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第117話 “決戦の地へ”…偽りのダークヒーロー編

※115話の続きになります。


「聞こえるか、ブラン。ミトラがやっぱり生きていた。山の中の例の目的地で鉢合(はちあ)わせたよ」


 それは山中で、兄がミトラに崖下(がけした)に突き落とされた時に時間が戻る話。

 崖の途中に生えている木にロープを絡ませたおかげで、(かろ)うじて大きな怪我も無く下に落ちれた。

 木の影に入って(わず)かにでも雨を(さえぎ)り、スマホを取り出す。

 画面にクモの巣状のヒビが数個入っていたが、何とか使用は出来るようだ。

 それでブランに電話をかけての、今のセリフだった。


『マロニー!?』


 悲痛なブランの叫びが、スマホの向こうから聞こえた。

 兄は、マロニーは構わず続ける。


「これから何とか例の場所へ引っ張っていく。幸か不幸か、ケイジ・バイパスを通ればなんとか辿(たど)り着けない事もない」


 その顔は苦痛に歪んでいる。肋骨(ろっこつ)亀裂(きれつ)が入ったのかもしれない。

 だが、話す声には一切そんな苦痛の様子は見せない。

 兄はスマホ越しにブランに(ことづ)けた。


「これからビッグママに頼んで、急いで例の場所へ応援を寄越(よこ)してくれ。ブラン、お前が頼りだ。俺が生き残れるかどうかのな」


 スマホの向こうのブランは『分かった』と短く答える。

 しかし、すぐに続けた。


『マロニー。いま話してるんが本物なんか偽物なんかわからんけど、絶対死んだらアカンで!』


「ああ、勿論(もちろん)だ。だから応援を忘れずに頼むぞ、ブラン」


『分かった。この後すぐにやるから!』


 しかしそのブランの声は、すぐに涙が混じる。

 ブランは必死な調子で兄に訴えた。


『なあ、マロニーが死んだら、ウチ……ウチ……! ウチがこの世界で頼れる人はマロニーだけやねん! だから絶対に帰ってきてなマロニー!! お願いやから!!』


「必ず帰るよ、約束だ。ああそれと、このスマホ壊れかけてるんだ。多分これが最後の連絡になると思う。だから頼むぞブラン」


 ブランが最後に、(マロニー)に語り掛ける。

 涙声なのに必死で笑い声にしようとしているのが感じられる。


『“必ず帰る”は死亡フラグやけどな。でもそんなんブチ破ってくれると信じてんで』


 兄は「ああ!」と答えて通話を切ると、スマホをしまって雨の中を歩きだした。



“ブランの言った通りだぜ。フラグとか関係ねえ。ミトラをぶち殺して絶対に生きて帰ろう、相棒”


「当たり前だ」



*****



 豪雨の中、(マロニー)が左腕のロープを高速道路のフェンスに引っ掛けて垂れ下がっている。

 そのすぐ下には、倉庫らしき建物の屋根がある。

 そこはどこかの物流会社の倉庫だったものの跡地(あとち)

 その会社は廃業したのか別の地に移ったのか、その場所には使われなくなった建物だけが残っていた。

 屋根にはまだ、太陽光発電施設が一部残っている。


 (マロニー)は左腕のロープをフェンスから外して、その屋根の上に降り立つ。

 雨に打たれながら足を踏みしめ、紅乙女を右手に呼び出し上を見た。

 すぐに高速道路のフェンスを乗り越えて飛び降りてくる黒い影。

 ミトラが後を追ってやって来たのだ。


 (マロニー)はその着地点に目掛けて刺突を仕掛けた。

 屋根にはリベットが打たれているので、さっきのバスの上よりかは幾分(いくぶん)踏ん張りが効く。

 もちろんその移動は、垂木(たるき)の役割を果たしている鉄骨の上で。


 ミトラは空中で身体を(よじ)ったが間に合わず、モロに体幹にその刺突を喰らう。

 オーラの防御で突き刺さりこそしなかったが、そのまま(はじ)き飛ばされ、屋根の上でもんどり打って倒れて転がった。

 すぐさま起き上がると(マロニー)へ顔を向ける。

 また目の前に(マロニー)の刺突が迫っていた。


 咄嗟(とっさ)(かば)った手甲に刺突が当たって弾かれた。

 だがそれは連続で来る攻撃。

 片手で繰り出されたとは思えぬ威力の突きがそのまま三連続。

 その攻撃はミトラのガードの速度を上回り、オーラが減少したミトラの左右上腕・左の脇腹が切り裂かれた。

 そして(マロニー)は突きをもう一撃。


 ミトラはそれにカウンターを合わせるべく、右の(こぶし)(なぐ)り掛かる。

 しかし(マロニー)の手からは刀が消えていた。最後のだけはフェイントだったのだ。

 ミトラのパンチに合わせて(ふところ)(もぐ)る。

 ミトラの腕を(つか)んで、勢いを利用して投げ落とす。

 今までもミトラに何度か食らわせた、例の一本背負いで。


 ボゴッ!!


