第85話 復活の宴(2)
吹雪が吹き荒れ、1メートル先も見えないAlterFrontierで一番標高が高く寒いと言われるフレッド山。危険な場所であり、至る所にクレパスが発生しており、そこに落ちたら一貫の終わりとも言われている。
そこで一人ふんどし一丁で座禅を組んでいるメリクリがいた。寒いのか?と問いたくもなるが、水の刻印を持つメリクリには一切寒さなどの影響はないのだ。
目を瞑り、静かに集中力を高めていた。その時、頭の中に何か流れ出てくるように新しい未来が見えた。今現在のCity Americaの光景が頭に過ぎってきた。
「はっ!?これは……まさか」
メサを操作してCity Americaの状況を調べた。凰姫達がプレイヤー達を襲撃している光景が映し出されていた。
「何故だ?まだ、骸帝は復活してないはずなのに!?すぐさまみんなを集結させないと」
来るのは後数日だと思っていた。だが、何故今──このタイミングで来た?疑問に思うが、今はそれどころではない。
すぐさまメリクリは服を着替えて、その場から消え去った。
*
天空草原ウラノスにいるシーカー。バーンズと別れてからもひとで空を眺めていた。
バーンズから言われた言葉が心に残り、スッキリしたような、まだモヤモヤが残っているような微妙な状況が続いていた。すると、自分の真上に人影と共に影が掛かり、誰かがしゃがみ込んで覗いてきた。影で誰かは分からなかったが、短い髪から多分男だろう。
「誰だ?今は戦いたい気分じゃないんだよ」
「呑気に寝ているな馬鹿野郎」
嫌になる程聞き覚えのある声──親友のSyoであった。びっくりして飛び起きてSyoの頭と自分の頭が直撃した。
「いってぇぇぇ!!」
「痛ててて……」
お互いに頭を押さえて、痛みを分かち合った。そして頭を押さえながらSyoの方を見るとアルや新新、マッキーらまで浮かない顔でその場に立っていた。
「お前ら、どうして此処が!?」
「僕が君の位置を特定したんだよ」
「あぁ!?何だって?」
「僕がちょちょいのちょいと調べたの。こいつに頼まれて」
「Syoが?」
マッキーが説明するとSyoが前に出ようとした。それよりも先にアルが出て、シーカーの前に出た。顔は伏せているが身体が小刻みに震えていた。
「ど、どうした」
「シーカー……貴方は私に辛い事があったら相談しろと言ったよね。なのに何で今の貴方は一人で抱え込もうとしているの……」
「……」
何も言えなかった。自分の責任を感じて、自分一人で解決しようとしていた。予想を超えた危険な戦いに他の仲間達を巻き込みたくなかった。
「刻印っていう能力同士の戦いは、私達なんかとは全然違う世界の話──でも、少しは頼って欲しい。私なんか微力な助けにしかならないけど、相談くらいならいつでも乗って上げるから。みんながいるんだから」
「もちろん、俺もだシーカー。俺達は友達だろ。あいつを助ける為に頑張るんだ!あいつの心にはまだいつものあいつがいるはずだ。絶対にな」
「……あぁ、ありがとう」
アルが手を伸ばしてシーカーが手を掴んで立ち上がった。その時、目の前からメリクリが現れた。いつもとは雰囲気が違う衣装にその場の全員が戸惑った。マントを羽織り、水色の鎧を見に纏っていた。いつものふんわりとした顔とは違い、鋭い目つきであった。
「メリクリ……どうした?」
「いよいよ来たようだ。決戦の時だ」
「決戦の時?」
「City Americaに行くぞ。凰姫の奴が攻め始めた」
「何!?」
全員が困惑した。メリクリは更にシーカーに聞いた。
「オーガスターにも連絡しろ。City Americaに来いと」
「……」
「まだ喧嘩の事をとやかく言ってるのか?こんな状況でそんな事してる場合じゃないだろ」
「分かったよ」
シーカーが少し躊躇いを見せた後にメサでメッセージを送った。そしてメリクリは全員を連れて、City Americaへと移動させた。
*
City America──そこはまさに地獄絵図であった。街は破壊され、綺麗な街並みは一気に荒廃していた。更に所々建物のデータが破損して粒子状に変わり果てていた。逃げ惑うプレイヤーもいれば、戦うプレイヤーもいた。メリクリ以外の全員が、戸惑っていた。このショッキングな光景は、ゲームとは思えない凄絶とした光景であった。
「ここ、本当にCity America……だよな」
「あぁ、自由の女神像もあるし、本当だろうな……」
