第94話 集結前夜
「えっ?俺の家に!?」
いきなりの灯の連絡に疲れも吹き飛んだ悠斗。
女の子が家に泊まると言っている現状に頭が困惑して、部屋内で一人赤面であたふたし始めた。
色々な妄想が過るが、顔を思いっきり横に振り邪念を振り払った。
「お、落ち着け俺。あいつだって、ちゃんと骸帝を倒す為に来るんだ。俺がしっかりしなくちゃ!」
自分の頬を赤くなるまで何度も叩き、我を取り戻した悠斗。心も体も気持ちを落ち着かせると、Zarkを取り冷静に文字を打ち始めた。
「"来ても良いけど、明日は終業式だから午後0時以降なら"って」
そう書いて送ると、1分後には返信されてきた。そこには"終業式?高校はどこ?"と帰ってきた。
「こ、高校?高校は──」
色々と頭の中が混み合っていたのか、いきなり学校の事を聞かれても気にも止めず、とりあえず高校の場所も送り"分かった。じゃあ明日ね"と一言だけ返信されてこの日は終わった。
*
学校──悠斗は昨日の疲れが残っており、未だに肩が凝っている中終業式は行われて、そのまま学校を午前中に終えた。
将呉には灯の事は何も伝えておらず、言ったら何されるか分からないから黙り込んでいた。
その帰り道、そんな事は知る由もない将呉は何食わぬ顔で聞いてきた。
「なぁなぁ、昨日言ってた炎のマークは俺が作っといたからな」
「あぁ、うん」
校門の隅に待っていたのは、アルこと灯であった。悠斗を見つけると、元気よく手を振って一際目立っていた。
「悠斗君!!久しぶり!」
「あれってアルちゃん……というか灯ちゃん?何で?」
「うわ、マジかよ……」
将呉は灯と分かると軽く手を振るも、悠斗は大声で自分の名前が呼ばれて、恥ずかしさで顔を赤らめて灯の元へとゆっくりと向かった。その間も周りの生徒からは注目の的であった。
「やっほぉ。学校終わった?」
「何で、ここに来た。声大きいよ……」
「そう?いてもたってもいられなくて、つい来ちゃった」
「だからって学校まで来る事は……」
「学校教えたの悠斗君でしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
二人の会話についていけない将呉は悠斗へ静かに顔を近づけて、鬼のように険しい顔と共に無言の圧力をかけ始めた。
「ど、どうしたんだよ将呉」
「お前いつの間に灯ちゃんと会う約束を……」
「約束はしたっちゃしたけどよ……ここに来いとは一言も」
悠斗の言葉に将呉は顔を引き、一回だけ息を深く吸い込み、悠斗の肩を軽く叩いた。
「ふぅ……来ちゃったものはしょうがないか。灯ちゃんは今日どうするの?」
「俺の家で泊まる気で」
「まぁ一人でホテルに泊まらすよりは安心するか……とにかくお前ん家に行こうぜ。マーク作りに」
*
そのまま3人は悠斗の家まで歩いて行った。
そして家の前に立った悠斗。自宅前なのに何故か緊張して、心臓がバクバクと激しく鼓動していた。家に女の子を招くのは初めてであり、ましてや泊まらせるという状況に緊張をせざるを得ないのであった。そのせいでドアノブは握っているのだが、引く事が出来ないのである。
「悠斗君どうしたの?」
「い、いや何でも……」
灯に言われて悠斗はやぶれかぶれだと、気合を入れてドアを開けた。玄関の廊下を歩いていた悠斗の母がいた。
「悠斗?早いわね?」
「ちょっと今日友達呼んだから。一日中泊まりでね」
「あらそうなの?」
そう言って将呉が悠斗の横から出てきて、母に軽く会釈した。
「悠斗の母さんこんちわっす!」
「将呉君いらっしゃい〜!」
「お久しぶりです。今日はお世話になります!」
母は将呉と悠斗の後ろに灯がいて、女の子を連れてきた事に驚いた。
「あら?女の子?それもまぁ、可愛い子?彼女?近々世界の終わりかしら?何ちゃって」
「灯って言います。今日はよろしくお願いします!」
「あらあら?まるで天使のような子ねぇ」
悠斗は恥ずかしさからか無意識に体が固まってしまい、何も言えなくなった。その様子を見かねた将呉は悠斗の前に立ち、咄嗟に事情を話した。
「違うんですよママさん。この人は同じクラスの子で、みんなで文化祭の出し物の話をしに来ただけです!本当です!僕が証明します!」
「あらあら、そうなのぉ?将呉君が言うなら本当よね。悠斗に彼女が出来る訳ないわよね。まだまだ子供だもんね」
「そうですとも、ならお邪魔しまーす」
将呉と灯が家に上がろうとすると、母が再び質問してきた。
「そうそう、みんなご飯はどうするの?」
母が聞くと我に戻った悠斗が答えた。
「……どうしようかな」
「せっかく泊まるんだからみんな家で食いなさいよ」
「いいの母さん?」
「どうせ父さんは今日も遅くなるみたいだし。みんなで食った方から楽しいでしょ」
「でもなぁ」
「他の二人はどう?」
すると灯と将呉は元気よく手を挙げた。
「私、ここで食べたいわ!」
「俺も!!」
「なら、今日は家で夕食ね。お母さん張り切っちゃうからね!」
