第78話 変わり始める仮面
あれから3人は毎日のように夢中で遊び続けた。時間を忘れ、気づいたら朝になった事もあるほどである。段々と武装も強くなり、武器もより良い物となって行った。
自分達の強さを求める為──又、新たな発見をする為に戦い続けた。
*
始めてから一ヶ月ほどが経った。この日も3人は、レア素材を手に入れる為に、暗く危険な火山地帯へと居た。火山からは常にマグマが流れ出て、小さな隕石が常に降り注ぎ、地面の一部が時間毎に徐々に沈んで行く。そんな中、3人は火山龍との戦闘を行っていた。
「シーカー、お前は正面から敵の注意を引け!Syo、お前はシーカーの援護をしつつ、敵の目を狙え!俺は隙ができた所を背後から襲撃する!」
「「OK!!」」
ファルコンが指示を行い、二人が指示通りに動く。これがいつもの戦い方だ。基本的にシーカーが前線で敵の注意を引き、Syoがサポートしつつ相手の弱点を探る。そしてファルコンが隙を狙って弱点を攻撃する。この抜群のコンビネーションでずっと戦い続けてきた。
火山龍は背中の火山を噴出させながら空を縦横無尽に飛び、シーカーへと炎を吐き続けて攻撃を仕掛けた。広範囲の攻撃にシーカーもSyoも苦戦を強いられながら注意を引く。
「Syo!何とかして、奴の目を狙え!」
「分かっているが、あんなに動かれては中々狙えないぜ」
「……なら、俺が真正面から──!」
シーカーが真っ直ぐと火山龍の方へと走った。背中の火山が降り注ぐ火山石を紙一重で避けながら、徐々に近づいていく。
シーカーの接近に火山龍はすぐさま反応し、炎を吐きながら勢いよく迫ってきた。シーカーは避けようとはせずに、すぐさまメサから水色のキューブアイテムを取り出し、すかさず地面に叩きつけた。
「アイスキューブ展開!!」
身体全体に透明な球体がシーカーを包み込み、球体の中はひんやりと冷たく、暑さなど微塵も感じない空間になっていた。吐かれた炎はアイスキューブを包み込んだ。
「うぉぉぉぉ!!!」
炎に包まれてもなあ、真っ直ぐと進むシーカー。だが、アイスキューブは徐々に溶け始め、水が流れ落ちると共に段々小さくなって行く。
だが、完全に火山龍の標的はシーカーへと定まっており、その場から動かずに炎を吐き続けた。
「やれ、Syo!!」
「お、おう!!」
隅に隠れていたSyoは安そうな弓を構えており、火山龍の目を捉えた。構えがなっていないが、本人なりに頑張って構えていた。
どんどん溶けて行くアイスキューブにシーカーは段々と焦りを感じ始めていた。
「早く撃て!!キューブがもたない!」
「わ、分かってるよ!!神様頼む!」
そして標準を合わせて、祈りを捧げて矢を射た。
「行け!!」
真っ直ぐと放たれた矢は直線上に飛び、火山龍の片目に突き刺さった。
火山龍は一気に暴れ始め、炎を吐くのを止めた。頭を地面に叩きつけて矢を取ろうと必死に悶えていた。
「はぁぁぁ!!」
火山龍の背後からファルコンが現れ、付け根を斬りつけた。火山龍はバランスを崩し、その場にひざまづいた。
二人は思わず、ガッツポーズを取った。
「よし!!」
「任せたぞ!!!ファルコン!!」
「あぁ!!!任された!!」
シーカーの叫び声と共に、火山龍の真上から刀を振り上げて飛び上がった。二人はファルコンに全てを託した。この一撃で仕留めろと──
「行けッ!!ファルコン!!!」
「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」
空高く舞ったファルコンは、シーカーに目を奪われていた火山龍の隙を突き、皮が薄い首元を力一杯振り下ろし、肉を切るように切り裂いた。
