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第105話 “乱入”…偽りのダークヒーロー編

──“主人公属性”からポイントが……500も減った!?


 (あわ)ててミトラは“主人公属性”が機能しているか確認する。

 なんと言っても今のミトラの自信の淵源(えんげん)は、全てこの能力(チート)からだからだ。

 世間でよくあるライトノベルのような、確認ウィンドウが出る訳ではない。

 脳内に思考したモノだけが脳裏に浮かぶという、少々使いにくい代物(しろもの)だった。

 

 ミトラの脳裏に“主人公属性”の《スキル》が浮かぶ。機能していなければ、脳裏に浮かびさえしない。

 ひとまずミトラは安堵した。

 いつもに比べて、《スキル》の項目の輝きが鈍い事が少々気にはなるが……。

 この戦いが終わった後に、残ポイントと共に確認しよう、と考えた。


──そういえば残ポイントなんて気にもしていなかったな。


 ふと、そんな考えも浮かぶ。

 だが、新しい《スキル》の効果を試す事に、すぐに意識が()れた。いつものように。



*****



 兄はミトラの様子に、(わず)かに(いぶか)し気になり警戒を強める。

 ミトラは、兄の攻撃が止まった事に気付く様子も無く、棒立ちになっている。見方によっては、最高の攻撃を仕掛けるタイミングだ。

 だが兄の中の何かが危険を知らせていた。

 いつもの弟とは違う、異様な気配。


 マロニーと共にミトラの能力の推察を様々に行い、これまではその推察が当たっていたのが判った。

 転生者、主人公属性、チート。

 その言葉を(たわむ)れにネットで検索して出てきた日本の小説。その英訳された物を何作か流し読みして感じた、馬鹿げた仮説。


 ミトラはゲームのように、技術を自由にカスタマイズする事が出来るのではないか?


 ならばこそ、技術が身に付いたものではなく、故に使いこなす「知恵」が伴っていないのでは。

 それがフェイントを含めた、心理戦の弱さに繋がっているのでは、と。

 そこから導き出した戦い方が、距離を潰した超近距離で、ミトラが技術そのものを出す余地を無くす事。

 もう一つが徹底的に距離を取って、遠距離から削る事。

 更にもう一つが……。


 当初は、遠距離からの攻撃を主眼に考えていた。

 だが魔剣を手にしたミトラの、人間離れした動きと防御力で、主力に考えていた遠距離攻撃は放棄せざるを得なかった。

 それでもここまでは、距離を潰した近距離戦が功を奏して、また、ミトラの動きを読めた事で、チートを発揮させずに潰せてきた。

 無論、動画投稿サイト等で、主要な格闘技の技術を研究する事も忘れなかったが。


 だが……。



 ミトラはその場でシャドーボクシングを行う。

 左のジャブを二、三発、続けて空手の回し蹴り。そこからの八極拳の基本体当たり行為。

 背中からの体当たりモーションと共に足を床に叩きつけるように踏み鳴らす、震脚(しんきゃく)。確か「(こう)」とか言ったか。昔何かのゲームで見た記憶がある。

 三つの技術体系の技を、《スキル》変更無しでスムーズに繰り出せた。


──よぉし、近接戦総合マスターの名前は伊達(だて)じゃ無さそうだ。


 そう思った瞬間、兄が気刃を飛ばしてくる。

 ミトラは気配を感じて(かわ)す。そのまま距離を詰めて肉迫。

 魔剣を右手に持ったまま左でジャブを素早く二発打ち、続けて左のミドルキック。

 兄は刀でジャブを受け、キックを右肘でガードする。だが、そのキックの威力はガードも構わず兄の身体を吹き飛ばした。

 兄の顔が苦痛に歪む。

 それを見たミトラは、ようやく溜飲(りゅういん)が下がった。


「はっ……。はははははは! 散々ウザってえ真似してくれやがったが、ようやくあるべき状態に戻ったな、兄貴!!」


 ミトラがここぞとばかりに哄笑(こうしょう)する。

 吹き飛ばされた兄は痛みを(こら)えていたのか、(しばら)く身動きしなかった。

 しかし刀を左手に持ち右手をフリーにすると、軽くブルブルと振り、唾を吐き捨てた。

 そしてゆっくりと正眼の構えを再び取る。

 その姿を見て、ミトラは何故か気持ちが無性に不愉快になる。


「チッ! 雑魚が強がりやがって!!」


 ミトラが魔剣を振りかぶり、兄へ一足飛びに襲いかかる。

 ガインという金属音と共に、ミトラの斬撃を兄は受け流す。

 しかし、ミトラの攻撃の勢いに大きく体勢を崩した。


──へっ! 動きを読んでようが、力で弾き飛ばしちまえば関係ねえぜ!!


 更に魔剣をミトラは打ち込む。今度は兄の体勢の崩れは小さかった。

 少し苛立ったミトラは、今までのお返しとばかりに兄へフェイントを入れてから打ち込んでみた。

 (わず)かに受け流しきれず、二の腕に浅く切っ先が(かす)る。


 気を良くしたミトラは、続けて魔剣を打ち込む。

 打ち込む、打ち込む、打ち込む。兄は全く反撃出来ない。

 だがそのうちミトラは気付く。向こうも攻撃出来ていないが、自分の攻撃もまともに当たらない、と。

 そう、いつしか兄は体勢を崩す事なく攻撃を受け流しきっていたのだ。

 

 それにミトラが気付くと、また力で強引に潰そうと力が入る。それがますます太刀筋を単調にする原因となる。

 再び(いら)つきながら、ミトラはおもむろに前蹴りを繰り出す。


 不意を打たれたのか、正面から蹴りを受けて大きく後ろに吹き飛ぶ兄。辛うじて右腕でのガードは間に合ったようだ。

 暫く前屈みで痛みを(こら)えていた兄。

 だが少し時間が経つと、さっきと同じように右手をブラブラと振り、唾を吐き捨てる。


──雑魚のクセに虚勢張りやがって!


