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第79話 壊れ始める仮面


 隼──いやファルコンは破竹の勢いでランキング戦に勝利していった。課金者だろうと、無課金者だろうと関係なく倒していった。

 シーカーとSyoはその様子を見ていた。敵の攻撃を的確に避け、隙を見つけて確実に攻撃を当てていた。


「すごいな……隼の奴、あんなに攻撃を当てていくなんて。ヤベェな」

「俺達には着いていけないぜ……」


 ここ数日で10戦以上しているが、相手を完封して勝利していた。観戦している二人の前にファルコンが戻ってきた。疲れ果てて、息がすこし荒い。


「凄いな隼、簡単にやっつけるからびっくりしたぜ」

「隼じゃなくて、ファルコンだ。まだまだこの程度じゃ火山龍には勝てない。まだまだやるぞ」

「まっ、俺達は応援してるからよ」

「ありがとよ」





 数日後、三人は草原でガイアプラトーンと激しく戦っていた。隼の指示に二人は動き回っていた。


「そっちだシーカー! 背後に回って攻撃しろ!」

「OK!」


 三人のコンビネーションにより、何とかガイアプラトーンを撃破した。

 シーカーとSyoはお互いに手を交わして喜びを分かち合ったが、ファルコンだけは何処か不満な顔であった。Syoは訪ねた。


「どうした?」

「いや……まだ、こんなもんじゃダメだ……」

「十分だろ、前回ほど苦戦もしなかったし──」

「もっと強くならないと……もう一度行くぞ。もっと早く倒す」


 まだ続けようとするファルコン。その顔にSyoは何処か不審がっていた。そんな中、シーカーが話に混ざった。


「まぁ、強くなった方がいいかもしれないが、もう時間も遅いからやめようぜ。明日も学校だしよ」

「だが──」

「お前が強くなりたい気持ちはよく分かる。でも、俺達も生活がある。だから今日の所は終わろうぜ。ゲームなんだし、明日もできるだろ?」


 時間は深夜一時となっており、かなり遅くまでやっていた事に今気づいた三人。するとファルコンの顔は少し険しくなり、拳を力強く握りしめてた。だが、行動には表さず、平然とした表情と声で二人に言った。


「お前はログアウトしていいぞ。俺はあと少しやってから落ちる」


 Syoだけは気付いていた、その怒りを抑えた拳を。だが、何も言わず──いや、言えずにその場をやり過ごした。


「……分かった。だが、夜更かしはやめろよ」

「ふん、分かってるさ。明日、学校でな」

「あぁ……」


 その声はやはり、心を感じない声であった。何というか無限の闇、それは虚無──


 *


 隼は数日間学校に来なかった。悠斗と将呉は何回か連絡したが、一切返事は来なかった。AlterFrontierに入っても、プレイはしているが現在位置は不明であり、連絡も繋がらなかった。

 学校で二人は不安そうに話していた。


「隼の奴、どうしたんだ?」

「家に連絡しても出てこないんだ……」


 そんな中、隼は一限目を過ぎた後に学校へと来た。自慢の髪も手入れをせず、ボッサボサの状態で教室に入ってきた。将呉はちょっと心配そうに話しかけた。


「お、遅かったな隼。どうしたんだここ数日……」

「すまん、ちょっとだけ夢中になり過ぎてしまった」


 あまり元気ではない返事をする隼。よく見ると目の隈も濃く出来て、眠そうに何度も頭がガクッと下がったり上がったりしていた。

 あくびを漏らす隼に悠斗が聞く。


「まさか徹夜したのか?」

「……まぁな。ちょっと熱が入りすぎてな」

「だからって、数日間も休む事は──」


 そう言うと隼は立ち上がり、逃げるように無言で教室から立ち去った。


「一体……どうしたんだ?」

「……」


 隼は学校から姿を消した。その後も学校に来る事はなかった。

 二人は心配して、家にも行ったが隼は出てこなかった。



 *



 隼は一人で戦っていた。ずっとずっと誰の力も頼らずに一人で孤独に戦っていた。

 ランキング戦をして金を稼いでいた。最初は順調だったが、ランクが上がるに連れて相手も強くなり、武器や防具がどんどん強固なものとなっていく。


「……強い……でも、こんなもんじゃねぇ!!あいつを超えるには!」


 隼はオーガスターを敵視していた。強い力を持っている──なのにそれを表舞台に出さない。それが逆にムカついていた。人とは関わりを持たずに、その力を持て余しているのが、腹が立って仕方なかった。自分は友の為に強くなろうとしているが、奴は自分のことだけで強くなっていると思っているからだ。