二人が手を挙げて、家で夕食をとる事になった。母もやる気を出して買い物へと出かけて行った。
悠斗は恥ずかしそうに家の中に上げて、部屋まで連れて行った。
「へぇ、これが悠斗君の部屋か」
「適当に座ればいいよ。お菓子持ってくるから」
全員で机を囲んで座り、悠斗は適当な菓子を机の真ん中に起き、将呉が最初に口を開けた。
「俺、炎のマークを作ったんだ。見てくれるか?」
バッグからノートパソコンを取り出して、炎のマークの画面を見せた。
文字は筆書きであり、メラメラと燃える火で炎の文字を囲んでいた。
「まぁ、こんなもんだろ」
「これならみんな一眼見て分かるわね」
開始数分でマーク作りは呆気なく終わってしまった。
その後、みんなで悠斗の家の据え置きゲーム機でゲームを楽しんだ。少々埃がかぶっており、長い間触っていない事がよく分かる。
「何かこっちのゲームは久しぶりにやるな。alterfrontierが出来てからは一度も触ってないからな」
「そうだよなぁ、発売される前までは毎日のようにしていたのになぁ」
「せっかくだから、パーティゲームでもやろうぜ」
「私は賛成!」
昔はよく隼ともやっていたパーティゲーム。悠斗と将呉はその過去を思い出しながら、ゲームを始めた。
久しぶりの据え置きゲームになのか時間を忘れるほどゲームを楽しんだ3人。alterfrontierとは違って、他のプレイヤーは隣にいてお互いの表情も分かり、笑い合いながらゲームをした。悠斗も心底楽しんでプレイした。
気づいた頃には窓の外はもう夕暮れになっており、全員疲れているも、みんな楽しそうに笑っていたのだ。
「たまにはこうゆうのも悪くないな」
「みんなでやるとこんなにも面白いなんて……最高の気分よ」
灯の満足そうな顔に二人は安心した表情になり、悠斗も少しずつ灯に慣れて来た。
そして下から母の声が聞こえて来た。
「みんな〜ご飯出来たわよ〜!」
「はぁーい!!」
母の呼ぶ声に全員が急ぎ足で駆け下りた。
用意された料理は唐揚げ、ハンバーグ、玉子焼き、ポテトサラダ、味噌汁と無駄に豪勢な料理であり、全部が母の手作りであった。
「母さん、こんなに用意するなんて……滅多にないじゃん」
「こうゆう時は特別なの!」
「そんなのありかよ」
呆れる悠斗だがこんな豪華な料理、珍しくて思わず舌鼓をするが、一番びっくりしていたのは灯であった。灯は料理を見て、目を楽しさ全開の子供のような光り輝く目で見ていた。
「こんな豪華な料理を食べて良いんですか!?」
「全然良いわよ〜むしろそんなに喜んでいただけで私も嬉しいわ。さぁみんな召し上がれ」
母の号令と共に3人は一気にご飯にかぶりついた。悠斗と将呉は勢いよく食べるも、灯はそれを凌ぐ速度でご飯を食べており、悠斗らも思わず箸が止まり、この様子を注目した。
「灯ちゃん結構食べる子ね」
「え?そ、そうですか?あまりにも美味しくて」
指摘されてようやく自分の事に気づき、箸が止まった灯。恥ずかしがる様子もなく、目から少量の涙が流れ落ちた。母はすぐに灯の元に寄った。
「どうした灯ちゃん!?」
「い、いや……こんなみんなで卓を囲んで、作りたて暖かくて美味しい母の味を感じたのが久しぶりで……」
その涙まじりの言葉に母も事情をある程度察して、灯の頭を優しく撫でて上げた。
悠斗や将呉には分かっていた。彼女にとっては食卓をみんなで囲み、温かな手作り料理を楽しく食う空間がどれだけ懐かしく、どれだけ嬉しい事だったか。
その後、灯は涙を拭いて再びみんな食べ始めた。重い空気を忘れたように将呉が話を盛り上げて、食卓には大きく笑いに包まれた。
*
夕飯後、将呉は明日の準備のために一時帰ることとなった。
灯は先に風呂に入っており、悠斗と母で別れを告げた。
「明日、渋部哉噴水広場でな」
「じゃ、俺はもう帰るけど──」
将呉が突然悠斗の服を掴み、鬼のような怖い顔をして顔へと近づけてきた。
「灯ちゃんに変な事したら、俺はお前を殺すぞ。多分」
「俺にそんな事する度胸があると思うか?そんな度胸あったら、逆に今のお前をボコボコにしてるわ」
「……それもそうか。じゃ、さいなら」
そう言って将呉はコロっと顔を変えて手を離して、ドアを閉めるまで悠斗を睨みつけてドアを閉めて帰って行った。その様子に母も不思議そうな顔をしていた。
「やけに怖い顔してたけど?」
「さ、さぁね」
そして就寝時間──悠斗は灯にベッドを明け渡して、悠斗自身は地べたで毛布一枚被って寝る事にした。
「いいの、私がベッドで?」
「……女の子を地べたに寝させる訳にも行かないしね。俺の事は気にせずに寝てくれ」
「ありがと悠斗君。おやすみ」
「おやすみ」
電気を消して二人は眠りについた。
だが、1時間後──
「……寝れない」
悠斗は寝れなかったのだ。
隣で女の子が寝ている事を考えるとどうも身体が落ち着かず、寝れなくなり、むしろ目が冴えてきたのだ。灯から微かに聞こえる寝息が耳に入る度に眠気が徐々に消し飛び、寝れるに寝れなくなったのだ。
「……」




