エピローグ ─ 夜明けの光の中を ─
「つまりはエルフとドワーフの仲が悪いっていう話は、半分が当たりで半分が外れってことだ」
「子供の時にそんな話を聞いた事があるけど、そうなの?」
「ドワーフを嫌ってるのはエルフの男だ。女のエルフは、むしろドワーフみたいな男を好んでいるのさ。人間なら、腹の突き出た中年のオッサンが典型だな」
「ああ、女がドワーフみたいなのに夢中になるから、男はそれが面白くないんだ」
「そういう事。見慣れたモノは有難味が無いってのは皆共通なんだろうな。
だから若いエルフが最初に結婚相手に選ぶのは、殆どが異種族ってのがパターンだ」
「なんか相変わらずアンタの話は妙なリアリティがあるねぇ、マロニー」
「リアリティも何も、ただ本当の事を話しているだけだからな」
「はいはい、そういう事にしといてあげるよ」
「ちぇっ、客相手にそんな態度はないだろ、アマローネ」
「珍しく高いスコッチを飲めたからって、舌が滑らかになり過ぎだよ」
「この潮の香りってのが良いんだよ。異国情緒っていうのかな。ちょっとばかり焦げ臭いのも良いよな」
「バーボンだって焦がした樽に詰めてるよ」
「バーボンも美味いけど、スコッチはなんか違うんだよ。なんでだろうなぁ。本当、ウイスキーってのは訳分からんよなぁ」
「ウイスキーを熱く語るエルフなんてのも訳分かんないよ、私は」
「バーボンだったら、例のお爺ちゃんのお酒ってのが一番美味いなぁ。七面鳥や薔薇が四つあるのも良いけどさ」
「アンタが本当に長生きのエルフだったら、アンタこそがお爺ちゃんじゃないか。ほれお爺ちゃん、そろそろおウチに帰んな」
「ちぇっ、客相手にそんな態度はないだろ、アマローネ」
「もうすぐ夜明けだよ。店ももうすぐ閉めなきゃなんないんだ。客もクソも無いよ」
言われて俺は店の入り口に目を向けた。
確かに東の空がうっすら明るくなっている。
俺は溜め息をついて立ち上がった。
「へえへえ、来ない方が良かったよ、こんな店」
いつもの帰る時の、いつもの悪態。
「ったく、いっつもそんな憎まれ口叩いて。気をつけて帰るんだよ、マロニー!」
「もう来ねえよ、アマローネ。あばよ」
そう言って俺は外に出た。
夜明けの光の中を。