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第81話 敗北の傷痕

 

 あの日から今、ゲーム内でファルコンを見たのは1年ぶりであった。そう敵として──

 目の前にいる自分の親友であり、敵。あの時の優しくも一人の友であった友人の面影はもうなかった。冷たく、冷徹な殺人鬼のような顔でシーカーを見つめていた。


「あの事は──俺は以前のように楽しくプレイしたかっただけだ。お前の目を覚まさせる為に」

「ふっ、俺の気持ちを少しは分かってたのか?お前らのために、自分の強さを求めて、戦い続けたあの日々を……」

「そんな自分勝手な事を一人で抱え込んで、何で俺達に相談しなかった!!」

「今のお前に言う必要はない。違法に手を染めた俺はもう戻る世界はない」


 シーカーの言葉を聞く気もなく、シーカーの頭に手を添えた。Syoに使用したデータを消す能力を使おうとした。


「隼!こんな事をして、どうなるか分かっているのか!!」

「命乞いなど、お前らしくないな。正々堂々と戦って、負けた者は消えるのが俺の生きる世界での掟だ。炎の刻印と共に貴様をけ──」


 その時、ファルコンの身体に異変が起きた。急に胸を締め付けるような痛みが襲いかかり、心臓を抑えてその場に跪いた。


「ぐわっ!!」

「どうした隼!!」


 身体全体から夥しい量の汗が垂れ流れていた。明らかに様子がおかしいのはシーカーも、そして画面の向こうのSyoも分かっていた。リアルの世界で何か隼に異変が起きている──二人はそう感じた。

 様子がおかしくなったファルコンを暗い空間の中でモニターを見ていたのは凰姫であった。だが心配するわけでもなく、ちょっと不思議そうに見ていた。


「あらあら、どうしたのかしら?もしかして時間切れかしら?まぁ、あの刻印はちょっと曰く付きだからねぇ。そっちの方が都合がいいけどね」


 ファルコンが苦しんでいる姿にシーカーは何が起きたか分からず、ただ見ているだけだった。身体から放出される黒いオーラ。それはまるで天に昇る竜のようであった。

 すぐに立ち上がり、ファルコンに寄り添った。


「ぐわっ!ぐぅ……!!ぐわぁぁぁ!!」

「……何だ、どうしたんだ隼!!」


 その時、シーカーは一瞬だけ感じた。一つの刻印の力を感じた。風でも炎の刻印でもない何かを感じ取った。だが、今はそれどころではなく、ファルコンの心配をしていた。


「大丈夫か!隼!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 隼の絶叫はフィールド全体にこだまし、黒いオーラはフィールド全体へと広がっていった。更に叫び声が広がると、声に反応してフィールドの空間にヒビが入り始めた。


「空間が……割れた!?」


 ヒビが割れ、その中からは無限に広がる黒い空間が見えた。するのオーラは徐々に黒い空間へと吸い込まれていく。

 その様子は凰姫は両手を空高く広げて、くるくると回りながら嬉しそうに悦に浸っていた。


「そうそう、その怒りをありったけ私達に頂戴!!その力が骸帝様を呼び覚ますの!!」


 くるくると回っていたが、突如真顔に戻り回るのをやめた。


「でも、このままじゃあの子の身体が保たないわねぇ。死んでも構わないけど、折角の手駒が失うのは惜しいしなぁ──しょうがないなぁ仮面さんは」


 別のモニターをパネルへと変化させて、操作を始めた。

 シーカーは苦しんでいるファルコンに寄り添って必死に呼びかけていた。


「おい!隼!!何をしたんだ!!」

「ぐっ……悠──」


 その瞬間、ファルコンはフィールドから突如消滅した。それと同時にオーラも消え、割れた空間は徐々に再構築され、元通りに戻った。


「また、助けれなかった……また……」


 シーカーは膝をつき、呆然とした。まさにあっという間の出来事であった。オーガスターを助けに来たはずなのに、自分が追っていた敵が刻印を持つ者であり、自分の親友でもあった。何から何まで、夢であって欲しかった。

 目の前で苦しんでいた隼をただ見ているだけだった。そんな自分が許せなかった。

 そんなシーカーの元にSyoが現れ、辛い顔してるが、優しく話しかけた。


「シーカー……」

「クソ!!何で何でなんだよ!!何であいつがこんな事に!!!」

「落ち着けよ!俺だって衝撃で頭の整理がまだついてないんだ!こんな時だからこそ落ち着いて行動しなくちゃいけないんだよ!!」

「だからって、友がいずれ来る骸帝の手先になってるってどうすればいいんだよ!!もしまた立ち塞がったら──」

「戦うしかないんじゃないのか」


 怒りに身を任せたシーカーの話に混ざってきたのはオーガスターだった。


「戦う……だと、友人同士で殺し合いをしろと!?」

「その友がお前を親友だと、思っていなかったら」

「何だと!!」


 冷静に言うオーガスターにシーカーは胸ぐらを掴んで怒りを表した。険悪なムードになり、すぐさまSyoが止めに入るが、シーカーはSyoを突き飛ばしてオーガスターに睨みつけた。


「あいつの事を知らないくせに!!」

「そう言っているが、お前もあいつの事を理解しようとしなかったんだろ。お前が

「……」


 シーカーは手を離し、悔しそうに拳を地面に何度も殴りつけた。


「あいつは俺に負けて悔しがっていた。戦いは勝利が全てと──勝つか負けるかの世界が奴の全てのようだった。救いようよないチートに囚われた哀れな奴だ。アモレ、今日はもうログアウトする」

「ええ!?ちょっと!?」


 そう言ってオーガスターはログアウトした。慌ててアモレもみんなに別れを告げてログアウトした。


「み、みんなまた……今度ね!!」


 突き飛ばされたSyoは立ち上がり、気にする様子を見せずにシーカーに差し伸ばしてゆっくりと立ち上がらせた。

 Syoとシーカーも落ち込んだ様子でマイホームへと戻って来た。戻るとメルクリが普段は見せない険しい顔をしていた。Syoが尋ねた。


「どうした……珍しく険しい顔してるな」

「刻印が敵にいるなんて、予想もしてなかったからね……それもあんなに強力な力を持っているとは。更にもう一つ言うなら、こんな時に仲間同士で喧嘩なんて、みっともないさ」


 シーカーは何も言えず、怒りを抑えてメルクリの言葉を聞き続けた。


「友達が敵でも、僕達の目的はただ一つ──骸帝を倒す事。友達を倒すのは、その道中で倒せばいい。もし、彼と次の機会があった時は僕も参戦するかも」

「あいつは、俺が……倒す。だから、手を出すな」

「そう言うならご自由に。最後に一つ──君の友が、君らを本当に恨んでいるならもう友情はないかもしれない。でも、彼の心に少しでも光があるなら、僕が見る未来にも希望が灯されるかもしれない」


 そう言い残してメルクリはメサを操作して、フィールドから消えた。

 二人になったが、二人は口を開かず静かな空間が続いた。だが、シーカーは硬く決意した。今度こそ助けてやると──もう、一人にさせないと。


「強くなる……あいつの心を戻す為に!」



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