第86話 復活の宴(3)
シーカーらは地上と空から来る敵相手に猪突猛進の如く前進していった。
2人は手加減なんてする気は毛頭なく、フルパワーで刻印を展開した。拳に炎と氷の力を一気に溜め始めた。
「さぁ、僕らの力を見せてやろうよ」
「あぁ、今の気分ならこんな奴ら──」
「「はぁ!!」」
二人は手を突き出して、限界まで溜めた力を一気に放出して叫んだ。
「獄炎!!!」
「氷龍水!!」
シーカーの掌から巨大な渦巻状の炎を地上の狂戦士達に放ち、メリクリからは龍の姿をした氷が飛び出て、空の大群へと放った。獄炎は狂戦士達を丸呑みにして、大爆発を起こした。氷龍水で空一面の敵を氷漬けにして、真っ逆さまに落ちていった。
獄炎に呑まれた狂戦士達は煙の中からゆっくりと現れた。だが、その速度は確実に落ちていっていく。そのまま氷漬けとなった異形体が狂戦士達の真上から落ちて行き、再びその場が煙へと包まれた。
一撃で大量の撃破に成功したシーカーは突き出した手を戻して、煙の中の様子を伺った。
「まだ来るか?」
「さぁね、まだ来るなら、僕はまた撃つだけだ」
「ごもっともだな」
煙から大量の影が見えてきた。今度はまた別な狂戦士達と空から異形体が飛来して来た。二人は痩せ我慢しているように苦笑いをしながら、足を止めずに更に前進していく。
「無限って事はないよな……」
「多分……ね」
刻印の力を更に膨らませて、一気に敵陣へと突撃していった。
*
その頃──自由の女神像の周りでは他のプレイヤー達とアル達による防衛戦が繰り広げられていた。City Americaの保安局も出動し、敵味方入り乱れた大混戦となっていた。
メサからも忠告が流されていた。
-現在City Americaから謎の現象が発生中です。City Americaのフィールドには入らず、対処が完了するまでプレイは控えて下さい-
アル達は自由の女神像付近で戦いを繰り広げていた。アルやアモレは地上のプレイヤーを狙う狂戦士達を倒していた。以前戦った狂戦士達とは違い、倒しやすくなったものの、それでも十分なパワーやスピードを持っていた。
「こんなのいつまで耐え切ればいいの!?」
「シーカー達が何か打開策を生んでくれるはずよ!」
「早く何とかしてよ、二人共……」
アモレやアルが祈りながら戦う中、戦闘向きではないマッキーとSyoは空から来る異形体と闘っていた。新新が確実に狙い撃ちして、倒しているが、流石に空を覆うほどの量を前に、苦戦を強いられる。
「何て量なの?いつまで来るの、敵は!?」
「……まだ未完成だけど、新兵器の力を見せてやる!」
「新兵器?」
銃で応戦する新新の横で何やら慌てている様子のマッキー。メサを操作してとある武器を取り出した。その武器にSyoは驚愕した。
「そ、それは!?」
「ヘビーアームウェポンスーツ!装着すれば僕みたいな弱いやつでも超パワーアップさ」
巨大な昔ながらのロボットアニメのような、金属製のゴツゴツとしたロボットが空から降り落ちて来た。それにマッキーは胴体部分に吸い込まれた。すると目に光が宿り、ロボットが立ち上がり始めた。
「それが秘密兵器なのか!?」
「そうだ!食らえ!!ロケットバスター!!」
ロボットは両拳を握りしめた状態で空の異形体へ腕を向けた。すると両腕が半分に折れて、その中からガトリングガンが現れ、異形体向けて一切射撃を始めた。ガトリングガンが爆音と共に激しく回転し、その場所周辺に弾丸が何百発と転がり落ちていく。
その威力は凄まじく、異形体を瞬く間に倒していき、空を覆う影は半分近くも消えていった。
「オラオラオラ!!僕を舐めるなよ!!」
その頃凰姫はそこら辺を飛び回っている一般プレイヤー達を相手にため息を吐いていた。剣を握り、凰姫に近づいてきたプレイヤーは凰姫が手を軽く振ると、強風が吹き荒れたように弾き飛ばされて、勢いよく壁に激突して一撃で倒していた。
「はぁ、弱くてつまんない〜」
「なら、俺が相手をしてやる」
凰姫の前に現れたオーガスター。剣を向けて、威嚇するも凰姫はむしろ何かを考えていた。
「確か貴方は仮面さんが消すと言ってた、何スターだっけなぁ?」
「俺はオーガスターだ。覚悟してもらう」
「一人でいいの?仲間呼んだ方がいいんじゃない?刻印のお友達を」
「俺だけで十分だ、刻印がなくても勝てるさ」
「ふ〜ん。まぁ、少しは退屈凌ぎになるかな?」
