第80話 崩壊する友情
イライラする心を忘れようと更なるチートを求め、あらゆるチートに手を染めた。忘れようと必死になって何回戦ったのか全く分からなかった。
だが、どれだけ戦ってもイライラは消える事なく、虚しさが増していくばかりであった。自分の力じゃないのが、こんなにも虚しく、面白味がない。でも、チートがないと負ける恐怖感に囚われて、安心出来ない。チートに頼らないと、安心しない体にはなっていたのだ。
*
隼はオーガスターに言われた言葉が頭に残り、ゲームを一旦辞めて山の上の公園にいた。もちろん学校はサボり、ベンチに座って街を呆然と眺めていた。
目的の戦いの果てに得たものは、敗北──そして屈辱。自分は何の為に戦い、何の為にチートまで手を染めたのか。
「……」
「隼……」
聞こえてきた声──よく聞く友の声だった。それは将呉であり、制服を着ており、学校帰りにここへと立ち寄ったのだ。そしてその顔は何処か悲し気な表情で、隼を見つめていた。
「将呉か……悠斗の奴は?」
「あいつには帰ってもらった。悠斗がいると、話がややこしくなるからな」
「ふん」
将呉は隼の隣に座り、同じ方向を見つめながら話し始めた。
「お前、何があった」
「強さを求めただけだ──自分の強さを見つける為に」
「強さを求める?学校を休んでもか……」
震える将呉の声──隼はそっと立ち、街が眺められる柵に寄り添った。
「お前がランキング戦にハマってから、何かがおかしいんだ」
「何が言いたい」
「俺や悠斗はお前を頼っていた。だが、それは楽しむ為でもあり、一番強いお前だから信頼していた。だけど、ここまでしろとは誰も望んでいない。今まで通り、苦戦しながらでも良いからまたいつもみたいにみんなで遊びたいんだ」
「そう言われてもな……俺はお前らの戦いを楽にする為に──」
「だからと言って、学校を休んだり、連絡を絶ったりと俺達から避けるような事はやめてくれ!俺や悠斗はお前を心配しているんだ!その気持ちを分かってくれよ!!学校に来い!少しでもいつもの生活に戻ろう!ゲームに飲み込まれるな!」
将呉の必死の説得。だが、隼は顔色一つ変えず、公園から立ち去ろうとする。その最中、背を向けたまま将呉に言う。
「俺は何もかも、違う道へと踏み入れてしまった。飲み込まれてしまった俺を悠斗はどう思うだろうな……」
「……」
「俺はお前らの前にいつかは戻ってやる……自分自身に打ち勝ったらな」
将呉は止める事なく、その悲しげな背中をただ眺めているだけだった。
*
隼がAlterFrontierにログインして、更なる強さを求めて掲示板を覗いていた。とある書き込みに隼の目に止まった。
「……!?」
そこには隼の名前や住所などが大量に書き込まれていた。
「どうゆう事だ!?一体……何なんだ!?」
書き込みには戦った相手の事が書いてあった。『奴と戦った後、データに異常が発生してデータが消滅した』『今日、ログインしたらチート報告を受けてBanを食らった。ファルコンって相手の戦いが原因で』
「まさか……」
使用していたチートの中にウィルスが混ざり込んでいた。そのウィルスは他の相手に自分自身のデータを流出させたり、戦った相手にウィルスを発生させて異常発生させる。
だが隼はチートを何個も所持しており、どれが危ない物が記憶になかった。
「嘘だろ……」
書き込みには保安局に通報したという書き込みがあり、他にも多くの誹謗中傷が書き込まれて、最後まで見る事が出来ずに掲示板を閉じて、ログアウトした。
そして部屋の電気を消して、部屋の隅で丸くなってガタガタと体を震わせていた。
*
学校では将呉が慌てて悠斗の元に走ってきた。
「悠斗!掲示板見たか!!」
「見たさ、すぐに隼に連絡を入れたが、やっぱり出なかった」
「俺もだ……」
掲示板に隼の事が知れ渡ってから、ゲーム内で一気に指名手配された。金額は被害者となったプレイヤー達が多額の金額を出し、多くのプレイヤーや保安局が探し求めていた。
将呉は後悔していた。あの時、もっと強く言えれば変わったのかもしれない。止められなかった自分を心の中で責めていた。
「俺にはもうどうする事も出来ない……かと言ってあいつと関わりをなくす事も出来ない。どうすれば良いんだ……」
「将呉……」
頭を抱える将呉に悠斗は何も言えなかった。だが、この状況を変える為に、頭をふっきらせて将呉は思い切った決断を下した。
「隼に近づいて、保安局に居場所を伝えよう……」
「えっ?つまり、裏切るって事か?」
「あぁ……今のままじゃ、俺らも隼も苦しい気分になるだけだ……なら、俺達が──」
その決断に悠斗は息を呑み、再確認をした。
「良いのか……俺達の友情が、今までの仲が戻らないのかも知れないぞ」
「でも、こうするしかないんだ。これ以上、被害を大きくする訳には……」
「……くっ」
この決断は正しかったのか?今もこの決断が正しかったのか、ずっと疑問に思っていた。
自分のゲームと取り返した時の隼はもういない──チートに手を染めた違反者。
*
将呉は隼と話して、悠斗とAlterFrontier内なら会うなら良いと約束して三人はCityTokyoの路地裏で出会った。
この日は雨が激しく降っており、全員雨具を着て密会していた。二人が来た時にはファルコンはもう待っていた。無言で腕を組んで、無の表情を貫き通していた。
「隼、来てくれてありがとう」
「悠斗……」
「お前の現状は知っている」
「それがどうした」
「それは……」
明らかに様子がおかしいシーカーにファルコンはゆっくりと寄ってきた。
「言いたい事があるんなら早く言え……今の状況が分かるなら、あまり時間を掛けるな」
「……すまん、隼!」
その言葉を言い放った瞬間、後ろのSyoが拳銃を取り出し、空に撃ち放った。
何かを察したファルコンは即座にシーカーを突き飛ばして、その場から逃げようとした。だが、ビルの上から黒く身を包んだ武装して兵士が何名も飛び降りてきた。
「チートプレイヤーのファルコンだな。お前を確保する!」
「確保……まさか、悠斗、将呉!!裏切ったなぁぁぁ!!」
抵抗しようと咄嗟に武器を取り出そうとした。チートでセーフフィールドでも武器が出せるようになっていた。だが、更に上に隠れていた兵士によって取り出した刀にを銃撃ではじき飛ばされた。
そして背中に一撃、スタンガンを喰らい身体が痺れてその場に倒れた。喰らわないはずの攻撃が喰らった。これは保安局が開発した対チート使用者用の銃であった。
「……悠斗、将呉!!貴様らぁぁぁ!!」
「隼、違うんだ‼︎俺達は……」
シーカーの言葉に耳を傾けず、怒りをありったけぶつけた。
「絶対に許さんぞ……許してたまるかぁぁぁ‼︎」
大量に囲む保安局を前には為す術もなく、捕獲されてファルコンは呆気なく捕まってしまった。そんな友の捕まっている姿を直視する事が出来ず、シーカーは悔しそうに拳を握りしめて目を逸らした。
「悠斗、いやシーカー……もう帰ろう、俺達に止められる勇気があれば……」
「自分を責めるな、奴にも責任があるんだ……」
あの日から俺達は隼を忘れようと必死になってゲームに飲み込まれていった。何も考えず、ずっと──だが、二人の心の奥には隼の事があった。