ファルコンが地に足を着けると、火山龍の首がゆっくりと落ち、衝撃で地面を大きく揺らした。
「……倒したのか、俺達……」
一瞬、勝利したのか実感出来なかったが、目の前に落ちている龍の首を両目をはっきりと開けて確認して、勝ったと確信した。
顔に火山龍の返り血が付いているファルコンだが、そんな事は気にする事なく、嬉しさを抑えきれなさそうな顔でシーカー達の元へと片手を上げて寄ってきた。
「へへ……やってやったぜ。ようやくな……」
「お前って奴は本当にすげぇぜ!!」
シーカーはすぐにファルコンへと飛びつき、嬉しさのあまりファルコンの頰に自分の顔をすりすりし始めた。
「やめろよ〜へへ、よせよせ。お前らの援護あってだよ」
「いやいや、お前の一撃あってこそだ!お前ならやると思ったんだぜ!!これが喜ばずにいられるかよ!」
満更でもないファルコンだが、側から見てるSyoは二人の楽しそうな顔を見て、嬉しそうにしていた。
「そんな変な事をしてる場合か。さっさと素材を取って、目的の物を作ろうぜ」
「あ、あぁ!そ、そうだな!」
3人は一目散に火山龍の皮膚を剝ぎ取り、メサへと送り込んだ。少しでも多く取ろうと、必死に縋り付いた。
その最中、Syoがさらりと噂話をした。
「そう言えばさ、この火山龍を一人で倒している奴がいたって話だぜ」
「一人でこんな奴をか?」
ファルコンが真っ先に話に食いついた。自分達3人が必死に食らいついてやっとこさ倒したのに、火山龍を一人で倒す奴がいたのが、信じきれなかった。
そこで皮膚を剝ぎ取りながらシーカーが口を挟んだ。
「課金アイテムとか使ってるんじゃないのか?それとかガチャでめっちゃいい装備しているとか」
「それがな──見た奴の話によると、レア度が2とか3の武装なんだってさ。それなのに、火山龍を一人で倒すなんて……」
「……なるほど、すげぇな。そんな強い奴がいるのかよ。そいつの名前とかは?」
「さぁね」
するとファルコンは火山龍の皮膚を剥ぐのをやめて、何か思い立ったように突然立ち上がった。
「どうしたんだいきなり?」
「俺は強くなる……奴のように火山龍をも簡単に倒せるように」
「い、今より?どうやってだよ、課金する気か」
「ランキング戦で戦い、コインを大量に手に入れてやる」
ランキング戦で勝ち続けると貰えるコインも増え、その分強いアイテムや武器を買える。そうすれば強くなり、火山龍などの強いモンスターに勝てる。ファルコンはそう考えていた。
その事に、シーカーも口を挟んだ。
「ランキング戦と言ったって、ガチ勢の巣窟だぜ?俺達ボコボコにされたじゃねぇか」
ランキング戦は、課金をしている者が多くいて、勝てば賞金が貰え、負ければ金が消える。だから腕自慢の者が多く集まる。シーカー達も以前挑んだ事があるが、シーカーの言った通り、ボコボコにされて、いっぱい金を取られた思い出があり、トラウマになっていた。
「だからこそだ。俺らみたいな奴はそうでもしない限り、勝てない。少しでも、お前達の役に立ちたいんだ……」
「……ファルコン」
「お前達に面倒な事はさせないさ……俺に任せろ」
思い詰めた顔をしてファルコンはメサを操作してその場から立ち去った。
その顔を見て、シーカーは不自然に思った。
「どうしたんだアイツ……いきなり」
「やはり上にはまた上がいる。隼の奴は、その火山龍を倒した奴みたいに強くなろうとしているのかもな。俺達のために……」
「俺達の為に……だと」
「あぁ、アイツの性格上、俺達を助けようとしているんだ。少しでも楽にさせようと」
「……」




