第88話 復活の宴(5)
「全員まとめて掛かってきやがれ!!」
全凰姫は一斉に飴の槍を降り注がせた。
オーガスターは剣を力強く握りしめて、凰姫の大軍に突っ込んでいった。
一本一本槍をギリギリでかわしながら、どれが本物なのかも分からずに目先にいる凰姫へと攻撃を繰り出した。
「はぁ!!」
凰姫は真っ二つに切り裂かれて、粒子状となり消え去った。
「ざ〜んね〜ん。それは偽物よ〜」
「くっ……」
倒して間もなく、再び飴の槍攻撃の嵐が繰り広げられた。オーガスターは即座に動き、攻撃を擦りながらも、凰姫への攻撃を続けた。
*
その頃シーカー達は──
未だに市街地での激戦を繰り広げていた。侵攻が始まって数十分が経ったが、どれだけ倒しても倒しても出続ける敵に囲まれた二人。それでも二人は抵抗を続け、少しずつ敵を蹴散らしていた。
だが、二人の体力も減っていき、回復アイテムも底をつき掛けていた。背中をくっつけ合って話した。
「ちっ、無限湧きって最高な気分だな」
「僕もそう思うよ。これが骸帝の前座なら、どれだけ骸帝は強いんだろうね」
「さぁね。考えたくもない」
二人共笑いながら言っているが、本心からは全然笑っていない。更に辺りを見渡すと、先程までいた多くのプレイヤーの数は減り、半分以下になっていた。
アルやアモレ達もビル付近で奮闘しているも、疲れからか動きが鈍くなり苦戦を強いられていた。
「ヤバイわよ、これ。ちょっと押され気味だわ」
「えぇ、これってピンチじゃない……!?」
よそ見をした瞬間、襲いかかってきた狂戦士によってアルは殴り飛ばされてビルの中へとぶっ飛ばされた。
アルは窓を突き破り、勢いよく突っ込んだ。体力はもはや風前の灯。大ダメージを受けて、立ち上がるのもやっとなレベルであった。
「ぐっ……」
目の前に迫って来た狂戦士。負けを覚悟した瞬間、目の前から大きめのボールが転がって来た。
「これは……」
「アルちゃん!!」
ボールから勢いよく煙幕が放たれて、辺り一面を覆った。その間に窓からSyoが乱入し、アルを抱えてビルから飛び降りた。いきなりのSyoの登場にアルは驚きを隠せなかった。
「Syo君!?」
「危なかったね。何とか間に合った」
「負けたらデータ消されるから、僕達のチーム誰一人やられてはダメだ」
着地して、一旦路地裏に隠れた二人。敵は空も地も制圧される勢いであり、完全に人間側が押されているのがわかった。
その時、シーカーから連絡を入って来た。
「どうしたシーカー!」
「Syo!何か解決策ないのか!」
Syoはノートパソコンを開き、陰から空に浮かぶゲートを見ながら言う。
「空に浮かぶゲートは更に大きく広がっている。多くのプレイヤーがゲートに向けて攻撃を仕掛けても、びくともしない。もはや止める事なんて……」
「何か絶対解決策があるはずだ!お前も諦めないで守り抜け!!」
「運営側も調べたが、完全にこのマップのシステムが乗っ取られて何も手出し出来ない状況だ。詰みって奴だ」
「くっ……と、とにかく守り抜け!」
強めの口調で良い、メサを切ったシーカー。
シーカー自身も焦りが見え、迫りくる敵に絶望を感じ始めた。いくら倒しても出てくる敵に少しずつ諦めの文字が過り始めたのだ。
「む、無理なのか……この大軍を相手に……」
「君が弱音を吐くなんてらしくないよ……と言いたいけど、正直キツイねこれは」
「でも、簡単には諦めはしないさ。俺達の心には刻印が宿っているんだから」
シーカーは拳の炎を燃え上がらせて闘志を見せつけた。
その行為にメリクリも同調して拳を握りしめてニヤリと笑い、一歩踏み込んだ。
「骸帝を倒すまでは僕も倒れる訳には!」
「行くぞ!!」
