピックアップトラックが近づいてきていた。


 このままのスピードで行くならば、あのトラックがすれ違う頃にオフロードバイクに追いつくはずだ。

 追い掛けながら、ミトラは無意識にそう計算する。当然、前方の彼の兄も思考は同じだろう。

 トラックがすれ違う際に何か仕掛けてくる可能性は極めて高い。


 果たして、ミトラが兄に追いつきそうになった時、オフロードバイクは動いた。


 彼等から見て左の対向車線に、バイクをズラすと車体を一気に跳ねさせ、トラックのボンネットに着地。

 そこからフロントガラス・天井と走り、再びジャンプ。

 懐からマロニーの拳銃を取り出しミトラに向けて三連射。当てるつもりはなく、避けさせて彼を誘導する為の射撃。


 そう、ミトラは咄嗟にバイクを移動させてしまった。オフロードバイクの着地地点に。


 それに気付いたミトラは、二度目の急ブレーキ。

 その鼻先に兄のバイクが着地する。

 そこに向けてミトラは、左手の魔剣を兄に向けて斬りつけた。


 ガキン、と金属音が響く。


 兄は魔剣を、マロニーの拳銃で咄嗟に防いだようだ。

 しかし、剣の勢いを全て受け止めきれる訳でもなく、拳銃は兄の手から跳ね飛ばされた。


 兄は迷い無く三たび逃走を開始。ミトラもまたその後を追いかける。


 魔剣を警戒する兄は、ミトラに魔剣を振るわせないよう、当然のように道路の右端をキープ。

 だがミトラは構わず、オフロードバイクの左側から急接近。


──よし、「攻撃範囲」に入った!


 ミトラは左手の魔剣を右手に素早く持ち替え、左手でアクセルを握った。と同時に剣を大きく振りかぶって、兄に剣を振り落とす。


──()った!!


 だがミトラが振りかぶった剣を振り落とそうと右腕を動かした瞬間。


 一瞬こちらを振り向きざまに、彼の兄の左手から(きら)めく何かが飛ばされ、ミトラの右手に刺さった。投擲(とうてき)用のナイフだった。

 その事により魔剣の軌道が僅かにズレる。

 振り落としたミトラの剣は空を切り、アスファルトの道路をバターのように切り裂いた。



その時、ミトラのバイクのエンジンが()き込み、カラカラと音を立て始めると、見る間にスピードが落ちていく。


 慌ててミトラは、左右の手に握る物を交換し、右手でアクセルをふかす。

 しかしエンジンはカラカラと咳き込み続け、やがて止まってしまう。

……三日間、給油以外は走り続けた、無理な強行軍でエンジンが焼け付いたのだ。


 ミトラは、どんどん遠くなる彼の兄のバイクを、歯噛(はが)みしながら(にら)みつけるしか出来なかった。

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