表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/122

第82話 一人の戦い

 

 凰姫の元にファルコンが戻されて来た。未だ苦しんでいるファルコンに対して、凰姫はわざとらしく心配する演技をしながら話かけて来た。


「あらあら大丈夫ぅ?力の使い過ぎじゃないー?」

「う、うるさい……少し休めばこのくらい……」


 まだ喋れる元気をあると分かると、態度をころっと変えて話を変えた。


「ふ〜ん、それならいいんだけど。それより、もうすぐで骸帝様が復活するわよ。戦う準備を整えないとね」

「もうすぐだと……」

「えぇ、数日後に蘇るわ。その時には体力は戻しておきなさいよ。すごい祭りになるわよぉ〜」


 ニッコリと笑う凰姫の顔はとても不気味であった。ファルコンも鳥肌が立つほどであった。不気味に思いながら、ファルコンはログアウトした。

 1人残った凰姫は手の平にナイフを出して、ナイフの先端を悪魔的な笑いをしながら舐め始めた。


「本当に楽しみ……身体中がゾクゾクと快感が押し寄せてきちゃうわ。早く骸帝様、復活なさって下さいねぇ〜」


甘えた声が暗い空間に静かに響き渡った。


 

 *



 次の日──学校では悠斗と隼の二人は休んでいた。将呉はしんぱして連絡を入るが、返信されず電話にも出なかった。

 その頃悠斗は一人でAlterFrontierにいた。全員との連絡を断ち、一人で天空草原ウラノスにいた。

 雲ひとつない世界にある空高く浮かんでいる無数の島。一番上にある島から流れ出ている川の水は下の島の川に流れ落ち、落ちていく水は無限に続いていた。ここには無数の大きな円状の虹が空に浮かんでおり、その円を抜けると良い事が起きると言われているパワースポットである。

 シーカーはこの一番上にある島で寝転んで、一人で虹の円を眺めていた。でもその顔は何処か悲しく、この空間にはとても違和感が感じられる雰囲気だった。

 昨日の事が頭に過ぎって、何もやる気が起きず学校を休んでしまった。一人空を眺めていると、一人シーカーを覗き込む青年がいた。青年に気付いたシーカーは顔を背けてやる気のない声で話した。


「誰だ、今は取り込み中だ」

「君、シーカーだろ?最近ちょくちょくと話を聞くから、一度は会ったみたいと思っていたんだけど、何か元気がなさそうだね」


 元気の良い若者の声だった。威勢が良さそうな声に更にやる気をなくすシーカーは手で適当に追い返す。


「俺だって元気がない時だったあるんだよ。帰ってくれよ」

「元気がないなら僕と戦ってよね」

「戦うだと?面倒くさい事言うなよ」

「元気がないから戦うだよ。ゲームの中までその元気のなさを引っ張りのかい?」


 一丁前に言う青年の顔を覗こうと身体を起こすと、青年は手を差し伸ばしてくれていた。

 綺麗に整った茶髪、腰には獣の皮が巻かれており、動きやすい半袖半ズボンな服を着ている。背中には西洋の刀を背負っている。でも、どれも簡単に手に入る装備ばかりであった。そして青年は優しい目をしており、常にニコニコしており、何処か信用出来る顔であった。

 でも、シーカーは先日の事が気にかかりやる気はまだ出なかった。


「元気がないから戦うんじゃないさ。元気があったもこの気分じゃな」

「だから戦おうよ。何も考えずに自分の知恵と力を振り絞って戦う。僕がしたいのはランキングでも何でもないシンプルな戦いだ」

「シンプルな戦い……か」


 青年はシーカーの横に座り、更に話をした。


「自己紹介してなかったね。僕はバーンズ、チルトリン・バーンズだ。よろしく」

「バーンズ、質問をしていいか」

「何でもどうぞ」

「お前はいつからAlterFrontier始めた?」

「つい最近かな?やっと小遣い貯めて買ったから、まだまだ初心者さ」

「だからと言って、俺と戦いたいと言うのか?」

「当たり前だよ。強い人と戦ってそこから戦術や戦略を学ぶのは当然の事さ。今話題のシーカーだからね」

「……」


 寝転んでいたシーカーは立ち上がり、服についた草を振り払った。そのニコニコしているバーンズの顔を思わず顔を背けてしまった。


「何なら課金でもして、強い武器や防具を手に入れればいいんじゃないか」

「そんなお金があったら、最初っからこんな服で歩いてないさ。金を稼ぐには強くないといけない。だから、君みたいな強い人と戦ったりして、少しでも強くなる方法を知りたいんだ……」