 ミトラは、今度は兄の周囲を高速で動き始めた。

 魔剣からミトラへ、(たしな)めの思考が伝わって来る。


“よく考えろ、愚か者め。さっきと同じように、先読みで潰されるのでは無いのか?”


──うるせえな! 潰されねェぐらい勢い付けりゃ関係ねえだろ!!


 さすがに前回で()りたのか、一撃離脱の方向で攻撃を仕掛ける事にしたミトラ。

 周囲を移動する撹乱(かくらん)からいきなり突撃。

 剣を振りかぶり、兄へ打ち下ろす。


 それを正面から受けずに、振り上げた刀で受けて攻撃を流そうとする兄。

 刀で受け流し身体を捻って攻撃を()らす。

 だが、勢いに押されて体勢を崩し、左腕に(かす)り傷が出来る。


──ははは! このまま削り殺してやる!!


 ミトラのラッシュが再開した。

 兄は相変わらず、ほぼ完璧に読んで攻撃を(さば)いているが、勢いを流しきれずに少しずつ擦過(さっか)傷が増え始める。

 兄の周囲に血煙が舞い始めた。


──ザマァ見やがれ! 圧倒的な力の前には、小賢(こざか)しい技術なんざ無意味なんだよ!!


 そうミトラは己の強さに酔いしれていた。

 だが魔剣からそれに水差す無情な知らせ。


“調子に乗るのは良いが、今の『鎧』の状態は間も無く維持出来なくなるぞ”


──何だと!?


“貴様は戦いを甘く考え過ぎだ。遊びに時間を使い過ぎたな。最初に言っただろう、魂の残量が少ないとな”


──チッ! ウザッてえな!!


 ミトラは一気に片を付ける事にした。

 さっきから兄は、蹴りへの反応が鈍いことを思い出す。

 今度の突撃でミトラは魔剣をプロテクターに変える。ウェイトを増した手足。

 

 まずは踵落としで攻撃。これは空手の技だったかテコンドーの技だったか。

 兄は間一髪それを避ける。いや、前髪が数本飛ばされたので間一髪とは言えないかもしれないが。


 そして攻撃した足が床に着くと、流れるようにそれを軸足とした回し蹴り。回転の勢いを、前蹴りの威力へと完璧に転化する。

 この連携の元となった総合格闘技の選手は、下段への攻撃だったはずだがまぁ良い。


 兄は腕をクロスしてガードをしていた。

 だがミトラの蹴りの威力は、ガードした兄の身体ごと吹き飛ばした。

 今までで一番遠くに、派手に吹っ飛ばされる兄。そのまま地面に投げ出されると、ゴロゴロと転がる。


 今回ばかりは、なかなか起き上がらなかった。




 こうした後に起き上がった兄が、右手を振ってから唾を吐き捨てる行為をしていたのを見るのが、何故ミトラの(しゃく)に触ったのか。

 ミトラはようやく思い出した。


──そういや、ガキの頃に喧嘩したら、いつもブチのめされた後に()()をやってたな。昔から変わらず、虚勢ばっか張るヤローだ。


 しかしそう考えたのも一瞬。

 ミトラは兄へトドメを刺すべく足に力を込めた。魔剣をプロテクターから元の形に戻して。


 この一撃で決める。何しろこの『鎧』形態はもう間も無く途切れるからだ。

 途中でどれほど苦戦し無様を(さら)そうとも、最後の一撃を加えて立っているのは、いつだって“主人公”だ。

 そう考えながら、ミトラは魔剣を振りかぶると兄へ向かって一直線に飛ぶ。


 何故か脳裏に“主人公属性”がチラついた。



*****



 全ては(またた)く間の出来事だった。

 ミトラは兄の元へと跳ね飛ぶ瞬間、自分が致命的な間違いを犯した事を(さと)る。


 (うずくま)ったままだと思っていた兄が、勝利の確信を込めた瞳でこちらを見つめていた。

 兄の右手には己の全てを込めたであろう、膨大で濃縮された退魔の力が込められた、白く光り輝く「ニホントウ」。

 例えミトラの闇のオーラを全て防御に回したとしても、防ぎきれずに致命の一撃を喰らうだろうその力。


 そうだ、さっきから蹴りの威力の割には、派手に吹き飛び過ぎではなかったか?

 全てはこの瞬間の為の布石!?


 だがもう間に合わない。

 ミトラの身体はすでに空中に飛び出してしまった。もう逃げようがない。

 魔剣から失望の思考が伝わってきた。


──しまっ……!!


 だがミトラの脳裏の“主人公属性”のスキル名が光り輝く。

 その瞬間、二人の間に何者かの人影が素早く割り込んできた。

 年の頃十二、三ぐらいに見える子供が、手を広げてミトラと兄の間に立ち塞がる。

 兄を(かば)うようにミトラを(にら)みつけて。


 兄が信じられない速さの動きを見せた。

 ヒトが、ここまで速く動けるとは。


 電光石火の動きで、兄は子供を左手で突き飛ばす。

 二人の攻撃線上に割り込んだ子供は、弾き飛ばされ攻撃範囲から逃された。

 そして子供を突き飛ばした反動で、兄は逆方向へ身を(よじ)る。

 だが、ミトラの振り下ろす魔剣の軌道上には、兄の左手が残っていた。

 黒く輝く、ミトラの魔剣が一閃。



 甲板の上に、兄の左手首が転がった。

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