戸惑いを隠せずに、周りを見渡すシーカー達。凰姫はシーカー達の存在に気づくと不気味な笑みを浮かべた。
「やっと来たわね。宴会のゲストさん達〜さぁ、みんなでおもてなししてあげなさい!」
狂戦士や異形生命体らが一斉にシーカーらの元へと飛んでいった。その量は予想よりも遥かに多く、空一面を覆うほどの量に全員が圧巻としていた。メリクリはすぐに全員に指示を出した。
「僕とシーカーがあの敵をおびき寄せて戦う!他のみんなはあの自由の女神にあるデータのコアを守ってくれ!!」
「わ、分かった!」
二人を除き、全員は一斉に街の中央に配置されている巨大な自由の女神像へと移動し始めた。
シーカーとメリクリは空から迫ってくる異形体と地上から押し寄せてくる狂戦士達を見て、手を震わせていた。その様子を見て、シーカーは嫌味を言うようにメリクリに言った。
「メリクリ……怖いのか。お前らしくないな。びびっているのか?」
「そっちこそ、負けるのが怖いのかい。風の刻印に負けたようにさ」
「さぁな。武者震いだろうよ。ふふ……ははは!」
お互いに笑って、お互いを鼓舞し合い、迫ってくる敵へと突っ込んで行った。
移動している最中のアル達──マッキーはパソコンを使い、色々と調べていた。
「奴らこのフィールドに結界を張りやがった」
「結界?」
「つまり、データを改竄して手を加える事が不可能となり、このフィールド自体を消す事も閉じる事も出来なくなる」
すると、アルはマッキーに駆け寄り、両手で手を掴み頼み込んだ。
「マッキー君!頼みがあるわ!」
「え、何?」
アルは率先して高い塔の上に立った。さっきまで凰姫が写っていたモニター全てがアルに移り変わった。マッキーの手助けにより、可能となった。マッキーは横でパソコンをいじりながら、モニターが映る場所を徐々に広めていき、このフィールド外にも映像は映し出された。
「アルちゃん、写ったよ!」
「ありがとう!」
そして、マイクを握りしめて街全体に聞こえるように大声で呼びかけた。
「ここにいるプレイヤーのみんな!!今いる敵にやられたらデータが消えてしまう危ない敵よ!!今すぐこのフィールドから逃げて!!それか、力に自慢がある人は自由の女神のコアを守って!!!もし、コアが破られたらこのフィールドそのものが消滅するわ!!」
その声と共に逃げるプレイヤーもいるが、多くのプレイヤーは自由の女神像の方へと移動する者もいれば、その場に残り狂戦士達と戦う者もいた。
でも、凰姫はその行動を許さず、顔を歪ませた。
「そういうヒーローごっこ嫌いじゃないわよ。でも、そうゆう奴はうざいから消えてもらうわ」
その様子を見ていた凰姫は気に食わない行動をするアルやマッキー達の方へと異形生命体を無数に送り込んだ。羽が生えている異形体は縦横無尽に飛び交い、鳥の大群のように向かってきた。
「くっ……なんて量なの!?」
「俺達だけじゃあ、どうする事も……!」
迫り来る異形生命体に新新やSyoは銃を使い、応戦するがその量を前にすれば無と化した。そしてアル達を覆い隠すように一斉に襲いかかった。この一瞬でアル達は、とんでもない奴を相手にしたと、後悔していた。
「くっ……」
全員が覚悟した瞬間、突如異形体の群れがXの文字に切り裂かれ、切れ目から火花が散り、そこから空全体に大爆発を引き起こした。そして塔の上に1人の二刀、剣を持つ戦士が着地した。
「何だ!?」
「お困りだから来てやったぞ。話はメリクリから全て聞いた」
「お、お前は──!!」
それは噴火龍の剣を握りしめていたオーガスターだった。以前よりも剣が長くなっており、威力も倍増していた。空にいた異形体は全滅してしまった。流石の凰姫もこの光景には唖然としていた。
「うっそぉ?全滅ぅ?」
そしてアル達の場所にアモレが着地して来た。
「お待たせみんな、微力ながら助太刀するわよ!」
「2人共来てくれたか!」
「もちろんよ」
だが、オーガスターは落ち着きのない様子で、凰姫の方へと睨みを利かせていた。一見すれば普通のプレイヤーと思うが、敵はAI。凰姫から放たれる異質な雰囲気は、オーガスターの戦闘意欲を無性に駆り出していた。
「大将首を取ればいい話だ、お前らは自由の女神とやらを守ってろ。はぁ!!」
「おい待て!勝手に動くな!敵の素性も分かってないのに!」
「そんなもん、戦えば分かる!」
オーガスターはSyoの忠告も聞かずに、躊躇いもなく凰姫の元へと向かって行った。