 更に怒り混じりの中、更にランキング戦に身を投じた。だが、強き壁を前に停滞し始めていた。この日も3連戦全敗して、怒りに満ちてゲームをログアウトした。


「なぜ、何故勝てないんだ!!クソがッ!!」


 隼はAlterLinkを外し、思いっきり地面に叩きつけた。そして寝転がり、Zackからアルターフロンティアの掲示板を見ていた。するとある書き込みが目に入った。


 –このアイテムさえあれば、どんな相手にも勝てる!気になる方はこのサイトに!–


「これは……」


 いかにも怪しいサイトへと繋がるリンクが貼られている書き込みだった。

 だが、今の隼にはそれが危険な物だとは分からなかった。勝ちへの欲望が判断が鈍らせ、躊躇わずそのサイトへと手を染めた。



 *



 あの日から隼は勝ち星を挙げた。どんなに強い課金者相手だろうとも、圧倒的パワーで勝利した。その強さに思わず惚れ惚れしていた。

 そのアイテムを使った途端、全身からパワーが漲り、速さも体力も全てが上がった。


「すごい……こんな力があるなんて……勝てる、これなら勝てる!!」


 勝つことへの欲求を持ち、全てを勝利の快感へと捧げた。自分を下に見ていた奴らは雑魚と化し、全員を跪かせた。地べたに這いつくばる雑魚共を見ていると心底悦に浸った。


「雑魚の相手も飽きた……今の俺なら噴火龍も」


 一人で噴火龍にも挑んだ。結果は分かっていた。あのサイトから貰った力はとても素晴らしかった。一撃で大ダメージを与え、自分には攻撃が当たらない。一方的に攻撃が通り、ただの作業のようだった。でも、勝利の快感はいつも異常に味わえた。

 隼はどんどん強いアイテムを作り、着実に強化されていった。


「この力さえ有れば……あのオーガスターにも勝てる!」


 あのオーガスターを超えて、強さの頂点に立ちたい。今の自分なら勝てる。そう自信がついていた。

 この漲るパワーから負ける根拠なんて一切無かった。見えるのただ一つ──勝利だけだ。

 その日から隼はオーガスターを探す為に、火山地帯に入り浸った。学校はもう二週間以上も休んでいた。だが、オーガスターを倒す為にはそれくらいどうって事ないのだ。倒して、自分の強さを出して、悠斗達の前に出る。

 そして入り浸ってから数日が経ち、とうとう奴は現れた。


「……いた。オーガスター……」


 そこにオーガスターはいた。噂通り、噴火龍と一人で戦っており、圧倒的優勢にいた。まるで敵の動きをしっているかのように綺麗に避け、その隙を見逃さずに的確な攻撃を加えていた。その姿にファルコンは思わず見惚れていた。

 そうこうしている内に噴火龍を軽々と倒していた。


「もう倒したのか?」


 オーガスターが手に入ったアイテムを確認して、一度ため息を吐いてからメサでフィールドから出ようとした所をファルコンは近づき、話しかけた。


「あんたが巷に聞くオーガスターって奴か?」

「そうだと言ったら、どうするんだ」

「あんたと一回戦ってみたいと思ってな」


 そう言うと気怠そうに頭を掻き、ファルコンに刀を向けた。


「いつも嫌と言うが、今は戦ってやる。赤いクリスタルが出なくて困っているんでな」

「赤いクリスタルなら俺は何個でも持っている。勝ったら何個でもあげてやる」


 ニヤリと笑うオーガスター。


「ふん、その約束忘れるなよ」

「あぁ、男に二言はねぇ」


 二人はその場で戦いを始めた。ファルコンはこの力を手に入れて、勝利の道しか見えていなかった。勝てる──今の自分なら勝てる。と大きな自信しかなかった。


 *



 戦いは──ファルコンの負けだった。最強にも近い力を手に入れ、攻撃力も防御力も体力もオーガスターより勝っているはずなのに、負けてしまった。

 ファルコンは自分の負けを認めきれず、地面を殴り続けた。


「……くっ、何故──何故だ!何故、負けた……」

「勝つことにこだわり過ぎたな」

「それが何故悪い!勝利の為に戦っているはずだ!負けなんてない!負けたら、それは敗北者だ、地べたに這いつくばる雑魚だけだ!」

「今の自分を見てもか」

「……っ⁉︎」


 自分が言った事は自分に激しく突き刺さった。今の自分は敗北者であり、自分が行なってきた事がブーメランのように戻ってきて自分に突き刺さった。


「それにお前みたいなチーターはもう何回も相手にしている。動きも戦い方もワンパターンなんだよ。貴様らに勝った所で嬉しくも何ともない。さっきの約束は忘れる。そんな自分の力じゃない方法で手に入れた物なんてもらっても嬉しくないさ」

「待て!チーターって何だ!」

「そのお前が使っているチップの事だ。チーターがよく使うんだよ。システムを改造して、ステータスを異常成長させるチートアイテム。それも知らずに使っていたのか。哀れな奴め……」


 オーガスターはファルコンを哀れな者を見る目で見て、メサでフィールドら出た。


「俺が使っていたのはチートアイテムだと……」


 自分が使っていた物がチートアイテム。それを知ったのは今──この時であり、時すでに遅かった。

 ファルコンはその場に呆然と跪いた。


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