二人が特攻をしようもした瞬間、突如として敵全員の動きが止まり、その場で静止した。まるで時が止まったように。
拳を振りかぶった状態で固まっていたり、羽を開こうとした所で止まっていたりと、完全に動きを止まっていたのだ。
残った全プレイヤーも戸惑いが隠せなかった。勝った?負けた?それとも──全員が全員、その場で考えた。どうなったのかと。
シーカーもメリクリも警戒を解き、辺りを見渡した。
「勝ったのか……俺達。骸帝は来ないのか?」
「わ、分からない。僕にも……」
困惑する二人にアルやアモレ、Syo達全員が合流した。
Syoが不思議な表情をしながら真っ先にシーカーへと尋ねた。
「どうなったんだこの戦い?」
「全然理解が出来ない。勝ったのなら、敵は消えないのか?」
「見ろ、空から開いていたゲートも広がらなくなっている」
先程まで大きく広がり続けていたゲートが広がらなくなり、そこから敵が出てこなくなった。
つまり、これは勝利なのか?骸帝は復活しなかったのか?全員が不思議に思うとSyoが目を細めて何か指した。
「何だ……あれは」
ゲートの穴の中から何が落ちてくるのが見えた。それは一つのバレーボールサイズの光る球体であった。
その球体は速度を変えず、ゆっくりと地上へと落ちていった。
それと同時に空高く別の小さな裂け目が現れて、その中から凰姫一人が現れた。凰姫は全員を見下すように言う。
「あらあら戦士の皆さん!私達のおもてなしいかがだったかなぁ?」
「凰姫……オーガスターはどうした!!」
「オーガスターさん?えぇいるわよ。自分達の上を見なさい」
シーカーの質問に対して凰姫は手を突きつけると、シーカー達の真上に裂け目を出した。
するとその裂け目からボロボロに傷ついたオーガスターが落ちてきて、残骸のように地面に倒れた。
「オーガスター!?」
「結構頑張ったけど、私にはまだまだ及ばないわよ〜だ」
アモレはすぐにオーガスターの元に駆け寄って、身体を起こした。
「大丈夫!?りゅ……オーガスター!」
「調子に乗って行ったらこのザマだぜ……すまないシーカー」
シーカーも心配そうにオーガスターへと寄った。そしてオーガスターはシーカーの手を強く握りしめた。
「奴らの力を侮っていた。相当な強さだ……」
「そのようだ。ここもだいぶん苦戦してたんだ。みんな一緒さ」
全員がオーガスターを心配していると凰姫は空中に浮いて、退屈そうに此方を見つめていた。
「話は済んだかしら?そんな友情見せられても、同情する気なんてないわよ」
「しなくて結構だ。早く次の手を見せてみろ!」
「なら、復活した骸帝様を皆さんで拝見しましょう!」
シーカーの言葉に凰姫は元気よくあの光の球を指した。全員は言葉を失った。自分達が戦い続けた理由──骸帝を倒す為である。だが、その状態が球体だと思い全員の頭は疑問に満ちた。
「あれが骸帝だと」
「冗談を言わないでよ〜これはあくまで繭の状態よ。あと少しで真の姿になるのよ。楽しみでしょう〜」
「くっ!」
シーカーは炎の拳を握りしめて、繭状態の骸帝へと突撃した。すぐにメリクリが声を上げて止めようとした。
「シーカー!」
「あんなの俺がぶっ壊してやる!!」
「何が起きるか分からないんだぞ!!」
「知った事かぁぁぁ!!」
シーカーは出来る限りの力を使い、全力で拳を繭状態の骸帝へと振りかぶった。
拳は繭に直撃し、拳を押し込むように殴り込んだ。その場で大爆発を起こし、辺り一帯が爆煙に包まれた。爆発の衝撃で周りの建物の窓ガラスも一斉に弾けとんだ。
メリクリ達も爆風に巻き込まれたが、その場に耐えた。だが、爆風により、目の前が煙に包まれた。
「ど、どうなったんだ!?シーカー!!」