 ニコニコしていた顔から浮かない顔になるバーンズを見て、一度ため息を吐き、腕を組んで何秒か悩んだ。


「しょうがない……一回だけ戦ってやるよ。その代わり全力で来い」

「分かってるさ。僕の全身全霊の力を出す」

「決闘モードにシフト、ここはもうバトルフィールドだ」


 メサを慣れた手つきで操作し、辺り一帯はバトルフィールドと変化し、二人は一定の距離を取った。シーカーはバーンズの構えや姿勢を確認して、行動を予測していた。気づけば真剣な戦いの顔になり、バーンズも思わず身体が膠着してしまった。

 バーンズはまだ初心者なのか、構えてはいるが、何処か慣れていない構えであった。手が震えて戦い慣れていないのが、丸わかりであった。


「大丈夫か?手が震えてるぞ」

「だ、大丈夫!さぁ、全力で行くよ!」

「あぁ、来い」


 バーンズは拳を構えて真っ直ぐと直線に走ってきた。シーカーは分かっていた。無策で突っ込んできている事を。

 ゆっくりな右ストレートなパンチを仕掛けてきた。シーカーは攻撃を軽く避けた。今のシーカーにとって、この攻撃はスロー再生のように見えた。そして避けたすぐに、バーンズの腹に一撃、拳を軽く加えた。


「ぐっ……!」


 軽い一撃だが、バーンズにはとても重く痛いダメージが入った。そのまま後ろに下がって膝をついて倒れた。


「う、うぅ……」

「だ、大丈夫か?」


 シーカーは強く攻撃し過ぎたと、思わず心配して駆け寄った。するとバーンズは手を突きつけて、腹を押さえながらゆっくりと立ち上がった。


「僕は大丈夫だ……まだ戦えるから」

「あ、あぁ」


 立ち上がって再び拳を構え始めた。シーカーは何歩か下がり、拳を構えた。


「行くよ……」

「……」


 先程よりも勢いはないが、再び無謀にも突っ込んできた。そして

 右ストレートのパンチを仕掛けてきた。シーカーは軽く体を捻り、避けた。バーンズは更にパンチと蹴りの連続攻撃を仕掛けて車シーカーは表情一つ変えず、全ての攻撃を避けた。回し蹴りを片手で受け止め、そのまま足の付け根を持って投げ飛ばした。


「ぐはっ……」

「もういいだろ。諦めろよ」

「まだまだ……体力がある限り、僕は戦うぞ」


 バーンズは三度立ち上がり、今度は背中から剣を取り出した。両手で持ち、また正面から剣を突き出しながら突っ込んできた。向かってくるバーンズにシーカーも刀を取り出し、正面まで来た瞬間、刀を強く握りしめて思いっきり振り上げた。バーンズの刀は空高く弾き飛ばされて、真後ろの地面に突き刺さった。その攻撃の速さはバーンズの目には見えなかった。


「は、早い……」

「初心者のお前が俺に勝てる訳ないだろ」


 思わず膠着したバーンズに、頬に一撃思いっきり殴りつけて、10m以上吹き飛んで行った。


「諦めろ。もうちょっと修行してから来い……」

「初心者だって上級者に勝てないとは限らないでしょ……」

「ん?」


 赤くなった頬を一度触って、刀を拾い、立ち上がった。そして苦笑いをしながら、シーカーに向けて刀を向けて言い放った。


「僕だって強くなりたいんだ、君みたいに。その刻印ってスキル使って僕を倒してみせてよ。初心者でも、君を倒してみせるさ……」

「何で諦めないんだ?」

「何度も言わせないでよシーカー。強くなりたい──それだけだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