第84話 復活の宴
シーカーがバーンズといる時──
「お邪魔します!最近忙しくて……あれ?」
ライブのダンス練習終わりにシーカーのマイハウスに訪れたアル。そこにはSyoが一人でパソコンをいじっていた。アルの存在に気づくと、素っ気ない声で振り向いた。
「あ、アルちゃん来たんだ」
「Syo君、元気なさそうだね……って、えっ!?」
その顔は笑っていたが、目の下には大量の窯が出来ていた。思わず引いてしまい、口も抑えた。
「ど、どうしたの!?大丈夫!?」
「いやぁ、最近色々あって……切羽詰まっているこの状況で、大変な事が起きてね……まぁ座ってよ。話す事いっぱいあるから……」
「えぇ……」
アルがソファに座ると、Syoは隼との戦いや隼の事など最近の出来事を話した。話を聞き、アルは今の重い状況を知り、顔も明るさを失った。
「……そんな事が」
「揃いかけた絆もバラバラだ。メリクリの予想ではあと少しで骸帝が復活するらしいのに……」
「シーカーは何処に行ったの?」
「さぁ、俺にも分からない。連絡も位置情報まで切られ……」
「何で私達に今の苦しさを言わないんだろう……」
アルの悲しい顔はSyoも見るに耐えなかった。
「前、実際に会った時に彼は言ったわ。辛い事があってみんなに相談しろ──って。なのに彼は自分の中に籠もっている。現実から避けるように……」
あの時のシーカーは自分に正直になろうとアルに本当の自分を教えてくれた。でも、今のシーカーはその時の悠斗とは違っている。
「……でも、当然だと思うさ。仲が良かった友が敵であり、刻印を持っていたんだ。俺も頭の整理が今もつかないさ……」
空気が重くなり、アルは何も言えなくなった。話題を変えようと無理矢理笑顔を作って、Syoがいじっていたパソコンについて聞いた。
「ところでさっきから何やっていたの?」
「あ、これかい?さっき言った友達が使っていたチートが入っている特殊チップさ。これを装備すれば攻撃力が異常にアップしたり、相手の攻撃をスローに見えるようにもなる。その代わり、ウィルス性が高くて、戦ったプレイヤーのデータをもウィルスが侵食してしまうとんでもない代物さ。これはその友達が残した物だよ」
「そんな物をどうやって手に入れたの?」
Syoはパソコンをいじり、掲示板をアルに見せつけた。それは隼が見つけたチート販売の広告であった。
「掲示板には色々な事が書いてあるが、たまにこの広告みたいにチートを売ろうとしているサイトがあるんだ。多分、俺の友達はそこからチートへと手を染めたんだと思う。だから、少しでも調べたいが、何が起こるか分からないから停滞しているんだ」
「なら、マッキー君にお願いすれば?彼ならそうゆうの得意そうじゃない?」
「……存在忘れてた」
*
場所は変わり、とある鉱山の奥──二人の男女がせっせと何かを掘り探していた。
「新新!何か見つかったか?」
「全然ダメだね……見つからないなぁ……」
「クソッ!あれがないと、俺の新兵器が完璧に動けないじゃないか!!」
そこにいたのはマッキーと新新の二人であった。何かを探しているようだが、見たから様子はない。そんな事でマッキーのイライラは限界に達していた。
「時間がないのに、くそ!」
「そう焦らないの、いつかは絶対に──」
「いつかじゃダメなんだ!!今すぐにだ!!」
怒り混じりの声が鉱山の中に響き渡り、新新は固まったしまった。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない……」
「ご、ごめん。焦ってしまって──ん?」
マッキーの元に連絡が入った。それはSyoからであった。
「何だ?」
*
連絡を受けて、すぐにシーカーのマイホームに来た新新とマッキー。土で塗れた服に二人は唖然とするが、マッキー達はあまり気にしていなかった。
「で、僕に何の用だい?」
「……聞きたいことがあるが、それは後でいい。それより違法品を使っていたお前に聞きたい事があるんだ」
「ん?」
Syoは先程のチップをマッキーに渡して、チップについてと近況を話した。するとマッキーの表情が一気に変わり、鋭い目で小さなチップ全体を何度も見始めた。まるで博士のように無言で見回していた。
「なるほど……こんなに危険な物に改造するなんて……」
「どうゆう事だ?」
「元のチップもかなり危険な物なんだが、それを更に更に何重にも改造してこんな危ない物へと変貌した。こんなの僕でも作りたくはないさ。自分にまで被害が及ぶからね。相当切羽詰まってたって事だろう。ここまで改造するなんて……」
「異変に気づいていたのに何も出来なかった俺の責任だ。馬鹿な話だぜ……」
マッキーは自分のノートパソコンを取り出してチップを刺してデータを調べて始めた。躊躇いもなく調べる姿勢にSyoは慌てて注意をする。
「大丈夫なのか、チップのデータを調べるなんて!?
