第87話 復活の宴(4)
オーガスターと凰姫は睨み合っていた。オーガスターは傷つきながらも、その笑いを消すことはなかった。
逆に凰姫は笑みは消え去り、血管を浮き出しながら、一歩足を踏み出した。
「私は怒ると怖いってよく言われるのよ」
「そっちの方が俺にとっては好都合だ」
「なら、少し懲らしめないといけないよねぇ。一人で大丈夫?これから怖〜い事が始まって、死んだ方がマシと思うわよ」
オーガスターは火山龍の剣を突きつけて更に挑発をした。
「俺は自分の腕を信じている。一人だろうと勝てるさ。今は俺一人で貴様をぶっ飛ばす!そのセリフはお前に返してやるさ」
そう言ってメサを操作して自分の体力を確認した。あの一撃で食らったダメージは総体力の半分以上も減っていたのだ。更に凰姫のステータスを見ると、全て測定不可能。体力・レベルも共に測定不可能となっていた。
メサを軽く操作して画面を閉じた。
「倒すとは言ったが、結構減っているもんだな。それにあいつの体力もレベルも測定不可能……それで上等。やる気が湧いてくるってモンだぜ。刻印が無くたって、貴様を倒せる力はある!」
「さぁ、貴方の力って奴を見せなさい。この空間から簡単に出られると思わないでね」
凰姫は周りの飴を再び空中へと浮かせ、自分の周りに移動させた。そして凰姫が目を瞑り、力を込めると飴が割れ、鋭利な槍へと変わり果てた。
凰姫が槍に念じると槍は動き、オーガスターの周りを囲んだ。だが、オーガスターは動じる事なく凰姫を睨み続けていた。
「行くわよ。イケメンさん」
「来いよ。姫様よ」
オーガスターの額から液体が地面に落ちた。
その瞬間、凰姫が一斉に飴で作った槍が四方八方よりオーガスター目掛けて放たれた。
眼前まで迫った槍にオーガスターは、表情一つ変えずに身体を捻り、一本一本紙一重に避けながら凰姫へと掛け走った。槍の雨を抜けて凰姫の目の前に抜け、剣を振りかざして飛びかかった。
「はぁぁぁ!!」
「残念!!」
突如オーガスターの動きが空中でピタリと止まった。凰姫を眼前にして止まり、動こうとしても身体が一切動かなかったのだ。
凰姫が両手を突きつけ、力を込めて動きを止めていたのだ。
「な、何だと!?」
「オーガスターさ〜ん。さっきの私の技を見て学ばなかったの?これだから人間は進化しないのよ」
「くっ……ふざけやがって……」
片手で動きを止めたまま、もう片方の手を動かして、飴の槍を動かした。そしてオーガスターの周りを囲んだ。
その光景に凰姫は悦に浸った。自分が圧倒的に人間よりも上の存在。それが凰姫にとって満足感。激しく興奮し、身体を激しく震わせていた。
「これよ、これこれ。この圧倒的なパワーで屈服して、じわりじわりと痛ぶりながらやられていく姿。考えるだけで……幸せ」
「早く殺しやがれ!!焦ったい事するな!」
「そこまで言うなら〜やってあげるわよ」
片方の手を動かして手招きをした。その瞬間に槍が一斉にオーガスターの心臓部分を突き刺した。口から血を吐き、体力は0となり力をなくした手から刀が地面に落ちた。
「ぐはっ!」
「きゃはッ!バイバーイ、オーガスターさん!」
笑いながら地面に下ろしたオーガスターを見下す凰姫。だがその時、オーガスターの身体が変化した。それは肌色の人型をした人形であった。
「う、うそ!?」
今倒したのは本物のオーガスターではなく、アイテムの一つダミー人形であった。ダミー人形は一時的にプレイヤーと同じ姿をした人形が現れ、プレイヤーとして敵と戦う。人形の体力は低いため、時間稼ぎ程度にしか使用できず、体力を失ったら元の人形に戻ってしまうアイテムである。
「はぁぁぁ!!」
「!?」
真後ろから突如現れたオーガスターは凰姫の顔面を蹴り飛ばして、お菓子の家へと突っ込ませて家を崩壊させた。
間髪入れず、メサを操作して10個もあるクリスタルを出し、一斉に凰姫が突っ込んだ家へと放った。
「爆破のクリスタルだ!!」
無数のクリスタルは家に突っ込むと大爆発を起こし、お菓子の家は跡形もなく消え去った。
「人間が退化しただって?その間違いだ。人間は進化し続けている。お前が考えている遥か上にな」
回復アイテムで体力を回復させて、挑発するオーガスター。
すると、煙が舞う中から凰姫の姿が現れた。服はボロボロになっており、身体中に傷跡が残っていた。そして感情を感じさせない声を出して、オーガスターに語りかけた。
「そのような。訂正するわ。人間は技術だけは進化したわ。でも、私達はそれを更に凌駕する力をもっているのよ」
「なら、見せてみろよ。その力を」
「えぇ、ムシャクシャしてるから、加減が効かないかもしれないわよ」
「あぁ、十分さ」
凰姫の目が紫色に光り始めた。そして身体からオーラから放たれて、そのオーラからは紫色の目のようなものが見えた。すると凰姫の後ろからもう一人の凰姫が現れた。
「ふ、増えただと!?」
「まだまだよ」
更にその数を増やし、4人・8人・16人と徐々にその数を倍増させていき、気づけば100体をも超える量へと増えていった。
その光景にオーガスター絶望ではなく、呆れた笑いを見せていた。
「へ、へへ……これは面白い光景だな。一生観れるもんじゃねぇなぁ」
「これが私の力。一つの術のようなものよ」
「やってやるさ。朽ち果てるまでな」
オーガスターはその量を見て、身体の力が一気に入った。武者震いのような震えも起き、こんな戦いがあっていいものかと自問自答をひたすらに繰り返していた。
全ての凰姫が動き始め、一定の距離を離してオーガスターをドーム状に囲み、全員がいやらしく微笑みながらオーガスターを四方八方より見つめていた。
その中に潜んでいる本物の凰姫が声高らかに言い放った。
「さぁ、全部の私。この愚かな人間をやっておしまいなさい!」




