第96話 集結する戦士
朝──気持ちの良い目覚めの2人は朝食を取り、簡単に支度をして行く準備を整えた。
「将呉の奴がバッチ持ってるから、一旦合流するぞ」
「えぇ」
灯は麦わら帽子を被り、悠斗は父の何処か分からない野球チームのロゴが入った帽子を被って家から出て、将呉と合流し、昼前に渋部哉駅前の噴水広場へと向かった。
*
午前11時──昼前とは言え、駅前は大勢の人達で混み合っていた。alterfrontierがメンテナンス中でプレイ出来ないのも関係あるのか、いつも以上に人がいるようにも思えた。
そんな事はさておき、悠斗達は胸に炎のマークのバッチを貼り、全員が来るのを待つ。
「ん?」
暑くてジュースを飲んでいた将呉が何かを見つけて悠斗に教えた。
「あれか……?」
「え?」
将呉が不安そうに指す方向はサングラスを掛けたスキンヘッドの筋肉質な中年男であり、肩から"炎"と書かれた刺青が入っていた。
もしや、この人があの5人の中の誰かじゃないかと将呉は思った。流石に悠斗もその人は違うだろうと思った。
「流石にあの人ではないだろう……」
「そうだよな……」
そう思いながらも注意して見ていると、その男は別の方向へと歩き去って行った。
安心したというか、ホッとしたのか、深い息が出て再び誰か来るのを待つ事にした。
そして10分後──
「ん?」
また何かを発見した将呉。不穏な顔をして、悠斗への肩を叩いた。
「なぁ悠斗、灯ちゃん。あれ見て……」
将呉が指した方向に居たのは──
「凄え!これが新東京かぁ!!」
「ちょっとやめてよ!あちこち見ながら写真撮るの!田舎もんと勘違いされるじゃない!!」
「本当の事じゃんか!母さんに撮ってこいって言われたんだよ!」
金髪のツンツン頭の制服姿の男性が駅付近をデジカメで所構わず撮っていた。その横には灯と同じくらいの背の制服姿の女性が男性の行動に呆れ返っていた。
その2人を見て、3人は何かを感じ取りオーガスターのセリフを思い出した。俺は田舎育ちだと言っていた事を。
「まさか、あいつが……」
「そのまさかよね」
「ヤンキー……なのか?」
つまりあの男性がオーガスターで、女性の方がアモレだと瞬時に理解した。
3人の不安をよそに、アモレこと芽威は炎のマークをつけた3人を見つけた。
「あ、あれって!まさか!!」
「え、見つけたのか!?」
「あれが、アルちゃんの中の人!?マジで!!」
「おい待て!!」
芽威は3人をシーカー達だと分かり、手を振りながら噴水の元へと勢いのある駆け足で向かった。その視線は灯にだけ向けており、悠斗達は完全無視の状態で走った。
オーガスターこと劉星も後を追うように走った。
芽威が灯の目の前に来ると、目を子供のように光らせて灯の両手を思いっきり握りしめた。
「あ、貴方がアルちゃんの中の人ですか!?」
「は、はい……貴方がもしやアモレちゃん?」
「そうだよ、そうです!」
そのリアクションはまさに有名人にあったようなテンションであり、流石の灯も嬉しい顔の反面困ってもいる顔をしていた。
悠斗達が苦笑いしていると、劉星が2人の前に立ち、睨みつけるように見渡してきた。2人よりも背が高く、ヤンキーにガンつけられている気分になり、2人は思わず身体を縮こませて、将呉が小声で悠斗に囁いた。
「オーガスター……だよね、この人。カツアゲとかしてこないよな」
「た、多分……」
不安になる2人だが、劉星は将呉を見つめると無機質な表情のまま肩を少し強めに叩いた。
ビクつく将呉と悠斗。劉星が口を開いた。
「お前がシーカーだな」
「え?」
「お前がシーカーだろ!」
「い、いや」
「シーカーだろ!そのしょぼくれた顔、一目で分かったぞ!!」
徐々に顔を近づけて来て、恐怖を感じたい将呉はすぐに首を激しく横に振り、悠斗へと指を指した。
「違う違う違う!シーカーは隣だ!」
「へ?」
「それはシーカーじゃなくてSyoだよ!!」
「え?」
劉星が悠斗の方を見ると、悠斗は申し訳なさそうに右手を軽く上げていた。ゲーム内だと、あんなに背の高いキャラクターだったシーカーとのギャップに驚きが隠せない劉星は悠斗の頭に手を置き、その後に自分の頭に手を置き、自分との背の差に唖然として口を開けたまま黙り込んだ。
悠斗は何も言わない劉星が今何を思っているか、勿論分かっていた。
「すまんな、背が小さくな」
「う、うん」
流石に劉星も申し訳なくなり、悠斗に顔向けができなくなった。
この絶妙に空気が悪い状況に将呉が空気を戻そうと、劉星に優しく話しかけた。
「え、えぇっと君がオーガスターだよね」
「あぁ、俺は劉星だ。よろしく頼む二人共」
テンションが下がる悠斗。