「大丈夫だよ、これは安い使い捨てのパソコンだ。調べる位ならこんなもんで十分さ」
「あぁ……」
慣れた手つきでデータを解析し始める。訳の分からない数字や英語が乱立しており、マッキー以外誰も分からないが、マッキーには分かるのか何度も一人で頷いていた。
「なるほど……なるほどね」
「何か分かったのか?」
「データを見ると、装備しているプレイヤーのデータまでもウィルスの侵食し、ウィルス開発している奴の元に行く。それに負けたプレイヤーにすらウィルスが働くシステムが施されている。僕もこうゆうウィルス系は作った事もあるが、相手も相当やるみたいだね」
「褒めている場合かよ」
「内部から攻撃──実にいい案だ。一度会ってみたいね」
「あのなぁ……」
呆れ返るSyo。すると新新がとある疑問を問いかけた。
「そ、そういえばシーカーはいないの?」
「あいつは何処かへ行ったさ。位置を消してな」
「なら、僕が探してやろうか?」
「え?探せるのか?」
「僕を誰だと思っている?機械なら誰にも負けないマッキー様だ。任せとけ!!」
「頼む!」
自信満々に言うマッキーにアルが嬉しそうに抱きついた。
「ありがとうマッキー君!」
「えへへへ……アルちゃんの頼みならなんでもござれだい!」
*
その頃、凰姫は前作り出した謎のお菓子の空間の空を見上げていた。ピンクの空だが、中央には巨大な黒いオーラを放っている穴が存在していた。オーラはこの空間にいるお菓子の住人を蝕み、異常に発達したグロテスクな腕や足、顔へと変身し、羽が生えた大小さまざまな異形の生命体へと進化し始めた。
更にシーカー達を襲撃した巨体の戦士やコウモリ男などの狂戦士が、大量に穴より降り注いできた。異形生命体や狂戦士達は凰姫の前に揃うと一斉に崇むように平伏した。
「今の主人は私だけど、もうすぐで新しいご主人様が復活なさるわよ」
凰姫は感じていた。穴から放たれるオーラは骸帝のものだと。復活は後一時間──そう思うといやらしい笑いが止まらなくなり、悦に浸っていた。
「もうそろそろ頃合いね。復活の最終段階の始まりね……ふふふ。まぁ、風の刻印さんは倒れているからお預けね」
そして空を飛び、何千体といる全軍を見渡して指示をした。
「さぁ、みんな!!宴の前哨戦が始まるわよ!!」
軍がいる地面に向かって手をかざすと、地面から黒い無の空間が現れて、そこにいる全員と自分をも姿を消した。
*
そして上空より現れ、その場へと全員留まった。そこはCity America。全世界の中でもトップレベルのプレイヤー人口を誇り、プレイヤーが最もいる場所でもある。
「ん?なんだ?」
地上にいるプレイヤーはいきなり影が空を覆い、何かと一斉に空を見上げた。そして凰姫達を発見した。
「何かのイベントか?」
「告知なしでか?」
明らかに何か異様な雰囲気を感じ、多くのプレイヤーはイベントではないとすぐに悟った。
凰姫は力を発動して、このフィールドにいる全プレイヤーのセーブフィールドを解除して、戦闘モードへと強制的に移行させた。そして街全域のモニターやテレビの映像をジャックして笑顔の凰姫を映した。
「City Americaにいるプレイヤーの皆さ〜ん!今から骸帝様の復活前祝いを始めたいと思いま〜す!だからここを骸帝様の拠点として扱わさせて貰います。だから……貴方達に消えてもらうわ」
明るい声から、一体間を開けて急に低い声で全員に宣戦布告をし、空で待機してる異形生命体と狂戦士達は同時に地上へと落下していった。
訳の分からないプレイヤーはあたふたとして動揺を隠せなかった。いきなり空から降って来た凰姫の軍勢に瞬く間にやられていった。
やられていったプレイヤーは身体が徐々に消滅し、データが消滅して粒子状へと化した。その粒子は空の穴へと吸い込まれていった。それを見て、空にいる凰姫は満面の笑みでこの地獄絵図を眺めていた。
「さぁ、抵抗してみせなさい!そして来なさい、刻印の戦士さん達」




