第一章 新月の夜
いよいよ物語スタートです!
※血などの残酷な表現がありますので苦手な方は戻っていただけると有難いです。
月明かりが照らす道に人気はなく、乾いたアスファルトの上を鮮血が生き物のように広がる。噎せ返るような血の臭いに思わず口を塞ぐ。
「っうぐ、。からだ...が、あつい。」
苦痛に歪んだ顔、引きずる足、遅々として進まない距離。ザクロのような赤い肉がはみ出した右腕を、爪痕の残った左腕で抑える。後方からは地を這うような不気味な呻き声が迫ってくる。
「に...げないとっ!」
建物が崩れ、所々足場が悪い道を必死に進み、突き当たりを曲がる。そして、暗く静かな建物に入り身を潜める。
「っくそ、...んだよ、あれっ」
状況を整理出来ずにいると、またあの地を這うような呻き声が近づいてきた。物陰に隠れ、狭い視界に映ったのは、見たことも無い化け物だった。
巨大な角と鋭い牙、黒々とした歪な体躯。ギョロギョロとした二つの目玉が縦に並んでいた。とても悍ましい姿に思わず音を立ててしまった。
「...っ!」
___ギョロッ
化け物の目は、2つとも音がした方を見ていた。そして瞬きをする間もなく一瞬で、建物の上半分が綺麗に無くなっていた。
「うそ...」
右腕は肉がはみ出、左腕は辛うじて動かすことが出来るが、恐怖で足がすくみ、逃げることが出来ない。何度も何度も動かそうとするが、ピクリともしない。そんなことはお構い無しに、化け物は大きな前足で彼を攻撃した。まるでハエでも払うかのように。数十メートル飛ばされたあと頭を強打し彼、【橘旭】は意識を失った。
そもそも何故、彼はこんな事になったのか。
さかのぼること3時間前...。
***
「旭くーん!お疲れ様!」
「あ、お疲れ様です。」
バイトがいつもより遅く終わり、旭はバタバタと帰る準備をしていた。すると変な噂を耳にした。
「最近この辺で化け物が出たらしいぜ?」
「お前、寝言は寝て言えよな」
「いやまじだって!俺の友達が見たんだよ!しかもそこに能力者もいたらしいんだよ!」
「化け物とか、能力者とか。所詮は都市伝説だろ」
「いーよーだ!俺は信じるから!」
「はいはい、さっさと帰るぞー。」
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空から月が消える時、静まり返った街に人を喰らう化け物が現れ、人々は恐怖に怯えるだろう。
青黒い空に願う時、人の容姿を持つ、人ならざるものがその願いを叶えてくれるだろう。
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何年も前からある古い都市伝説。だが、最近原因不明の建物の倒壊や、その周辺にいた人が行方不明もしくは、怪我を負っている事故が多発していたため、その都市伝説を信じる者は少なくない。
旭はそんな噂話を聞き流しながらバイト先を出る。
暗い夜道を歩いていると、後方から足音が近づいてきた。
(あ、この足音は...)
聞き覚えのある足音。
「よー!旭!今帰りか?」
「やっぱり、ゆうちゃんか!うん、今バイト終わったとこだよ」
ゆうちゃんこと【山田祐吾】は旭と幼稚園からの幼なじみ。2人の性格は対照的で、よく周りからは「仲良かったんだ」とよく言われている。
「おい、やっぱりってなんだよ!」
「あー、いやごめん笑、ゆうちゃんの足音だったからつい...笑」
旭はムスッとした祐吾に笑いながら、暗い夜道を2人並んで歩き出した。祐吾は手に持っていた缶ジュースをカチッと開け一口飲み、ふと思い出したかのように旭に問いかけた。
「相変わらずだな笑。あ、てかさお前はあの都市伝説信じるか?」
「化け物とか能力者のやつ?」
「そうそう。俺さ、あれマジだと思うんだよな」
「っえ!ゆうちゃんオカルト信じたっけ?」
幽霊、宇宙人、UFO、などオカルト系を全く信じない祐吾が信じている。旭はそれにびっくりした。
「だってよ、最近、建物が崩れたり、行方不明者が出たりとか多いだろ?多分あれはその化け物が建物壊して、人を拐うか、喰うかしてるんだとおもうぜ」
「そ、そんな怖いこと言わないでよ。でも、仮にそうだとしたら、能力者も関係あるのかな?」
「問題はそこなんだよな。何かしらの関係はあると思うんだけどよ、能力者が良い奴なのか悪いやつなのかが分からねぇんだよ」
謎に包まれた古い都市伝説をここまで深く話す者は、ほとんど居ないだろうと思うと2人は思わず笑いが出てしまった。すると前方から何人かの悲鳴らしき声が聞こえそのすぐあと、大きな地響きと共に建物が崩れたような音がした。
「おい、何だ!今の揺れ!」
「あっちの方からだ!行こうゆうちゃん!」
2人は声がした方へ走る。そして、そこで見たのはとても残酷なものだった。
「うそ、ゆうちゃん、ここって...」
「う、そ...だろ...」
***
読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!