 叩きつけた部分の屋根が抜け落ち、ミトラは建物の中へ落ちていく。

 投げ落としてすぐさま紅乙女で叩き斬るつもりだった(マロニー)は、愛刀の呼び出しを取り()める。

 そしてミトラが落ちていった穴へ(みずか)らも入り、後を追い掛けた。



*****



 倉庫の屋根を支える垂木に当たる鉄骨にロープを絡めて、(マロニー)は中へ入る。

 ぶら下がった(マロニー)は、振り子の要領でそのまま(はり)の鉄骨に飛び移る。

 着地した(マロニー)が顔を向けた先には、同じ梁の上に引っかかったらしいミトラの姿。


 ミトラは起き上がると、梁の上に立ち上がる。

 (マロニー)の手にも紅乙女が握られミトラを(にら)む。

 ミトラは獰猛な笑みを浮かべ、対する(マロニー)は無表情。

 (マロニー)は紅乙女をミトラに向けると切っ先をチョイチョイと揺らす。


 ミトラはその挑発に簡単に乗った。乗らない理由は無かった。

 さっきのバスの上での戦いで、この男が、兄が決定打となる攻撃法を持ち合わせていないのは明白だ。

 ならばこの男が何の小細工を(ろう)しようと、その小細工ごと()み切れば済むこと。

 

 ミトラは(マロニー)へ向かって鋭く突進。

 足元になにかを一瞬感じたような気がしたが、それ以上考える余裕は作らなかった。

 しかし、そのミトラの突進に合わせて(マロニー)は腰を落とすと紅乙女を再び消した。


──さっきみたいに投げ飛ばす気か! 同じ手を何度も食らうかよ!!


 咄嗟に急停止するミトラ。だが(マロニー)の表情は変わらない。

 その兄の様子に、何かおかしなものを感じた瞬間。


 ドゴッ!


 ミトラの横から突然H字形鋼の鉄骨が飛んできて、ミトラの脇腹にぶち当たった。

 何が起こったのか分からず、梁の上から弾き飛ばされるミトラ。

 飛ばされた先には、少し低い位置に横たわる別の梁。

 辛うじてその梁に着地する。

 だがその上から大量の鉄の棒が降ってくる。数はおそらく十本ほどだろうか?

 ご丁寧(ていねい)に先端部分を(とが)らせたものだ。


 さすがにこれ以上受けるのは、オーラの残量が保たないと判断するミトラ。

 頭に当たらない事を最優先にしながら必死に鉄棒を手甲で弾く。

 それを(しの)ぎ切ったと思われた矢先、また目の前にH字形鋼の鉄骨が水平に飛んできた。

 さっきのもそうだったが、天井からワイヤーで吊り下げられたモノが飛んできている。

 一瞬だけ目を見開くが、足の鉤爪(かぎづめ)を梁に反射的に食い込ませ、両手をクロスさせる。

 その両手がクロスした手甲の部分に、鉄骨が激しくぶつかる。


 (にぶ)く激しい衝突音。今度はミトラが弾き飛ばされることは無かった。

 だがこの鉄骨の上には、(マロニー)が乗っていた。

 (マロニー)は鉄骨がぶつかる寸前にジャンプして、紅乙女を振りかぶり両手が(ふさ)がったミトラの頭を狙う。

 左腕を刀の峰にあてがい少しでも威力を増そうとしている。

 

── ヤ・バ・イ !!


 今オーラの総量がかなり減っている状況で頭部に攻撃を受けたら。

 いやそもそもオーラを全てを使い切っても防げるのか!?

 身動きが出来ないこの状況でどうしたら。

 そもそもこの倉庫は、この雑魚(ザコ)が仕掛けた罠の(かたまり)だったのか!

 コイツは逃げたのではなく、俺をここへ誘いこんだという事なのか!?


 稲妻(いなずま)のように、脳裏に次々と(ひらめく)く思考。

 だがどれも糞の役にも立たない。

 ミトラは無意識に首を横に傾けて、頭部への攻撃を()らすしか出来なかった。

 そして最後にミトラの脳裏に閃く“主人公属性”。



 その時──。



 上から降ってきた鉄棒は、二本がミトラの身体に突き刺さっていた。

 具体的には左上腕と右大腿に。

 特に足に刺さった鉄棒の上部には、ミトラが手甲で弾き(そこ)ねた際に鉤爪で亀裂が入っていた。

 まさにその亀裂部分に吸い寄せられるように、H字形鋼がぶつかる。

 突き刺さっていた鉄棒の上部に入っていた切断寸前の亀裂は、激突の衝撃でついにちぎれ飛んだ。


 そのちぎれ飛んだ鉄棒の破片。それは(マロニー)に向かって鋭く飛んでいく。

 破片は、まるで狙ったかのように(マロニー)の腕の隙間(すきま)(くぐ)り抜け、顔面にぶち当たる。

 その衝撃で(マロニー)の切っ先がズレた。

 ズレた斬撃は、ミトラの左上腕に刺さった鉄棒に当たる。

 火花を散らしながら刀の斬撃は鉄棒を(すべ)る。

 結果的に(マロニー)の攻撃はミトラの身体に(かす)ることさえなかった。


 梁の上に着地した(マロニー)は、素早くミトラから距離を取る。

 右目がおかしかった。

 さっきの破片で、切れた顔面からの血が目に流れ込んでいるのか。

 そう思い、紅乙女を握ったままの右の手首で目を(ぬぐ)う。

 右目の辺りに妙な硬いものが引っ掛かる。

 その際に右目がズキリと痛む。


 (あわ)てて右の手の平で触りなおす。

 そこには、飛んできた鉄棒の破片が右目に突き刺さっていた。


 (マロニー)は、己が片目を永遠に失ってしまった事を知った。

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