第75話 増幅する闇の力vs膨れ上がる炎の力
「あの黒いオーラ……まさかあれが変な幻覚を見せたのか……」
「さぁ……参るぞ」
ゆらりと身体を動かし始める仮面の男。壁から離れて、宙を空を飛ぶように浮いた。自分の身体から湧き上がる力を実感しているのか、何度も自分の拳を握り締めた。
「これで1対1……第3ラウンドだ、これで決着をつけてやる」
「望むところだ、刻印同士の勝者を決めようぜ!」
「はッーーー!!」
仮面の男は手を勢いよく突き出した。その瞬間、先程とは桁違いな強風が吹き荒れ、シーカーの服が何かに切られたかのようにボード諸共切り裂かれた。そしてボードは機能停止して、下へと落ちていき、シーカー自身も遠くへと吹き飛ばれた。
「ぐっ!?」
ボードから足は離れ、逆にシーカーが壁に叩きつけられた。動かそうとしても何かに縛られているかのように手足全部が動かなくなった。
「ぐはっ……!急にパワーが上がりやがった……」
よく手足を見ると黒い触手が身体を縛っていたのだ。シーカーは炎刃の状態のままフルパワーで触手を引きちぎろうとした。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
限界まで腕を引っ張るが引きちぎれる事は一切なく、徐々に力が触手に吸い取られていった。
そして遠くからゆっくりとこちらに飛んでくる仮面の男が見えてきた。自分が必死で手に入れた技をあっさりと超えられた。そう思うと、バカらしくなり笑いが出てしまった。
「へっ……せっかく炎刃まで習得したのに……このざまかよ……」
仮面の男が目の前に到着すると、静かにシーカーの顔へと近づき首を鷲掴み、自分の顔へと引き寄せた。それでもシーカーは余裕の表情を見せながら笑っていた。
「うっ……!」
「呑気に笑っている元気があるとはな……とことんバカな奴だな」
「バカで結構……バカなら風邪引かない程元気で、強いって事だろ」
「ふん、それだからバカなんだよ」
シーカーを触手から引きちぎって、軽々と持ち上げた。
「バカな奴には分かるまでお仕置きをしないとな」
「へへ……お仕置きは好きじゃないね。そっちの趣味はないんでね」
「ふん!!」
仮面の男は首をつかんでいる手を離した。手を離されたシーカーを空中で支えるものは一切ない。シーカーは真っ逆さまに落ちていった。
「ぐっ……!!ボードも壊れていたんだったな……」
落ちていく中、シーカーはとある事を思い出し、ニヤリと笑いながら咄嗟にメサを操作し始めた。
「へへ……お前がいた事すっかり忘れてぜ……頼むぞ、ウェルズ!!」
ボタンをタッチした瞬間、シーカーのホームでぐっすりと寝ていたウェルズが一瞬にしてその場から消えた。そして落ちているシーカーの目の前に現れ、寝ている状態のまま一緒に落ちていった。
「お、おい!!寝ている場合じゃないだろ!!起きてくれウェルズ!!」
慌ててシーカーはウェルズへと呼びかけた。すると、ウェルズが意識が曖昧な状態で、まだ眠そうな顔をしながら起きた。その時、自分が変な空間の空中にいて、更に落下している事にあたふたしながら気づいた。
「や、やっと起きたか!た、助けてくれ!!落ちてるんだよ、俺たちは!」
まだ状況が理解出来ない中、シーカーの声にやっと理解し、急いで羽をパタパタと羽ばたかせた。小さい身体ながら、すぐにシーカーの腕を掴み上げて、一気に上昇して、ビルの上に降ろされた。
ウェルズは息切れして、舌を出した。
「さ、サンキュー……助かったぜ」
「ふん、そんな物をもっていたか」
「物じゃねぇよ!大切な俺の相棒だ!」
そして、着地してすぐに仮面の男の姿を確認した。やはり黒いオーラが纏わり付いており、乗り物なしで空を飛んでいた。その不可解な力に少し疑問を持った。
