第91話 敗北の戦士達
骸帝と凰姫がその場から消え去ると、動きを止めていた狂戦士達も姿を消した。
そして戦って来た戦士達は、重力壁の能力から解放されて自由に動けるようになった。
「悠斗!!」
Syoは動けるようになると真っ先にシーカーの元へと駆け寄った。そして身体を一生懸命押して、意識を戻そうとした。
「大丈夫か悠斗!」
何度か頭を叩くと、シーカーは薄らと目を開けて、小さく口を開けた。
「げ、ゲームの中ではシーカーって呼べよ……」
「大丈夫なのか?」
Syoが訪ねるとシーカーは苦痛の表情ながら無理やり笑顔を作って答えた。
「へ、へへ。何とか時間稼ぎは出来たな」
「そ、そうだが……だが、この街は……」
「……!?」
シーカーは首を上げて、塔を見た。その塔のコアに無数の飴の槍が滅多刺しにされていた。
シーカー達が骸帝と戦っている間に、ひっそりと凰姫が槍で突き刺していたのだ。そのことを知り、シーカーは地面を思いっきり殴り、地面にヒビを入れた。
「クッソ!!」
「……俺達も動ければ、阻止できたかも──」
「いや、あの2人の強さは桁違いだ。今の俺達にはまだ……」
肩を押さえながら歩くメリクリが飴の槍が刺さっている塔を見つめていた。だが、次の瞬間にメリクリの眼は一気にカッ開いた。
「み、みんな……見てくれ。塔の天辺を……」
「!?」
cityAmericaの真ん中にある塔──無惨にも槍が刺さっている塔が突如黒く染まり始め、不気味な黒い突起物が触手のようにウネウネと生え始め、ビルは液体が流れるように黒く染まり、地面に到達すると一気に波のように街全体へと染まり始めた。
黒い波は染めた物を不気味な形へと変えて行った。公園に生えている草は生きる肉食植物へと変え、木は不気味なトゲトゲの木の実を生やした。噴水は緑に染まり、車も中から赤い触手が包み込み、他の建物も謎の突起物が飛び出てきて人が住めるどころではなくなった。
この光景に多くのプレイヤーは逃げ惑い、街は更にパニック状態に陥った。オーガスターはこの光景に唖然として静かに囁いた。
「何が起きているんだ……これは?」
黒い波がプレイヤーの触れると、そのプレイヤーの動きが止まり、プレイヤーを黒く染めた。そしてそのプレイヤーは石像のように固くなり、数秒後に身体全体が粒子状になり消え去った。
その波に危険を察知したメリクリは血相変えた表情で大声を上げてプレイヤー全員に叫んだ。
「みんな急いでこのフィールドから出るんだ!!あの黒い波に触れたら、ゲームオーバーおろか、データそのものが消滅する!!」
「何!?」
メリクリの言葉に多くのプレイヤーが一斉にフィールドから抜け出した。だが、何人かはフィールドから出遅れて、粒子化される者も多くいた。
「僕達も早く出よう。シーカー?」
シーカーは迫る黒い波を茫然と眺めていた。その目線は槍の刺さっていた塔の天辺であった。
敗北した自分の姿が浮かび上がり、悔しさに歯を食いしばっていた。
アルは静かにシーカーの元により、語りかけた。
「……戻りましょう」
「あぁ、みんな俺のホームに集合だ」
「えぇ」
全員頷き、シーカーのホームへと移動した。
メリクリも街を静かに見つめて、フィールドから消え去った。
*
全員がシーカーのホームに集合した。だが、全員何も喋らず、無言で俯いていた。アルが落ち込んだ表情でソファーに座ると、ウェルズが何かを感じ取ってアルの膝の上に乗って眠りだした。
アルはウェルズの頭を撫でながら、窓の外を見つめていた。
そこにはオーガスターが一人海を見つめていた。シーカーも外に出て、オーガスターの横に立った。オーガスターは口を開いた。
「俺達の負け……だな」
「あぁ、完敗だ」
「敗因は決定的な戦力差もあるが、俺達全員のコンビネーションの無さもだ。作戦も練らずに各自自由に動いていた。俺も勝手に挑発に乗ってしまった。もし、あの時俺が冷静になっていれば……」
「自分を責めるな。俺達だって、これでも最善を尽くしたんだ。それよりも次だ。奴が次にどうするかだ。何故、奴に俺やメリクリの攻撃が届かなかったのかだ」
その時、マッキーがノートパソコン片手に家から出て話に乱入した。
「マッキー?」
「君の攻撃は当たっていたよ。ダミー人形に」
「ダミー人形!?」
「あぁ、君の攻撃が当たる直前にスキル"ダミー"を使ったんだ。それで攻撃をかわしたんだ。メリクリも同じだ。あの氷の竜で攻撃した時、当たる直前に高速移動のスキルを使い、ギリギリで避けたんだ。奴は一人で複数のスキルを使いこなせるって訳だ」
「……くっ」
その時、一人パソコンで調べていたSyoが家から飛び出て、3人に声をかけた。
「……運営からのアナウンスが来たぞ!」
「来たか」
3人は家に戻った。
そして全員が注目する中、Syoが発表されたアナウンスを読み上げた。
「読むよ。cityAmericaにいた謎の人物らはプレイヤーでもなく、ゲーム内のNPCでもない存在であり、誰かが放ったウィルスだと予測される。更に襲いかかった敵はこのゲーム内に存在せずにイベントでなく、全て現在調査中。街には除去不可能なウィルスが蔓延して、修正は不可能な状態。また、出現する恐れがある為、対策する為に1時間後からメンテナンスを開始する……」
メンテナンス……その言葉にシーカーは真っ先に反応した。
「こんな時に……メンテナンスだと!?」
「あぁ、終了予定時刻は不明だ。でも、メンテナンスで骸帝は消える可能性も──」
話の途中にメリクリが混ざってきた。
「奴らは俺らの予想を上回る力を持っている。奴ら自身もこれを想定して何か対策している可能性も高い。どっちにしたって、後十日の間、僕らは何日間かはalterfrontierをプレイする事が出来ないのは事実だ」
「……じゃあどうすれば。今回は難を逃れたものの、次は──」
その時、アルが手を上げた。Syoが疑問を持って聞いた。
「アルちゃん?どうしたの?」
「ねぇ、みんな一度会わない?」
その言葉に全員が耳を傾けて、アモレが聞き返した。
「ど、どゆこと?」
「会うのよリアルで……現実世界で」
アルの言葉は全員を驚かし、全員が息を合わせたように立ち上がった。