余裕の笑みを浮かべて、自分の頭上に指で簡単な円を描いた。
「ならお一人様、私の空間にご招待しまぁ〜す」
「ん?」
ふざけた言い方をして、自分とオーガスターをこのフィールドから消え去った。
*
二人が移動した場所は、凰姫が以前作り上げたお菓子の空間。だが、今や地獄のような光景となり、滝から流れるチョコレートは赤いドロドロとした液体となり、お菓子の家の煙突から輪っか状で出てくる甘い匂いがした真っ白な煙は黒い炭のような煙へと変わり果てていた。クッキーで出来た花も腐り果てて、全部が踏み破られていた。
「……」
オーガスターは周りを見つめてその不気味さに、軽く鳥肌が立っていた。だが、表情は一つも変える事なく、その場に立ち尽くしていた。
その場に凰姫も今のフィールドに似つかわしくない赤い飴玉乗ってオーガスターの目の前に現れた。
「どう?私のマイホームは?」
「悪趣味だな。俺ならもっといい場所にするがな」
「貴方と私は相性よくないね」
「良くなくて結構──さっさと片をつける!」
二刀の剣を取り出し、真っ直ぐと凰姫へと突っ込んで行った。
「なら遊んであげるわよ!ほれ!」
凰姫は自分の耳のアクセサリーを撫でながら、もう片方の指で空から下へと指を下ろした。すると、向かってくるオーガスターに向けて空から無数の巨大な飴が降り注いで来た。
「こんな物──!」
一個一個避ける事はせず、真っ二つに割りながら直線に突進していく。斬られた雨は真ん中からドロドロに溶けていった。そして降り注ぐ飴の隙間から凰姫が見え、その小さな隙間から剣を投げた。
凰姫は人差し指と中指の間で受け止めた。その瞬間、噴火龍の剣の効力により、その場で大爆発を起こして爆風を巻き起こした。それと同時に飴は止み、その隙にと一気に距離を詰め、爆風の方へと走った。そして凰姫が立っている場所へとジャンプして剣を振り下ろした。
「はぁぁぁ!!」
煙を抜けると、凰姫が体勢を変えずにその場に浮いていた。椅子にしていた飴は溶けたが、凰姫はダメージを一切受けて無かった。
そして振り下ろした瞬間、その場から凰姫は消えて、攻撃は空振りとなった。凰姫が掴んでいた剣だが、その場に落ちた。
「消えた!?」
「こっちよ!ノロマさん!」
真後ろから聞こえ、即座に振り向いた。宙に浮いている凰姫がオーガスターの振り向きさまに目に止まらない速さで回し蹴りを頬に喰らわされ、お菓子の家を突き破って赤い液の滝に落ちていった。
「あらあら、少し強く蹴り過ぎかしら私?」
沈んでいくオーガスター。想像以上のダメージに身体が言う事が効かなかった。だが、力を振り絞って自力で滝から浮き出てきた。真っ赤に染まった身体──浮き出てきた目の前に凰姫が馬鹿にするように自分を見下していた。
「はぁ……はぁ、はぁ」
「もうバテてるの?刻印を持っていない戦士ってこんなもんだよねぇ?」
「刻印がなくたって俺は負けん!ないから雑魚だって勘違いがよしてもらいたい」
すると、クネクネと歩きながらオーガスターへと近づき、顎を撫で回して、優しく耳元で囁いた。
「へぇ、でも私……弱い人に興味はないの!」
いきなり顔が豹変して、怒る猫のように眼球を細めて、超能力でオーガスターの身体を持ち上げた。抵抗しようと暴れるが、金縛りになり、意思とは無関係に動けなかった。
「さぁこれは耐え切れるかしら?」
そしてされるがままに空へと飛ばされて、指を下に振ると勢いよく、直下に猛スピードで落ちていき滝崖に顔面から直撃し、地面にヒビが入り滝が崩壊して、オーガスターごと巻き込まれた。
「虫さんは虫らしく細々とすればいいのよ」
ご満悦の様子で、崩れた滝に背を向けて鼻歌を歌い始めた。すると、崩れた滝がいきなり爆発して、飛び散った赤い液体が凰姫の服に何滴も掛かった。
出てきたのはもちろんオーガスター。見た目はもうボロボロだが、その闘志に燃える目は一切死んでいなかった。
「俺は虫じゃねぇ、全てを掻っさらう鬼だ!」
服に着いた液体を見て、凰姫は身体を震わせ、額に血管が浮き出てきた。そしてゆっくりとオーガスターの方へと向き、眼球を細めた状態で笑った。
「私の服を汚した罪は大きいわよ……」
顔は笑っているが、声は笑っていなかった。むしろイライラを超えた感情を感じない声へと変わり果てたいた。
だが、その状況にオーガスターは内心喜んでいた。
「これでやる気になったようだな、へへ」