「風の刻印とは違う力が奴の中に……」
仮面の男の行動を警戒して、動きやすい体勢に構えた。次はどうやって攻めてくるか必死に考えていた。
「何か考えているようだが、その考えは俺をどうやって倒すって事か?」
「当たり前だ、バカはバカなりに色々と考えているんでね」
「ふっ」
仮面越しだが、自分をバカにしているような表情を浮かべているのが、声で分かっていた。
だが、確かに深く考えていても奴の謎の技の前にはどんな事をしても意味はない。そう思ったシーカーは何も考えずに真っ直ぐと突っ込んだ。とにかく戦う事が先決。勝つ──その一言だけだった。
「はぁ!」
仮面の男も黙ってはいなかった。両手の平から風手裏剣を出して、シーカーに向けて真っ直ぐと投げた。
だが、シーカーは引く事はおろか、ニヤリと笑みを浮かべて猪突猛進の勢いで風手裏剣へと突っ込んで行った。
「来たな、風手裏剣!!そんな技、もう読み切っているぜ!!」
「ふん、ならこれならどうだ」
そう言うと仮面の男は余裕そうに腕を組んだ。そして風手裏剣はシーカーと接触する直前に方向を変えて、真下の階に潜った。その瞬間、シーカーの動きが急に止まった。
「くっ……!!」
「俺に近づくか?それとも風手裏剣から逃げ惑うか?」
下の階から風手裏剣が蠢いているのが、感覚で分かった。自分を狙って、一気に攻撃を仕掛けてくると。
そして、突如真下から風手裏剣一つがシーカーの顔面めがけて真っ直ぐと飛び出てきた。
「危ねっ!!」
咄嗟に身体を後ろに反り返し、首すれすれで風手裏剣を避けた。体勢を戻した瞬間、眼前に仮面の男が音もなく迫っていた。
「しまっ──」
その勢いの前に避けるのは不可能だった。いきなりの登場に無意識に一瞬だけ体が硬直して、攻撃が直撃した。顔面を一撃殴り、更に腹に一撃、殴りを加えた。
「ぐはっ──!!」
「ふん!!」
シーカーは腹を抑えて何歩か下がった。
仮面の男はシーカーの腹に手をかざした。手の先から涼しい風を出して、力を込めて一気に強力な風圧を放出し、シーカーを強烈な勢いで吹き飛ばした。
体全体に大きな負担がかかり、激しい痛みに襲われた。だが、シーカーは根気よく足を地面に刺して、ビルの端ギリギリに持ちこたえた。しかし、体力は風前の灯。息が切れかけ、立っているのでさえやっとであった。
「ぐっ……なんてパワーだ。この体力じゃ"炎刃"も殆ど使えねぇな。生身の身体を犠牲にする覚悟なら、行けるが……そこまでちょっと嫌だなぁ……」
動こうとするが、突如体が重りを付けたように重くなり地面に膝を付けた。これも仮面の男の力であった。
「ぐっ……」
抵抗する力もないシーカーはそのまま押しつぶされて、地面に伏せた。
ゆっくりと近づいてくる仮面の男。まさに勝者の凱旋。シーカーも覚悟を決めた。
「ちっ……ここまでか……」
近づいた仮面の男は抵抗出来ないシーカーの前でしゃがみ込み、髪を掴みかかった。
「くっ……」
「ふん……せっかくの炎の刻印も使用者がこれじゃあ、残念だな。最後にお前に良いものを見せてやろう」
ゆっくりと手を仮面へと当てた。
そして仮面を外して、中の姿をシーカーに見せつけた。
「……嘘だろ……」
「久しぶりだなシーカー……いや悠斗」
顔を見た瞬間、全身から鳥肌が経ち、開いた口が塞がらなくなった。
その顔はシーカー──いや悠斗にも見覚えのある顔である。もちろん将呉にも見覚えがあった。
「何……!?あいつは……」
「シーカーもsyoもどうしたんだ。あいつは……」
「奴は……俺たちの仲間だった奴だ……」
「!?」
それは友達であった隼であった。又の名を──ファルコン。
「よぉ……悠斗」