その横で芽衣と灯が楽しそうに話している。
そんな状況を見かねた将呉はとある人物を見つけて、悠斗を励まそうとした。
「なぁなぁ悠斗。あの子見てみろよ」
「あの子?どの子だ?」
「あの赤いリボンの子だよ。金髪の」
将呉がニヤニヤして、指を指したのは金髪の赤いリボンで一つ結びにした可愛らしい女の子であり、こちらをジロジロと見ていた。大きなリュックサックを担いでおり、大きな荷物が入っているのは一目瞭然である。
「可愛い子がこっち見てるぞ。俺を見てるんじゃないか」
「んな訳ないだろ」
すると、その女の子が指を差しながらがこちらにもの凄い勢いで走って来た。
「まさか貴方がアルちゃん!?」
上手い日本語を披露し、いきなり灯に抱きついて来た女の子。
灯は残りの3人の誰か検討がつかずに、慌てふためく。
「お、落ち着いて貴方は誰?」
「僕だよ、僕、アルちゃんの大ファン!マッキーちゃんこと、リブちゃんよ!」
「え!?」
全員が驚いた。ゲーム内だと男のプレイヤーだから、男だと思い込んでいた。
将呉が唖然とした顔のまま聞き返した。
「本当にマッキーなの?」
びっくりする一同にリブは照れ臭そうに言う。
「イエス!!女の子だからって男の子のアバターを使っちゃいけない理由とかないでしょう?」
「そりゃあそうだけども」
するとリブは劉星の顔を鋭い眼で見つめて、指差して言った。
「貴方がシーカーね!!その目つきで丸分かりYo!」
「……違うぞ。俺はオーガスターで、シーカーは隣だ」
困り顔の劉星は親指で隣の悠斗を指した。
悠斗はまた、間違われて顔には怒りを表してないが拳をプルプルさせていた。
「うそっ!!貴方がシーカー?小ちゃいわねぇ」
「悪かったな、ちっちゃくて」
「小ちゃいだけが人生全てじゃないから頑張ってね!!」
「は、ははは」
リブは笑いながら肩を叩き、悠斗も無理やり作り笑いをして派手に笑った。
全員の自己紹介が終わり、残り二人を待った。
そして10分後、次に現れたのは──
一同が呑気に話している中、黒い長髪でサングラスを掛けたスリムで高身長なモデル体型の女性がこちらに向かって来た。
その人物に気付いた龍星が悠斗に尋ねた。
「おい、あのマブイ姉ちゃんがこっち向かってくるぞ」
「マブイ?」
「え?」
その女性は悠斗達の前に立ち、メガネを外した。外すとより綺麗な顔立ちが分かり、全員がびっくりした表情で固まった。
そして灯が恐る恐る尋ねた。
「ど、どちら様でしょうか」
「私よ、新新。本名は李敏孫」
「え、新新ちゃん!?も、モデルさんみたいね。それに日本語上手ね」
「ありがとう。まさか貴方がアル?」
「えぇそうよ。私は灯、よろしく」
二人は握手を交わして、次に悠斗達へと顔を向けた。
「まさか貴方がシーカー?」
そう言って話しかけたのは、何故か芽衣であり、またもや間違われた。
芽衣も困り顔で首を横に振り、悠斗へと指差した。悠斗はもう諦めた顔で
「もう、みんなワザと間違えてないか……」
「あ、あら、貴方だったの……ごめんないね。ちっちゃくて」
「大丈夫だ。うん、もう……灯はみんな分かるのに俺は誰も分からんのか」
全員が集合して行き、テンションが上がっていく一同。一人を除いて……
後はメリクリだけであり、午後0時手前になるが姿は現れなかった。
「メリクリの奴遅いなぁ」
「あぁ、そうだ──」
その時、悠斗の心臓が一度強く鼓動し、何かの気配を感知した。悠斗は突如として立ち上がり、駅のホーム側をジッと見つめた。
「どうした悠斗?」
「……来る」
「メリクリが?」
「あぁ、感じる。奴の力を」
すると駅のホームから姿が見えたのは、金髪でイケメンな優男風な白人男性がこちらに歩いてきた。
だが、その姿に全員がこの日一番の唖然顔となった。
"優男二番煎じ"と書かれた白いTシャツに、下駄を履いた奇抜な格好の男であった。
全員がびっくりしてる中、悠斗だけは静かにその男の方へと向かった。男は悠斗の前に立つと、ニヤリと笑って話し始めた。
「やぁ、君かい。シーカーは?」
「……やっと俺を当てたか。お前だったか。メリクリ」
「あぁ、やっと会えたね。それにみんなも集結してるようだね」
自分の格好の事は一切言わず、平然と話をして続けるメリクリ。
「僕はステラット・ジョーンズ。よろしく」
「俺は悠斗。よろしく」
二人は熱い握手を交わして、強く握りしめた。その拳から感じるのはお互いの刻印の力であった。この握手で、お互いに本物のメリクリとシーカーであると理解した。
ここに集結した戦士達。全員が特徴的な人物であり、曲者だらけである。この戦士達が世界の命運を分かる事となるのだ……




